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KYOKO DREAMIN XⅢ
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「やはりここにも来ましたね」
バチカン市国サン・ピエトロ大聖堂。
「虎騎士団(Tigers Ritter)」団長マクシミリアン・ヘルガーは目を輝かせて、向かってくるジェヴォーダンとバイオノイドの戦列を眺めていた。
「準備はいいな」
「もちろんです!」
副団長のシュナイダーは意気軒昂に答えた。
「「虎」の軍から事前に情報はもらっていましたが、本当にその通りで驚いています」
「今は「虎」の軍ほど「カルマ」の情報を持っている機関は無い。イシガミはいつもながらに見事な差配をする」
「はい。イシガミとは団長は親しいのですよね?」
「昔日本で最初に出会った。あいつは俺の目の前で「ブルートシュヴェルト」を瞬く間に制圧して見せた。痛快だったぞ」
「古来から敵対していたブルートシュヴェルトと共闘する切っ掛けは、その時からだと」
「そうだ。伝説のレジーナまで出て来てな。そういう話になった。それが半日も掛からないで決まったのだからな!」
何度聞いても楽しい話だとシュナイダーは思った。
それに、「虎」の話題になると、マクシミリアンの機嫌が最高に良くなる。
「私が最も敬愛するのは教皇猊下だ。だが、最も大好きなのはイシガミだ」
「ワハハハハハハ!」
「あいつと共にいるのは楽しい。あいつの話、あいつの行動、あいつの沈黙すら楽しい。一瞬がすべて面白い男だ」
「いいですね」
「そして、私の全てを捧げるのは、「光の女王」だ」
「はい」
各配置から、いつでも出撃命令を待つと連絡が入った。
「教皇猊下は?」
「いつも通り。只今はお茶の時間ですね」
「やはり避難なされなかったか」
「団長を信頼しておられるのですよ」
「イシガミもな」
「はい!」
スクリーンに敵勢力の情報が映し出される。
ジェヴォーダン130体、バイオノイド210体、
「そろそろですね」
「虎」の軍の設置した戦闘量子コンピューターが映し出すスクリーンに、バチカン市国外周にジェヴォーダンたちが集結したのが見える。
「あ! やっぱり飛び出しましたよ!」
「あの人たちは命令など聞かないからな」
「仕方無いですねぇ、イシガミ・フェヒター(Ishigami Fechter:石神の剣士)は」
「今回は30人を借りている。まあ、ほとんどはあの人たちがやるんだろうな」
「掃除が大変ですね!」
「ワハハハハハハ!」
スクリーンではジェヴォーダンたちに襲い掛かる袴姿の日本人たちが映されていた。
全員が高出力型「カサンドラ」の《レーヴァテイン》を持っている。
長大な10メートルにも及ぶプラズマの刀身で、次々と敵を屠って行った。
「我々も出るか」
「あの勢いだと、超妖魔が出て来るのも早いでしょうね」
「それは我々の仕事だ。悪魔を滅するのが我々の使命だ」
「はい!」
マクシミリアンは石神が自分専用に調整してくれた《スルトミリアン》を手にした。
超高出力タイプの「カサンドラ」だ。
部屋の外の廊下で待機していた「虎騎士団」の精鋭が敬礼を捧げる。
「聖戦だ! 悪魔共を根絶やしにするぞ!」
怒号の歓声が沸き、マクシミリアンを先頭に100人の騎士たちが続いた。
白い巨大な戦闘バイク「スレイプニール」に跨り、戦場となっているバチカン市国周縁に向かった。
途中で散見されたバイオノイドは「スレイプニール」に搭載された荷電粒子砲によって殲滅された。
「現代で騎兵戦が出来るとは思いませんでしたね!」
「これもイシガミのお陰だ! 騎士たる者は騎馬で戦わねば面目が立たんとな!」
「アハハハハハ!」
「まあ、あいつが子どもの頃にバイクで暴れ回っていたそうだからな。愛着があるらしい」
「そういえば「クリムゾン・リッカ」軍団もバイクらしいですね」
「ああ、「虎」の軍の最強部隊の一つだな。軍団長は世界最高の美女らしいぞ」
「「虎」の軍の募集でタイガーレディ・リッカがポスターになったら、物凄い応募があったらしいですね」
