富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
1,464 / 3,202

御堂、衆院選 渋谷HELL

しおりを挟む
 翌朝の金曜日。
 俺は御堂を連れてアメリカ大使館まで行った。
 シボレー・コルベットだ。
 大使館車だから当然だ。

 「石神、本当にこれはアメリカ大使館の車なのか?」
 「そうだよー!」
 「それにしては、どうにも」
 「なんだよー!」
 
 俺は笑いながらドライヴィング・テクを駆使してぶっ飛ばした。
 
 「おお、10分で着いたな!」
 
 やれば出来るもんだ。

「飛ばし過ぎだぁ!」

 御堂が怒っている。
 俺の車を見て、大使館前の警官が脇に避け、大使館のゲートが開いた。
 俺の身分証で全部大丈夫だ。

 今日はアメリカ大統領、御堂、そして俺との三人の会談の予定だった。
 今後のアメリカとの連携について、取り決めをする。
 もう御堂の総理大臣就任は決定している。

 窓の無い特別室へ案内され、俺たちは挨拶の後で話し合った。
 大統領は補佐官を二人連れ、通訳と記録を担っている。
 



 「まずは日本国内の米軍基地についてですが」
 「それについては、「虎」の軍に明け渡すことは出来る。但しその場合、「業」との戦闘の他に、他国との戦争についてもお互いに連携する形にしたい」
 「具体的には?」
 「虎の軍が対外戦争にも対応してもらえるのならばそれでいいが、そうでない場合は米軍の配置も一部認めて欲しい」
 「極東地域の安全保障か」
 「そうだ。ハワイからではあまりにも遠い。フィリピンやグアムもあるが、日本が地理的に最も望ましいのだ」
 「分かった。では基地の分担を考えて行こう」
 「感謝する。だが、米軍は「虎」の軍に従うことは、先だっての約定の通りだ。我々は独自に動くこともあるが、「虎」の軍から指示があった場合は必ずそれに従う」

 俺がアメリカとの間で交わした密約だ。
 実質的に、俺はアメリカに君臨することが出来る。
 ただ、その必要が無いので、アメリカの自治権が現在まで基本的に通用しているのだ。
 国の支配者など真っ平だ。

 「「虎」の軍への志願者はその後どうなっていますか?」

 御堂が質問した。

 「全国から募集している。現在も3万人ほどが面談を受けてアラスカや君たちの拠点へ向かった所だ」
 「そうだな。俺も報告は聞いている」
 「EUや同盟国にも同様の募集を掛けている。1万人くらいは受け入れられたと聞いているが」
 「ああ。助かっているよ。俺たちは数で圧倒されている」
 「しかし逆に聞きたい。スパイなどの流入については、どう考えているのだ?」
 「それは機密になっている。俺たちには対策はあるよ、大統領」

 「タイガーから依頼のあったロシアからの亡命者だが、非常に少ない。どうやら出国の規制が掛かっているようだ」
 「じゃあ、いよいよ「業」がロシアの支配に乗り出したということか」
 「今の時点ではどの程度かは分からない。ただ、政府の中枢への影響力があることは確かだと思う」
 「現地でエージェントは?」
 「もちろんいる」
 「その人間に、優秀な亡命希望者を集めさせることは出来るか?」
 「タイガーの依頼ならば、そうしよう。だが、出国は今話した通り難しいぞ」
 「俺たちが救援に向かう」
 「なんだって!」
 
 俺はニヤリと笑った。

 「出来ればシベリアなどの、アラスカに近い場所がいい。やり方は任せるが、観光ツアーの態などで集まってくれれば、俺たちが輸送する」
 「でも、まかり間違えば戦争になるぞ?」
 「構わないさ。ロシアの軍事力ではアラスカは落とせない」
 「「業」は?」
 「あいつが潰せると思っているのなら、とっくに来ているさ」
 「それはそうだが」
 「「業」はもっと陰湿な手段で来る。俺たちが泣き叫ぶような方法でな」
 「そうか」

