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月日は流れた
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5月1日。
今日は蓮花研究所へ行く。
みんな蓮花の食事を楽しみにしているので、昼食に間に合うよう、朝の7時に出発した。
ハマーだ。
運転は柳。
俺が助手席に座る。
後ろでは朝食大会だ。
おにぎりとサンドイッチを子どもたちが奪い合っている。
「おい! 俺のを寄越せ!」
「「「「はい!」」」」
ハーが恭しく俺にマグロの大トロの握りを渡してきた。
以前に俺の分まで食べてしまい、俺の機嫌を損ねたことをちゃんと覚えている。
「うむ!」
俺は握りの入った弁当箱を開いた。
10貫入っている。
はずだった。
「おい、8貫しかねぇぞ?」
「最初からそうだったのでは?」
俺は背中を向けているハーの髪を掴んで振り向かせた。
握りを食べていた。
「てめぇ!」
「だって! 美味しそうで我慢できなくって!」
俺は笑って握りを渡し、みんなで喰えと言った。
速攻でハーが潰され、みんなで2貫ずつ食べた。
俺は普通のおにぎりを貰った。
柳の分も確保する。
「石神さん、良かったんですか?」
「まあな。朝から大トロはちょっとなぁ。それに、今回は世話になるからな」
「それはいいんですけど」
いつもはブランたちの訓練や、防衛設備の調整のために行くが、今回はそれに加えて俺自身のこともあった。
俺の血液について、蓮花と双子が協力して調べてくれたことを最近知った。
蓮花がしきりに俺に謝りながら、俺に話せずにいたことを告白して来た。
俺は驚いたが、もちろん全ては俺のことを思ってやったのは分かった。
許すも何も、俺は感謝しか無かった。
俺が迂闊に輸血したために、レイラが身を滅ぼしてしまった。
そのことを今も悔いている。
だから蓮花と双子が俺の苦しみを思い、何とかしようとしてくれた。
危険なことも多かったようだが、俺に黙って必死にやってくれた。
高速に乗る前に、俺は柳と運転を交代した。
柳に朝食を食べさせるためだ。
途中のサービスエリアで一度休憩し、子どもたちはまた軽食を食べたり、ソフトクリームを食べたりした。
俺はコーヒーだけ飲んだ。
「タカさん、ソフトクリームを食べませんか?」
「いいよ。蓮花の食事が楽しみだしな」
「え?」
大食いには分からない内容だったようだ。
俺は笑って先に車に戻り、ロボと遊んだ。
車の外で、「ロボタッチ」だ。
タッチされたら、攻守交替で相手をタッチするまで追い掛ける。
俺たちはハマーの周囲で遊んだ。
屋根に乗り、飛び降りて逃げて追い掛ける。
俺たちの激しい遊びに、いつの間にか人垣が出来ていた。
「すげぇ! ルーフにジャンプしてるぜ!」
「ネコ、カワイイ!」
ハマーの車高は約2メートルだ。
そこに簡単に飛び乗るのは、普通は出来ない。
俺は笑ってロボを抱いて子どもたちを探しに行った。
犬を散歩させている人がいた。
ドイツシェパードだった。
俺とロボが近付くと、俺たちを凝視して犬が固まった。
ブルブル震えている。
仰向けになった。
「何! どうしたの?」
飼い主らしい女性が慌てている。
俺は慌てて通り過ぎた。
「ロボはこんなにカワイイのにな!」
「にゃ!」
亜紀ちゃんを見つけた。
ナンパされているらしい。
3人の若い男に囲まれていた。
脅えている少女を演じている。
「やめてください」
「いいじゃん。これからどこ行くの?」
「やめてください」
「カワイイねー」
亜紀ちゃんの肩に手を乗せた。
「ワハハハハ! 悪!」
「え?」
男たちがぶっ飛んだ。
「……」
亜紀ちゃんが俺を見つけて駆け寄って来る。
「タカさーん! 怖かったですぅー!」
頭を引っぱたいて、みんなを連れて来いと言った。
予定通り、昼前に蓮花の研究所に着いた。
皇紀が電話し、蓮花が門の前で待っていた。
ミユキと前鬼、後鬼もいた。
全員が俺を見て頭を下げて出迎える。
「蓮花! また世話になるな」
「お待ちしておりました。どうぞ中へ」
他のブランたちも、玄関で待っていてくれた。
最後の5人のブラン、熾天、智天、座天、力天、権天と名付けた者たちもいる。
奇跡によって甦ったためか、この5人には不思議な力があった。
特殊な感能力だ。
まだ不明な部分が多いが、普通の人間には感知できない何かを知るようだった。
だから俺が天使の名を付けたのだ。
