富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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ロボの日記

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 ジャンニーニたちが帰った翌日。
 俺たちは朝食を食べながら、夕べの鰻が美味かったと話していた。
 そして、年末年始の予定を話した。

 「まず、栞と士王が日本に来る。クリスマスから1月の2日までだ」
 「「「「「はい!」」」」」

 「12月24日はこの家に。院長夫妻も誘うからな。鷹と六花と響子もな」
 「「「「「はい!」」」」」
 「あの麗星も来るから注意しろ!」
 「「「「「アハハハハハハ!」」」」」

 「28日からは群馬だ。嫌だがその日は斬の家にみんなで泊まる」
 「「「「「アハハハハハハ!」」」」」
 「柳、お前は実家にな」
 「はい」
 「蓮花研究所に翌日に1泊。30日は別荘だ。2泊して、元旦に家に帰る。2日からニューヨークとアラスカに各一泊。4日に家に戻って、6日までのんびりする。俺はずっと何もしないからな!」
 「「「「「はい!」」」」」

 六花は今年は「紅六花ビル」には行かないと言った。
 吹雪が生まれた時にずっと一緒だったからと。
 タケやよしこたちも時々遊びに来ていた。
 響子とその間離れていたので、今年の年末は一緒にいたいと思っているのかもしれない。
 鷹もずっと一緒にいる予定だ。

 今日は、夕べロボを預かってくれた礼に早乙女たちを夕飯に誘っていた。

 食後に双子を誘って散歩に出た。
 寄らないが、早乙女家の外周を一周した。

 「タカさん」

 身体能力抜群のハーがバク転をしていて何かを見つけた。

 「どうした?」

 ハーが外塀の一部を指差している。
 
 「ん?」

 近づいてよく見ると、何かで引っ掻いたような傷がズラッとあった。
 
 「なんだこりゃ。イタズラか?」
 「なんだろね?」

 ルーも一緒に見た。
 ハーに全部写真を撮っておけと言った。
 ハーがスマホで順番に記録していく。

 「イタズラにしちゃちょっとおかしいな」
 「そうだよね?」

 小さな傷で、何と言うか、相当低い位置に並んでいる。
 普通に歩いていては、絶対に見つからないだろう。
 塀に悪戯をしたと言うよりも、何かを「書いて」いるような感じもあった。
 
 「他の場所も見てみよう」
 「「はい!」」

 俺たちは空中に上がった。
 上空から全体を眺めて移動しようと思った。

 「あ、ロボだ!」
 
 ハーが見つけた。
 ロボがトコトコ歩いて来る。
 ちょっと様子を見ていると、あの傷のある壁の前で止まった。
 前足で壁をこすっている。

 「「「ん?」」」

 三人で地上に降りた。
 途中でロボが俺たちに気付く。

 「おい、ロボ」
 「にゃ!」

 ロボが驚いていた。

 「お前がこの傷を作ってたのか」
 「……」

 何故だか、ロボが物凄く恥ずかしがっている。
 大きな身体を目一杯に使って隠そうとしている。
 とてもそれでは足りない程多く書かれていたが。
 
 「これは何をやってたんだ? 爪とぎ?」

 うちの中ではロボは爪とぎをしない。
 適当に外でやっているのだろうと思っていた。
 時々、俺が爪を切っているが。
 でも、爪とぎではないことは分かっている。
 爪の先で傷つけているという感じだ。

 「まあいいけどな。でもここは早乙女の家の、ああ、まあ、あいつならいいや」
 
 俺は笑ってロボの頭を撫でた。
 ロボに好きなようにさせて、双子とJR中野駅に向かった。
 いつものように公園でまったりし、ソフトクリームを食べて、今日は別な店で汁粉を食べて帰った。

 「もうちょっと食べたかったな」
 「帰ればすぐに昼飯だ!」
 「「アハハハハハハ!」」




 昼食はカレーうどんだった。
 最近多い。
 カレーライスだと悪魔のように喰う連中だが、カレーうどんは普通だ。
 せいぜい3杯程度。
 何故だか分からん。

 ハーがさっき見つけたナゾのロボ描きをみんなに話した。
 俺の後ろでハマチを食べていたロボがピクっとした。
 ハーがみんなにスマホの画像を見せている。
 ロボがトコトコ行って、ハーのスマホを持った腕を跳び上がってはたいていた。
 
 「なに、嫌なの?」
 「にゃうー」

 何か訴えているようだった。
 俺は可愛そうだからやめてやれと言った。
 なんなのだろう?
 俺の所に来て、膝の間に顔を埋めた。
 ちょっと魚臭い。

 


