富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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響子と六花

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 8月21日木曜日。
 復帰してしばらく経つ六花は、いつものように朝の8時に響子の部屋へ入った。
 響子は珍しく起きていたが、俯せで六花に「おはよー」と言った。
 六花は笑ってベッドへ行く。

 「響子、キノコが生えてますよ」
 「とってー」

 六花は笑って響子の背中からキノコを捥ぐ真似をする。

 「はい、全部取りましたよ」
 「ありがとー」

 まだ響子は俯せで枕に顔を押し付けている。
 響子の気が臥せっている原因は分かっている。
 石神に会えないからだ。

 「タカトラー、会いたいよー」
 「そうですね」
 「今日から御堂さんの家だよね」
 「そうですね。今回は一泊とか」
 「私も行きたかったよー」
 「そうですね」

 六花は響子のお尻をポンポンと叩いて、部屋の掃除を始める。
 響子はしばらく寝かせて、8時半になったら顔を洗わせる。
 その後で朝食だ。

 「響子、そろそろ……何やってんの?」

 響子が石神家「ヒモダンス」を踊っていた。
 六花は大笑いした。

 「これを踊るとね、なんか元気になるの」
 「そうなんですか」

 響子が顔を洗っている間に、六花はベッドのシーツを替えた。
 今日は布団カバーも替えて、布団も干すつもりだ。
 響子は六花が持って来た朝食を食べる。
 朝はいつも軽い。
 今朝の朝食はバター控えめのオムレツとキイチゴの入ったヨーグルトだ。
 響子はそれに、紅茶を飲みながら梨を半分食べた。
 食欲があっていい。

 歯を磨き、響子はセグウェイで巡回するのがいつものことだ。
 それに、一つ加わった。

 「ほら! 吹雪ちゃんのオッパイじゃない?」
 「はいはい」

 六花は笑顔で向かいの元倉庫に行き、ベビーベッドにいる吹雪に授乳した。
 響子もついてきて見ている。
 吹雪の頭を優しく撫でる。

 「吹雪ちゃんは今日も元気ね!」
 「はい!」

 部屋は改装され、様々なベビー用品やそれを仕舞う棚が置かれている。
 ベビーベッドには天使のベッドメリーが回っている。
 石神の部下たちが贈ってくれたものだ。
 蓮花が送ってくれた天使柄のベビー服をいつも着ている。
 色違いで10着ある。
 
 他に頂いた、何故か「天使」物のお祝いは、ほとんど六花のマンションに飾ってある。
 ロボがくれた羽の生えたトカゲは六花のお気に入りで、自分のベッドの頭に置いている。

 授乳を終えると、響子が元気に巡回に出掛けた。

 「後で屋上に!」
 「はーい!」

 六花は布団を抱えて屋上へ向かった。
 干してから、やってきた響子と一緒に遊んだ。





 昼食の鯛のポワレとグリーンピースご飯、シーザーサラダを食べ、響子は横になった。

 「タカトラは毎日電話をくれるの。夕方の6時くらい」
 「そうなんですか」

 六花が帰り、響子が一人になっている時間だ。
 響子が寂しがらないように、その時間に電話しているのだろうと六花は思った。

 「昨日はね……」

 響子が笑って石神と話した内容を六花に話す。
 六花も楽しそうにそれを聞いていた。

 「あ! 六花、オッパイの時間だよ!」
 「はいはい。響子がいると助かります」
 「うん! 任せて!」

 六花が部屋を出て行こうとすると、響子が「俺にまかせろー」と言っているので笑った。
 六花が授乳を終えて部屋に戻ると、響子は眠っていた。
 緩く冷房を掛けているので、響子のお腹に夏掛けをかけてやる。

 六花は揺り籠に吹雪を移して、食堂へ行った。
 そこで自分の食事を摂る。
 石神に言われて、出来るだけお弁当を作って来るようにしている。
 食堂へ行くと、大勢のナースたちが吹雪を見に来る。
 騒がないように気を遣ってくれるが、みんながカワイイと言うので、六花も嬉しい。
 別に子どもの自慢のために連れて来ているのではない。
 これも石神の指示で、出来るだけ母親が傍にいるようにとのことだった。
 だから食事も含めて休憩時間はずっと吹雪と一緒にいるようにしていた。

 「虎はやさしーなー」

 六花はニコニコして食事をした。
 響子の世話と子どもの世話が両立するように、石神は徹底的に考えてくれていた。
 吹雪を病院に連れて来れるようにしてくれ、授乳やその他の世話を随時出来るようにしてくれている。
 子どもが体調を崩した場合は、連絡すれば休めるようになっている。
 それは絶対に無理をしないように、重々言い聞かされている。
 響子の世話はチームがあり、いつでも交代出来るようになっている。
 六花が無理しないように、そのチームの誰かが毎朝来て、吹雪の体調を確認してくれる。
 
 「はい! 今日もカワイイね!」

 そう言って、確認の後で吹雪を撫でてくれる。
 有難い。

 育児部屋へ戻って、吹雪と遊ぶ。
 手足を動かしてやり、たくさんキスをする。
 可愛くて仕方がない。
 石神から、全身で愛してやるように言われている。
 それが自然に込み上げて来る。
 石神への愛とは違った愛が自分の中にはっきりと分かる。
 「紅六花」の仲間たちへの愛も、今は亡き親友の紫苑との愛とも違う。
 
 「いろんな愛があるんだねー」

 吹雪は自分をジッと見ている。
 吹雪の中にも色々な愛が育って欲しい。
 着信があった。
 響子が眠っているので、いつもバイブにしている。

 「あ!」

 石神からだった。
 
 「石神せんせー!」
 「おう。響子は寝ているか?」
 「はい! 今吹雪と遊んでいます」
 「おい、声を聞かせろ!」
 
 吹雪が電話を近づけると、「あー」と言った。

 「今、お父さんって言ったよな!」
 「言ってませんよ!」
 「いや、言ったね!」
 「アハハハハハ!」

 六花は笑った。

 「でも、虎の電話だって分かってるみたいですよ?」
 「そりゃそうだろう!」

 しばらく話した。
 そしていつも最後に六花に異常がないかを聞く。
 吹雪のことは聞いたことが無い。
 六花を全面的に信頼しているためだ。
 そのことが、六花には嬉しい。

 そろそろ響子が起きる時間だ。
 部屋へ戻ると、やはりモゾモゾしていた。

 「うーん」
 「響子、起きましたか?」
 「うん」

 顔を洗わせ、汗を掻いていないかパジャマを触って確認する。
 紅茶を淹れ、キハチのジュレを出した。
 響子が嬉しそうな顔をしてジュレを食べた。

 「さっき石神先生から電話があってね」
 「うん!」
 「明日戻ったら、ここに顔を出すって」
 「ほんと!」
 「楽しみだね!」
 「うん!」
 
 響子が満面の笑みを浮かべた。

 「お土産は水玉のゾウを持って来るって」
 「またー! タカトラはまだ子ども扱いしてー!」
 「ウフフフフ」

 「ねぇ、六花!」
 「はい?」
 「吹雪ちゃんにオッパイはあげた?」
 「あ!」
 「ほら! 急いで!」
 「はいはい」

 響子が後ろから付いて来る。




 六花は笑いながら、吹雪を抱き上げた。
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