富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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京都の墓参り

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 風花の家を出て、京都の道間家へ向かった。
 京都市内に入り、俺がよしこから運転を替わる。
 タブレットに一江の顔面を出した。

 「あ、一江さんですね」
 「そうだ。この顔面が必要なんだよ」
 「?」

 まあ、よしこに詳しいことは話すこともない。

 麗星には伝えているが、俺は天狼と吹雪を会わせたかった。
 まだそれを記憶するような年齢ではないが、俺自身がそうしたかったのだ。
 しかし、麗星はそのことで口ごもっていた。
 理由は口にしなかったが、難しいかもしれないと言っていた。

 それでもいい。
 麗星に、吹雪を見てもらうだけでも良かった。
 一江の顔面のお陰で、俺も調子を崩すことなく道間家へ着いた。
 午前11時。




 「石神さん、お待ち申し上げておりました」

 門を開いて五平所が挨拶した。
 俺のリムジンに多少驚いていたが、五平所を助手席に乗せて、屋敷の前まで移動した。
 麗星が玄関で待っている。
 やはり、天狼は抱いていなかった。

 リムジンから荷物を降ろし、道間家の人間が部屋へ運んで行く。
 俺たちは居間に通され、茶を出された。

 「あなた様、申し訳ありませんが」
 「やはり、天狼と吹雪は会えないか」
 「はい。天狼は今特殊な結界の中におります。今は大きな力を持つ人間とは接触出来ないのです」
 「俺は?」
 「あなた様も、申し訳なく」
 「仕方がないな。天狼は道間家の跡取りだからな」
 「本当に申し訳なく」

 麗星と五平所が頭を下げた。

 「おい、吹雪を見てやってくれよ」

 二人に、六花が抱く吹雪を見せた。
 麗星も五平所も、にこやかに吹雪を見る。

 「ちょっと抱いてみてくれ」
 「よろしいのですか?」
 「もちろんだ」

 六花が笑顔で麗星に吹雪を預ける。
 麗星は慣れた動作で吹雪を抱いた。

 「ほんとうに綺麗な赤ちゃん」
 「そうだろう! 六花に似てるからな!」
 「あなた様の顔にも似ておりますよ」
 「俺なんかはいいよ。六花の美しさがあればそれでいいんだ」
 「私は石神先生の方がいいです!」

 みんなで笑った。
 五平所にも抱いてもらう。

 「やはり、力の強い子ですね」
 「そうか。まあ、いつか天狼とも会わせたいな」
 「はい、必ず」

 昼食は俺の好物の鰻にしてくれた。
 六花もよしこも喜ぶ。

 「麗星、じゃあ俺たちはこのまま帰るな」
 「そんな! どうか今日はお泊り下さい!」
 「でも、俺たちがいない方が天狼にはいいんだろう?」
 「大丈夫です! 結界の中にいれば、あなた様がいらしても何の問題もございません」
 「でもなぁ」

 俺は六花やよしこが馴染みの無い家で窮屈だろうと思っていた。
 天狼を見せたくて、誘ったのだ。

 「五平所! あのリムジンのタイヤの空気を抜いて来なさい!」
 「おい、分かったよ」

 まあ、庭も綺麗だし、食事も美味い。
 出来るだけ俺が相手をして、ゆっくりさせよう。

 「じゃあ、後で墓参りでもするかな」
 「是非! ご用意いたします!」

 六花がニコニコして鰻を食べていた。
 別途白焼きが出されると、目を大きく開いて喜んだ。
 俺も、連れて来て良かったと思えた。




 暫く三人でお茶を飲みながら待っていると、麗星が花を抱えて呼びに来た。
 庭で自ら摘んで来てくれたのだろう。
 竜胆や百合などの美しい花だった。

 道間家のロールスロイスのリムジンで、移動する。
 駐車場で、麗星が俺に花を渡そうとした。

 「一緒に来て欲しいんだ」
 「!」

 俺と麗星、六花と吹雪、よしこ、五平所で親父の墓へ向かった。

 予想はしていたが、随分と綺麗にしてくれていた。
 墓所には既に花があり、多少は日にちが経っていたが、まだ瑞々しさを残していた。
 麗星や道間家で世話をしてくれているのが分かる。

 「綺麗にしてくれていますね」
 「当然でございます。虎影様には、どのようにしてもお詫びできず」
 「そんなこと。でも、ありがとうございます」

 俺は六花やよしこと墓を洗い、花を入れ替えた。
 吹雪は麗星がずっと抱いていてくれた。
 麗星が用意してくれた線香を焚く。
 般若心経を唱えた。

 「親父。今日は麗星とは別の俺の愛する六花と、俺たちの子どもの吹雪を連れて来た。一緒に六花の仲間のよしこも来てくれているんだ」

 俺が語り出した。

 「どうだよ、六花は初めて見るだろう? 綺麗だろう! 最高にな! こんなに綺麗な女は他に知らないぜ」

 六花が笑顔で墓に挨拶した。

 「六花です。石神先生と共に生きて共に死ぬつもりです。宜しくお願いします」
 
 よしこも同じようなことを言った。

 「これが吹雪だ。六花に似て綺麗な赤ん坊だろ? 最高だぜ!」

 みんなが笑った。
 吹雪は目を開いて俺を見ていた。

 「やっと生まれた子なんだ。元気だよ。親父、頼むから見守ってくれな」

 「麗星と五平所はここによく来てくれているだろう? ああ、天狼は来たことがあるかな?」

 振り向くと麗星が頷いた。

 「天狼もカワイイだろう! 麗星に似てまた綺麗だよなぁ。それにさ、麗星は本当に優しいんだ。楽しいしな!」
 
 麗星が小さく笑った。

 「天狼のことも頼むな! まあ親父のことだから、頼まなくてもしてくれてるだろうけどな!」

 五平所が俺に酒を手渡した。
 
 「まあ、でも休みながらでいいからさ。酒を置いて行くな。親父、俺のせいであんまし飲めなかったもんなぁ」

 口を開けて、少し墓に掛けてやる。

 「ああ! そうだぁ! 親父、俺、石神本家の当主にされちまったぞ! 虎白さんたち、無茶苦茶でよ! あの人らはちょっと懲らしめてくれよ!」

 俺は言いながら笑った。
 
 「ああ、ちょっと頭を引っぱたくくらいでな。一応、優しい人たちだし。親父のことを大好きだったのもよく分かったしさ」

 「当主だっていうのに、全然俺のことを尊敬してねぇんだよ! まあ、その方がいいんだけどな。あんなすげぇ人たちが俺の下なんてあり得ないよなぁ。なんで俺が当主なのか、今も全然分かんないよ」

 俺は長い間話してしまった。
 
 「親父、夢でいいからさ。たまには顔を見せてくれよ……」

 最後に俺が言うと、後ろで麗星たちが声を殺して泣いた。




 俺たちはみんな、会いたくてももう会えない人間がいる。
 せめて、夢でと願っている。


 《うたた寝に 恋しき人を 見てしより 夢てふものは 頼み初めてき》
                             小野小町
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