1,394 / 3,202
「虎」の軍、募集中です! Ⅱ
しおりを挟む
俺は亜紀ちゃんの動画を続けて見ていた。
字幕。
「なんだ、てめぇは!」
「おい、綺麗な姉ちゃんだな」
「ぶっ飛べ!」
亜紀ちゃんが右手を振ると、門番の二人の男が「消えた」。
《スロー再生》
恐ろしく低い声は亜紀ちゃんのセリフだろう。
次に男たちの身体が超スローで血飛沫と共に分解されていく。
「グロいな」
「そうかな」
「まーCGですよ!」
鉄製の門まで吹っ飛んだ。
亜紀ちゃんが堂々と敷地内に入る。
結構広い邸宅だ。
サイレンが鳴る。
武装した男たちが玄関から飛び出してきて、窓もあちこちが開き始める。
亜紀ちゃんが軽く舞って両腕を交差してから開いた。
キャプション。
《トールハンマー》
広大な屋敷と敷地を覆う激しいプラズマの嵐が、全てを消し去った。
《スロー再生》
美しくも見えるプラズマの乱舞が屋敷の屋根を吹き飛ばし次々に屋敷を崩しながら消し去って行く。
別なカメラで撮影していただろう映像がワイプで抜かれる。
迸った電撃で走っている男の胴体が裂け、次の瞬間本体のプラズマが男を消去する。
「こりゃまた、ひでぇな」
「し、CGですよ!」
映像が戻り、屋敷と人間だった大量の粉末が風に流れて行った。
また映像が切り替わり、山中の畑が映る。
芥子畑だ。
鉄筋の堅牢な建物がある。
キャプション。
《龍刀しばり》
「なんだ?」
「まー、見てて」
亜紀ちゃんが走りながら建物に近づく。
重機関銃が唸り、50人近い男が銃器を手に駆け出て来る。
亜紀ちゃんのスピードが跳ね上がった。
同時に映像が超スローとスローを繰り返す。
亜紀ちゃんが敵に取りついた瞬間に超スローになり、「龍刀」で切り裂く瞬間がよく分かる。
後半は通常の再生になり、あちこちで血飛沫があがって、ものの数分で全滅した。
タイトル。
《明日は君が「悪人狩り」だ! 求む! 世直し「虎」の軍!!》
「……」
{し、CGだけどさ! みんな本当に悪い奴らだったんだよ!」
双子には分かる。
もちろん、三人をぶっ飛ばした。
第5作。
ロボがトコトコ庭を歩いて、太さ1メートルの大蛇を爪で斃す。
《ネコもやってる! 「虎」の軍募集中!!》
「カワイイんだけどな」
「うん」
第6作。
ストーリー物に路線を変えて来た。
どこかの戦場らしい場所で、負傷した男を担いで移動している。
「早乙女じゃん!」
あいつがなんで。
一緒にいるのはジェイだ。
「しっかりしろ! カワイイ奥さんが待ってるぞ!」
「俺はもうダメだ。俺を置いて逃げてくれ」
「嫌だ! お前を絶対に見捨てない!」
遠くから土煙が迫って来る。
「来たぞ! 俺が喰いとめるから、その間に!」
早乙女が叫び、ジェイが隣に並ぶ。
「戦友! 俺も一緒に戦うぜ!」
「ばかやろう!」
「ああ! その通りだぁ!」
二人が笑い合うアップ。
その時、上空からチヌークが降りて来た。
「ターナー少将!」
俺は何を見せられているのか。
「早く乗れ!」
「自分たちなんかを助けに来てくれたんですか!」
「当たり前だ!」
早乙女とジェイが涙を流しながらチヌークに乗り込む。
夕陽に照らされながら飛んで行くチヌーク。
タイトル。
《仲間は絶対に見捨てない! 優しい「虎」の軍へ来てね!!》
「まあ、いいんだけどよ」
「「うん!」」
「あいつら、致命的に演技が下手だよなぁ」
「「うん」」
第7作。
双子がハワイの空軍基地で大食い。
《食べ放題だよ! 「虎」の軍!!》
「意味が分からねぇ」
第8作。
亜紀ちゃんがクラスメイトを殺された復讐物。
「亜紀ちゃん、友達一人しかいねぇじゃん」
「そ、そんなことないですよ!」
亜紀ちゃんを止める真夜を振り切って、夕陽の土手で拳を握りしめる亜紀ちゃん。
《友のために立ち上がれ! 「虎」の軍は大歓迎です!!》
「嘘臭い感じがなぁ」
「えーん!」
そんなこんなで、俺は双子を中心に作られた動画を見せられ続けて来た。
第9作。
オロチと双子が仲良く遊んでいる。
「おい!」
《いろんな仲間がいるよ! 集まれ! 「虎」の軍!!》
「ばかやろう! オロチは機密だろう!」
「そっか!」
「よく出て来て遊んだな?」
「うん、タカさんのパンツ持ってった!」
「……」
メイキング映像もあり、御堂家で双子がみなさんと食事をしていた。
本気でぶっ飛ばした。
御堂に電話して謝った。
「いいんだよ、親父も大喜びだったよ」
「申し訳ない」
そして本日。
「今日は自信作だよ!」
「そうかよ」
俺もこいつらの情熱には感心していた。
何度も俺がダメ出しをしても、一向にめげることもない。
