富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
1,302 / 3,202

出産とナゾ牧場

しおりを挟む
 六花のマンションに寄ったので、午後の四時頃に家に帰った。
 早乙女がいた。

 「「「「「おかえりなさーい!」」」」」
 「おう、ただいま」
 「いしがみー!」
 「なんだこいつ? なんで俺のいない間に上がり込んでるんだ?」
 「おいー!」
 「あ! さては亜紀ちゃん狙いかぁー!」
 「違うよ!」
 「じゃあ、柳かぁ!」
 「違うって!」
 「もしかして皇紀?」
 「おい!」

 みんなが笑った。

 「ったく! 帰って早々になんだ!」
 「あの、お前に子どもを見て欲しくて」
 「うちの子どもたちで十分だ!」
 「いしがみー」

 子どもたちが笑った。

 「ずっとタカさんの帰りを待ってたんですよ」
 「自分の家で待て!」
 「もっと早くお帰りかと思って」
 「カワイイ響子とそんなすぐに離れられるか!」

 離れたが。

 「さっき響子ちゃんに電話したんですよ」
 「……」

 「タカさん……」
 「おい! 早乙女、早く案内しろ! モタモタすんな!」
 「……」

 早乙女のポルシェに乗った。
 



 早乙女は最初、うちの病院で出産したいと言っていた。
 だが俺がなるべく俺たちの関りを知られない方がいいと言い、近くの病院で出産した。
 車で10分もかからない距離だ。

 駐車場に車を停め、二人で病室へ行った。
 最初に雪野さんを見舞う。
 俺は無事出産のお祝いを言い、雪野さんが元気そうだと言った。
 急に連れ出されたのでと、出雲土産の「若草」を渡した。

 「ありがとうございます。もう、赤ちゃんはご覧になりましたか?」
 「いいえ、後で。先に雪野さんを見たくて」
 「そうですか。初産だったんですが、陣痛からすぐに生まれてくれました」
 「石神、お前は大丈夫だって言ってたけど、予定日よりも遅れて心配してたんだ」
 「お母さんの中に出来るだけいたかったんだよ。きっとお母さんが大好きな子どもだぞ」
 「そうか!」
 「お父さんはどうでもいいんだな」
 「いしがみー」

 雪野さんが大笑いした。

 「わざわざ来て頂いてすみません」
 「ああ、旅行から帰ったら、こいつが俺の家で亜紀ちゃんをナンパしてやがって」
 「おい! してないぞ!」
 
 雪野さんがまた笑った。
 俺も笑って、早くお父さん嫌いの娘を見せろと早乙女を誘った。

 新生児室でガラス越しだったが、はっきりと見えた。
 まあ、新生児の顔だ。
 元気そうで問題ない。
 病室へ戻った。

 「雪野さん似でカワイイ子ですね!」
 「そうですか!」
 「うん!」

 雪野さんが早乙女に「若草」を出すように頼んだ。

 「こいつには後で渡すんで、別々に食べて下さい」
 「いしがみー」」

 三人で食べた。

 「あ! 美味しいですね!」
 「うん! 美味いよ、石神!」

 俺は授乳に問題が無いか調べるので、オッパイを出すように雪野さんに言った。
 すぐに出そうとするので、慌てて冗談だと言った。

 「石神!」
 「お前ら、ちょっと人を信用し過ぎだぞ」
 「お前だからだろう!」
 「アハハハハハ!」

 何度も騙されてからかわれているのに、こいつらは何度でも信じる。
 いい連中だ。
 
 「ところで石神」
 「ああ」
 「あの子の名前なんだけどな」
 「ああ。まあ、「怜花」でいいんじゃねぇか?」
 「ほんとか!」
 「いいんですか!」

 見られたからには、仕方がない。

 「俺が付けたんじゃねぇ。ネコの名前をお前らが勝手に使うだけだ」
 「ありがとう!」

 俺は「怜」の意味を二人に話した。

 「「怜」は賢いことや慈しむ、憐れむという意味の漢字だ。りっしんべんは「心」を表わし、「令」は澄み渡るという意味がある。心の澄み渡った、という意味になるんだ。そういう「花」、つまり外見も美しくな。まあ、これは名前だから、お前たちがそういう子に育てろよ」

