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ミユキの来訪 Ⅳ 海水浴
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中学2年生の夏休み前。
ミユキが俺を呼んだ。
二人で学校の屋上に上がる。
「どうしたんだ?」
「うん、私ね、夏休み中に引っ越すことになったの」
「え!」
「福岡にね、お父さんが転勤になっちゃって」
「そうなのかよ!」
「うん。石神くんとも離れちゃうんだ」
「ミユキー!」
突然のことで、俺も驚いた。
南も春に引っ越し、ミユキもいなくなってしまう。
俺の大事な女友達だった。
「あのね、引っ越す前に、石神くんとどこかへ行きたいなって」
「ああ! 行こうぜ! どこでもいいぞ!」
「ほんとに!」
「ああ! あー、でも俺、あんましお金ないから」
まあ、ゼロだった。
「うん、どこでもいいんだ」
「でもさ、一応聞くけど、どっか行きたいとこあるか?」
「海に行きたいな」
「え!」
驚いた。
ミユキは肌を見せるような水着は避けたがっていると思っていた。
中学にはプールがなく、水泳の授業は無かった。
「石神くんと一緒なら、水着になれるから」
「そうか!」
「あ、でも石神くんも水着は嫌だよね?」
「そんなことない! 俺もミユキと一緒なら平気!」
「そう!」
ミユキが喜んだ。
「あ! 横浜の金沢文庫でさ! ばあちゃんが寮母をやってるんだ」
「そうなの!」
「あそこなら俺も毎年泳いでる!」
「じゃあ、そこに行こうか!」
「飯もばあちゃんが作ってくれるよ」
「え!」
「ばあちゃんちに行くんなら、お袋も交通費をくれるし!」
「そうなの!」
そうは言っても、自由になるお金をある程度欲しかった。
俺は金城先輩に頼みに行った。
近所で廃品回収の会社をやっている。
金城先輩は中学を卒業して、すぐに自分の家で働き出した。
「トラか!」
「金城先輩!」
俺は事情を話し、短期間アルバイトが出来ないか相談した。
「お前、中学生じゃん」
「そうですけど!」
「本当は雇えないんだよな」
「そこをなんとかぁー」
金城先輩は父親に話してみると言ってくれた。
「おお、石神くんか!」
「はい! お久し振りです!」
「まあ、話は聞いたよ。いいよ、1週間、学校が終わってから来てよ」
「ほんとですかー!」
俺は翌日から金城先輩の家で働かせてもらった。
やったのは回収して来たものの移動が主だった。
今だから分かるが、俺の手などは必要無かった。
金城先輩の運転するユンボなどで、幾らでも運べたからだ。
でも俺は一生懸命に働いた。
金城先輩もお父さんもよくやってくれると褒めてくれた。
1週間の終わりに、1万円も頂いてしまった。
「これは多すぎですよ!」
「トラ、お金が欲しかったんだろ?」
「はい。2千円くらい」
二人が大笑いした。
「いいからとっとけよ。お前と一緒に働いて楽しかったよ」
「俺もです!」
ありがたくバイト代を頂いて、その二日後にミユキと出掛けた。
「ミユキ、今日は一杯お金があるから!」
「え、そうなの?」
「ああ! 帰りに駅の商店街のシシクラでハンバーグ食べようぜ」
「うん!」
金沢文庫の駅前のアーケード街に、シシクラという洋食屋があった。
ばあちゃんがたまに連れて行ってくれ、そこのハンバーグが最高に美味かった。
バスでJRの横浜線の駅に着き、そのまま横浜駅まで。
そこから京浜急行に乗り換える。
ミユキは白い長袖のブラウスを着て、鍔の広い帽子を被っていた。
