富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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アザゼルのこと

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 選挙も間近になり、テレビ各社が毎日選挙予想と御堂について特番を組んでいた。
 大渕教授との対談は、2時間枠でゴールデンタイムに流れ、視聴率も50%を超えていた。
 俺たちはもっと話していたが、いい編集だったと思う。
 そう思っていたら、深夜枠で4時間の拡大再放送が放映され、そちらも異例の40%超えだった。
 オンデマンドの視聴率も高いらしい。
 局から、DVDの発売を申し入れられ、御堂と俺は承諾した。

 アメリカでも2時間の番組で放映され、その他の国でも高い評価で紹介された。
 ヤマトテレビは映像の提供を受けられなかった。
 ざまぁ。

 御堂と正巳さんは、それぞれの選挙区でゆったりとしていた。
 マスコミの取材申し込みは激しかったが、ほとんど受けなかった。
 ただ選挙事務所では、ひっきりなしに後援者が訪れ、むしろその対応で忙しかった。
 
 俺は千代田区の三番町に御堂の家を用意していた。
 300坪の土地に200坪の建物。
 地上3階地下1階の鉄筋SRCのものだ。
 もちろん、防衛システムがあり、デュール・ゲリエが50体置かれる。
 首相官邸よりも安全だ。
 居住スペースは十分にあるが、閣僚や事務次官たちとも打ち合わせも出来るように、会議室や応接室も多い。
 客間も多く備わっている。

 御堂から散々普通の家にしろと言われたので、俺も今回は遊んでいない。
 それでも贅沢過ぎる家だと言われたが。

 二階と三階は中心に直径40メートルの円形の構造が伸び、両脇は六角形の構造が上に伸びている。
 一階部分は四角い構造だ。
 上から見るとオチンチンみたいなのは、御堂には黙っている。

 各階は天井高が5メートルある。
 三階の屋上に飛び出した円形部分は、全方向ガラス張りになっている。
 先週、短い時間で御堂と正巳さんが見たが、贅沢だということ以外は文句も言われなかった。
 オチンチンだが。

 


 俺ももう、ほとんど衆院選でやることは無かった。
 多少、「渋谷HELL」について「虎」の軍のコメントをマスコミに与えたくらいだ。
 予想外の御堂の登場に驚き、自分を犠牲にして敵を探そうとしたことに対する感謝とその英雄的行為を褒め称えた。
 これから国政を担うはずの人間が、自己犠牲を厭わない勇気を褒め、目の前で苦しむ人間への深い情愛に感服した、ということだ。
 本当にそう思っていた。

 あそこで御堂は死んだかもしれない。
 俺との約束や友情を乗り越えて、御堂は俺たちや市民を救おうとした。
 怒ることも出来なかった。
 
 そういう男だから、俺は御堂を敬愛し、永遠の友情を誓っている。



 俺は通常の仕事をしながら、衆院選を待った。
 マスコミの街頭アンケートでは、自由党が圧倒的多数になりそうだった。
 野党がほとんど当選出来ないのではないかとの予想もあった。
 これまでに無い投票率も予想されていた。



 金曜日の夜。
 亜紀ちゃんと柳とで酒を飲んだ。
 当然、日曜日の選挙の話が出たが、御堂と正巳さんの当選は決まっているので、大した話にはならなかった。
 亜紀ちゃんが俺に聞いて来た。

 「タカさん、渋谷の事件の時に、御堂さんを守った妖魔がいるじゃないですか」
 「ああ」
 「アザゼルって、初めて見たんですけど」
 「あれは、御堂の護衛のためにクロピョンに頼んだんだよ」
 「へぇー!」
 
 妖魔については子どもたちにもあまり話していない。
 妖魔を充てにすると、俺たちの慢心になることを考えてのことだ。

 「クロピョンとの意思疎通は難しいからな。間にタマを挟んでのことだ」

 「呼んだか?」 

 「「「……」」」

 タマがテーブルの脇に現われた。
 ロボが喜んでタマの傍に来る。
 
 「呼んでねぇけど、まあ座れよ」
 「分かった」

 亜紀ちゃんにタマのグラスも用意させた。
 ワイルドターキーだ。

 「今、アザゼルの話をしようとしてたんだ」
 「そうか」

 柳が目の前に妖魔がいるのでオドオドしている。
 亜紀ちゃんもチラチラと見ている。
 タマは壮絶に美しい。

 「護衛の能力が高い奴と俺が言ったんだよな?」
 「そうだな」
 
 タマは美しい所作でグラスの酒を口に入れた。
 満足そうに微笑む。
 イケる口のようだ。

 「それでタマがクロピョンと遣り取りして、アザゼルを呼んでくれた」
 「そうだな」

 「お前よ」
 「なんだ」
 「もうちょっと話せよ! 俺が全部説明してるだろう!」
 「そうか」
 「このやろう!」

 亜紀ちゃんと柳が笑った。

 「まあいい。それでアザゼルの能力を聞いたわけだが、感知能力がべらぼうに高いことと、攻撃を反射する能力を持っている」
 「反射ですか!」
 「そうだ。だからあの時も憑依を撥ね退けることが出来た。もちろん攻撃力も高い。どのような力かは分からないが、敵を分解出来るようだな。な、タマ!」
 「そうだ」

