富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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最高級ふぐコース

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 双子と散歩から戻ると、間もなく昼食だった。
 今日はソース焼きそば(やっぱり肉多目)だ。
 俺は買い食いと早乙女の所で汁粉を貰ったので、少しだけ食べる。
 双子は当然悪魔のように食べた。

 午後はみんなで映画を観た。
 ロイ・ウォード・ベイカー監督の『暁の出航』だ。
 簡単な試験航海のはずが、予期せぬ事故のために深海に沈んでしまった潜水艦。
 少しずつ救助されているが、最後の四人分の潜水服が無い。
 艦長は自分以外の残り7人にカードを引かせ、四人だけが艦内に残る。
 スナイプという若い男が愛する妻の元へ戻りたくて暴れる。
 サルヴェージも失敗し、一人の士官が死亡し、残る三人は最後の時を笑い合って待つ。
 崇高な作品だ。

 「どうしようもない運命がある。潜水艦を描いた映画は数多くあるが、潜水艦乗りは運命を共にする絆がある」
 「僕たちと同じですね!」

 皇紀が言った。

 「そうだな。死ぬと分かっていても、仲間と一緒にいる。人間はそれでいい。俺たちはそれでいいよな!」
 「「「「「はい!」」」」」
 「必要なものが無い。だったら、笑い合って死のう。食糧が少ない。だったら分け合って食べよう!」
 「「「「「アハハハハハハ!」」」」」

 奪い合う連中が大笑いした。

 「あの最後に残った四人はいいな。艦長はもちろん立派だが、あのスナイプが特にいいな」
 「最初はワガママでしたけどね」
 「そうだ。でもな、そういう奴が人間の誇りを最後に得たんだ。いつも言っているけどな、人間はダメで卑小なんだよ。だけど、人間はどこまでも崇高になれる」
 
 柳が言った。

 「でも、最初から油断せずに万一の場合の準備をしていればとも思いました」
 「そうだ。それは大事なことだ。油断すれば大きな事故を生み出しかねない」
 
 子どもたちは次々にいい映画だったと言った。

 「まあ、そう思うのなら、今晩は食事を分け合って喰え!」

 爆笑された。
 その気はねぇらしい。





 夕方になり、俺は夕飯はいらないと言った。

 「え、出掛けるんですか?」

 亜紀ちゃんが聞いて来る。

 「ああ、さっき早乙女達に世話になっちまったんでな。俺が今晩は御馳走するつもりだ」
 「じゃあ、私たちも行きますよ!」
 「ばか! お前らが行ったら、反対に迷惑だろう!」
 「えー、でもー!」
 「俺一人で行く! お前らは好きに食べろ」
 「えーん」

 俺は早乙女に電話し、お汁粉の礼に、俺が夕飯を作りに行くと伝えた。
 早乙女は遠慮しながらも喜んだ。
 米だけ炊いてもらう。

 亜紀ちゃんがトイレに立った瞬間に、俺は食材を用意した。
 意外に早く戻って来た。

 「あ! タカさん、それは!」
 「な、なんだよ」
 「陽子さんからいただいた「最高級ふぐセット」じゃないですかぁ!」
 「そうだよ! だからなんだ!」
 「私、それ楽しみにしてたのにー!」
 「お前らじゃ全然足りないだろう! 6人前だぞ!」
 「そんなー!」
 
 本場山口の、最高級のふぐコースのセットだ。
 数十万円はする。

 「また新宿の店で喰わせてやる!」
 「えーん」

 泣き出した亜紀ちゃんを放置して、ロボを連れて早乙女の家に向かった。





 キッチンを借りて、俺が大皿にふぐ刺しを盛って行く。
 雪野さんが手伝いに来た。

 「え! フグなんですか!」
 「そうですよ。山口から最高級のを送ってもらったんで」
 「でも、石神さんのお宅で食べれば」
 「雪野さん、この量なんですよ! 6人前! 恐ろしい戦争になりますって」
 「ああ!」
 「流石の俺も一人で食べるわけにもいかないし。前からここでって考えてたんです」
 「それは有難いですけど」

 俺は笑って雪野さんに大根おろしともみじおろしを作ってもらう。
 俺は唐揚げを揚げ、てっちりを準備する。
 雪野さんにはご飯の一部を酢飯にしてもらい、フグの毬寿司を作った。

