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モハメド・ライダー
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土曜日の午後。
秋田の岡庭から洋梨が大量に届いた。
俺の好物だと知ってから、いつも送ってくれる。
亜紀ちゃんが狂喜した。
亜紀ちゃんも大好きだからだ。
手紙があって、読んでみた。
奥さんのコングが妊娠したと書いてあった。
亜紀ちゃんにも教えた。
「おめでたいですね!」
「そうだな!」
早速、お祝いをと言う亜紀ちゃんを止めた。
「こういうことは、ちゃんと元気に生まれてからだ」
「あ! そうでした!」
俺は手紙を書いて、お祝いと洋梨の御礼を伝えた。
亜紀ちゃんはすぐに人数分を冷やして、今日の三時のお茶に出すと言った。
「明日はコンポートとタルトを作りますね!」
「おお、楽しみだな!」
岡庭は毎回最高の物を、しかも熟したものを送ってくれる。
だから早く食べなければいけない。
50個ほどだが、まあうちならば捌ける。
4個ずつ、早乙女と左門の所へも持って行った。
「トラ兄さん!」
「よう! ちょっとだけなんだけどさ。頂き物のおすそ分けに来た」
「ほんと! 上がってよ!」
左門が笑顔で中へ入れてくれた。
俺は洋梨を左門に渡した。
「秋田の同級生でな。いつも沢山送ってくれるんだ」
「そうなんだ! 果物は大好きだよ!」
リーもいて、三人でお茶を飲んだ。
リーが早速切ろうとするので、うちに沢山あるから二人で食べてくれと言った。
「岡庭君って言うんだけどな。やっと奥さんが妊娠したらしい」
「そうなんだ!」
「お前らはまだかよ」
「「アハハハハハ!」」
「根性が足りねぇなぁ」
「そんなことないよ!」
二人で毎晩どう頑張っているのかを説明してくれた。
もういいです。
早乙女の家に行った。
早乙女は怜花を連れて庭を散歩していた。
まあ、散歩できるほど広い家だ。
「石神!」
「よう!」
俺は同級生から送られたものだと言って、洋梨を見せた。
「ちょっと上がって行けよ!」
「いいよ。さっき左門の所でお茶をもらったばかりなんだ」
「そう言わずにさ!」
俺は笑って中へ入った。
玄関にやはり「柱」たちが立っていて、また「オチンチン小柱」のポーズで出迎える。
「お前が来るとこれをするんだよなぁ」
「アハハハハハ!」
俺のせいじゃねぇ。
上でやっぱり紅茶を貰った。
雪野さんが怜花に洋梨の匂いを嗅がせている。
怜花が笑顔で洋梨を触っていた。
「最近困ってることはないか?」
早乙女は何も無いと言っていたが、一瞬雪野さんを見た。
あるのだ。
「なんだよ、何でも俺に話せよ」
「うん。実はモハメドさんのことなんだけど」
「モハメド?」
早乙女は困ったように話し始めた。
「少し前に気付いたんだけど、モハメドさんは毎晩この家の中の見回りをしてくれているんだ」
「ああ、そうだろうな」
妖魔は眠る必要は無い。
だから早乙女たちが眠ってから、屋敷の中を見回っているのだろう。
「それでな。モハメドさんの移動手段というのがな」
「ああ」
モハメドの身体は小さい。
「ゴキブリに乗ってるみたいなんだ」
「あ?」
「モハメドさんが操るみたいなんだよ。ランたちも知っていたらしいんだけどな」
早乙女がある日、室内のゴキブリを見つけたランがそのまま見逃したことから不審に思ったらしい。
なぜ処分しないのかと聞いてみたら、「モハメドさんのお車ですので」と言われたそうだ。
「理由を知ればなるほどということなんだけどさ。ちょっとなぁ」
「なるほどな。モハメド!」
《はーい》
モハメドが早乙女の肩から降りてテーブルに着地した。
「お前さ、高速移動ってできねぇのか?」
《はーいー。距離を「殺し」て瞬間移動も出来るのですが―》
「どうなるんだ?」
《空間にー、異常な現象が起きるのでー》
「そうだろうな」
よくは分からんが、なんか不味いらしい。
「じゃあ、ランとかに頼めよ」
《そうなんですがー。でも自分で疾走する感覚が欲しくてー》
「ああ」
まあ、分からないでもない。
俺も自在に動かせるマシンがいい。
「早乙女」
「ああ」
「もう、しょうがないんじゃないか?」
「いしがみー」
仕方が無いんで、ちょっと考えてみると言った。
俺は3時のお茶の時間に子どもたちに相談した。
「ゴキブリが殺されない家なんておかしいよ!」
ゴキブリ虐殺者の亜紀ちゃんと双子が怒った。
