富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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地下の亡霊 Ⅱ

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 「虚震花」を撃とうとする亜紀ちゃんを俺が止めた。

 「よせ! 崩壊する可能性がある!」
 「た、た、タカさん! どうすれば!」
 「全員「絶花」を使え!」

 双子は早くも失神していた。
 柳が頬を張っている。

 「お前ら! 大日本帝国陸軍か!」

 亡霊たちは黙っている。

 「何が望みだ!」

 俺は気合を入れて対峙した。
 未知の存在には絶対にビビってはいけない。
 亡霊たちが薄ら笑いを浮かべていた。

 「なんだ!」

 「お前の右手をもらう」
 「俺は左手だ」
 「俺は足を」
 「俺は心臓を」
 「俺は左目を」

 次々に身体の部位を語って行く。

 「ふざけるな! お前らには何一つ渡さん!」

 亡霊たちが哄笑するのが聞こえた。
 身体の熱を奪われる感覚があった。

 「こいつ、なかなか命が強いぞ」
 「手間取りそうだ」
 「殺すか」
 「他の連中は奪えそうだ」

 亜紀ちゃんと柳が脅えている。
 双子は目を覚まさない。
 俺は「虎王」を抜いた。
 亡霊たちが慄く。

 「おぉぅ! それはなんだ!」
 「てめぇら! 俺の大事な子どもたちをどうにかしようってかぁ!」
 「やめろ! それは仕舞え!」
 「バカか! 殺そうって奴の言う通りにするかよ!」
 
 俺は前に出て日本兵を斬った。
 斬り口が輝いた。
 ヘッドライトが消えた。
 漆黒の闇に覆われるが、「虎王」が奴らの位置を教えてくれる。
 俺が斬ると光が生じ、一瞬辺りが見える。
 日本兵が恐怖の顔を浮かべている。

 「ギャハハハハハハ! 亡霊ライトだぁー!」

 日本兵たちが逃げ惑うのが見える。

 「亜紀ちゃん! 柳! 振るライトを使え!」
 「「はい!」」

 二人が必死にライトを振っている音が聞こえた。
 やがて二人のライトが点灯し、また部屋の中がぼんやりと見えて来た。
 もう亡霊はいない。
 部屋のライトも灯った。
 念のため、俺たちのライトも消さない。
 亜紀ちゃんが双子に思い切りビンタをかます。

 「「いたいよー」」

 目を覚ました。
 ルーが鼻血を出している。

 「おう! 仇は討ったぞ!」
 「タカさんがまただましたー!」
 「タカさんのせいじゃん!」
 「うるせぇ!」

 「もう許せない!」
 「お前ら! 俺のためになんでもするって言っただろう!」
 「じゃあ最初から話してよ!」
 「そうしたら、お前ら絶対に来ないだろう!」
 「「うん!」」
 「このやろう!」