 料理をテーブルに運び、カセットコンロでてっちりを温め、七輪にも火を点けた。

 「石神、豪華だね!」
 「そうだろう。さあ、食べようぜ!」

 三人で食べ始めた。
 流石に美味い。
 最初はみんなでふぐ刺しを食べる。
 酢醤油に大根おろしやもみじおろしを好きに溶いて口に入れる。
 ロボも唸りながら食べた。

 警報が鳴った。

 「石神!」
 「心配するな」

 俺はベランダから武神ピーポンに撃退を命じた。

 「ピーポンを使うのか!」
 「ちょっと手強い連中だからな」
 「石神は敵を知っているのか?」
 「ああ、うちの子どもたちだろう」
 「「!」」

 ラン、スー、ミキたちだろう、アサルトライフルの軽快な発射音が聞こえる。
 豪快な風切り音が聞こえた。
 武神ピーポンが「斬魔刀」を抜いたらしい。
 5メートルもある巨大な剣が振るわれる。

 「武神まで動いてる!」
 「亜紀ちゃん、まずいよ!」
 「後には退けない! みんな! やるよ!」

 「「「「「ギャァァァァァァァ!!!!!」」」」」

 大声で騒いでいたのが一挙に静かになった。

 「おう、撃退したな」
 「「……」」
 「にゃ……」

 食事を続けた。





 てっさは飽きて来たので、俺が七輪に身をどんどん乗せて焼いた。
 焼き上がったものを、二人に小皿で渡していく。

 「これも美味いな!」
 「そうだろう? 下味はつけているから、好みでカボスを掛けて食べろよ」
 「あ! 美味しい!」

 てっちりも仕上がって行く。
 雪野さんが怜花に汁を少し飲ませた。
 怜花が笑う。

 「美味しい?」
 「あぶー」

 もっと欲しがるので、雪野さんが笑顔でまた飲ませて行く。
 早乙女が幸せそうに見ていた。

 俺もどんどん食べる。
 六人前あるので、俺が好きなように食べても大丈夫だ。
 俺もロボに下味抜きの焼き物をやり、唐揚げも少しやった。
 ロボがまた唸りながら食べて行く。

 「石神、こんな美味しいものをありがとう」
 「いいよ。俺が一杯食べたかったんだしな」
 「あの、お子さんたちはいいんですか?」
 「あいつらにはまた今度連れて行きますよ。これほどじゃないけど、いいフグ屋があるんです」
 「そうなんですか」
 「亜紀ちゃんとは時々行くんですけどね。10人前を二周するんですよ」
 「まあ!」
 
 俺は新宿の店の名前と場所を教えた。

 「今度行ってみます」
 「ええ、俺の紹介だって言えば、サービスしてもらえますよ」
 「はい!」

 雪野さんも遠慮なく食べてくれた。
 量があるためだ。
 寿司を摘まんで、口の中をリセットする。

 「あ! お酒をお出ししますね!」
 「ありがとうございます。冷酒でいいですから」
 「はい!」

 雪野さんが俺と早乙女に冷酒を出してくれた。
 デキャンタから注いでくれる。

 「前に石神さんのお宅で見て。うちもお洒落なものを用意したかったんです」
 「そうですか」

 瓶から注ぐと、どうしても品が少々欠ける。
 だから俺も来客の際にはバカラのデキャンタを使う。
 てっさも唐揚げも、一段と美味く感じた。
 ロボにも盃を貰い、一緒に飲んだ。
 注いだ雪野さんの手をペロペロ舐めて感謝した。


 「ヒレもありますね。ヒレ酒を作りましょうか?」
 「俺はあまり好きじゃないんで。早乙女は飲むか?」
 「うん!」

 雪野さんが作れば何でも最高に美味く感じる男だ。
 雪野さんが笑ってキッチンで焙って来た。
 早乙女のグラスに入れてやる。
 早乙女が満面の笑みで酒を飲んだ。

 てっちりも少なくなり、俺が雑炊を作った。
 溶き卵を最後に入れて、また三人で食べる。

 「あー! 沢山食べたよ」
 「そうか」
 「ありがとう、石神!」
 「いいよ。俺も楽しかった」

 俺は満足して、食後のコーヒーとデザートのバニラアイスを食べた。


 


 家に帰ると、庭で子どもたちが倒れていた。
 タイガーストライプの戦闘服がビリビリに破けている。
 俺が担いで中へ入れてやり、カレーを作ってやった。
 臭いで子どもたちの目が覚める。

 「ほら、喰えよ」
 「美味しーよー」

 「ああ、俺も美味かったよ」





 子どもたちが泣きながら食べた。 
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