 3時になり、早乙女たちが来た。
 雪野さんにロボがじゃれる。
 雪野さんも嬉しそうにロボの頭を撫でた。

 コーヒーと、ピエールマルコリーニのチョコレートを出す。
 一人4つまでに限定している。
 本当はそれでも多いのだが。
 贅沢にバクバク食べるものではない。

 お茶を終えて、早乙女が最近ピアノを始めたと聞いたので、地下に誘った。
 まあ、ひでぇ演奏だった。

 「お前よ、どうしてもうちょっと何とかなってから話さないんだよ!」
 「すまん」

 雪野さんが怜花を抱きながら大笑いしていた。

 「まあ、お前はピアノが似合ってるよ。練習していくといいと思うぞ」
 「ほんとか!」

 嘘だが、一日中雪野さんと怜花にまとわりついているのだろうから、丁度いい。

 「ああ、ところでよ。さっき散歩の途中で見つけたんだ」

 構わないだろうが、一応うちのネコがやったことだ。
 家主に話しておこうと思った。
 内線でハーにスマホを持って来いと言った。

 「ほら、これなの」
 
 ハーが画像を開いて二人に見せる。

 「20メートルになってたかな」
 「随分だな」
 「うちのロボが申し訳ない」
 「いいよ、全然構わない」

 大谷石の外塀だが、一番下は磨き上げている。
 それが高さ50センチ程になっている。
 そこにもライトが埋め込んであり、足元が美しく幻影的に照らされる設計だ。

 「でも、なんだろう?」
 「よく分からないよな」

 雪野さんがスマホを持ってずっと見ていて言った。

 「何かの文字に見えません?」
 「「「え?」」」

 みんなでもう一度見た。
 
 「確かに、言われればそう見えるな」
 「そうだね」

 「一体、いつから書いてるのかな」
 「さーなー」

 俺も分からん。
 文字だとすると、もう数万字にもなっていそうだ。

 「あ、おんなじ形が幾つもあるよ!」

 ハーが気付いた。
 ならば、やはり適当に刻んでいるのではないのだろう。

 「あいつ、結構頭がいいからなぁ」
 「私たちの言葉が分かるもんね!」
 「言うこと聞かないことも多いけどな」
 「アハハハハハハ!」

 ハーが夕飯の支度に戻り、俺たちは一緒に映画を観た。
 雪野さんに選ばせ『アンネの日記』を観た。
 大好きな映画らしい。
 早乙女は初見だ。

 「あのなぁ、あんなにみすぼらしい場所でも、アンネは毎日を精一杯に生き、恋をして死んだ。俺は尊敬するぜ」
 「そうですよね! 私も中学生の時に原作を読んで。それ以来何十回も読みました」
 
 早乙女が雪野さんの思い出を楽しそうに聞いている。

 「あ!」
 「どうしたんです?」
 「石神さん! さっきの塀のあれって、もしかしたらロボちゃんの日記なんじゃないでしょうか!」
 「え?」

 言われても分からないが、あのロボの恥ずかしがり方は、日記であれば分かる。
 まあ、誰も読めないが。

 「そう言えばさ、こないだ蓮花研究所の「Ω」たちが讃美歌を歌っているようだって蓮花が言ってたんだ」
 「まあ!」

 ゴキブリに言語があるのなら、ロボならもっと高度な言語を持っている。
 実際にタマはロボと会話が出来る。
 「にゃー」しか俺には分からんが。
 俺は人間だからだが。

 


 ハーが夕飯が準備できたと呼びに来た。
 手の込んだフレンチにしたので、もう6時を過ぎている。
 みんなで上に上がった。

 ロボが雪野さんに甘えに来る。

 「ロボちゃん、あれって日記なの?」
 「にゃ!」

 ロボが驚いていた。
 
 「やっぱそうなのか」

 俺が言うと、俺の足に頭突きで何度も突進して来る。

 「ああ、悪かった! もう誰も見ないようにするからな!」
 「にゃうー……」

 ロボが悲しそうに鳴いた。
 俺は笑ってマグロを切ってロボの皿に入れた。

 「悪かったって。あのさ、「タカトラ好き」とか書いてあんのか?」
 「にゃうー」

 ロボがまた頭突きをしてくる。

 「タカさん、可哀想ですよ!」

 亜紀ちゃんがロボを抱いて慰めた。

 「悪かったって! もう言わないよ!」

 ロボが俺をじっと見ている。
 
 「ほら、今日は一杯食べろよな」
 「にゃう」

 ロボの頭を撫でてやっていると、ようやくゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
 気のいい奴で良かった。




 しかし、日記なんて書いていたのか。
 一体何を書いているのか。
 まあ、ロボは可愛いネコだ。
 それでいいのだが。
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