富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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早乙女家 避難訓練

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 何とか石神家の年間行事を終えて帰った8月最初の日曜日。
 疲れてはいたが、今日は石神家と早乙女家の避難訓練をする予定だった。
 早乙女とは電話で話していて、「今日は辞めようか」と言ってくれたがやることにした。
 俺もいろいろ予定が詰まっていて、延期すると面倒だからだ。

 「定期的にやると決めたからな。こういうことは大事なんだ」
 「そうか。じゃあ悪いけど待ってるな」
 「ああ」

 熊野からの帰り。
 運転中の俺の顔からルーがスマホを離した。
 俺は最新の機械に疎いので、こうしないと落ち着いて話せない。

 「タカさん、大丈夫?」
 「ああ。お前らも早く大きくなって運転出来るようにしてくれ」
 「「うん!」」

 まあ、そうは行かないが。
 
 「お前らはまた美人になって来たもんな!」
 「「うん!」」
 「でも風呂にはずっと一緒に入ってくれな!」
 「「うん!」」

 「ロボはタカさんにべったりだけど、お風呂は絶対入らないもんね」
 「ああ、無理に入れると電撃だからなぁ」
 「「アハハハハハ!」」

 途中のサービスエリアで「重く」朝食を食べた。
 早朝に出発したので、何とか石神家の昼食に間に合った。

 やっぱり家の食事が一番いい。
 昼食のステーキ焼きウドン(ステーキ多目)を食べながら、今日の避難訓練の確認をした。
 皇紀が設定の内容を説明する。

 「早乙女さんのお宅を、レベル5の妖魔が襲撃。早乙女さんご夫婦と怜花ちゃんがうちに避難します。うちからは同時にお姉ちゃんが出撃。タカさんは不在。ルーとハーは早乙女さんたちを迎えて保護。柳さんは二つの家の間で遊撃。こういう設定です」
 「レベル5っていうと、タマさんクラスですよね?」
 
 亜紀ちゃんが言う。

 「そうだ。実際にタマに襲撃してもらうからな。早乙女家の防衛システムの作動を確認する目的もある」
 「私はどこまで本気でやればいいんですか?」
 「訓練なんだから、実際にタマを迎撃しろよ。まあ、本気でやる必要は無いけどな」
 「分かりましたー」

 俺がまとめた。

 「レベル5の妖魔が実際に来る可能性は低いけどな。「業」の差し向けられる妖魔はせいぜいがレベル3程度と思われる。これまで来た水晶の騎士あたりでレベル2だ。レベル3になると相当強いけどな。柳が開発した「オロチ・ストライク」で何とかなるだろう」
 「タマさんなら、喰らっても平気ですよね?」
 「ああ、全然大丈夫だ。レベル4からは、もう「虎王」でないと人間は対処できない」
 「あとは「王」クラスですか」
 「そういうことだ。でも訓練は気を抜くな。現実には何があるか分からんからな。今回は早乙女たちをうちで保護したら終了だ。あっちの防衛システムも、そこで停止するようになってる」
 「「「「「はい!」」」」」
 「にゃー!」

 「あ、ロボは早乙女たちを歓迎する係な!」
 「にゃ!」

 遊撃されると不味い。

 「じゃあ、午後2時40分に始める。それまで自由にしてくれ」
 「「「「「はい!」」」」」

 その後はみんなでお茶を飲むつもりだ。
 遊びではないが、緊張も無い。
 俺も時間までロボとのんびり過ごした。




 時間通りに警報が鳴った。
 早乙女家からの発報で、うちの防衛システムも起動する。
 うちの管理コンピューターの「ウラノス」が俺を除く全員に指示を出す。

 亜紀ちゃんが迎撃を要請され、飛び出した。
 柳もすぐに中間地点で待機する。
 柳は万一別な妖魔の出現に対応し、また必要があれば早乙女家に向かった亜紀ちゃんの応援に行く。
 双子が庭に作られたリニアモーターカーの受け入れ場所へ向かう。
 皇紀は裏庭の建物の司令本部で待機。
 ロボはウッドデッキでお迎え。
 俺は早乙女家の防衛システムの展開を見るために、亜紀ちゃんと一緒に飛んでいる。

 早乙女家ではランたちが「カサンドラ」を手に飛び出していた。
 「柱」と「小柱」も玄関から出ている。
 あいつら、やる気なのか?
 庭や建物に設置した防衛システムも順調に起動している。

 庭の地下に格納したデュール・ゲリエも50体展開している。
 殲滅モードの装備で、一斉に空中に飛んだ。
 順調な様子に、俺も満足した。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「ルーちゃん、ハーちゃん!」
 「いらっしゃーい」
 「大丈夫でしたかー?」
 「うん、平気。怜花も落ち着いてるよ?」
 「良かった!」

