富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
1,573 / 3,202

連城十五 Ⅲ

しおりを挟む
 俺は連城十五について興味を持った。
 もう既に死んでいる人間だったが、俺と似た部分があるようで、探偵事務所や様々な伝手を辿って連城の経歴を調べて行った。
 後から思えば、俺の中で何かの予感があったのかもしれない。
 思いがけず、とんでもないことを知ることになった。

 「まいったな。まさかこんなことだったとは……」

 その名前から、俺が引っ掛かっていたことに気付く。

 「竹流の父親だったのか」

 少し考えたが、俺はよしこに連絡し、竹流に会いに行った。

 




 「竹流、お前の父親はそういう立派な人間だったんだ」

 俺が話し終えると、竹流は拳を握りしめて黙っていた。
 様々な感情がその胸の中を去来しているのだろう。

 「自衛官としては最高の人だった。人間としても大変立派な人だった。日本のために、全てを擲って死んだ。お前は俺がそういう人間を尊敬することを知っているよな?」
 「はい」
 「お前には、そういう立派な人間の血が流れている。お母さんの愛情と、連城十五という男の愛情でお前は生まれた。忘れるな」
 「はい!」

 俺は、これは予想だと断って、竹流に話した。

 「お前の名前は最初にそう思ったんだけど、やっぱりヤマトタケルから取られたんだと思うよ」
 「そうなんですか?」

 ヤマトタケルの戦いに明け暮れ、深い愛情で女たちを愛した生涯を話した。
 長い話になったが、何故か俺の中で、竹流に話しておきたかった。
 竹流は黙って聞いていた。

 「お前はその名前の通り、優しい人間になったな」
 「……」

 涙を零す竹流を抱き締めた。

 「神様、ありがとうございました」
 「いいんだ。偶然知ったことだしな」
 「はい」
 「お前に知って欲しいという思いが、この世界のどこかにあったんだろう。だから俺が知ることになったんだと思うぞ」
 「はい!」

 竹流がまた泣き出した。
 
 「神様」
 「ああ」
 「僕は一人だけど、一人じゃないんですね」
 「その通りだ」

 竹流は俺に無理に笑って見せた。




 7月30日。
 秋田の「業」の施設は案外簡単に見つかった。
 周辺のある程度の規模の建物を調査していったが、土地柄幾つもなかったためだ。
 ある企業の所有になっていた建物が、「太陽界」の系列企業であることが分かってからは一気だった。

 「アドヴェロス」から早乙女、磯良、愛鈴、早霧、そして成瀬。
 自衛隊「対特殊生物部隊」全隊員500名。
 そして念のために仮面を装着した俺、亜紀ちゃん、双子、柳。
 俺たちは部隊とは離れた場所で待機していた。
 なるべく早乙女や左門たちにやらせたかった。

 広い敷地の中に、白い鉄筋4階建ての建物がある。
 建物はおよそ300坪といったところか。
 建物に併設して、大きな倉庫があった。

 「アドヴェロス」が攻撃チームで、左門たちは後方支援だ。
 ガンモードでの「カサンドラ」で砲撃する。
 早乙女と左門は、先に倉庫部分から制圧することにした。

 「タカさん、嫌な感じだよ」
 「強い奴がいるよ」
 「そうか」

 俺も強いプレッシャーを感じていた。
 恐らく羽入たちが遭遇したレベルの奴が複数いる。
 それ以上の奴もいると、俺は踏んでいた。

 


 作戦行動が始まり、磯良を先頭に、「アドヴェロス」の攻撃チームが先行した。
 その上を、左門たちの砲撃が通過していく。
 倉庫の大きなドアが吹っ飛び、壁が破壊されて行く。
 事前通告も何もない強襲だ。
 
 破壊されたドアから、何体かの巨大なライカンスロープが出て来た。
 磯良だけが反応し、攻撃していく。

 出て来た3体のうち2体が磯良に切り刻まれる。
 しかし残る1体が攻撃を逃れ、左門たちに迫った。
 高速移動で、恐らく左門たちは正確には視認出来ていない。
 
 「ファランクス!」

 左門が号令を掛けた。
 すぐに集結した300人がロングソードモードで「カサンドラ」を展開した。
 ハリネズミのようにプラズマが伸び、一瞬で高熱の空間が出来る。
 ライカンスロープは避け切れずに燃え尽きた。
 左門たちが歓声を上げた。

 「油断するな! まだいるぞ!」

 俺が無線で怒鳴ると、左門とリーがすぐに陣形を整えた。
 「カサンドラ」は数に余裕がある。
 また撃ち漏れた敵が来ても対抗出来るだろう。

 次の瞬間、倉庫部分が爆散した。
 爆発物ではない。
 四面の壁が、それぞれに四方に飛び散った。

 子どもたちが身構える。

 「亜紀ちゃん! 行け!」
 「はい!」

 俺は亜紀ちゃんだけ出撃させた。

 15体のライカンスロープが見えた。
 人狼型10、他はオーガタイプに見えたがサイズが少し小さい。
 それに、全身が輝いている。
 その中の一人は大きかったが、そいつは全身が金色に輝いていた。
 あいつはヤバい。