「絶対になんとかする!」
「頼むな」
「ちょっと待ってよ! モハメドさんの身体で操作するものって難しいよ!」
皇紀が慌てて言った。
「皇紀ちゃんなら出来る!」
「おねがい!」
双子に両側からチューをされた。
「まかせなさーい!」
ニコニコして請け負った。
まあ、こいつの良い所なのだが。
皇紀が操縦・制御系を開発し、双子が駆動部分を担った。
第一号機 「モハメド・ゲール」
モーター四輪車で、小さなボタン操作で動く。
見た目はオープンカーのような形だ。
「すいませーん。操作出来ませーん」
「……」
難しいらしい。
第二号機 「モハメド・タイフーン」
ドローンのようなタイプだ。
今度は皇紀が頑張って、霊素制御で駆動する回路を作った。
「すいませーん。操作出来ませーん」
「……」
皇紀が考えた制御と、モハメドが操る霊素の構造が違うようだった。
第三号機 「モハメド・トルネード」
またドローン・タイプだ。
今度はモハメドの体重移動を感知して動く。
前傾すると前に進み、左右に体重移動すると曲がる。
後ろに体重を乗せると止まる。
上昇下降も身体を動かして可能だ。
超繊細なセンサーを開発していた。
「お前、よく作ったな」
「はい!」
今度は自信作のようだ。
モハメドも感心していた。
「いきますよー!」
最初のスターターボタンだけは押す。
4つのファンが回転し、空中へ上がった。
モハメドが前傾して前に進んだ。
「「「「オォー!」」」」
俺と皇紀、双子が喜んだ。
天井近くまで上がってモハメドが前後左右に飛行する。
エアコンの吹き出し口の下を通った。
繊細なセンサーが風の影響を受け、床に突っ込んだ。
機体は大破したが、モハメドは無事だった。
「「「「……」」」」」
蓮花からの定期報告を受けた。
順調で問題はなく、またいつもの「シャドウさん情報」を聞かされた。
いつも他愛のない内容で、シャドウが何を食べて喜んだとかという内容だ。
蓮花が楽しそうに話すので、俺も黙って聴いていた。
「新しいおうちが素晴らしいって言ってました!」
「そうか。良かったな」
「中にいると温かくて快適だって喜んでましたよ!」
「そうか。まあ、何かあったら遠慮なく言って貰ってくれ」
「はい!」
以前のシャドウの山小屋を撤去して、鉄筋の建物を与えたが、気に入ってくれたようだ。
俺ははたと思いついた。
秋田の岡庭から洋梨が大量に届いた。
俺の好物だと知ってから、いつも送ってくれる。
亜紀ちゃんが狂喜した。
亜紀ちゃんも大好きだからだ。
手紙があって、読んでみた。
奥さんのコングが妊娠したと書いてあった。
亜紀ちゃんにも教えた。
「おめでたいですね!」
「そうだな!」
早速、お祝いをと言う亜紀ちゃんを止めた。
「こういうことは、ちゃんと元気に生まれてからだ」
「あ! そうでした!」
俺は手紙を書いて、お祝いと洋梨の御礼を伝えた。
亜紀ちゃんはすぐに人数分を冷やして、今日の三時のお茶に出すと言った。
「明日はコンポートとタルトを作りますね!」
「おお、楽しみだな!」
岡庭は毎回最高の物を、しかも熟したものを送ってくれる。
だから早く食べなければいけない。
50個ほどだが、まあうちならば捌ける。
4個ずつ、早乙女と左門の所へも持って行った。
「トラ兄さん!」
「よう! ちょっとだけなんだけどさ。頂き物のおすそ分けに来た」
「ほんと! 上がってよ!」
左門が笑顔で中へ入れてくれた。
俺は洋梨を左門に渡した。
「秋田の同級生でな。いつも沢山送ってくれるんだ」
「そうなんだ! 果物は大好きだよ!」
リーもいて、三人でお茶を飲んだ。
リーが早速切ろうとするので、うちに沢山あるから二人で食べてくれと言った。
「岡庭君って言うんだけどな。やっと奥さんが妊娠したらしい」
「そうなんだ!」
「お前らはまだかよ」
「「アハハハハハ!」」
「根性が足りねぇなぁ」
「そんなことないよ!」
二人で毎晩どう頑張っているのかを説明してくれた。
もういいです。
早乙女の家に行った。
早乙女は怜花を連れて庭を散歩していた。
まあ、散歩できるほど広い家だ。
「石神!」
「よう!」
俺は同級生から送られたものだと言って、洋梨を見せた。
「ちょっと上がって行けよ!」
「いいよ。さっき左門の所でお茶をもらったばかりなんだ」
「そう言わずにさ!」
俺は笑って中へ入った。
玄関にやはり「柱」たちが立っていて、また「オチンチン小柱」のポーズで出迎える。
