富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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柳とデート Ⅱ

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 横浜へ向かう途中、柳はご機嫌だった。
 まさか、俺から誘われるとは思っていなかったのだろう。

 「陳さんの店は、初めてだろう?」
 「はい! 噂には聞いていましたが」
 「食いしん坊たちの噂だな」
 「アハハハハ!」

 柳が楽しそうに笑った。

 「六花とが断然多いんだよ。乾さんの店とセットだからなぁ」
 「なるほど」
 「前にな、六花と食べていて、うちの子どもたちを連れて来ようと思ったんだ」
 「はい」
 「きっと楽しいだろうと考えながら帰ったんだよ」
 「はい」

 「そうしたらな。代車で借りてたフェラーリが、双子にぶっ壊されてた」
 「アハハハハハハハハハ!」

 柳が爆笑した。

 「別によ、それを恨んで子どもたちを連れて来なかったわけじゃないんだ。でも、何となくな」
 「やっぱり恨んでるんじゃないんですか?」
 「そうかもな」

 柳がまた笑った。

 「子どもたちの中では双子が最初か。その後で亜紀ちゃんと来たなぁ」
 「あれ?」
 「皇紀はまだ無いか」
 「ルーちゃんとハーちゃんが真っ先にですか」
 「まあな。だから本当にたまたまだよ」
 「そうなんですねー」

 俺にもよく分からない。

 「まあ、そのうちみんなで来るか」
 「そうしましょう!」

 二人で笑った。

 「あの、お父さんとは?」
 「そんなこと! 何度もあるに決まってるだろう!」
 「アハハハハハ!」

 「それじゃ」
 「なんだ?」
 「あ、いえ、なんでもないです」
 「なんだよ」

 柳が黙った。
 まあ、何となく、何を引っ込めたのかは分かった。
 以前は考えなしに口にだしていた柳も、成長したのだろう。
 もちろん、奈津江とも来た。

 「まあ、今日は一杯喰えよな」
 「はい!」






 駐車場にシボレー・コルベットを停めた。
 たまたまいた若いカップルが驚く。
 女性の方が笑い出した。

 「笑われてますよ」
 「「虚震花」撃っとけ」
 「ダメですって!」

 ルーフのロボが回転した。

 「冗談ですよ、AIロボさん!」

 ロボが戻った。
 二人で笑いながら、陳さんの店に行った。

 「トラちゃん!」
 「陳さん! 今日は親友の娘を連れて来ました」
 「そうなの! また綺麗な人ね!」
 「御堂柳です」
 「ああ! あの御堂さんの!」
 「え!」
 「ようこそ! 一杯食べてってね」
 「はい!」

 俺たちは個室へ案内された。
 四人掛けの丸テーブルだ。

 俺はメニューを持って注文した。
 柳がジャスミンティーを注いでくれる。

 「私、いつも「親友の娘」って紹介ですよね」
 「だってそうじゃないか」
 「そうですけど」

 「柳よ、あの御堂の娘なんて、最高の修飾子じゃねぇか!」
 「もう!」
 「俺だって「御堂の親友の石神です」なんて紹介されてぇよ」
 「アハハハハ!」

 柳が諦めて笑った。

 「でも、父も覚えてもらってたんですね」
 「そりゃ、「石神高虎の親友」だからな!」
 「アハハハハ!」

 「御堂はみんなに慕われる男だよ」
 「そうですかねー」
 
 最初の料理が来た。
 桃とズワイガニの煮物だ。
 柳が微妙な顔をする。
 恐る恐る口に入れた。

 「美味しい!」

 俺は笑って、この店は間違いが無いんだと言った。

 「ところで柳よ」
 「ふぁい!」

 柳は夢中で食べている。

 「何度も言っているけど、お前は鍛錬を頑張り過ぎだ」
 「すいません」
 「本当に直らないなら、辞めさせるからな」
 「石神さん!」
 「お前には、いずれ俺の女になり、俺の子どもを生んでもらうという重要な使命がある」
 「!」
 「その前に身体を壊されると困るんだよ」
 
 「石神さん!」
 「おう!」

 「じゃあ、今は彼女じゃないんですね!」
 「当たり前だぁ! お前は「御堂の娘」だろう!」
 
 二人で笑った。

 「分かりました。本当に注意します」

 柳が言った。

 「まあよ。これまでも何度もそうお前は言ったんだけどなぁ」
 「はぁ、すいません」
 「お前はまだ自分を律することが出来ないガキなんだよ。熱くなったら、どこまでもやっちゃう、というな」
 「はい」
 「柳、お前どうやってこれから注意するつもりなんだよ」
 「え、えーと、疲れる前に辞める?」
 「バカ! だからお前はダメなんだぁ!」
 「すいません!」

 柳が食事を止める。
 俺はどんどん喰えと言った。

 「社会人はどうやってるよ? 大学の授業は?」
 「えーと、なんですか?」

 俺は席を立って柳の頭を引っぱたく。

 「時間だよ! まずは時間を決めろ!」
 「ああ!」

 「それと、天候もそうだ。お前は雷雨の中でも平然とやるからなぁ」
 「はい」
 「雨が降ったらウッドデッキでやるとか、気温の高い時期、低い時期で変えろ。体調の悪い時は中止だ!」
 「はい!」
 「俺に一ヶ月のスケジュールを出せ。月末には実績もな。そして俺の指示通りにしろ」
 「はい!」
 「それで完成が遅くなっても出来なくなっても、全然構わん! いいな!」
 「はい!」

 「スケジュールを守らなかったり、隠れてやったりしたら、俺は即座に辞めさせる。亜紀ちゃんか双子にやらせるからな!」
 「え!」
 「いいな!」
 「は、はい!」

 まあ、この件を話したかったのも、柳をデートに誘った理由の一つだ。
 だが、食事中に説教はしたくない。

 「よし、じゃあどんどん食べろ!」
 「はい!」

 俺は話題を変えた。
 そっちの話も柳としたかった。

 「ところでよ、御堂がこないだ泣きついてきてな」
 「えぇー!」
 
 「ジャングル・マスターにしごかれて、泣き言を言って来た」
 「アハハハハハ!」

 


 俺はその話を柳にした。
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