 ハーが怜花の頬を指で突く。
 怜花が笑顔で喜んだ。

 「じゃあ、家の中へ。あれ、早乙女さんのリュックは?」
 「うん、一応大切なものをね。吉原龍子さんのお札だけは持って来たんだ」
 「なるほど。でも、本当の非難の時にはすぐに来てね」
 「ああ、ごめんね。注意するよ」

 みんなで庭を歩き、ウッドデッキで待っていたロボが雪野さんに駆け寄った。
 怜花ちゃんを抱いた雪野さんが屈んでロボの頭を撫でる。

 「ロボちゃん、待っててくれたんだ」
 「にゃー」
 「ウフフ」

 みんなで中に入った。

 「亜紀ちゃん、大丈夫かなー」
 「心配ないよ、訓練だもん」
 「そうだよね」

 ハーと笑い合った瞬間、早乙女さんの家の方で大きな爆発音があった。

 「「にゃんだ?」」
 「にゃー」

 早乙女さんと雪野さんが不安そうな顔をした。
 



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「タカさん! 「武神ピーポン」が起動してますよ!」
 「不味いな。タマを迎撃するつもりだぞ」
 「止められますか?」

 「……」

 「タカさん?」
 「あのさ」
 「はい」
 「停止コード忘れちゃった」
 「!」

 亜紀ちゃんが俺の背中をポカポカする。

 「またですかぁー!」
 「ちょっと待て! ほら、「にゃんこニャンニャン」とかって奴だよ!」
 「知らないですよ!」

 そう言えば、アラスカで俺が停止コードを口にした時、亜紀ちゃんがやられていたんだっけか。
 敷地に入ったタマが俺を見ている。

 「主、あれは壊してもいいのか?」
 「待てぇー!」
 「分かった。でも、相当なエネルギーを使おうとしているぞ?」
 「お前は逃げろ!」
 「いや、もう遅いようだ」

 「武神ピーポン」が《斬魔スラッシュ》を繰り出した。
 タマは左手を挙げてそれを防いだ。
 庭が爆発し、大きく抉れる。

 「不味い。次はもっと大技が出る」
 「タカさん!」
 「えーと、にゃんこニャンニャン」

 亜紀ちゃんがポカポカしている。

 「はやくぅー!」
 「急かすな! あー、思い出しかけたのに!」
 「タカさーん!」

 「武神ピーポン」が大剣を振り上げた。

 「うわ! あいつ《魔神風雷》を使うつもりだぞ!」
 「なんですか、それ!」
 「あのな、プラズマの異次元界面で……」
 「説明はいいですよー!」

 大剣の周辺に黒い空間が出現する。
 タマがじっと見詰めている。

 「お前は逃げろってぇー!」
 「いや、もう遅いようだ」
 「さっさと逃げりゃ良かっただろう!」

 その瞬間、「武神ピーポン」が停止した。
 顔の赤く光っていた目が消える。

 「おお! 止まったぞ!」
 「……」

 亜紀ちゃんが俺を睨んでいた。

 「石神さーん!」

 柳が庭に入って来た。

 「皇紀くんが止めましたー!」
 「おう! よくやったな!」

 亜紀ちゃんに頭を引っぱたかれた。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 「じゃあ、訓練は終了! みんなご苦労様でしたー!」

 みんなにコーヒーとケーキが配られ、俺が宣言した。

 「タカさん……」
 
 亜紀ちゃんが俺を睨んでいる。

 「石神、さっきの爆発はなんだったんだ?」
 「あ、ちょっとな。「武神ピーポン」の性能テストも兼ねて起動したから」
 「そうなのか?」
 「ああ、悪いな。ちょっと庭が削れちゃった」
 「えぇー!」
 「す、すぐに戻すよ!」
 「たのむよー」

 俺は皇紀を睨んで、唇にチャックの合図を送った。
 皇紀が食べかけたケーキを戻し、ルーとハーに喰われた。

 「あー、次はいつにするかなー」
 「タカさん」
 「はい」
 「次は私が皇紀と監修しますから」
 「そう?」
 「はい」
 
 亜紀ちゃんが俺を睨んで言った。

 「主」

 俺の隣でタマが言った。

 「おう! タマ! ご苦労さんだったなー」
 「次は我以外で頼みたい」
 「なんで?」
 「なんとなくだ」
 「分かったよ」

 なんだよ。

 「ああ、早乙女たちはこのままうちに泊れよ!」
 「いいのか!」
 「もちろんだぁー!」





 俺はちょっと出掛けると言い、早乙女の家の庭をクロピョンに戻させた。
 指示している間、「柱」と「小柱」が俺の傍にずっといてちょっと怖かった。
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