度々とんでもないものも作るが、問題はそこには無い。
こいつらも、何とかしたいと思っているのだ。
それに、これまでのものも、それなりに参考にはなっている。
プロコフィエフの『ロメオとジュリエット』の第2組曲が流れる。
「ほう」
空が暗くなっていき、分厚い雲が覆って行く。
雲の中から、巨大な鉤爪が飛び出す。
「おお!」
地上で草原に子どもたちが集まっている。
無言で頷き合い、円陣を組んで手を重ねる。
音楽がオルフの『カルミナ・ブラーナ』に替わる。
「いいな!」
五人が空へ飛んで行く。
その姿はただの点であり、鉤爪の巨大な大きさが圧倒的だ。
子どもたちは雲に突っ込んでいく。
凄まじい閃光が雲のあちこちで光る。
各アップ。
亜紀ちゃんが不敵な笑顔で笑う。
柳が汗を垂らしながら必死の形相。
皇紀が仲間を守りながら敵の攻撃を受けて防ぐ。
双子が連携して叫び合う。
タイトル。
《諦めるな! 「虎」の軍がいる! 君も仲間に!!》
「おお! これまでで一番いいな!」
「そうですか!」
「カッコイイぞ!」
「「エヘヘヘヘヘ!」」
俺は褒め称えた。
他の三人も呼んで、良かったと言った。
みんな喜んだ。
「じゃあ、これ使ってくれる?」
「まあ待て。お前らの顔を出すのは不味いからな」
「そっか」
「でも本当に良かったぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
ジャングルマスターがプロモーションビデオを作った。
流石に大満足の出来だった。
多くの入隊希望者が世界中から集まった。
双子が作ったものとは全然別なものだった。
「やっぱ、専門家が作るものは違うな!」
双子が俺の尻を蹴った。
字幕。
「なんだ、てめぇは!」
「おい、綺麗な姉ちゃんだな」
「ぶっ飛べ!」
亜紀ちゃんが右手を振ると、門番の二人の男が「消えた」。
《スロー再生》
恐ろしく低い声は亜紀ちゃんのセリフだろう。
次に男たちの身体が超スローで血飛沫と共に分解されていく。
「グロいな」
「そうかな」
「まーCGですよ!」
鉄製の門まで吹っ飛んだ。
亜紀ちゃんが堂々と敷地内に入る。
結構広い邸宅だ。
サイレンが鳴る。
武装した男たちが玄関から飛び出してきて、窓もあちこちが開き始める。
亜紀ちゃんが軽く舞って両腕を交差してから開いた。
キャプション。
《トールハンマー》
広大な屋敷と敷地を覆う激しいプラズマの嵐が、全てを消し去った。
《スロー再生》
美しくも見えるプラズマの乱舞が屋敷の屋根を吹き飛ばし次々に屋敷を崩しながら消し去って行く。
別なカメラで撮影していただろう映像がワイプで抜かれる。
迸った電撃で走っている男の胴体が裂け、次の瞬間本体のプラズマが男を消去する。
「こりゃまた、ひでぇな」
「し、CGですよ!」
映像が戻り、屋敷と人間だった大量の粉末が風に流れて行った。
また映像が切り替わり、山中の畑が映る。
芥子畑だ。
鉄筋の堅牢な建物がある。
キャプション。
《龍刀しばり》
「なんだ?」
「まー、見てて」
亜紀ちゃんが走りながら建物に近づく。
重機関銃が唸り、50人近い男が銃器を手に駆け出て来る。
亜紀ちゃんのスピードが跳ね上がった。
同時に映像が超スローとスローを繰り返す。
亜紀ちゃんが敵に取りついた瞬間に超スローになり、「龍刀」で切り裂く瞬間がよく分かる。
後半は通常の再生になり、あちこちで血飛沫があがって、ものの数分で全滅した。
タイトル。
《明日は君が「悪人狩り」だ! 求む! 世直し「虎」の軍!!》
「……」
{し、CGだけどさ! みんな本当に悪い奴らだったんだよ!」
双子には分かる。
もちろん、三人をぶっ飛ばした。
第5作。
ロボがトコトコ庭を歩いて、太さ1メートルの大蛇を爪で斃す。
《ネコもやってる! 「虎」の軍募集中!!》
「カワイイんだけどな」
「うん」
第6作。
ストーリー物に路線を変えて来た。
どこかの戦場らしい場所で、負傷した男を担いで移動している。
「早乙女じゃん!」
あいつがなんで。
一緒にいるのはジェイだ。
「しっかりしろ! カワイイ奥さんが待ってるぞ!」
「俺はもうダメだ。俺を置いて逃げてくれ」
「嫌だ! お前を絶対に見捨てない!」
遠くから土煙が迫って来る。
「来たぞ! 俺が喰いとめるから、その間に!」
早乙女が叫び、ジェイが隣に並ぶ。
「戦友! 俺も一緒に戦うぜ!」
「ばかやろう!」
「ああ! その通りだぁ!」
二人が笑い合うアップ。
その時、上空からチヌークが降りて来た。
「ターナー少将!」
俺は何を見せられているのか。