「お前、詳しいな!」
「私もファンなんです」
マクシミリアンが大笑いした。
戦場ではまだイシガミ・フェヒターが暴れ回っていた。
「カサンドラ」や「レーヴァテイン」は、剣技を駆使することが出来た。
妖魔を斬ることが出来るイシガミ・フェヒターの特殊な剣技が「レーヴァテイン」で再現出来、それが膨大な敵、強大な敵を撃破する要となっている。
一部のイシガミ・フェヒターは、「レーヴァテイン」のクールタイムの間、刀を使っていた。
現代兵器の銃火器が通じないジェヴォーダン相手に、刀で戦い勝利しているのを見て、マクシミリアンたちは驚愕する。
一人の男が手を振っていた。
「よう、マクシミリアン!」
「コハク、お前も出ていたのか」
「たりめぇだ! 当主の命令だからな!」
「お前、年を考えろ」
「バカ言うな! こんな楽しい場所で死ねるのなら最高だろう!」
「お前たちは理解出来ん」
そう言いながら、マクシミリアンは笑いながら「スレイプニール」を降りて虎白の隣に立った。
「ほとんど終わりそうだな」
「ああ。じゃあ、いよいよ成金か」
「ナリキン?」
「将棋だよ! 裏返って以前より強くなるのさ!」
「ああ、なるほど」
虎白たちも、死んだ敵を苗床にして強力な妖魔が生まれることがあるのを知っている。
全員がその気配を感じていた。
同時にマクシミリアンに通信が入った。
「チャンピーノの森林地帯から3000万の妖魔出現! 直進して来ます!」
「!」
「「虎」の軍から入電! 《デスキング》がパリから来ます!」
「なんだと!」
マクシミリアンは全軍に命じた。
「虎騎士団! 妖魔を各個撃破!」
全員が進軍する。
「コハクさん、もうちょっと付き合って頂けますか?」
「もちろんだぁ!」
虎白に命じられる前に、石神家の剣士たちは新たな敵勢力に突っ込んで行った。
マクシミリアンは大笑いした。
「あの人たちは何も命ずる必要はないな」
「そうですねぇ」
マクシミリアンも笑いながら「スルトミリアン」を抜いて妖魔軍に向かった。
地を覆うほどの大軍団は見る間に数を減らして行った。
機動力のある「虎騎士団」が妖魔軍の左右にとりつき、「レーヴァテイン」を1キロまで伸ばして駆逐していく。
石神家の剣士たちは思うままに中央に突入し、次第に大穴を空けて行った。
「《デスキング》! 来ます!」
仲間の認識コードを受信し、高空に士王が来たことが知らされた。
「全軍退避!」
マクシミリアンの号令で、虎騎士団たちが妖魔軍から離れる。
石神家の剣士たちも自然に離れた。
高空から紫色の螺旋の光が地上に撃ち込まれた。
数キロの直径の光が、妖魔軍を覆い、地上が弾け飛んだ。
「「テンライカ(天雷華)」だな」
「初めて見ました!」
地上に、身長185センチの鍛え上げた体躯の青年が降りて来る。
長髪に緩くウェーブがかかり、美丈夫の青年だった。
「ヘルガー騎士団長ですね」
「マクシミリアンと呼んでくれ。君がシオウか」
「はい。父に命じられて来ました」
「イシガミによく似ているな」
「ありがとうございます」
士王が笑い、その笑顔も石神にそっくりだと思った。
妙に人懐っこい、誰もが好きになる笑顔だった。
「さて、何か出て来るかな」
「必ず。妖魔の増援の報を聞いて、父が確信しています」
石神家の剣士たちも来た。
「よう! 士王!」
「虎白さん! お久し振りです!」
「まだ生きてんだよ!」
「アハハハハハ!」
他の剣士たちも士王を囲んで親しく話していた。
戦場の空気が変わった。
全員が一つの方向を向いた。
黒い瘴気が集まり、体長2メートル半の何かが生まれた。
「お、意外と小さいな」
「そうですね」
鋼鉄のような身体だが、骨組みのような構成だった。
40センチほどのスパイクに覆われ、頭部はパイロンを横にしたような形で、尖った先端に牙の密集した口のようなものがある。
右手にはスパイクを並べた弓のようなものを持っていた。
「スピードタイプか」
虎白が言った。
「そうですね。あのスパイクを打ち出すって感じですか」
「誰が行く?」
「え、みんなでやるんじゃ?」
