富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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御堂家へ

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 柳が再び鬼猿に狙われた日。
 俺は麗星に電話をして、聞いてみた。

 「それは、恐らくは以前に取り憑かれたことが原因かと」
 「やはりそうか。何かしらのパスのようなものが出来てしまったのか?」
 「流石はあなた様でございます。その通り、鬼猿にとって魅き付けられるものが柳さんの中に出来てしまったのだと」
 「取り憑きやすい奴だという印か」
 「はい。実際に一度操られていますからね」
 
 厄介なことだった。

 「それは取り除けないのか?」
 「難しいと思います。その人間の「記号」ですので、剥ぎ取ろうとすれば、他の「記号」にも影響が出るかと」

 柳が柳であるものは取り除けないということか。

 「柳さんご自身がお強くなれば別ですが」
 「そうか、分かった。ありがとうな」
 「いいえ。またいつでもこちらへいらして下さい」
 「もちろんだ」
 「二人目も早く作りましょうね!」
 「ワハハハハハ!」

 まあ、それもいいのだが。

 早乙女から連絡があった。
 頼んでおいた蕨市の廃屋にいつての調査だ。
 8年前に住んでいた人間が死に、借金のあったことで遺族(子ども)が相続を放棄し、以来ずっと放置されてきたらしい。
 一応債権者(サラ金)が家屋を担保としていたことから、名義はそちらに移っている。
 しかし何故か、債権者も放置していたらしい。

 「そのサラ金業者が立ち入った時に、何人か死んだらしいんだ」
 「なんだと!」
 「当時の社長と部下と、土地の転売屋だった。運転手がいつまでも出て来ないので中へ入ると、三人とも死んでいた。全身を何かに噛まれた痕があったらしいが、死因は心臓麻痺だよ」
 「そいつらも鬼猿にやられたんだな」
 「多分な。そのサラ金は今は元社長の右腕だった奴が続けている。そいつに許可を得て、さっき「アドヴェロス」で立ち入って来た」
 「どうだった?」
 「44人分の白骨死体があったよ」
 「相当力を付けていたな」
 「そのようだ。今、行方不明者の捜索願と照合している。白骨化しているが、荷物なども大量に残っているから、すぐに分かるものもあるだろう」
 「分かった、宜しく頼む」

 早乙女は電話を切ろうとする俺に言った。

 「住宅街にああいうものが潜んでいる場合もあると、今回知った。俺たちの仕事だな」
 「そうだ。妖魔は思いも寄らずに俺たちの傍にもいる」
 「対策を考えてみるよ」
 「ああ、頼むぞ」

 電話を切った。
 今回はロボが気付いた。
 しかしそれは、ロボが柳を気に掛けていたからだ。
 ロボには、他の妖魔の気配も分かるのかもしれない。
 
 

 俺はもっと考えておくべきだった。





 翌日、俺たちは御堂の家に行った。
 今回は一泊だ。
 毎年二泊はしていたのだが、結構多忙になってきた俺がスケジュールが取れなくなって来た。
 御堂も実家へ帰るのは久しぶりだ。
 俺たちと一緒に出発する。
 
 一泊にしたことで、正巳さんが是非昼食を一緒にと言っていた。
 だから、必然的に早朝の出発になった。
 朝7時に俺の家を出る。
 いつものハマーに俺、御堂、亜紀ちゃんたちと柳、ロボ。
 それにダフニスとクロエ。
 御堂は俺が用意した家で、ダフニスとクロエと一緒に待っており、ピックアップして出発した。

 「おい! 御堂の家に行くのに、もう御堂がいるんだぞ!」
 「「「「「アハハハハハハハ!」」」」」

 子どもたちが笑った。
 当然御堂は助手席だ。

 「御堂、寝てろよ。子どもたちには音を立てさせないから」
 「大丈夫だよ」
 「息も止めさせるぞ?」
 「いや、普通に吸ってくれ」

 「柳!」
 「はい!」
 「御堂のために子守唄を歌え!」
 「え!」
 「お前は相変わらずノリが悪いよなぁ」
 「そんなぁ!」

 御堂が笑った。

 「ロボなら歌うぞ?」
 「そうなんですか?」
 「ロボ! 頼む」

 「……」

 寝てた。

 以前は朝食をハマーの中で摂っていたが、ちょっと嫌な事件があり、最初のサービスエリアで食べることにしていた。
 
 「おい、御堂家では食パンしか出ないからな! ここで思い切り喰っておけ!」
 「石神、いつもそんなことを言って来ているのか?」
 「そうだよー! こいつら冗談じゃなく喰うだろう。サービスエリアで思い切り食わせて行って、アレなんだぞ!」
 「アハハハハハ!」

 ダフニスとクロエはハマーの中にロボと一緒にいさせている。
 ロボには家で刺身を食べさせ、今も焼いたササミを食べているはずだ。
 
 40分という時間制限の中で、亜紀ちゃんが総指揮を取って食べ物を集めて来た。
 俺と御堂の前に、自動的にカレーが置かれる。

 「悪い、カレーでいいよな」
 「ああ」
 「俺でもここではちょっと頼みづらいんだ」
 「アハハハハハ!」

 御堂は子どもたちが真剣に最高の効率で食べ物を集めている様子を見て納得した。
 
 「しかし、総理大臣に向かって有無を言わせずにカレーだからなぁ」
 「でも、美味しいよ」
 「俺はかき揚げ丼が良かったのによ」

 亜紀ちゃんが涙目で自分の喰い掛けのかき揚げ丼を持って来た。

 「いらねぇよ!」
 
 ニコニコして戻った。

 「柳はまだ正気を残しているからな。きっとコーヒーを持って来てくれるぜ」
 
 柳が焼肉丼の丼を抱えたまま席を立とうとした。

 「柳、いいよ! ゆっくり食べてくれ!」

 御堂がそう言ったので柳がニコニコして戻り、俺が笑いながらコーヒーを買って来た。

 「久し振りに緊張がほぐれたよ」
 「それは良かった」
 「やっぱり政治家というのは一筋縄じゃ行かないね」
 「みんな泥水に浸かりながら叩き上げてきた連中だからな。まあ、でも今の政治家はそれほどでもないだろうよ」
 「そうでもないよ。こっちが油断していると、とんでもないことになる」
 「そうか。何か困ったらいつでも言ってくれ。どうにでもするから」
 「石神は激しいからなぁ」
 「お前のためならな」

 子どもたちが時間内に食べ終わり、ソフトクリームを買いに行った。
 他にもハマーの中で食べられるものを買い漁っていく。
 御堂がまた大笑いをした。

 柳が御堂の分もソフトクリームを買って来た。

 「僕はいいよ、誰か食べてくれ」
 「「「「「!」」」」」

 「御堂! それはダメだ! こいつら「殴りじゃんけん」を始めるぞ!」
 「え!」

 子どもたちが円陣を組み始める。

 「これは俺が食べる!」
 「「「「「チッ!」」」」」

 俺が急いで食べ、御堂に「殴りじゃんけん」を説明した。

 「とにかく油断したらぶん殴って飛ばして行くんだ。大騒ぎになるぜ」
 「なるほど……」
 「だから「グー」が多いんだ」
 「アハハハハハ!」

 


 俺は御堂を無理矢理寝かせた。
 大丈夫だと言いながら、御堂は目を閉じるとすぐに眠った。
 やはり疲れていたのだ。
 子どもたちに音を立てるなと言った。

 ロボが柳の上で眠り、オナラをした。
 柳が顔を顰めて、何も言わずに窓を開けた。
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