 双子と掴み合う俺を、亜紀ちゃんと柳が止めた。
 一旦休憩した。
 その間に、御堂から日本兵の亡霊を何とかしてくれと頼まれたと話した。
 子どもたちが呆れていた。

 「まあ、悪かったって」
 「タカさん、独りで来ればよかったじゃん」
 「コワイだろう!」

 柳が、もう仕方が無いと言って他の三人を宥めた。

 「石神さんがお肉を焼く時は気を付けよう」
 「「「うん!」」」

 「てめぇら!」

 まあ、争っていても仕方が無いので、お互いに収めた。

 「まあ、お前らを連れて来たのは本当に必要だったからだよ」
 「そうですかね!」

 亜紀ちゃんが多少腹に立つ言い方をしていた。

 「ハー、あいつらの気配は分かるか?」
 「うん。まだいるよ」
 「この部屋の中か」
 「うん」
 「方向は分かるか?」
 「分かる。宙に浮いてるのもいるよ」

 ハーに指差させた。

 「柳! 軽めに「オロチストライク」を撃て!」
 「はい!」

 ハーの示す方向に柳が撃った。
 光が散乱した。

 「あ! 消えたよ!」
 「よし! 全員でどんどんやれ! ルーとハーは指で示せ!」
 「「「「はい!」」」」

 子どもたちにガンガン撃たせ、俺は近づいて来る奴を「虎王」で斬った。
 俺は「虎王」で位置が分かる。
 どんどん光の散乱があちこちで輝いた。

 「「「「「ギャハハハハハハハ!」」」」」

 みんな楽しくなってきた。
 30分もやっていると、段々数が少なくなり、ルーとハーももういないと言った。
 念のため、その先もしばらく歩いてハーに索敵させたが、大丈夫そうだった。
 広間に戻った。

 亜紀ちゃんが背負って来たリュックから魔法瓶を出し、みんなでコーヒーを飲んだ。

 「どうやら片付いたようだな」
 「そうですね!」
 「御堂にも顔向け出来るぜ」
 「良かったですね!」
 「お前たちのお陰だ。騙すような真似をして悪かった!」

 俺は立ち上がって頭を下げた。

 「タカさん、いいんですよ。文句を言っちゃいましたけど、タカさんのためには本当に何でもしますから!」
 「そうか!」

 双子と柳も笑って許してくれた。
 そろそろ帰るかと俺が言うと、ハーがドアがあると言った。
 「オロチストライク」は物理的な破壊力はそれほどなく、しかも崩落を考えて弱めに撃っていた。
 それでも壁に一部が崩れて、ドアが出て来たようだ。
 みんなで近づき、俺がドアを開けた。
 木製で、年月が経っているのが分かる。
 恐らく、戦時中のものだろう。

 中に50畳ほどの部屋があった。
 ライトは無いので、ヘルメットのもので照らす。
 デスクが一つあり、白骨化した遺体が床に散乱していた。
 さっきの亡霊たちのものだろうか。
 数は合いそうだった。

 遺体をなるべく避けながら、みんなで奥のデスクへ行った。
 折り畳まれた奉書紙があり、俺が開いてみんなで読んだ。
 旧仮名遣いで、本土決戦に備えて地下に参謀本部や軍事施設を作るつもりだったことが書いてあった。
 しかし敗戦が決定し、それを受け入れがたい兵士たちがここに集まった。
 全員で割腹自決をし、霊魂となり大日本帝国の礎になることを誓うとあった。

 他にも全員の遺書があり、幾つか開くと故郷の親兄弟、妻や子どもたちのことを祈る思いが綴られていた。

 「「「「「……」」」」」

 「えーと」
 「タカさん……」
 「取り敢えず、謝っとくか」
 「「「「……」」」」

 みんなで土下座した。

 「「「「「すいませんでしたー!」」」」」

 「恨むなら俺を恨んで下さい! こいつらは俺に騙されて来ただけですから!」
 「タカさん、なんで「虎王」抜いてるんですか?」
 「あ、ああ」

 コワイじゃん。




 地下道を出て、家に帰った。
 麗星に電話して、全部話した。

 「そういうことが! ああ、でもあの「オロチストライク」は成仏させる効果がありますから。結果的にはあなた様方は良いことをされたと思いますよ?」
 「そ、そうかぁ! あの、「虎王」は?」
 「あれは凄まじいものですから。どこまで飛ばされたのかは分かり兼ねます」
 「……」

 子どもたちには、成仏させることをしたらしいと話し、喜ばれた。
 御堂に報告し、部屋の白骨化した遺体を供養して欲しいと話した。
 御堂は必ずそうすると言ってくれた。

 これで大丈夫だろう。
 多分。

 


 その晩、皇紀が蓮花研究所から帰って来た。
 俺は詫びのつもりでまたステーキを焼いた。

 「いや、タカさん。流石に……」

 亜紀ちゃんが言い、柳も双子も食べなかった。
 俺と皇紀とロボで食べた。

 「タカさん! 美味しいですよ!」
 「そうだろう!」
 「なんでお姉ちゃんたちは食べないんです?」
 「あ、ああー」

 亜紀ちゃんたちは自分で焼いて食べた。
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