富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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再会と宴

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 目を開けると、亜紀ちゃんが隣で眠っていた。
 ロボが俺の隣で寝ていた。
 俺はベッドから降りて亜紀ちゃんの頭を撫でた。
 美しい娘に育った。
 俺のために死んでも構わないと思う女に育った。

 「あ」

 亜紀ちゃんが目を覚ました。

 「あれ! もう! 私がタカさんの寝顔を見ていたのに!」
 「俺はお前の親父だからな」
 「何ですか、それ!」

 亜紀ちゃんは怒った振りをした。
 すぐに笑顔になる。

 「もうちょっと撫でてて下さい」
 「おう、任せろ!」

 額に掛かった髪を撫で上げ、頭を撫でてやる。
 亜紀ちゃんは気持ちよさそうに目を閉じた。

 「タカさん」
 「なんだ」
 「思ったより落ち込んでませんね」
 「そうか」
 「はい。しばらくは、もうダメかと」
 「そりゃお前だろう」

 亜紀ちゃんは一度死んだ。
 検査の結果、もう傷は全て塞がっているが、まだ血が足りないはずだ。

 「お父さんとお母さんに会えましたよ」
 「マジか!」
 「はい。花畑で」
 「亜紀ちゃん、本当に死んだんだな」
 「アハハハハハハ!」

 亜紀ちゃんが、懐かしかったと言った。
 死んで良かったとも言った。

 「二人が一緒にいたんで、それが一番嬉しかったです」
 「そうか」
 「もうちょっと話をしたかったんですけど」
 「そうだな」
 
 俺はまた、亜紀ちゃんの頭を撫でた。

 「タカさん。私が殺しました」
 「ああ」
 「タカさんじゃなく、私が殺したんですからね」
 「そうだ。助かった、ありがとう」
 「いいえ」

 亜紀ちゃんが俺の腕を取った。
 俺の腕を引き、俺の顔を寄せた。
 キスをされた。

 「あー、なんか久しぶりだぁー!」
 「アハハハハハ」

 ハーが入って来た。

 「タカさん! 大丈夫?」
 「ああ、心配掛けたな。もう大丈夫だぞ」
 「良かったよー!」

 ハーを抱き締めた。

 「みんなは?」

 ハーが、多くの人間が斬の屋敷の片付けをしていると言った。
 栞と士王、桜花たちは、念のために防衛区画に入っている。
 
 斬が入って来た。

 「おい、栞たちに会わせろ」
 「ああ。お前は大丈夫か?」
 「ふん! 何のこともない、と言いたいがな。お前のお陰ですっかり戻った」

 「Ω」と「オロチ」の粉末を飲ませたことを言っているのだろう。

 「あれのお陰で、始末できた。感謝する」

 斬が頭を下げた。
 亜紀ちゃんとハーが驚く。

 「俺も子どもたちに助けられた。お互いいいザマだな」
 「ふん!」

 俺は蓮花に連絡し、栞たちの警戒を解くように伝えた。

 「斬の屋敷に行く。ハマーはあるか?」
 「はい。ミユキが運転して戻っております」

 「よし。おい、蓮花。一緒にドライブに行くか?」
 「!」

 蓮花は一瞬驚いていたが「喜んで」と返事をした。




 俺は栞と士王たちを食堂へ向かわせた。
 亜紀ちゃんとハー、斬も行かせる。
 先に食事をするように言った。
 用意はもう蓮花がしている。
 ハーが温め直すだろう。

 俺は蓮花とハマーで斬の屋敷へ向かった。
 ロボも付いて来る。
 
 屋敷では大勢の人間が壁を修復し、また亜紀ちゃんの攻撃で大きく抉れた地面の修復に入っていた。
 俺は全員を呼ぶ。
 俺の姿を見て、ブランたちが喜ぶ。
 皇紀とルーと柳が俺に抱き着く。