「士王! お前! よく分かってるじゃねぇか!」
そう言いながら、虎白と士王、マクシミリアンとが怪物に向かった。
状況によっては、他の人間も応援に出るということは、全員が心得ていた。
強力な超妖魔には単純な人海戦術は犠牲を増やすばかりだ。
士王が言った「みんな」とは、初見で対応できる人間たちという意味があった。
50メートルまで近づいた時、怪物は高速移動しながら、何かを打ち出して来た。
虎白が日本刀で払い、他の二人も回避した。
「なんだ? 俺一人で良かった?」
「虎白さん、喰らってますよ」
「ん?」
虎白の右腿に、直径5ミリ長さ30センチ程の針が刺さっていた。
「ああ! 俺が老眼なのを知ってやがったかぁ!」
「大丈夫ですか?」
「問題ねぇ!」
士王が前に出て、怪物に向かった。
お互いに高速移動をしながら距離を縮めて行く。
虎白とマクシミリアンも左右から怪物に迫った。
士王が「槍雷」を放った。
軌道を予測し、怪物の腹部に命中する。
怪物の骨格のようなものを少し削ったが、動きに変化は無かった。
士王がもう一度「槍雷」を撃つ。
怪物はまたそれを余裕をもって喰らった。
右足が四散した。
「士王! お前も汚い戦い方を知ってるな!」
「アハハハハハ! 仇は討ちましたよ!」
一度目は効果のない程度の威力で。
それに安心させ、二度目は高出力の威力で放った。
動けなくなった怪物に、三人が一斉に襲い掛かる。
士王は頭部に「オロチストライク」を。
虎白は腹部に「レーヴァテイン」を。
マクシミリアンは胸部に「スルトミリアン」を。
士王の攻撃がレジストされた。
「士王! てめぇ! 半端なことをすんじゃねぇ!」
「すみません!」
しかし、他の二人の攻撃もほとんど効果は無かった。
切り裂かれた骨格はすぐに再生する。
士王が破壊した右足も再生していた。
同時に怪物が高速移動し、またスパイクを撃ち込んで来る。
「ちょっと硬い奴だな」
「面倒ですね」
士王が空中に飛んだ。
怪物の直上に迫り、右手の人差し指を向けた。
指先から何かの糸のような線が伸び、怪物の頭部に当たった。
頭部が崩れ、互いに激しい電光を結びながら崩壊していく。
その下の胸部も腹部も両手両足も同様の現象で崩壊した。
怪物の破片が地面に散らばり、やがて細かな粉末となって消えた。
「あんだよ、今のは?」
「父の「龍牙」を改変しました。名前はありませんが」
「付けろよ」
「必要です?」
「カッコイイだろう! 俺らの奥義もみんな一生懸命考えて付けてんだ」
「そうですか」
マクシミリアンが大笑いした。
「なんだかよく分からないうちに終わったな」
「俺ら、結構斬ったぜ?」
「そうだな。礼金はちゃんと用意するよ」
「それとよ。余ってる洋剣もくれねぇか?」
「分かった、用意する」
虎白は満足そうに笑った。
「じゃあ、宴会だな!」
「俺はこれで帰りますよ」
「なんだよ、士王! お前も付き合えよ!」
「彼女を待たせてるんで」
「あんだと?」
「最近知り合った子で、いい感じになってたとこだったんですよ」
「けっ! お前はまったく高虎の子だな! あいつみてぇにあちこちで子どもを産ませんじゃねぇぞ!」
「アハハハハハ!」
みんなで笑っていた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
(士王ちゃん以外は知らない人ばっかだったなー)
響子は今観た夢を思い返していた。
(でも、なんかみんな余裕だった。これまでは危なくて、死んじゃった人もいるけど)
戦闘を楽しんでいる場面さえあった。
特に士王の力は圧倒的だった。
(なんだろう。何かが変わった? 全然負ける気がしなかった)
「レイ」
響子はまだ薄暗い空間に向かって呼び掛けた。
響子にだけ見える、大きな虎が枕元に顔を乗せて来た。
響子は嬉しそうにその広い額を撫でた。
「ねぇ、何か未来が変わって来たように思うの? どうなのかなー」
虎は口を開けた。
吼えはしない。
「そうなんだ。やっぱりね。タカトラがまた大きな試練を乗り越えたからなんだね」
虎は響子の顔を優しく舐めた。
響子が喜ぶ。