「お前が来るとこれをするんだよなぁ」
「アハハハハハ!」
俺のせいじゃねぇ。
上でやっぱり紅茶を貰った。
雪野さんが怜花に洋梨の匂いを嗅がせている。
怜花が笑顔で洋梨を触っていた。
「最近困ってることはないか?」
早乙女は何も無いと言っていたが、一瞬雪野さんを見た。
あるのだ。
「なんだよ、何でも俺に話せよ」
「うん。実はモハメドさんのことなんだけど」
「モハメド?」
早乙女は困ったように話し始めた。
「少し前に気付いたんだけど、モハメドさんは毎晩この家の中の見回りをしてくれているんだ」
「ああ、そうだろうな」
妖魔は眠る必要は無い。
だから早乙女たちが眠ってから、屋敷の中を見回っているのだろう。
「それでな。モハメドさんの移動手段というのがな」
「ああ」
モハメドの身体は小さい。
「ゴキブリに乗ってるみたいなんだ」
「あ?」
「モハメドさんが操るみたいなんだよ。ランたちも知っていたらしいんだけどな」
早乙女がある日、室内のゴキブリを見つけたランがそのまま見逃したことから不審に思ったらしい。
なぜ処分しないのかと聞いてみたら、「モハメドさんのお車ですので」と言われたそうだ。
「理由を知ればなるほどということなんだけどさ。ちょっとなぁ」
「なるほどな。モハメド!」
《はーい》
モハメドが早乙女の肩から降りてテーブルに着地した。
「お前さ、高速移動ってできねぇのか?」
《はーいー。距離を「殺し」て瞬間移動も出来るのですが―》
「どうなるんだ?」
《空間にー、異常な現象が起きるのでー》
「そうだろうな」
よくは分からんが、なんか不味いらしい。
「じゃあ、ランとかに頼めよ」
《そうなんですがー。でも自分で疾走する感覚が欲しくてー》
「ああ」
まあ、分からないでもない。
俺も自在に動かせるマシンがいい。
「早乙女」
「ああ」
「もう、しょうがないんじゃないか?」
「いしがみー」
仕方が無いんで、ちょっと考えてみると言った。
俺は3時のお茶の時間に子どもたちに相談した。
「ゴキブリが殺されない家なんておかしいよ!」
ゴキブリ虐殺者の亜紀ちゃんと双子が怒った。
「絶対になんとかする!」
「頼むな」
「ちょっと待ってよ! モハメドさんの身体で操作するものって難しいよ!」
皇紀が慌てて言った。
「皇紀ちゃんなら出来る!」
「おねがい!」
双子に両側からチューをされた。
「まかせなさーい!」
ニコニコして請け負った。
まあ、こいつの良い所なのだが。
皇紀が操縦・制御系を開発し、双子が駆動部分を担った。
第一号機 「モハメド・ゲール」
モーター四輪車で、小さなボタン操作で動く。
見た目はオープンカーのような形だ。
「すいませーん。操作出来ませーん」
「……」
難しいらしい。
第二号機 「モハメド・タイフーン」
ドローンのようなタイプだ。
今度は皇紀が頑張って、霊素制御で駆動する回路を作った。
「すいませーん。操作出来ませーん」
「……」
皇紀が考えた制御と、モハメドが操る霊素の構造が違うようだった。
第三号機 「モハメド・トルネード」
またドローン・タイプだ。
今度はモハメドの体重移動を感知して動く。
前傾すると前に進み、左右に体重移動すると曲がる。
後ろに体重を乗せると止まる。
上昇下降も身体を動かして可能だ。
超繊細なセンサーを開発していた。
「お前、よく作ったな」
「はい!」
今度は自信作のようだ。
モハメドも感心していた。
「いきますよー!」
最初のスターターボタンだけは押す。
4つのファンが回転し、空中へ上がった。
モハメドが前傾して前に進んだ。
「「「「オォー!」」」」
俺と皇紀、双子が喜んだ。
天井近くまで上がってモハメドが前後左右に飛行する。
エアコンの吹き出し口の下を通った。
繊細なセンサーが風の影響を受け、床に突っ込んだ。
機体は大破したが、モハメドは無事だった。
「「「「……」」」」」
蓮花からの定期報告を受けた。
順調で問題はなく、またいつもの「シャドウさん情報」を聞かされた。
いつも他愛のない内容で、シャドウが何を食べて喜んだとかという内容だ。
蓮花が楽しそうに話すので、俺も黙って聴いていた。
「新しいおうちが素晴らしいって言ってました!」
「そうか。良かったな」
「中にいると温かくて快適だって喜んでましたよ!」
「そうか。まあ、何かあったら遠慮なく言って貰ってくれ」
「はい!」
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