富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
1,520 / 3,202

小柱

しおりを挟む
 早乙女から電話があった。
 グランマザーの分体が来た5月4日の夕方だ。
 俺は夕飯を食べようとしていた。
 スズキのフライ・カレーだ。
 衣にオレガノとパプリカを混ぜている。
 俺は食事中に邪魔されることが大嫌いだ。
 特に、最初に一口を口に入れようとした瞬間に邪魔する奴は許したことが無い。

 「あんだ!」
 「大変なんだ! すぐに来てくれ!」
 「ふざけんな! 今、まさにカレーを口に入れようとしてたのに!」
 「それは済まないが、でも、俺もどうしていいのか分からないんだ」
 「緊急なのか?」
 「そう思って欲しい」
 「チッ!」

 俺は電話を切って、急いでカレーを食べて家を出ようとした。
 その瞬間に思い出した。
 まさか、アレか?

 「亜紀ちゃん!」
 「はい!」
 「早乙女の家に行くぞ」
 「私、お替りをー」
 「後で喰え」
 「残るわけないじゃないですか!」
 
 俺は鍋にカレーを入れ、ジャーを一つ抱えて亜紀ちゃんと家を出た。
 皿とスプーンはあっちで借りよう。
 亜紀ちゃんがスズキのフライをバットに入れ、俺が抱えていたジャーを持った。




 門で早乙女が待っていた。

 「さっき気付いたんだ!」
 「何に?」
 「「柱」さんが小さな「柱」を持っていたんだ!」
 「「!」」

 早乙女は俺たちの抱えているものを無視して言った。

 「突然なんだよ! 俺がちょっと買い物に出ようと思ったら!」
 「買い物?」
 「ああ、今日はカレーなんで、ジャガイモを買いに」
 「「……」」
 「買って来たのか?」
 「いや、だから大変なことがあったから出掛けてないよ!」
 
 早乙女が興奮している。

 「これはうちのだからな」
 「なに?」
 「途中だったから抱えて来ただけだ」
 「あ、そうなのか。悪かった」

 俺たちは話しながらエレベーターホールへ向かった。
 「柱」が俺に気付いて駆け寄って来る。
 なんであいつ走れるんだ!
 怖い。

 俺に、小さな両手で抱えた「小柱」を見せる。
 長さ40センチほどで、太さは5センチほどか。
 折れ曲がった足が4本生えている。
 「柱」の小型版だ。

 「おお、なんだそれ?」
 
 「柱」は左手で「小柱」を抱え、右手で庭の方を指差す。
 そして地面から拾う動作をした。

 「そうか。それで拾ったお前が面倒を見ているというわけか」
 
 「柱」が前後に身体を動かす。
 「そうだ」という意味らしい。

 「流石、石神! もう内容を把握したんだな!」
 「まーな」
 
 そりゃ、全部知ってる。
 俺と亜紀ちゃんでこの家の庭に投げ捨てたのだから。

 「これをどうしようか」
 「まずは飯を食わせろ! 俺たちは途中で大変だったんだ!」
 「わ、分かった」

 エレベーターで上に上がり、雪野さんと挨拶した。
 カレーの匂いがする。
 ジャガイモ以外は、もう出来ているのだろう。

 「いらっしゃい。あ、お鍋」
 「途中で出て来ましたからね。うちでカレーは残ることが無いんで、半分持って来ました」
 「まあ!」

 雪野さんが笑った。
 俺は仕方なく、うちのカレーを食べろと言った。
 亜紀ちゃんが鍋を火にかける。

 4人で食べた。

 「それで石神、あれをどうすればいい?」
 「お前もちょっとは考えろよ! 「アドヴェロス」の長なんだからよ!」
 「でも! あんな不思議なことが!」
 「あれは「柱」の子どもなんじゃねぇか?」
 「なるほど!」

 亜紀ちゃんがカレーを吹きそうになった。

 「だからここで大事にすればいいだろうよ」
 「そうか。でも、「柱」さんと一緒がいいのかな?」
 「さあな。それはあいつに聞いてみろよ」
 「うん、分かった」

 俺と亜紀ちゃんはガンガンカレーを食べた。
 早乙女と雪野さんも美味しいと言い、俺たちのカレーをお替りしていた。
 スズキのフライも乗せる。

 「しかし、どうして子どもが生まれたんだろうか」

 早乙女が余計なことを気にしていた。

 「お前たちに子どもが生まれたからじゃないのか? 早く二人目を生めって意味かもな」
 「成程! じゃあ、二人目が生まれたら、「柱」さんにもまた出来るのかな」
 「冗談じゃねぇ!」

 俺は思わず怒鳴ってしまった。
 早乙女と雪野さんが俺を見る。

 「いや、まあ、それは任せておけばいいんじゃねぇか?」
 「それもそうだな!」

 俺が話している間に、亜紀ちゃんは喰いに専念し、ガンガン食べていた。
 ジャガイモを持って来いと言うと、亜紀ちゃんが激しく俺を睨んだ。

 「早くしろ!」

 窓から飛んで行った。
 俺は巻き返すのに必死になった。

 「あの、石神」
 
 返事をせずに、目だけで早乙女を見る。

 「うちのカレーも食べて行けよ」
 
 俺は親指を立ててそうすると合図した。
 亜紀ちゃんが早々に窓から戻って来て、ジャガイモの袋を俺に見せた。
 俺は洗って皮を剥けと命じた。
 亜紀ちゃんはダッシュでキッチンに行き、洗って包丁で皮を剥く。
 鍋に湯を張ってカットしたジャガイモを煮た。
 カレーに戻る。

 早乙女と雪野さんはうちのカレーで満足し、俺と亜紀ちゃんで早乙女家のカレーを全部食べた。

 コーヒーを飲んで、家に帰ると言った。
 早乙女と雪野さんが見送る。

 1階のエレベーターホールに降りると、「柱」がまた近寄って来た。

 「おい、何か必要なものはあるか?」

 俺が聞くと、右手を左右に振った。
 別にいらないらしい。
 俺に「小柱」を前に突き出した。
 俺は仕方なく、「小柱」を抱き上げた。
 気持ち悪かったが、早乙女たちの手前、左右に揺らしてあやす。

 「か、カワイイな!」

 俺は早乙女達にニッコリと笑って言った。

 「タカさん!」
 「ん?」

 「小柱」に視線を戻した。



 羽が生えていた。



 「「……」」



 俺は早乙女に「小柱」を預け、亜紀ちゃんと急いで出た。
 後ろで早乙女が「飛んでるよ!」と叫ぶのが聞こえた。
 亜紀ちゃんを背中合わせに背負って走った。

 「追ってきたら躊躇なく撃て!」
 「はい!」

 追って来なかった。



 もう、勘弁して欲しい。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

処理中です...