富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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PRISON BREAK! Ⅱ

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 腹が減った。
 そう言えば今日は朝飯を食っただけだ。
 昼にはもう、護送車に乗って運ばれていた。
 途中で何か出るかと思っていたが、何も無かった。
 夕飯は肉無しで参った。
 パンは堅く、サラダはヘンな匂いがした。
 スープも不味い上に薄かった。
 
 やることも無いんでシャワーを浴びて寝ようとしたら、シャワーがぶっ壊れていた。
 ついでに、トイレも流れない。
 どうすりゃいいんだ、これ?
 まあ、明日になったら誰かを呼ぼう。
 直してくれるかは分からないが。

 仕方なくベッドに入った。
 今は12月だが、幸い暖房は効いていた。
 俺はウトウトし始めた。

 


 その気配に気付いたのは、俺が「花岡」を曲がりなりにも習得していたお陰だろう。
 首の後ろがチリチリして、俺は目が覚めた。
 俺はそっと鉄格子を見た。
 何かが歩いて行った。
 人間じゃねぇ。
 恐ろしくでかい奴で、3メートルはあった。
 全身が黒くて、逞しい身体のあちこちが尖がっている。
 
 (なんだ、あいつは?)

 俺の房の前をゆっくりと歩いて行った。
 歩き方もおかしい。
 肩を上下にしながら移動していた。
 足音がしなかった。

 突然、鉄格子が開いた。
 
 「なんだ!」

 俺以外の房も全て全開になっている。
 室内の時計を見ると、午前0時。
 俺は鉄格子まで歩いたが、誰も出ては来ていない。
 俺は外へ出てみようと思ったが、止められた。

 「やめとけよ」
 「!」

 耳元で声が聞こえた。
 気配が一切しなかった。

 「出れば、さっきの奴にやられるぞ?」
 「あんたは?」
 「モハメドだ。覚えとけ」
 「石神さんが寄越してくれたんですか!」
 「そうだ。我が主様がお前を守ってやれとよ」
 「ありがてぇ!」

 自分で灯は点けられない。
 しかし、廊下の照明で室内は見える。
 俺は振り返った。
 
 「あれ?」
 
 誰もいなかった。

 「モハメドさん、どこです?」
 「お前の肩だ」
 「はい?」
 「洗面台に行け」
 「はぁ」

 俺は洗面台まで行った。
 小さな鏡がある。
 俺の肩で何かが手を振っていた。
 アリだった。

 「え!」
 「見えたか?」
 「は、はい」
 「じゃあ、ベッドまで戻れ」
 「あの」
 「なんだ!」
 「チェンジで」

 首を殴られた。
 激しいショックがある。

 「早く戻れ!」
 「はい!」

 見た目はアリだが、大層強いお方らしい。
 ベッドに座った。

 「あの、これからどうなるんで?」
 「知るか! 待ってりゃ分かる」
 「はぁ」

 暫くすると、アナウンスがあった。
 ナンバーが告げられているようだ。
 すると、房からみんなが出て来る気配があった。

 「よし、行け」
 「はい!」

 俺も外に出た。
 房の前の廊下で、みんなが下を見ている。
 俺も見下ろすと、下の広い場所で、さっきの怪物と三人の男が対峙していた。

 「なんですかね?」
 「やるんだろうよ」
 「へ?」

 見ると、三人が一斉に怪物に襲い掛かった。

 「?」

 定かでは無いが、男たちの容姿が変わったように見えた。
 体躯が大きくなり手足が太くなり、一人は腕が鎌のように変形したような……。

 しかし拳も蹴りも何のダメージも無いように見えた。
 怪物が踊った。
 一瞬で三人の男たちがバラバラになった。

 「……」

 囚人たちは三々五々に自分の房に戻った。
 誰もが沈痛な顔をしていた。
 怒りに任せて唾を吐く者もいる。
 俺も自分の房に入り、またベッドに座った。

 「あれはなんですかね?」
 「分からん。でも、呼ばれたら戦わなきゃならないようだな」
 「あれとですか!」
 「お前も見ただろう」
 「まあ」

 モハメドさんが肩から俺の腿の上に降りた。

 「それとよ」
 「はい!」
 「明日からここの飯は食うな」
 「エェー!」
 「水もなるべく飲むな」
 「死んじゃいますよ!」
 「我慢しろ。俺も少しは出してやる」
 「そうなんですか?」
 「ああ。早乙女の雪野さんや石神さんによく頂いてたからな」
 「はい?」
 「ちょっと出してやる。掌を上に向けろ」
 「はい!」

 俺が腿の傍で手を上に向けた。
 モハメドさんが跳び乗って来る。
 俺は様子を見ていた。
 小さな身体をプルプルと震わせている。

 モハメドさんの尻から、マグロの切り身などが出て来る。

 「……」

 「よし、喰え! 水も後で出してやる」
 「あの、モハメドさん」
 「なんだ!」
 「これ、今どっから出ました?」
 「なんだ?」
 「これ、喰えるんですか?」
 「喰えよ!」

 腹が減ってしょうがない。
 俺は目を閉じて喰った。
 まあ、マグロだった。
 その後で、尻から出してもらった水も飲んだ。
 
 「おい」
 「はい!」
 「ごちそうさま、は!」
 「は! ごちそうさまであります!」
 「よし」

 空腹が随分と楽になった。
 ありがたい。
 その後で、モハメドさんがここの食事や水に何かヤバいものが入っていると言っていた。

 「なるほど、それでさっきの囚人たちはおかしかったんですかね?」
 「多分な」
 「あの、千石仁生もじゃあ」
 「分からん。我が主が連れて来いと言ったんだ。それだけ考えてりゃいい」
 「そうですね!」

 房の鉄格子が閉じた。

 「じゃあ、今日は寝とけ」
 「はい!」
 「ところでよ」
 「はい、なんでしょうか!」
 「お前、ちょっと臭ぇな」
 「それはどうにも」

 シャワーも使えてない。
 トイレは尻を拭いただけだ。

 「ちょっと離れてるな」
 「はい、どうぞ」
 
 モハメドさんは、ベッドからデスクの上にジャンプした。

 「すげぇですね!」
 
 返事は無かった。
 俺は眠った。
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