「早く乗れ!」
「自分たちなんかを助けに来てくれたんですか!」
「当たり前だ!」
早乙女とジェイが涙を流しながらチヌークに乗り込む。
夕陽に照らされながら飛んで行くチヌーク。
タイトル。
《仲間は絶対に見捨てない! 優しい「虎」の軍へ来てね!!》
「まあ、いいんだけどよ」
「「うん!」」
「あいつら、致命的に演技が下手だよなぁ」
「「うん」」
第7作。
双子がハワイの空軍基地で大食い。
《食べ放題だよ! 「虎」の軍!!》
「意味が分からねぇ」
第8作。
亜紀ちゃんがクラスメイトを殺された復讐物。
「亜紀ちゃん、友達一人しかいねぇじゃん」
「そ、そんなことないですよ!」
亜紀ちゃんを止める真夜を振り切って、夕陽の土手で拳を握りしめる亜紀ちゃん。
《友のために立ち上がれ! 「虎」の軍は大歓迎です!!》
「嘘臭い感じがなぁ」
「えーん!」
そんなこんなで、俺は双子を中心に作られた動画を見せられ続けて来た。
第9作。
オロチと双子が仲良く遊んでいる。
「おい!」
《いろんな仲間がいるよ! 集まれ! 「虎」の軍!!》
「ばかやろう! オロチは機密だろう!」
「そっか!」
「よく出て来て遊んだな?」
「うん、タカさんのパンツ持ってった!」
「……」
メイキング映像もあり、御堂家で双子がみなさんと食事をしていた。
本気でぶっ飛ばした。
御堂に電話して謝った。
「いいんだよ、親父も大喜びだったよ」
「申し訳ない」
そして本日。
「今日は自信作だよ!」
「そうかよ」
俺もこいつらの情熱には感心していた。
何度も俺がダメ出しをしても、一向にめげることもない。
度々とんでもないものも作るが、問題はそこには無い。
こいつらも、何とかしたいと思っているのだ。
それに、これまでのものも、それなりに参考にはなっている。
プロコフィエフの『ロメオとジュリエット』の第2組曲が流れる。
「ほう」
空が暗くなっていき、分厚い雲が覆って行く。
雲の中から、巨大な鉤爪が飛び出す。
「おお!」
地上で草原に子どもたちが集まっている。
無言で頷き合い、円陣を組んで手を重ねる。
音楽がオルフの『カルミナ・ブラーナ』に替わる。
「いいな!」
五人が空へ飛んで行く。
その姿はただの点であり、鉤爪の巨大な大きさが圧倒的だ。
子どもたちは雲に突っ込んでいく。
凄まじい閃光が雲のあちこちで光る。
各アップ。
亜紀ちゃんが不敵な笑顔で笑う。
柳が汗を垂らしながら必死の形相。
皇紀が仲間を守りながら敵の攻撃を受けて防ぐ。
双子が連携して叫び合う。
タイトル。
《諦めるな! 「虎」の軍がいる! 君も仲間に!!》
「おお! これまでで一番いいな!」
「そうですか!」
「カッコイイぞ!」
「「エヘヘヘヘヘ!」」
俺は褒め称えた。
他の三人も呼んで、良かったと言った。
みんな喜んだ。
「じゃあ、これ使ってくれる?」
「まあ待て。お前らの顔を出すのは不味いからな」
「そっか」
「でも本当に良かったぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
ジャングルマスターがプロモーションビデオを作った。
流石に大満足の出来だった。
多くの入隊希望者が世界中から集まった。
双子が作ったものとは全然別なものだった。
「やっぱ、専門家が作るものは違うな!」
双子が俺の尻を蹴った。
1
あなたにおすすめの小説
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
【完結】狡い人
ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。
レイラは、狡い。
レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。
双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。
口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。
そこには、人それぞれの『狡さ』があった。
そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。
恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。
2人の違いは、一体なんだったのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる