富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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トラ&六花 異世界召喚 Ⅷ

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 翌朝、俺たちが正門に行くと、既に「ソードタラテクト」の連中は揃って待っていた。

 「待たせたか?」

 リーダーのヤンマーに聞いた。

 「いいえ。普通はもっと早い時間に待ち合わせますし」
 「そうか。まあ、俺たちは朝が遅いんだよ」
 「構いません。じゃあ、行きますか」
 
 歩きながら、全員に夕べの礼を言われる。
 
 「まあ、昼食もうちで出すからな」
 「ほんとですか! ありがとうございます!」

 ヤンマーたちが喜ぶ。
 途中から道を外れた。

 「大丈夫なんですか?」

 ヤンマーが俺に尋ねて来た。

 「ああ。何度も来ている。訓練のための丁度いい広場があるんだ」
 「そうなんですか」

 俺たちは普段は飛行して移動するので、この森のことは全て分かっている。
 歩きながら、「ソードタラテクト」の連中と話した。

 「普通の魔獣は大丈夫だろうけどよ。レイスとかの死霊系はどうしているんだ?」
 「まあ、正直言って苦手ですね。炎属性の魔剣が二本あるんで、そっちで対処しますが」
 「今日も持って来ているか?」
 「はい。一応「空間収納」のスキルがある奴がいるんで。そっちに仕舞ってますが」

 「空間収納」は珍しいスキルだ。
 俺たちの「ストレージ」に比べて格段に収納量は狭いが、それでも荷車一杯くらいは入る。
 荷物の持ち運びが必要な冒険者にとっては、重宝するスキルだった。

 「そうか」

 元々死霊系の魔獣は少ない。
 特別な場所にしかいないと言ってもいい。
 
 「今回貸し出す剣は、死霊系にも抜群に効く。反対に、威力がでか過ぎるんだ。だから使い処が判断出来る奴に任せたい」
 「はい、存分に我々を見極めて下さい」

 俺は気になっていたことをヤンマーに尋ねた。

 「ヤンマーは、以前は何をしていたんだ?」
 「はい、王国の兵士でした。士爵の次男でしたので」
 
 冒険者は市井の人間がなる場合が圧倒的に多い。
 だから多くは学が無い。
 ヤンマーは、喋り方が違った。
 知性がある。

 「なるほど。それで佇まいや話し方が違うんだな」
 「いえ、それほどでも。私はどうにも感情のコントロールが苦手で。つい上官と揉めてしまいまして」
 「そうか」

 自分の欠点を正直に話す態度が気に入った。
 制御を求めている俺に、普通はそういう話はしない。
 重要な仕事を与えるという俺に、ヤンマーは自分が眼鏡に適わない場合は外して欲しいと考えている。

 「俺もそうなんだ」
 「はい?」

 「前にな、俺の大事な仲間を殺した国があった。でかい国だ。世界最強と言ってもいい」
 「そうだったんですか」
 「ああ。だからな、その国を襲って滅ぼしかけた」
 「え!」
 「危なかったよ。別な友から預かった心を落ち着かせる薬が無ければ、俺は取り返しのつかないことをしてしまう所だった。今でも冷や汗が出るぜ」
 「そんな!」

 ヤンマーが俺を見ていた。
 
 「でもな、ヤンマー。俺は大事な人間のために怒り狂う奴じゃなければ信用出来ないよ」
 「!」

 ヤンマーは自分のことを感情的な人間のように語っていたが、俺はそうではないことを分かっていた。
 他の仲間のヤンマーへの態度を見てもそれは分かる。
 リーダーとしてのヤンマーを信頼し、仲間として大事に思っている。
 ヤンマーに全てを任せると決めている。
 それが失敗に終わったとしても、だ。

 俺は歩きながら映画『許されざる者』の話をした。
 この世界に映画は無いので、芝居の態で話した。

 「若い頃に凄く強い悪党だった男が、今は引退して老いぼれて農夫をしている。だけど素人だから上手く行かない。子どもたちが貧しさに喘いでいる。そこに賞金首を追う話が来て、親友の元悪党と一緒に出掛けるんだ」

 ヤンマーたちも六花も、俺の話を聞いている。

 「だけどもうずっと武器を握っていないし、身体も上手く動かない。足を引っ張ることしか出来なかった」

 六花がよく聞こうと、俺の傍に来て腕を組む。

 「その中で、親友が賞金首に捕まり、酷い拷問の上で殺される。そして男は立ち上がる。弱々しい身体は屹立し、昔の強い男に戻っている。そして賞金首たちの所へ行くと、親友が無残な姿で吊るされていた」