俺たちは歓迎され、すぐに荷物を降ろして運ばれた。
俺たちはティーグフに乗り、食堂へ案内される。
昼食は和食の膳だった。
もちろん、量は多い。
鯛の焼き物一尾。
俺は皿、子どもたちは舟盛の刺身。
各種天ぷら。
ナスのはさみ揚げ(俺の好物)。
鹿肉のステーキ。
鮎の塩焼き(俺の好物)。
その他各種器。
ご飯はキノコの炊き込みだった。
ロボは刺身と鹿肉のレアをもらった。
「蓮花、夜には御堂も来るからな」
「はい! 心得て居ります!」
「青嵐と紫嵐も一緒だ」
「はい! 楽しみです!」
御堂にも、一度この研究所を見せておきたかった。
俺たちの技術の根幹だ。
これまでは、御堂の身の危険を考えて見せることも話すことも出来なかった。
しかし、今では御堂にはアザゼルが付いている。
だから、俺たちの全てを知ってもらうために、ここへ呼んだ。
正巳さんには見せられないので、御堂一人だ。
子どもたちは大喜びで蓮花の心づくしの料理を堪能している。
双子は特に味わいながら食べていた。
自分たちでも再現したいのだろう。
食べながら、蓮花にどう作っているのかを聞いている。
最初は俺の作る物をただ喜んで食べていただけのこいつらが、いつの間にか俺に何かを作ってくれるようになった。
それも、俺に美味いと言ってもらえるものを求めるようになった。
俺に遠慮し、そして甘えていたこいつらが、俺から寿司を奪い、俺に何かを与えるようになった。
月日が流れたのだ。
子どもたちは成長し、俺はこいつらに圧倒されるようにもなった。
俺が知らない所で努力し、血を流し、命を懸けるようになった。
俺はと言えば、相も変わらず精一杯でやるしかない。
全然こいつらのために何もしてやれていない自分を恥じながら、それでも精一杯でやっていくしかない。
それしか出来ない。
「お前ら! もっと喰え!」
「「「「「はい!」」」」」
笑いながら、子どもたちが食べる。
蓮花が、もうご飯が無くなったと言った。
「すぐに炊きますので!」
「ハー! イノシシを狩って来い!」
「はい!」
「冗談だ!」
「アハハハハハ!」
もう満腹だ。
でも、こいつらにもっと食べさせたいという気持ちだけある。
もっと楽しく喰ってくれ。
俺はそれを思うしか出来ない。
月日は流れた。
前も、今も、俺はこれだけだ。
今日は蓮花研究所へ行く。
みんな蓮花の食事を楽しみにしているので、昼食に間に合うよう、朝の7時に出発した。
ハマーだ。
運転は柳。
俺が助手席に座る。
後ろでは朝食大会だ。
おにぎりとサンドイッチを子どもたちが奪い合っている。
「おい! 俺のを寄越せ!」
「「「「はい!」」」」
ハーが恭しく俺にマグロの大トロの握りを渡してきた。
以前に俺の分まで食べてしまい、俺の機嫌を損ねたことをちゃんと覚えている。
「うむ!」
俺は握りの入った弁当箱を開いた。
10貫入っている。
はずだった。
「おい、8貫しかねぇぞ?」
「最初からそうだったのでは?」
俺は背中を向けているハーの髪を掴んで振り向かせた。
握りを食べていた。
「てめぇ!」
「だって! 美味しそうで我慢できなくって!」
俺は笑って握りを渡し、みんなで喰えと言った。
速攻でハーが潰され、みんなで2貫ずつ食べた。
俺は普通のおにぎりを貰った。
柳の分も確保する。
「石神さん、良かったんですか?」
「まあな。朝から大トロはちょっとなぁ。それに、今回は世話になるからな」
「それはいいんですけど」
いつもはブランたちの訓練や、防衛設備の調整のために行くが、今回はそれに加えて俺自身のこともあった。
俺の血液について、蓮花と双子が協力して調べてくれたことを最近知った。
蓮花がしきりに俺に謝りながら、俺に話せずにいたことを告白して来た。
俺は驚いたが、もちろん全ては俺のことを思ってやったのは分かった。
許すも何も、俺は感謝しか無かった。
俺が迂闊に輸血したために、レイラが身を滅ぼしてしまった。
そのことを今も悔いている。
だから蓮花と双子が俺の苦しみを思い、何とかしようとしてくれた。
危険なことも多かったようだが、俺に黙って必死にやってくれた。
高速に乗る前に、俺は柳と運転を交代した。
柳に朝食を食べさせるためだ。
途中のサービスエリアで一度休憩し、子どもたちはまた軽食を食べたり、ソフトクリームを食べたりした。
俺はコーヒーだけ飲んだ。
「タカさん、ソフトクリームを食べませんか?」
「いいよ。蓮花の食事が楽しみだしな」
「え?」