暑い中で半袖になれないミユキのために、出来るだけ涼しい場所を確保した。
「ミユキ、ここ、一番風が当たるぞ!」
当時の電車は扇風機しか付いていない。
「うん、ありがとう」
二人で扇風機の風に当たり、笑った。
そんな俺たちを見て、他の乗客も進んで涼しい場所を空けてくれた。
長袖の服を着ているミユキを見て、顔の火傷を見てそうしてくれた。
そういういい時代だった。
金沢文庫の駅に着いた。
ここから少し歩かなければならない。
いつもは歩いて行くのだが、今日はミユキがいる。
バスの時間を見た。
「あと10分だ」
「ピッタリだね!」
「ミユキの日頃の優しさだな!」
「石神くんだよ!」
二人で自動販売機のジュースを飲んだ。
ミユキが自分で出すと言ったが、今日は俺のおごりだと言った。
「どうして今日はお金を持ってるの?」
「ああ、ちょっと」
「家の人がくれたの?」
「まー、そんな感じ」
ミユキのためにアルバイトをしたとは言いたくなかった。
ミユキが気にする。
バスに乗って。ばあちゃんの寮の近くで降りた。
「あ! 海の匂いがする!」
「な!」
俺は寮に行く前に、いい場所に案内した。
「ここが誰もいなくて綺麗なんだよ」
「そうなんだ!」
少し崖を降りて、ちょっとした広場のような場所に出る。
美しい地層が剥き出している崖と、目の前に拡がる海が美しい。
「綺麗だね!」
「な!」
ミユキが喜んでくれて嬉しかった。
ばあちゃんの寮に行った。
「ばあちゃん!」
出て来ないので、勝手に上がってばあちゃんの部屋へ行った。
布団が敷いてあって、ばあちゃんが寝ていた。
「なんだよ、今日来るって言ってただろう」
「ああ、ちょっと調子が悪くて寝込んでる」
「え!」
「大分悪いんだ」
「おい、ばあちゃん! 今日だけは死ぬなよな!」
「なんだと!」
「大事な友達を連れて来たんだ! 今日死ぬと面倒だぜ!」
「トラ! てめぇ!」
物凄い顔で睨まれた。
「頼むから死なないで」
「おう!」
「石神くん……」
「うん、今日は死なないって!」
「……」
俺は空いている部屋へ案内し、ミユキを着替えさせた。
自分もばあちゃんの部屋で着替える。
「ばあちゃん、大丈夫?」
「ぜってぇ死なねぇ!」
「よかったー!」
また睨まれた。
寮の向かいがすぐに海だ。
道路を渡るとすぐに砂浜になっている。
ミユキはワンピース型の白い水着を着ていた。
水着に長袖は無い。
ミユキの左の方から腕、左の腿の火傷の痕が晒されていた。
全然醜くない。
「ミユキ! オッパイ大きいな!」
「やだ!」
俺はミユキの手を引いて海岸に出た。
他にも海水浴客がいる。
二人で海に入った。
ミユキが泳げないと言うので、急いで寮に戻って、誰かの浮き輪を拝借した。
ミユキが喜んで浮き輪を付ける。
俺もミユキの浮き輪に捕まって一緒に泳いだ。
「前にさ、さっきの寮の真島さんって人とここで遊んでたのな」
「うん」
「そうしたら流されちゃって。横須賀まで行っちゃった」
「えぇー!」
「なんか大事件になっててさ。新聞にまで載ったんだ」
「大丈夫だったの?」
「へーき。まあ、昼間だったらヤバかったのかな。日焼けで死んでたかも」
「そうなんだ!」
「真島さんが病院に来てさ。ワンワン泣くんだよ」
「そうだろうね!」
「俺もそんなに心配してもらって申し訳ないって謝ろうとしたんだ」
「それで?」
「もう絶対に二度と俺と海で遊ばないってさ」
「アハハハハハハ!」
「参ったぜ。まあ、親父に散々脅されたんだろうなぁ」
ミユキは笑いながら俺に言った。
「一度だけね、石神くんのお父さんに会ったの」
「え? 親父と?」