「タカトラ、がんばって!」
響子はまた目を閉じて眠った。
虎は一瞬、美しい女性の姿になり、響子の額を優しく撫でた。
バチカン市国サン・ピエトロ大聖堂。
「虎騎士団(Tigers Ritter)」団長マクシミリアン・ヘルガーは目を輝かせて、向かってくるジェヴォーダンとバイオノイドの戦列を眺めていた。
「準備はいいな」
「もちろんです!」
副団長のシュナイダーは意気軒昂に答えた。
「「虎」の軍から事前に情報はもらっていましたが、本当にその通りで驚いています」
「今は「虎」の軍ほど「カルマ」の情報を持っている機関は無い。イシガミはいつもながらに見事な差配をする」
「はい。イシガミとは団長は親しいのですよね?」
「昔日本で最初に出会った。あいつは俺の目の前で「ブルートシュヴェルト」を瞬く間に制圧して見せた。痛快だったぞ」
「古来から敵対していたブルートシュヴェルトと共闘する切っ掛けは、その時からだと」
「そうだ。伝説のレジーナまで出て来てな。そういう話になった。それが半日も掛からないで決まったのだからな!」
何度聞いても楽しい話だとシュナイダーは思った。
それに、「虎」の話題になると、マクシミリアンの機嫌が最高に良くなる。
「私が最も敬愛するのは教皇猊下だ。だが、最も大好きなのはイシガミだ」
「ワハハハハハハ!」
「あいつと共にいるのは楽しい。あいつの話、あいつの行動、あいつの沈黙すら楽しい。一瞬がすべて面白い男だ」
「いいですね」
「そして、私の全てを捧げるのは、「光の女王」だ」
「はい」
各配置から、いつでも出撃命令を待つと連絡が入った。
「教皇猊下は?」
「いつも通り。只今はお茶の時間ですね」
「やはり避難なされなかったか」
「団長を信頼しておられるのですよ」
「イシガミもな」
「はい!」
スクリーンに敵勢力の情報が映し出される。
ジェヴォーダン130体、バイオノイド210体、
「そろそろですね」
「虎」の軍の設置した戦闘量子コンピューターが映し出すスクリーンに、バチカン市国外周にジェヴォーダンたちが集結したのが見える。
「あ! やっぱり飛び出しましたよ!」
「あの人たちは命令など聞かないからな」
「仕方無いですねぇ、イシガミ・フェヒター(Ishigami Fechter:石神の剣士)は」
「今回は30人を借りている。まあ、ほとんどはあの人たちがやるんだろうな」
「掃除が大変ですね!」
「ワハハハハハハ!」
スクリーンではジェヴォーダンたちに襲い掛かる袴姿の日本人たちが映されていた。
全員が高出力型「カサンドラ」の《レーヴァテイン》を持っている。
長大な10メートルにも及ぶプラズマの刀身で、次々と敵を屠って行った。
「我々も出るか」
「あの勢いだと、超妖魔が出て来るのも早いでしょうね」
「それは我々の仕事だ。悪魔を滅するのが我々の使命だ」
「はい!」
マクシミリアンは石神が自分専用に調整してくれた《スルトミリアン》を手にした。
超高出力タイプの「カサンドラ」だ。
部屋の外の廊下で待機していた「虎騎士団」の精鋭が敬礼を捧げる。
「聖戦だ! 悪魔共を根絶やしにするぞ!」
怒号の歓声が沸き、マクシミリアンを先頭に100人の騎士たちが続いた。
白い巨大な戦闘バイク「スレイプニール」に跨り、戦場となっているバチカン市国周縁に向かった。
途中で散見されたバイオノイドは「スレイプニール」に搭載された荷電粒子砲によって殲滅された。
「現代で騎兵戦が出来るとは思いませんでしたね!」
「これもイシガミのお陰だ! 騎士たる者は騎馬で戦わねば面目が立たんとな!」
「アハハハハハ!」
「まあ、あいつが子どもの頃にバイクで暴れ回っていたそうだからな。愛着があるらしい」
「そういえば「クリムゾン・リッカ」軍団もバイクらしいですね」
「ああ、「虎」の軍の最強部隊の一つだな。軍団長は世界最高の美女らしいぞ」
「「虎」の軍の募集でタイガーレディ・リッカがポスターになったら、物凄い応募があったらしいですね」
「お前、詳しいな!」
「私もファンなんです」
マクシミリアンが大笑いした。
戦場ではまだイシガミ・フェヒターが暴れ回っていた。