 みんなが固唾を飲んで聞いている。

 「そして言うんだ。「俺の親友にこんなことをして、お前ら、覚悟はいいだろうな」」
 「!」

 「な? カッチョイイよな! 人間はよ、肉体がどうとかじゃねぇ。本当にやらなきゃいけない時には、そうなるんだ。まあ、それで負けてもな。俺は怒り狂って立ち上がる奴が大好きなんだよ」
 「いいお話しでした!」

 みんなが喜んだ。





 広場に着いた。
 俺はストレージから3振の「黒笛」を取り出し、ヤンマーたちに渡した。

 「みんなで握ってみろ。誰が使うのかはお前らに任せるが、まずは全員で振ってみろよ」

 ヤンマーたちはそれぞれ順番に握ってみる。
 
 「意外と重いんですね」
 「そうか。でもそれは概念でどうにでもなる。そういう刀なんだ」

 誰かが叫んだ。

 「軽くなる! 重さは自由自在だぞ!」

 俺は笑って、自分の「黒笛」を取り出した。

 「よく見ていろよ」

 俺は青眼に構え、突き出した。
 刀身が一瞬で10メートルまで伸びる。

 「いいか、重さが変わるのならば、長さも変わる。自分が思うままになる、ということを覚えておけ」
 
 全員が驚き、俺を見ていた。

 「よし、じゃあ早速試し斬りだ」

 何をするのかとヤンマーたちが見ていた。
 俺は召喚陣を地面に投影し、レイスを呼び出した。

 「メシア様は、こんなことも出来るのですか!」
 「まあな」

 ヤンマーに攻撃させる。
 一撃でレイスは霧散した。
 俺は次々と他のメンバーたちにもやらせた。

 「ヤンマー、次はもっと強い相手だ」
 「はい!」

 俺は死霊系の上位種のリッチを呼び出した。
 冷却系の魔法を操り、スケルトンを召喚することが出来る。

 「魔法は「黒笛」で斬れ! 他のメンバーは呼び出されたスケルトンを相手にしろ!」
 「「「「「「はい!」」」」」」

 いい連携だった。
 ヤンマーがリッチに迫り、撃って来る魔法は他の二人が受け持ってたちまちにリッチを斃した。

 「すげぇ! 俺たちだけでリッチを斃したぜ!」

 メンバーの一人が大声で叫んだ。
 魔法使いのいない「ソードタラテクト」では、死霊系の魔獣は苦手だった。
 レイス辺りまでならなんとかなっても、リッチになれば苦戦するはずだ。
 魔剣で相手をするとヤンマーは言っていたが、相当の良い物でなければ負ける。
 
 「これは俺との約束だ。その「黒笛」は、妖魔相手にだけ使ってくれ。強大な妖魔と戦える者がいないから、お前たちにそれを託すんだ。他の狩もそうだが、もちろん人間相手には絶対に使うな。使おうとすれば、その剣は消える」
 「分かりました!」

 「空間収納」の能力を持つ男が預かり、俺の言った事態にだけ使用すると言ってくれた。
 俺たちはすっかり遅くなった昼食を食べた。

 様々な種類の肉を薄切りにしてパンにはさんだミートサンドだ。
 それと豆と海藻のスープ。
 ヤンマーたちは大喜びで食べた。
 六花も幸せそうな顔をしていた。

 「昼食にこんなに美味いものが喰えるなんて!」
 「普段はどうしているんだ?」
 「外に出たら、もう黒パンと干し肉がほとんどですね」
 「「空間収納」があるじゃないか」
 「あれは本当に大事なものしか。まあ、そう決めておかないときりがないんで」
 「そうか」

 基本的に装備や食糧は手持ちだそうだ。
 「空間収納」の能力者も、それは同じだった。

 「予備の武器や装備、それに緊急事態以外は絶対に使わないものだけです。大体容量が限られているので、帰りは得物を収納したりしますしね」
 「分かった。じゃあ、この「黒笛」はお前たちに預けたからな」
 「はい! きっとお役に立ちます!」
 「頼むぞ」

 俺と六花はシエルに跨り、更に森の奥へ行った。





 ジャイアントバジリスクとコカトリスを見つけて狩った後で、六花が言った。

 「石神先生、「黒笛」って伸びるんですね!」
 「ああ、そうだよ」
 「教わってませんでしたよ!」
 
 俺は笑った。

 「クロピョンが作った剣だ。クロピョンに似たことが出来ると思えよ」
 「なるほど」

 俺は「黒笛」を取り出して構えた。
 刀身が無数に分かれ、前方に伸びて行く。

 「え!」
 「なんだよ、クロピョンも分裂して触手を伸ばすだろうよ」
 「ああ!」




 俺たちは笑いながら、街に戻った。
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