「うん。石神くんの家から帰る途中でね。「高虎と仲良くしてくれてありがとう」って。優しそうな人だったよ?」
「親父が!」
「うん」
俺は外面がいいのだと言った。
「前に矢田とか遊びに来ててさ。親父がいて、「牛乳を飲め」って言うんだよ。それで矢田たちが帰って、俺が残った牛乳飲んでたの。そうしたら引っぱたかれてさ。「お前! 贅沢なもの飲んでんじゃねぇ!」って」
「アハハハハハハ!」
「俺が小さい頃はさ、よく後輩とか部下の人とか飲んで連れて来てたな。でも俺が病気するようになってからは、さっぱりだ。親父も楽しいことが出来なくなっちゃった」
「そうなんだ」
いろいろな話をした。
他の連中とは話さないことも、ミユキには何でも話したかった。
昼になり、寮に一度戻った。
ばあちゃんが起きていた。
「大丈夫なのかよ?」
「お前の彼女だろう。飯くらい作ってやる」
「いいよ、俺が作るって!」
ばあちゃんが死んだら困る。
寝ててもらい、ご飯を炊き、鮭を焼いた。
ミユキが美味しいと言って食べてくれた。
「高虎」
「なんだ、ばあちゃん?」
「俺の飯は?」
「あ、ああ!」
忘れてた。
茶碗にご飯を盛り、海苔を出した。
ばあちゃんは俺を睨みながら、一緒に食事をした。
午後も海に行った。
二人で砂で遊んでいると、後ろで若い男たちが話していた。
「おい、あの身体、すげぇな……」
「てめぇ! ミユキが気にしてることを!」
「い、いや、今のはお前の……」
ドコドコドコ! ポーン プカプカ……
「石神くん……」
「おう、やっつけてやったぜ」
「うん……」
そろそろ帰ろうということになった。
ミユキにシャワーを使わせ、俺も次に入った。
さっぱりして、ばあちゃんに挨拶に行った。
「じゃあ、そろそろ帰るからさ」
「おう」
「お世話になりました」
「おう」
「ばあちゃん、死なないでくれてありがとうな!」
「おう」
「あの、お加減大丈夫ですか?」
「ああ、高虎をよろしくー」
大丈夫そうだった。
帰りにシシクラでハンバーグ定食を二人で食べた。
ミユキも美味しいと言ってくれた。
まだ、お金が一杯あった。
ミユキを連れて、アーケード街を回った。
おもちゃ屋の前にガチャがあった。
「ミユキ、回してみろよ!」
一回100円。
当時としては高額だ。
俺が金を出し、ミユキに回させた。
「あ」
プラスチックの指輪だった。
「指輪だー!」
「なんだ、100円も取って随分なものだな」
「いいよ! 凄く嬉しい!」
「そっか」
ミユキが指に嵌め、ケースも大事にバッグに入れた。
二人で帰りの電車の中でも楽しく話した。
俺たちの別れの旅行。
最高に楽しい思い出。
ミユキは翌週に引っ越して行き、俺たちは文通を始めた。
ずっと友達。
俺の大事な友達のミユキ。
ミユキにやっとまた会えた。
ミユキが俺を呼んだ。
二人で学校の屋上に上がる。
「どうしたんだ?」
「うん、私ね、夏休み中に引っ越すことになったの」
「え!」
「福岡にね、お父さんが転勤になっちゃって」
「そうなのかよ!」
「うん。石神くんとも離れちゃうんだ」
「ミユキー!」
突然のことで、俺も驚いた。
南も春に引っ越し、ミユキもいなくなってしまう。
俺の大事な女友達だった。
「あのね、引っ越す前に、石神くんとどこかへ行きたいなって」
「ああ! 行こうぜ! どこでもいいぞ!」
「ほんとに!」
「ああ! あー、でも俺、あんましお金ないから」
まあ、ゼロだった。
「うん、どこでもいいんだ」
「でもさ、一応聞くけど、どっか行きたいとこあるか?」
「海に行きたいな」
「え!」
驚いた。