「カサンドラ」や「レーヴァテイン」は、剣技を駆使することが出来た。
妖魔を斬ることが出来るイシガミ・フェヒターの特殊な剣技が「レーヴァテイン」で再現出来、それが膨大な敵、強大な敵を撃破する要となっている。
一部のイシガミ・フェヒターは、「レーヴァテイン」のクールタイムの間、刀を使っていた。
現代兵器の銃火器が通じないジェヴォーダン相手に、刀で戦い勝利しているのを見て、マクシミリアンたちは驚愕する。
一人の男が手を振っていた。
「よう、マクシミリアン!」
「コハク、お前も出ていたのか」
「たりめぇだ! 当主の命令だからな!」
「お前、年を考えろ」
「バカ言うな! こんな楽しい場所で死ねるのなら最高だろう!」
「お前たちは理解出来ん」
そう言いながら、マクシミリアンは笑いながら「スレイプニール」を降りて虎白の隣に立った。
「ほとんど終わりそうだな」
「ああ。じゃあ、いよいよ成金か」
「ナリキン?」
「将棋だよ! 裏返って以前より強くなるのさ!」
「ああ、なるほど」
虎白たちも、死んだ敵を苗床にして強力な妖魔が生まれることがあるのを知っている。
全員がその気配を感じていた。
同時にマクシミリアンに通信が入った。
「チャンピーノの森林地帯から3000万の妖魔出現! 直進して来ます!」
「!」
「「虎」の軍から入電! 《デスキング》がパリから来ます!」
「なんだと!」
マクシミリアンは全軍に命じた。
「虎騎士団! 妖魔を各個撃破!」
全員が進軍する。
「コハクさん、もうちょっと付き合って頂けますか?」
「もちろんだぁ!」
虎白に命じられる前に、石神家の剣士たちは新たな敵勢力に突っ込んで行った。
マクシミリアンは大笑いした。
「あの人たちは何も命ずる必要はないな」
「そうですねぇ」
マクシミリアンも笑いながら「スルトミリアン」を抜いて妖魔軍に向かった。
地を覆うほどの大軍団は見る間に数を減らして行った。
機動力のある「虎騎士団」が妖魔軍の左右にとりつき、「レーヴァテイン」を1キロまで伸ばして駆逐していく。
石神家の剣士たちは思うままに中央に突入し、次第に大穴を空けて行った。
「《デスキング》! 来ます!」
仲間の認識コードを受信し、高空に士王が来たことが知らされた。
「全軍退避!」
マクシミリアンの号令で、虎騎士団たちが妖魔軍から離れる。
石神家の剣士たちも自然に離れた。
高空から紫色の螺旋の光が地上に撃ち込まれた。
数キロの直径の光が、妖魔軍を覆い、地上が弾け飛んだ。
「「テンライカ(天雷華)」だな」
「初めて見ました!」
地上に、身長185センチの鍛え上げた体躯の青年が降りて来る。
長髪に緩くウェーブがかかり、美丈夫の青年だった。
「ヘルガー騎士団長ですね」
「マクシミリアンと呼んでくれ。君がシオウか」
「はい。父に命じられて来ました」
「イシガミによく似ているな」
「ありがとうございます」
士王が笑い、その笑顔も石神にそっくりだと思った。
妙に人懐っこい、誰もが好きになる笑顔だった。
「さて、何か出て来るかな」
「必ず。妖魔の増援の報を聞いて、父が確信しています」
石神家の剣士たちも来た。
「よう! 士王!」
「虎白さん! お久し振りです!」
「まだ生きてんだよ!」
「アハハハハハ!」
他の剣士たちも士王を囲んで親しく話していた。
戦場の空気が変わった。
全員が一つの方向を向いた。
黒い瘴気が集まり、体長2メートル半の何かが生まれた。
「お、意外と小さいな」
「そうですね」
鋼鉄のような身体だが、骨組みのような構成だった。
40センチほどのスパイクに覆われ、頭部はパイロンを横にしたような形で、尖った先端に牙の密集した口のようなものがある。
右手にはスパイクを並べた弓のようなものを持っていた。
「スピードタイプか」
虎白が言った。
「そうですね。あのスパイクを打ち出すって感じですか」
「誰が行く?」
「え、みんなでやるんじゃ?」
「士王! お前! よく分かってるじゃねぇか!」
そう言いながら、虎白と士王、マクシミリアンとが怪物に向かった。
状況によっては、他の人間も応援に出るということは、全員が心得ていた。