 俺たちは様々なことを話し合った。
 今日は密約を結ぶと言うよりも、その前段階となる両者の意思統一へ向けての会談だった。
 アメリカは俺の傘下になったが、かと言って軍事力はもちろん、人的な引き抜きもそれなりに考えなければならない。
 逆に俺たちがアメリカへ協力する内容も具体的に詰めて行く必要がある。
 重要なのは、今度の「業」との戦争で、今の各国の軍事力では賄えないということだ。
 だから「虎」の軍へ協力を惜しむことは出来ないと同時に、俺たちも要請があれば出撃していく必要がある。

 昼食を挟んで、午後も俺たちは話し合った。

 2時を回った所で、俺のスマホに緊急連絡が入った。
 皇紀からだった。
 
 「どうした?」
 「タカさん! 渋谷で妖魔化した人間が多数暴れています!」
 「分かった! すぐに向かう!」

 直後に部屋に大使館の人間が入って来た。
 大統領が俺たちにも情報を共有するように指示する。

 「シブヤの駅周辺で多数のモンスターが出現しているようです。今もモンスターの数は増えており、被害が拡大しています」
 
 俺の掴んだ第一報と同じだ。
 
 「米軍はまだ動かないでくれ。必要なら「マリーン」を俺が出動させる」
 「分かった」
 
 俺は御堂を連れて家に戻った。
 
 「ロボ! 皇紀からの情報を言え!」
 
 コルベットに搭載したAIに指示した。

 《午後1時58分。渋谷駅周辺に多数の妖魔化した人間が出現。現場周辺で既に多数の死傷者が出ています。現在、警察官が出動していますが、対応は取れていない模様》

 「早乙女に連絡しろ」

 1分後、早乙女と通話が繋がる。

 「石神! 今、「アドヴェロス」の全員が現場に向かっている!」
 「妖魔化した連中の数は分かるか?」
 「具体的には。ただ、現時点で30体はいる模様だ。それもまだ増えている!」
 「どういうことだ!」
 「分からない。さっき街頭の監視カメラの映像を解析したんだが、突然歩いている人間が妖魔化した様子なんだ! 計画的な襲撃ではない!」
 「分かった。俺もすぐに向かう!」
 「頼む!」

 7分後に、俺は家に着いた。
 子どもたちは揃っている。

 「ルー!」
 
 俺は状況解析をしているはずのルーに問い質した。 

 「はい! 全員出撃準備は出来ています! 妖魔化した人間は恐らく50体以上! 現場周辺の監視カメラをハッキングしています!」
 「早乙女は「増えている」と言っていた。どういうことか分かるか?」
 「はい! 周辺を歩いていた人間が妖魔に憑依されているようです! 50体以上の妖魔化の他に、身体を変形させて死んでいる人間も多数いる模様!」
 「分かった! 亜紀ちゃんとルー、ハーは出撃。「飛ぶ」ぞ! 柳と皇紀はここで御堂たちを守れ! 青嵐と紫嵐も御堂の護衛だ」
 「「「「「はい!」」」」」 
 「「はい!」」

 「皇紀! 一江に連絡! 六花と鷹に病院の警護を指示しろ!」
 「はい!」
 「蓮花研究所や他の拠点にも連絡! アラスカもな! それとマリーンの都内の部隊に出撃命令! カサンドラの使用を許可! 左門から連絡があったら、救難活動を頼め!」
 「分かりました!」

 俺は指示を出しながら「Ωスーツ」と変装用の仮面を装着する。

 「行くぞ!」
 「「「はい!」」」




 最悪の攻撃だった。
 恐らくは、妖魔の「無差別憑依」。
 どういう手段かは分からないが、市民に妖魔を憑依させる技術が出来たのだろう。
 但し、100%ではない。
 それは失敗したと思われる、怪物化した死者が示している。
 
 しかしそこは問題ではない。
 俺たちは突然に怪物と化してしまう、もしくは怪物となって死ぬかもしれないのだ。
 それが、いつ、どこでそうなるのか分からない。
 
 地獄の蓋が開いた。
 悪鬼たちが地獄から這い出して来る。
 
 


 俺たちは平和な日常を喪った。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

笑わない妻を娶りました

mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。 同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。 彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

処理中です...