富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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真島さん

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 四谷の地下の亡霊を退治した土曜日の夜。
 ちょっと気まずい夕食の後、みんなで「虎温泉」に入った。
 俺が気を遣って楽しい話で盛り上げ、いい雰囲気になった。
 良かった。
 でも、俺がかき氷を作ると言うと、止められた。
 双子が作って配った。

 「あー! もう寒いけど温泉の中で喰うかき氷はいいな!」
 「そうですね!」

 みんなでニコニコして食べる。
 ロボボートに乗ったロボにも少しやる。

 「今度ゆっくり旅行にでも行くか」
 「いいですねー!」

 まあ、忙しいのだが、今日のこともあったのでサービスするつもりだった。
 温泉から上がって、みんなで「幻想空間」で飲む。

 マグロとアボカドサラダ。
 ジャガイモの素揚げ。
 タコワサ。
 後は子供たち用の唐揚げとハム焼きだ。
 軽く飲んで終わるつもりだった。

 「そう言えば、タカさんはあんまり海に行かないですよね?」

 少し旅行の行き先の話をして、亜紀ちゃんが聞いて来た。

 「まあ、そうだなぁ」
 「山とかは多いですけど」

 「前に海水浴に誘った時も来ませんでしたよね!」

 柳が不満げに言う。
 
 「暑いのに浜辺はなぁ」

 皇紀と双子は「喰い」に夢中だ。

 「あ! 何かまた嫌な思い出があるんですか!」
 「またとか言うな!」
 「だって! 京都とかDランドとか花火大会とか!」
 「あ、あれはだなぁ!」
 「海も苦手だったら言って下さい!」

 亜紀ちゃんが真剣に聞いて来る。

 「別にそうじゃねぇよ。ドライブとかでもよく行くだろう」
 「ああ!」
 「な。別に苦手じゃないんだけどな」
 「良かったぁ!」

 みんながホッとした。

 「まあ、俺はそうでもないんだけど、他人に嫌な思いをさせたことはあるんだけどなぁ」
 「なんです?」
 「子どもの頃だよ。ばあちゃんが横浜の金沢文庫で暮らしてたって話はしたことあるよな?」
 「ええ、造船会社の寮母さんですよね?」
 「そうだ。広い寮だったから、夏休みとかよく遊びに行ってたんだよ」
 「そうなんですか!」
 「それでよく行くんで、造船会社の人たちにも可愛がってもらってな。俺が泊りに行って、後からお袋が来て一緒に帰るというのが定番だったんだ」
 「楽しそうですね!」
 
 子どもたちも笑顔で聴いている。
 
 「親父も時々来てなぁ。まあ、釣りが目的だったけどな」
 「へぇー!」

 どんな寮だったのか話してやった。
 大体、20人くらいが寮に住んでいた。
 みんないい人たちで、俺にも楽しい思い出になっている。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「トラ! また遊びに来たのか!」
 「うん! 真島さん、またよろしくお願いします!」

 寮で一番の古株が真島さんだった。
 社歴もそこそこあるのだが、まだ平社員だ。
 気さくでいい人で、もちろん俺のことも可愛がってくれていた。
 その時は小学校3年生だった。

 「また花火をやろうや!」
 「ほんとですか!」



 昨年、寮で給料を盗まれるという事件があった。
 丁度俺が遊びに行っていた時だった。
 昔は給料は現金を手渡しだった。
 みんな給料袋を持って帰って、それぞれ翌日なりに自分で銀行へ預けたりする。
 それが給料日に、寮で暮らしていた一人が給料袋ごと無くなっていた。
 大騒ぎになった。
 警察を呼ぶ前に、みんなで確認した。
 寮にずっといたという真島さんが怪しまれた。
 時々仮病でずる休みをすることで、真島さんは出世出来なかった。

 本社に呼ばれ、真島さんが自分じゃないと言っても全然信用してもらえなかった。
 自主退職を勧められたというか、強制された。
 人事の人が真島さんの勤務態度の状況から、気に喰わない人間だと判断していた。

 その日、真島さんは俺を誘って駄菓子屋へ連れて行ってくれた。
 俺も事情は知っていた。

 「トラ、幾らでも買っていいぞ」
 「え、でも……」
 「遠慮すんなよ! もう金なんてどうでもいいんだ!」
 「真島さん……」

 俺が買わないので、真島さんが選んでどんどん選び、大量の花火も買った。
 二人で夜の浜辺に行って花火をした。
 当時は寮の目の前が海岸になっていた。

 自分は缶ビールを片手に花火に火を点けてくれ、俺にどんどんやらせた。
 
 「真島さん! 次はこれ!」

 俺も務めて楽し気に振る舞った。
 しかし、いつしか真島さんの手が震えて花火に火が点かなかった。
 


 真島さんが泣いていた。



 「俺は何もしてないんだ! でも、誰も俺のことを信じてくれないんだよ!」
 「真島さん……」
 「トラ、俺は何が悲しいってさ。仲間だと思ってた奴らに信じてもらえないことが悔しいんだよ! 悲しくってしょうがないんだよ!」

 真島さんが本当に泣き出した。
  
 「真島さん! 俺は信じるよ! 真島さんは絶対に盗みをする人じゃない! 俺、知ってるよ!」
 「トラぁー!」

 真島さんが落ち着くのを待って、花火は辞めて寮に戻った。
 俺は盗まれたという人の部屋に行き、もう一度よく探してもらうよう頼んだ。
 他の人にも頼んだ。
 みんなに真島さんが信じてもらえないと泣いていた話をした。
 全員が集まった。

 「真島さんは絶対に盗んでない! 絶対にどこかにあるよ!」

 俺も半泣きで頼んだ。
 真島さんが可哀そうだ。

 「おう、みんなそう思ってるよ。真島さんは真面目な人だ」
 「そうだそうだ! 俺も何度も世話になってる!」
 「いつも相談に乗ってくれるんだ!」

 みんな真島さんに悪かったと謝っていた。
 元々みんなは真島さんだと言ったことはない。
 ただ、本社の人は仕事が今一つで時々仮病で欠勤し、酒好きでギャンブルもやり、何よりも当時はいい年をして結婚もしていないということが評価を下げた。
 真島さんは40過ぎだった。

 「おい、もう一度、給料日のことを思い出せよ」
 
 誰かが盗まれたという人に、記憶を聞いた。

 「給料日だから飲みに行ってさ。それでお袋に手紙を出して。そのまま帰って来たんだ。給料袋は開けてない。ちゃんと持ち帰ったはずなんだ」
 「そうかぁ」

 みんなは絶対に真島さんを信じていると言い、みんなで本社に掛け合うと言っていた。

 翌日。
 郵便局から会社に連絡があったそうだ。
 給料袋がポストに投函されていた。
 手紙と一緒に、間違えて入れてしまったらしい。
 会社名と住所が給料袋に印刷してあった。

 本社の人間が平謝りに謝って、真島さんは特別に係長に昇格した。
 給料も上がった。
 寮のみんなも喜び、盗まれたと言っていた人も物凄く謝った。

 「いいよ、良かったよ! 俺は本当に嬉しいよ!」

 真島さんが泣いて、俺に抱き着いて来た。

 「トラ! 本当にありがとうな!」
 「良かったですね! 真島さん!」




 俺も最高に嬉しかった。
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