強力な超妖魔には単純な人海戦術は犠牲を増やすばかりだ。
士王が言った「みんな」とは、初見で対応できる人間たちという意味があった。
50メートルまで近づいた時、怪物は高速移動しながら、何かを打ち出して来た。
虎白が日本刀で払い、他の二人も回避した。
「なんだ? 俺一人で良かった?」
「虎白さん、喰らってますよ」
「ん?」
虎白の右腿に、直径5ミリ長さ30センチ程の針が刺さっていた。
「ああ! 俺が老眼なのを知ってやがったかぁ!」
「大丈夫ですか?」
「問題ねぇ!」
士王が前に出て、怪物に向かった。
お互いに高速移動をしながら距離を縮めて行く。
虎白とマクシミリアンも左右から怪物に迫った。
士王が「槍雷」を放った。
軌道を予測し、怪物の腹部に命中する。
怪物の骨格のようなものを少し削ったが、動きに変化は無かった。
士王がもう一度「槍雷」を撃つ。
怪物はまたそれを余裕をもって喰らった。
右足が四散した。
「士王! お前も汚い戦い方を知ってるな!」
「アハハハハハ! 仇は討ちましたよ!」
一度目は効果のない程度の威力で。
それに安心させ、二度目は高出力の威力で放った。
動けなくなった怪物に、三人が一斉に襲い掛かる。
士王は頭部に「オロチストライク」を。
虎白は腹部に「レーヴァテイン」を。
マクシミリアンは胸部に「スルトミリアン」を。
士王の攻撃がレジストされた。
「士王! てめぇ! 半端なことをすんじゃねぇ!」
「すみません!」
しかし、他の二人の攻撃もほとんど効果は無かった。
切り裂かれた骨格はすぐに再生する。
士王が破壊した右足も再生していた。
同時に怪物が高速移動し、またスパイクを撃ち込んで来る。
「ちょっと硬い奴だな」
「面倒ですね」
士王が空中に飛んだ。
怪物の直上に迫り、右手の人差し指を向けた。
指先から何かの糸のような線が伸び、怪物の頭部に当たった。
頭部が崩れ、互いに激しい電光を結びながら崩壊していく。
その下の胸部も腹部も両手両足も同様の現象で崩壊した。
怪物の破片が地面に散らばり、やがて細かな粉末となって消えた。
「あんだよ、今のは?」
「父の「龍牙」を改変しました。名前はありませんが」
「付けろよ」
「必要です?」
「カッコイイだろう! 俺らの奥義もみんな一生懸命考えて付けてんだ」
「そうですか」
マクシミリアンが大笑いした。
「なんだかよく分からないうちに終わったな」
「俺ら、結構斬ったぜ?」
「そうだな。礼金はちゃんと用意するよ」
「それとよ。余ってる洋剣もくれねぇか?」
「分かった、用意する」
虎白は満足そうに笑った。
「じゃあ、宴会だな!」
「俺はこれで帰りますよ」
「なんだよ、士王! お前も付き合えよ!」
「彼女を待たせてるんで」
「あんだと?」
「最近知り合った子で、いい感じになってたとこだったんですよ」
「けっ! お前はまったく高虎の子だな! あいつみてぇにあちこちで子どもを産ませんじゃねぇぞ!」
「アハハハハハ!」
みんなで笑っていた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
(士王ちゃん以外は知らない人ばっかだったなー)
響子は今観た夢を思い返していた。
(でも、なんかみんな余裕だった。これまでは危なくて、死んじゃった人もいるけど)
戦闘を楽しんでいる場面さえあった。
特に士王の力は圧倒的だった。
(なんだろう。何かが変わった? 全然負ける気がしなかった)
「レイ」
響子はまだ薄暗い空間に向かって呼び掛けた。
響子にだけ見える、大きな虎が枕元に顔を乗せて来た。
響子は嬉しそうにその広い額を撫でた。
「ねぇ、何か未来が変わって来たように思うの? どうなのかなー」
虎は口を開けた。
吼えはしない。
「そうなんだ。やっぱりね。タカトラがまた大きな試練を乗り越えたからなんだね」
虎は響子の顔を優しく舐めた。
響子が喜ぶ。
「タカトラ、がんばって!」
響子はまた目を閉じて眠った。
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