富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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百家訪問 Ⅳ

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 翌朝、朝食の後で響子は大興奮だった。
 静江さんのアルバムや思い出を聞かせてもらったからだ。

 尊正氏や奥さん、尊教さん、緑さん。
 それぞれに、子どもの頃や若い頃の静江さんの話をしてくれた。
 尊正さんは響子を膝に乗せながら、アルバムを説明していく。
 響子の頭を撫でながら、嬉しそうに話している。
 響子もすっかり百家の方々に馴染んだ。

 「タカトラぁー!」
 「こら! そのテンションで歩くんじゃねぇ!」

 響子が足を絡めて転びかけた。
 慌てて抱き留める。
 一瞬の俺の動作にみんなが驚いた。

 「おい!」
 「ごめんなさーい」

 みんなが笑った。
 
 昼食は山菜蕎麦をいただいた。
 本物の採れたての山菜だった。
 響子が珍しがって、結構食べた。

 午睡に入る前に、響子が俺に言った。

 「タカトラ! 六花のお土産を買ってないよ!」
 「ああ、昨日のお守りとかでいいんじゃないか?」
 「あれもいいけど! でもちゃんとしたものも!」
 「こら! お守りもちゃんとしてるんだ! 百家の家の人の前で絶対に言うなよ!」
 「アハハハハ!」

 「分かったよ。後で緑さんにも相談してみよう」
 「うん!」





 響子が眠って、俺はヒマになった。
 格式の高い家なので、あまりあちこちうろうろ出来ない。
 まかり間違って、ヤバイものに触れたり壊したら大変だ。
 俺の場合、あり得る。
 道間家も格式はあるが、俺に絶対服従なので気楽だ。
 何か壊しても「ごめんね」で済む。
 多分、そうだ。
 しかし、ここではそうは行かない。
 思えば、久し振りの「他人」の家だ。
 蓮花の研究所、千万組、「紅六花」ビル、道間家、早乙女家、斬の屋敷、「虎の穴」基地、俺はどこでもやりたい放題だ。
 いかん。
 俺は元々遠慮深い性格の男だったはずだ。


 「なんか、面白いとこないですかね?」
 「え?」

 
 ヒマ過ぎた。
 緑さんは笑って、外に出ましょうかと言ってくれた。
 二人で歩いで出る。

 「どんな場所がいいですかね」
 「あの、ゲーセンとか」
 「げーせん?」
 「ほら、ゲームの機械が一杯置いてあって、地元の不良が集まっているような」
 「はい?」
 「真面目な俺が楽しんでると、後ろから蹴りを入れて来る連中がいる」
 「はぁ」

 どうも通じない。

 「あの」
 「はい!」
 「何か、暴れたいというような?」
 「そうです!」

 緑さんは大笑いした。

 「石神様は戦う人ですものね。でも、生憎不良の方などは存じ上げませんの。宜しければ知り合いの空手道場でもいらっしゃいますか?」
 「是非!」
 
 緑さんは笑ってどこかへ電話をされた。
 そしてタクシーを呼んだ。

 「あの」
 「はい」
 「今、スマホでタクシーを呼びました?」
 「はい、そういうアプリがございますよね?」
 「後で教えて下さい!」
 
 また笑われた。
 タクシーで大きな道場へ連れて行かれた。

 「じゃあ、ここを道場破りで」
 「いえ、普通に初心者入門で」
 「はい?」

 初心者が体験入門を出来るというものらしい。 
 何でもいい。

 緑さんが師範と知り合いのようで、俺はすぐに上げられ道着も貸してもらった。
 道着の着方を教えようと師範の人が待ってくれていたが、俺は自分で着られた。

 「もしかして、石神様は空手の有段者とか?」
 「いいえ、やったこともありません!」
 
 俺は突きを教わり、やってみるように言われた。
 やった。
 蹴りも教わってやった。
 褒められて、いい気分になった。
 
 「いいじゃないですか! 本当に初めてです?」
 「はい! 喧嘩十段ですけど!」
 「アハハハ! じゃあ、軽く組み手をしてみますか」

 寸止め空手だ。
 俺は最初の相手に簡単に勝った。
 一瞬で数カ所に突きと蹴りを入れる。
 次は有段者だった。

 「ちょっとは入れてもいいですよ」
 「はい!」

 20カ所に有効打を入れ、最後にハイキックを側頭部の直前で止めた。
 いつの間にか、全員が俺の組み手を見ている。

 「うーん、五人一遍でやりましょうか!」

 俺が言うと師範が許可し、有段者五人が来る。
 一瞬で全員を吹っ飛ばした。
 インパクトの瞬間に速度を落として蹴り上げただけだ。
 誰も怪我をしてない。

 「全員で来ますか!」
 
 師範は許可しながったが、俺が勝手に全員を襲って行った。
 1分で全員に有効打を入れる。

 「ガハハハハ! これで道場の看板は俺のものだぁ!」
 「石神様!」
 「冗談ですって」
 
 俺は笑って着替えた。
 道場に戻り、迷惑を掛けたことを謝った。
 楽しませてもらった礼も言う。

 「いや、あなた絶対スゴイ人ですよね?」
 「範馬の血が入ってますからね」
 「はい?」

 俺は笑って、棚に置いてあった自然石を持って、手刀で真っ二つにした。

 「どうですか! アハハハハハ!」
 「石神様!」
 「え?」
 「それ、御神体です!」
 「!」

 土下座して謝った。
 師範が笑って許してくれ、「いいものを見せてもらったから」と言ってくれた。
 緑さんが、すぐに百家から御神体を送ると言ってくれた。

 「申し訳ありません」
 「いいえ」

 「石神様」
 「はい」
 「後でゲーセンというのを探しておきますね」
 「いえ、もう結構です」

 緑さんが大笑いした。




 もう帰るまで大人しくしておこうと思った。
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