大食いには分からない内容だったようだ。
俺は笑って先に車に戻り、ロボと遊んだ。
車の外で、「ロボタッチ」だ。
タッチされたら、攻守交替で相手をタッチするまで追い掛ける。
俺たちはハマーの周囲で遊んだ。
屋根に乗り、飛び降りて逃げて追い掛ける。
俺たちの激しい遊びに、いつの間にか人垣が出来ていた。
「すげぇ! ルーフにジャンプしてるぜ!」
「ネコ、カワイイ!」
ハマーの車高は約2メートルだ。
そこに簡単に飛び乗るのは、普通は出来ない。
俺は笑ってロボを抱いて子どもたちを探しに行った。
犬を散歩させている人がいた。
ドイツシェパードだった。
俺とロボが近付くと、俺たちを凝視して犬が固まった。
ブルブル震えている。
仰向けになった。
「何! どうしたの?」
飼い主らしい女性が慌てている。
俺は慌てて通り過ぎた。
「ロボはこんなにカワイイのにな!」
「にゃ!」
亜紀ちゃんを見つけた。
ナンパされているらしい。
3人の若い男に囲まれていた。
脅えている少女を演じている。
「やめてください」
「いいじゃん。これからどこ行くの?」
「やめてください」
「カワイイねー」
亜紀ちゃんの肩に手を乗せた。
「ワハハハハ! 悪!」
「え?」
男たちがぶっ飛んだ。
「……」
亜紀ちゃんが俺を見つけて駆け寄って来る。
「タカさーん! 怖かったですぅー!」
頭を引っぱたいて、みんなを連れて来いと言った。
予定通り、昼前に蓮花の研究所に着いた。
皇紀が電話し、蓮花が門の前で待っていた。
ミユキと前鬼、後鬼もいた。
全員が俺を見て頭を下げて出迎える。
「蓮花! また世話になるな」
「お待ちしておりました。どうぞ中へ」
他のブランたちも、玄関で待っていてくれた。
最後の5人のブラン、熾天、智天、座天、力天、権天と名付けた者たちもいる。
奇跡によって甦ったためか、この5人には不思議な力があった。
特殊な感能力だ。
まだ不明な部分が多いが、普通の人間には感知できない何かを知るようだった。
だから俺が天使の名を付けたのだ。
俺たちは歓迎され、すぐに荷物を降ろして運ばれた。
俺たちはティーグフに乗り、食堂へ案内される。
昼食は和食の膳だった。
もちろん、量は多い。
鯛の焼き物一尾。
俺は皿、子どもたちは舟盛の刺身。
各種天ぷら。
ナスのはさみ揚げ(俺の好物)。
鹿肉のステーキ。
鮎の塩焼き(俺の好物)。
その他各種器。
ご飯はキノコの炊き込みだった。
ロボは刺身と鹿肉のレアをもらった。
「蓮花、夜には御堂も来るからな」
「はい! 心得て居ります!」
「青嵐と紫嵐も一緒だ」
「はい! 楽しみです!」
御堂にも、一度この研究所を見せておきたかった。
俺たちの技術の根幹だ。
これまでは、御堂の身の危険を考えて見せることも話すことも出来なかった。
しかし、今では御堂にはアザゼルが付いている。
だから、俺たちの全てを知ってもらうために、ここへ呼んだ。
正巳さんには見せられないので、御堂一人だ。
子どもたちは大喜びで蓮花の心づくしの料理を堪能している。
双子は特に味わいながら食べていた。
自分たちでも再現したいのだろう。
食べながら、蓮花にどう作っているのかを聞いている。
最初は俺の作る物をただ喜んで食べていただけのこいつらが、いつの間にか俺に何かを作ってくれるようになった。
それも、俺に美味いと言ってもらえるものを求めるようになった。
俺に遠慮し、そして甘えていたこいつらが、俺から寿司を奪い、俺に何かを与えるようになった。
月日が流れたのだ。
子どもたちは成長し、俺はこいつらに圧倒されるようにもなった。
俺が知らない所で努力し、血を流し、命を懸けるようになった。
俺はと言えば、相も変わらず精一杯でやるしかない。
全然こいつらのために何もしてやれていない自分を恥じながら、それでも精一杯でやっていくしかない。
それしか出来ない。
「お前ら! もっと喰え!」
「「「「「はい!」」」」」
笑いながら、子どもたちが食べる。
蓮花が、もうご飯が無くなったと言った。
「すぐに炊きますので!」
「ハー! イノシシを狩って来い!」
「はい!」
「冗談だ!」
「アハハハハハ!」
もう満腹だ。
でも、こいつらにもっと食べさせたいという気持ちだけある。
もっと楽しく喰ってくれ。
俺はそれを思うしか出来ない。
月日は流れた。
前も、今も、俺はこれだけだ。
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