富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
1,299 / 3,202

百家訪問 Ⅴ

しおりを挟む
 帰りのタクシーの中で、早乙女から電話が来た。

 「石神!」
 「よう! どうした?」
 「出掛けていると聞いたんだが、すまん! 子どもが生まれたんだ!」
 「そうか! おめでとう!」
 「ありがとう! もう、嬉しくて嬉しくて」

 早乙女は半泣きだった。
 少しだけ、予定日から遅れているが、無事に生まれたようだ。
 落ち着かせるために、体重や様子を質問した。
 興味が無いので、一つも覚えない。

 「それでな」
 「おう」
 「前に頼んだ子どもの名前なんだが」
 「なんだよ、断っただろう」
 「でも、お前に最初の子どもは」
 「ダメだ! お前らの子どもなんだから、自分たちでちゃんと考えろ!」
 「じゃあ、「怜花(れいか)」でいいかな?」
 「なに!」

 驚いた。
 俺があの時に咄嗟に浮かんだ名前だった。

 「お前……」
 「済まない。亜紀ちゃんに聞いたんだ。あの後でお前の部屋を掃除してたら、机の上にそう書いてある紙を見つけたって」
 「あのな」
 「石神が、どういうつもりで書いたものかは知らない! でも、俺も雪野さんも、その名前を聞いてそれしかないって思ってるんだ!」
 「弱ったな」
 「な、いいだろ?」
 「近所のネコに付けようかと思ってたんだけどな」
 「え? だって、漢字だぞ?」
 「別にネコの名前が漢字でもいいだろう!」
 「ま、まあな」
 「まあ、俺が帰ってからにしてくれ。今は忙しい」
 「ああ、悪かった!」
 「それとな」
 「なんだ!」
 「亜紀ちゃんに、帰ったら佐藤家三周だと言っておいてくれ」
 「え? あ、ああ、分かった、伝える」

 俺は電話を切った。

 「お子さんがお生まれになったんですか?」
 「ええ。友人の夫婦でして。予定日よりも少し遅かったんですが、無事に生まれたと」
 「そうですか! 良かったですね」
 「ええ」

 まあ、良かった。
 全然心配はしていなかったが。
 早乙女と雪野さんの幸せそうな顔が浮かぶ。
 
 「石神様も嬉しそうですね」
 「いや、俺は別に」
 「でも、幸せそうに笑ってらっしゃいますよ?」
 「まあ、大好きな二人ですからね。本当に良かった」

 緑さんも嬉しそうに笑った。





 百家に戻ると、響子が目を覚ましていた。
 自分で顔を洗い、着替えていた。

 「おかえりー!」
 「おう。起きてたか」
 「うん。どこに行ってたの?」
 「ああ、ちょっと運動する所にな」
 「へぇー」

 まあ、こいつに興味はない。

 「緑さんに土産のことを聞いたんだけどさ」
 「じゃあ、買いに行こうよ!」
 「ああ。じゃあ、ちょっと出掛けるって言ってくるな」
 「うん!」

 俺が言いに行くと緑さんが一緒に付いて来ると言った。
 俺は響子と二人でデートなのだと言うと、笑って「分かりました」と言った。
 俺は別途ルーに電話し、出雲市の空手道場にレッドダイヤモンドの10キロくらいのものを送るように言った。

 「どうしたの?」
 「ちょっと御神体を割っちゃってな」
 「何やってんの!」
 「アハハハハハ!」

 俺は響子と出掛けた。




 響子は昨日と同じ白いパンツに、厚手のセーターを着ている。
 俺は念のためにその上に、アクアスキュータムの白のトレンチコートを羽織らせた。
 俺はシルク混の白のパンツに白のシャツにドミニクフランスの人魚柄のタイを締めた。
 黒のダンヒルの革のジャケットを羽織っている。

 市街地に入り、ハマーを駐車場に停め、響子と歩いた。
 響子は身長が173センチになり、もう俺と腕を組んでも様になるようになった。
 顔はまだ幼いが、後ろ姿は一人前だ。
 俺に楽しそうにくっついてくる。

 二人で教わった和菓子の店に行き、「若草」を味見した。
 店内でお茶と一緒に味わう。

 「美味いな!」
 「いいね!」

 俺は子どもたちや部下たちの分も含めて20箱頼んだ。
 あちこち見て回り、響子が六花用に「縁結び箸」を買った。

 「おい、もう必要ねぇじゃん」
 「いいじゃん、カワイイよ?」
 「そう?」

 俺も買えというので、ウサギのトートバッグを買った。
 それを見て響子も欲しがったので買ってやった。

 百家に戻って、響子と部屋でソファに座ってまったりした。
 緑さんが紅茶を持って来てくれた。
 響子が俺に甘えているのを見て嬉しそうに笑った。

 「本当に仲が宜しいんですね」
 「まあ、ヨメですからね」
 「うん!」

 「すいません、折角来て頂いたのに、何のおもてなしも出来なくて」
 「とんでもない! 楽しんでますよ!」
 「うん!」

 「そうですか」
 「さっきも夢を見たよ!」
 「へぇ、どんなだ?」
 「蝶柄で、えと、なんて花だっけ?」
 「石楠花か!」
 「そう! 先っちょがちょっとピンクのやつ!」

 緑さんが驚いていた。
 俺は緑さんに改めて、以前に一緒に同じ夢を見たのだと言った。

 「あの女の人がね、「よく来てくれたね」って言ってた!」
 「!」

 緑さんが泣き出した。

 「響ちゃんです! 一番好きな着物で!」

 そうだろうとは思っていた。

 「あとね、「朧影」と「黒笛」だって」
 「!」

 俺が持って来た銘の分からない二振だろうと思った。
 一つは刀身が淡い霧に覆われたような波紋で、もう一つは黒い刀身だった。
 
 「俺が持って来た刀の銘だと思います」
 「すぐに調べてみますね」

 緑さんはそう言って出て行った。

 「響子よー、「タカトラー」もいいんだけど、そういうことも話してくれよ」
 「うん、忘れちゃってた」
 「お前、すぐに忘れちゃうよなー」
 「エヘヘヘヘ」

 「ちょっとオシリのマッサージをしとくか」
 「やー」
 「記憶力が上がるぞ?」
 「やー」

 やらせてくれなかった。

 


 夕飯前に、風呂を頂いた。
 響子が眠くなっても、すぐに寝かせられるようにだ。
 
 夕飯は炊き込みご飯だった。
 非常に出汁が効いていて美味い。
 響子には目玉焼きを乗せた小さなハンバーグ。
 俺とみなさんは天ぷらだ。
 また響子は一杯食べた。

 夕飯の後で、また酒が出た。
 響子はウーロン茶だ。
 
 今日は俺が話す番だ。




 俺はノートパソコンを見せながら、話し始めた。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

処理中です...