 「ああ、分かった!」
 「ありがとうございます!」

 二人が喜んだ。

 「じゃーなー。ネコは別なのを考えないとなー」

 二人が笑った。
 まあ、俺は口にしなかったが「怜」という音は二人も分かっているだろう。
 俺のために死んだ「レイ」を思ってのことだ。
 この世に再び、その音を取り戻したかった。

 「じゃあ、俺は帰ってもいいかな?」

 早乙女が送ると言ったが、俺は断ってタクシーで帰った。
 幸せそうに笑う二人を引き離したくなかった。






 家に戻ると、すぐに夕飯の準備が出来ると言われた。
 ハーに聞いた。

 「今日はなんだ?」
 「ステーキ大会だよ?」
 「久しぶりだな!」
 「一昨日もそうだったけど」
 「ワハハハハハ!」

 俺は三日振りにステーキを堪能した。

 食後にみんなを集め、百家での話をした。
 俺たちの全てを話し、幾つかの動画も見せたことを伝えた。

 「では百家も、今後私たちに協力してくれるんですか?」

 亜紀ちゃんが聞いて来た。

 「いや、特にそれは求めていない。でも、深い縁があることは確かだ。あそこは旧い家系だが、特に戦闘力があるわけでもない。巻き込みたくはないな。今回いろいろと教えてもらったことだけでも、ありがたいよ」
 「じゃあ、どうして私たちのことを話したんですか?」
 「知っていて欲しかった。これから世界が崩壊していくこと。それと俺たちが戦うこと。その中心に百家の血を引く響子がいて、俺たちがいること。それを知っていて欲しかったんだ」
 「タカさん……」
 「百家は名家だ。世界に誇れるような素晴らしい家系だ。その家系から、世界を救う人間が出た。そう思って欲しかった」
 「分かりました」





 風呂に入り、亜紀ちゃん、柳と酒を呑んだ。
 先ほどは話さなかった、刀の話をした。

 「残りの二本の銘が分かったんだ。「朧影」と「黒笛」だ」

 俺は「朧影」の能力について話し、「黒笛」はまだ不明だと言った。

 「響子が夢で見たんだ。静江さんの妹の響さんから教わったらしい」
 「やっぱりスゴイ家ですねぇ」
 「そうだな」

 「石神さんは何か夢を見なかったんですか?」
 
 柳に聞かれた。
 俺は自分が見た夢を話した。

 「話してると楽しくなってな、「ヒモダンス」を見せてやった」
 「タカさん! あれは門外不出ですよ!」
 「お前ら、散々他所でやってるだろう!」
 「アハハハハハ!」

 単に「門外不出」と言ってみたかっただけだ。

 「それで、真珠のピンで刺されてな」
 「ちょっと見せて下さい!」

 亜紀ちゃんが俺の左手を取った。
 
 「良かった! 何ともありませんね」
 「当たり前だろう!」
 「だってタカさん! 今まで人外と関わってとんでもないことばっかりだったじゃないですか!」
 「あ、ああ」

 確かにそうだった。

 「カワイイ響子がチュウチュウしてくれたから大丈夫だ!」
 「「はいはい」」

 俺は思い出して、発着場に作った山頂の偽牧場の話をした。

 「俺が見たらさ。二階建てなのに、上に上がる階段がねぇんだよ。手抜き工事しやがってよ!」

 ネットで噂になっているらしいと言った。
 亜紀ちゃんがすぐに自分のパソコンを持って来て検索した。

 「ありましたよ!」

 《出雲のナゾ牧場》

 誰かが偶然に見つけ、興味を持った人間たちが探索しているらしい。
 業者が作った道から偽牧場までの経路を撮影し、ナゾ建物の画像もあった。
 1階の天井に大きな四角い穴があり、2階の壁に謎のドアが付いている。
 牧草地の代わりに、広いアスファルトの敷地があり、ナゾ過ぎるというコメントだった。

 「まいったな」
 「好き勝手に書いてますねー」
 「私有地に入ってるってことですよね?」
 「今度地雷埋めときますか」
 「「やめろ!」」

 おいおい考えようということになり、俺たちは解散した。




 ベッドでロボが前足でパンパンする。
 早くここに寝ろと言っている。
 俺は笑って横になった。
 ロボがまた、俺の右腕に足を絡めた。

 幸せだった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

政略結婚の先に

詩織
恋愛
政略結婚をして10年。 子供も出来た。けどそれはあくまでも自分達の両親に言われたから。 これからは自分の人生を歩みたい

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

処理中です...