 亜紀ちゃんのインカムに、金色の奴を優先して叩くように伝えた。

 磯良の前で、人狼型が次々に撃破される。
 左門たちは全員で砲撃していく。
 何体かの人狼型を潰した。

 しかし、磯良は輝くオーガタイプに苦戦しているようだった。
 あいつの「無影刀」が通じていないようだった。

 亜紀ちゃんが金色に突撃していく。
 「アドヴェロス」がいるので、大技は使わない。
 
 「亜紀ちゃんでもダメだよ!」
 「俺がやる! お前たちは他の奴らをやれ!」
 「「「はい!」」」

 双子と柳が一緒に飛ぶ。




 「どけ! 俺がやる!」
 「はい!」

 亜紀ちゃんが俺に金色を明け渡し、他の輝く連中に向かった。
 攻撃の通じない磯良を、愛鈴と早霧が守っている。
 早乙女は左門たちと一緒だったが、あのバカは走って向かって来た。
 
 信じられないことが起きた。
 金色が磯良たちを襲っていたライカンスロープを破壊したのだ。
 どういうことか全く分からない。
 金色が俺に向き直った。

 「お前、面白いな!」

 金色が喋った。
 日本語だった。

 「お前、意識があるのか!」
 「ある。お前のような戦士と戦えるのは嬉しいぞ」
 「元は日本人か!」
 「忘れた。俺は「業」様の僕でしかない」
 
 俺は金色に「螺旋花」を撃ち込んだ。
 防御した左腕が吹っ飛ぶ。

 「ほう! この身体を壊せるか!」
 「ほざけ!」

 右足の腿にも撃ち込んだが、それは破壊出来なかった。
 何らかの防御法を一瞬で構築したらしい。

 「てめぇ!」
 
 俺は連続して金色の体表を撃った。
 ほとんどがかわされ、金色の凄まじいブロウが俺を狙う。
 俺も「流れ」でかわしていく。
 大分硬いが、人体の構造を俺は見て取った。

 「いくぜ!」

 左脇腹に鍵突き。
 そこから俺は「奈落」を金色へ撃ち込んで行った。
 金色は徐々に身体を破壊され、崩れて行った。
 両腕を喪い、胸から上だけが残る。
 青黒い血が地面に拡がっていた。

 「ふう、見事だ」
 「とどめだ」
 「ああ、頼む」

 金色が笑っていた。


 《乙女の床のべに 我が置きし 剣の大刀 その大刀はや》


 「なに!」

 金色は笑ったまま、目を閉じた。
 俺は「虚震花」で全てを消した。




 亜紀ちゃんたちも他のライカンスロープを斃していた。
 磯良も、一体を撃破した。
 特殊な技を使ったらしい。
 磯良を守っていた愛鈴と早霧は満身創痍だった。
 俺は双子に言って「Ω」の粉末を使わせ、「手かざし」をさせた。
 磯良に抱き着いた早乙女の頭を引っぱたいた。

 「てめぇは気軽に来るんじゃねぇ!」
 「すまない! 磯良たちが危ないと思ったんだ」
 「俺たちがいるだろう!」
 
 尻を蹴ろうとすると磯良が両手を拡げているのでやめた。
 
 早乙女と左門、うちの子どもたちで鉄筋の建物に入った。
 何もなく、ここで何をしていたのかは分からなかった。
 俺は全員を建物の捜索に当たらせ、倉庫部分にタマを呼んだ。

 「なんだ、主」
 「タマ。金色の奴の記憶を探れるか?」

 僅かに破片だけが残ったものを示し、タマに聞いた。

 「やってみよう」

 タマが目を閉じて何かを探った。
 タマが読み取れたことを知り、俺は驚愕した。

 「業」はここで新たに創り上げたライカンスロープの運用実験をしていたようだ。
 「アドヴェロス」が来ることは分かっていたので、それを襲いながらライカンスロープの性能を試すつもりだった。
 もっと長く実験が出来ると考えていたようだったが、生憎と羽入が人狼型を撃破したため、俺たちの一斉攻撃を喰らった。

 「金色の奴は、元自衛官だったようだな」
 「なんだと?」
 「ロシアに潜入したところを「業」に捕らえられ、逆に実験台にされたようだ」
 「それは……」
 「まあ、その程度しか分からない。済まない、主」
 「いや、十分だ。ありがとう、タマ」
 「礼など。また呼んでくれ」
 「ああ、じゃあな」

 タマが消えた。





 後日、俺はまた竹流と話した。
 夜になっていたが、「紫苑六花公園」で二人でベンチに座った。

 「おい、お前は男だよな」
 「はい!」

 「お前の父親は立派な男だった」
 「え?」

 竹流に話すことは出来なかった。
 だが、俺が抱き締めると、竹流が泣いた。
 声を押し殺し、震えながら俺の胸で泣いた。


 

 《乙女の床のべに 我が置きし 剣の大刀 その大刀はや》




 その死に際し、ヤマトタケルは自分の愛した女のことを思った。
 置いて来た自分の分身の大刀が、もう戦うことなく、愛する女の傍にあることを思った。
 恐らく、唯一の心残りであり、最大の愛であった竹流に、あいつは何かが残っていると思いたがったに違いない。

 俺は、そう思う。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...