 「よし、みんな見てろよ! 「クロピョン」!」

 俺が呼ぶと、太い黒い触手が現われる。
 直径で10メートルほどもある。
 もう、俺が命じることが分かっている証拠だ。

 「土地を元に戻せ!」

 巨大な触手が空中で「〇」を描き、すぐに土地が隆起して行く。
 亜紀ちゃんの「最後の涙」で1キロ先まで、深さ30メートル削られていた。
 その先の山では、林が大きく抉れている。
 それが、すぐに元の高さまで戻り、山の形も修復された。
 もちろん、畑や林が戻ることはない。
 ロボが長い爪を出したので、しまっとけと言った。
 こいつ、何をするつもりだったのか。

 「ルー、斬に畑などの被害をまとめさせる。賠償の金を用意してくれ」
 「はい!」
 「復旧に必要な耕運機なんかもな」
 「うん!」

 全員撤収し、蓮花研究所に帰った。
 子どもたちはハマーに乗せ、ブランたちは重機を片付けながら、トラックやバスに乗り込んで戻った。




 研究所では食堂に亜紀ちゃんとハーがいて、珍妙な顔をしていた。
 斬が士王を笑顔であやしていたからだ。

 「「……」」

 俺たちが戻ると、やっと笑顔になって食事を再開した。

 「なんですか、あれ」

 亜紀ちゃんが食べながら言う。

 「びっくりだろ? 俺も驚いたぜ」
 「「おじいちゃん」じゃないですか!」
 「あの殺人鬼がな」
 
 聞こえているのだろうが、斬はまったく気にしない。
 栞もニコニコしている。

 「おい、お前も座って食事にしろよ」
 「わしはいい」

 一瞬俺に顔を向け、すぐに士王に戻す。
 今は夕方の6時になっている。
 
 「蓮花、俺も腹が減ったな」
 「はい。少し遅くなりましたが、庭でバーベキューの用意をさせております」
 「そうなのか?」

 研究所に残ったブランたちで、既に準備を進めていたらしい。

 「「ワーイ!」」

 亜紀ちゃんとハーが喜ぶ。
 こいつらは今、散々食べていたはずだ。

 「斬、お前も今日はこっちに泊まれよ」
 「ふん! 当たり前じゃ」

 士王と一緒にいたいらしい。




 7時頃になったが、俺たちは庭でバーベキューを楽しんだ。
 俺と子どもたちと栞と士王、斬、ブランたち、研究所の所員たち。
 桜花たちと青嵐、紫嵐も、ブランたちの間に入って、楽しそうだ。
 今日ばかりは子どもたちも争い無く楽しく食べている。
 まあ、一番の暴れん坊の亜紀ちゃんが大人しいせいもあるかもしれない。
 ロボも満腹してからは、大勢の間を回って可愛がってもらってご機嫌だ。
 
 「斬、少し食べておけよ」
 「ふん! 何故か食欲が湧かん」
 「それはあの粉末のせいだ。でも一口食べれば、元に戻るぞ」
 「そうなのか?」

 斬が俺が持って来た肉を食べた。
 そこから、猛然と食べ始め、栞が笑った。

 「栞、来てもらったのに、散々だったな」
 「いいよ。これがあなたの生きる世界なんだから」
 「そうか」
 
 「さっきね、ちょっと夢を見たの」
 「そうか」
 「懐かしかった」
 「そうか」

 何の夢かは聞かなかった。
 栞も口にしない。

 最悪の再会になったが、俺たちはみんな懐かしい人間と再会もしたようだ。
 斬も口には出さないが、もしかしたら同じだったかもしれない。
 聞きはしないが、俺はそうであったらと思った。
 斬にとっても、あまりにも辛い戦いだったに違いないからだ。
 冷血で鉄血の人間に見せてはいるが、斬は心の奥底に美しい何かを秘めている。
 俺はそれを知っている。





 子どもたちが、時々俺の前にやって来て、一緒に食べたがった。
 俺が落ち込んでいないことを分かると、ニコニコして自分の「喰い」に戻った。
 柳はちょっと泣いた。

 亜紀ちゃんは流石に腹が一杯なのか、ずっと俺の隣でゆっくりと食べていた。
 
 「みんな元気で良かったですね」
 「そうだな」

 俺と顔を見合わせ、二人で笑った。

 宴が和やかに進んでいた。
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