 「……」

 タマが飲み干したので、新しく注いでやる。
 タマが嬉しそうな顔をした。
 つまみも喰えと言うと、ナスの揚げびたしをつまんで食べた。
 その所作も優雅だった。

 「おい、見えなくなることも話せよ」
 「アザゼルは見えなくなる」
 「おい!」

 やはり妖魔との付き合いは難しい。

 「肉眼でも、カメラにも映らなくなる。道間家の人間や双子には分かるのかもしれないけどな。また今開発している霊子レーダーならばな。でも、御堂の傍で護衛していても誰にも気付かれない。だから護衛には最適なんだ」
 「じゃあ、これからは常に御堂さんの傍にいるんですか? モハメドさんみたいに?」
 「そうなんだが、実際にはアザゼルの糸のようなもので繋がるそうだ。御堂に危険が及んだ場合には即座に傍に付く。まあ、実際には付きっ切りと同じことなんだがな」
 「なるほどー」
 
 タマがカラスミを食べた。
 美味かったようで、続けてもう一つ取る。
 亜紀ちゃんが自分の焼きハムを手で隠す。

 「タマはアザゼルをどう思う?」
 「護衛には最適だろう。あれを突破できるモノはほとんどいないはずだ。「王」たちならば別だがな」
 「お前、ちゃんと話せるじゃねぇか!」
 「そうか」

 タマは微笑みながら、またカラスミを口にした。

 「アザゼルさんは、お父さんをどう思ってるんですかね?」

 柳が聞いた。

 「主の大切な人間だから守ろうと思っている」
 「気に入る人間とか、そういうのはあるんですか?」
 「それはある。アザゼルはあの男を気に入っているようだ」
 「そうなんですか!」
 「ああ。波動が良い。あれも「光の人」だな」
 「「光の人」?」
 「そうだ。我々にとって好ましく感じる人間だ。お前たちには分からないだろうが、我々には光を持っているのが見える」

 タマが珍しく深いことを話した。

 「じゃあ、石神さんも?」
 「主は別格だ。炎の柱の中にいる方だ。下位のモノでは近づくことすら出来ない。憧れてもな。我々が到達する神獣の王だ。だから最上位の「王」たちも主を慕い、従いたくなるのだ」
 「でも、クロピョンには「試練」を与えられたんですよね?」
 「あれは主が望んだからだ。我々はお前たちとは違う。「理」によって動く」
 「何だかよく分かりませんが、石神さんが別格だということは分かりました」
 
 タマが柳を見ていた。

 「お前は面白いな。こちらの娘も大概だが、お前も面白い。二人とも主と運命的に繋がっているな」
 「「そうなんですか!」」

 柳と亜紀ちゃんが喜んだ。
 亜紀ちゃんがタマのグラスに酒を注ぐ。

 「これもどうぞ!」
 「それは美味そうではないな」

 亜紀ちゃんが差し出した焼きハムを断られた。
 亜紀ちゃんの最大の好意なのだが。

 「えーん」

 「「アザゼル」という名前は、石神さんが付けたんですか?」

 柳が俺に聞いた。

 「そうだけどな」
 「何かあるんですか?」
 「自然に俺の中に浮かんで来たんだ。それに、あいつは幾つもの蛇の頭を持っているんだよ」
 「へぇー」

 柳に知識が無いことはわかっている。

 「神話上のアザゼルは、七つの蛇の頭を持ち、六対の翼を持っているんだ」
 「え! じゃあ!」
 「タカさん! 黒い翼が六枚ありましたよね!」
 「本物のアザゼルかどうかは知らんよ。俺にはどうでもいいことだ」
 「でも!」
 「何しろ、蛇の頭を持つことが気に入った。オロチに通じるからな」
 「ああ、なるほど」
 「御堂を守る者としてはいいじゃないか」
 「そうですね!」

 「こないだは人間の顔だったけどな。まあ、その辺は俺にもよく分からない」
 「うーん」

 柳は単純に喜び、亜紀ちゃんは少し考えていた。

 「今晩はそろそろ終わろう。タマ、お前酒は好きなのか?」
 「そうだな。今日はいいものを頂いた。感謝する」
 「じゃあ、これから時々呼ぶから一緒に飲もう」
 「是非頼む」

 タマは立ち上がり、いつもは素っ気なく消えるのに、深々と頭を下げてから消えた。
 まあ、楽しんでくれたようで嬉しい。

 俺はロボを連れて自分の部屋へ行った。




 「もうすぐ御堂が東京に来るなー」
 「にゃー」

 洗い物を終えた亜紀ちゃんと柳が楽しそうに話しながら上がって来るのが聞こえた。
 俺も笑いながらロボと寝た。
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