ミユキは肌を見せるような水着は避けたがっていると思っていた。
中学にはプールがなく、水泳の授業は無かった。
「石神くんと一緒なら、水着になれるから」
「そうか!」
「あ、でも石神くんも水着は嫌だよね?」
「そんなことない! 俺もミユキと一緒なら平気!」
「そう!」
ミユキが喜んだ。
「あ! 横浜の金沢文庫でさ! ばあちゃんが寮母をやってるんだ」
「そうなの!」
「あそこなら俺も毎年泳いでる!」
「じゃあ、そこに行こうか!」
「飯もばあちゃんが作ってくれるよ」
「え!」
「ばあちゃんちに行くんなら、お袋も交通費をくれるし!」
「そうなの!」
そうは言っても、自由になるお金をある程度欲しかった。
俺は金城先輩に頼みに行った。
近所で廃品回収の会社をやっている。
金城先輩は中学を卒業して、すぐに自分の家で働き出した。
「トラか!」
「金城先輩!」
俺は事情を話し、短期間アルバイトが出来ないか相談した。
「お前、中学生じゃん」
「そうですけど!」
「本当は雇えないんだよな」
「そこをなんとかぁー」
金城先輩は父親に話してみると言ってくれた。
「おお、石神くんか!」
「はい! お久し振りです!」
「まあ、話は聞いたよ。いいよ、1週間、学校が終わってから来てよ」
「ほんとですかー!」
俺は翌日から金城先輩の家で働かせてもらった。
やったのは回収して来たものの移動が主だった。
今だから分かるが、俺の手などは必要無かった。
金城先輩の運転するユンボなどで、幾らでも運べたからだ。
でも俺は一生懸命に働いた。
金城先輩もお父さんもよくやってくれると褒めてくれた。
1週間の終わりに、1万円も頂いてしまった。
「これは多すぎですよ!」
「トラ、お金が欲しかったんだろ?」
「はい。2千円くらい」
二人が大笑いした。
「いいからとっとけよ。お前と一緒に働いて楽しかったよ」
「俺もです!」
ありがたくバイト代を頂いて、その二日後にミユキと出掛けた。
「ミユキ、今日は一杯お金があるから!」
「え、そうなの?」
「ああ! 帰りに駅の商店街のシシクラでハンバーグ食べようぜ」
「うん!」
金沢文庫の駅前のアーケード街に、シシクラという洋食屋があった。
ばあちゃんがたまに連れて行ってくれ、そこのハンバーグが最高に美味かった。
バスでJRの横浜線の駅に着き、そのまま横浜駅まで。
そこから京浜急行に乗り換える。
ミユキは白い長袖のブラウスを着て、鍔の広い帽子を被っていた。
暑い中で半袖になれないミユキのために、出来るだけ涼しい場所を確保した。
「ミユキ、ここ、一番風が当たるぞ!」
当時の電車は扇風機しか付いていない。
「うん、ありがとう」
二人で扇風機の風に当たり、笑った。
そんな俺たちを見て、他の乗客も進んで涼しい場所を空けてくれた。
長袖の服を着ているミユキを見て、顔の火傷を見てそうしてくれた。
そういういい時代だった。
金沢文庫の駅に着いた。
ここから少し歩かなければならない。
いつもは歩いて行くのだが、今日はミユキがいる。
バスの時間を見た。
「あと10分だ」
「ピッタリだね!」
「ミユキの日頃の優しさだな!」
「石神くんだよ!」
二人で自動販売機のジュースを飲んだ。
ミユキが自分で出すと言ったが、今日は俺のおごりだと言った。
「どうして今日はお金を持ってるの?」
「ああ、ちょっと」
「家の人がくれたの?」
「まー、そんな感じ」
ミユキのためにアルバイトをしたとは言いたくなかった。
ミユキが気にする。
バスに乗って。ばあちゃんの寮の近くで降りた。
「あ! 海の匂いがする!」
「な!」
俺は寮に行く前に、いい場所に案内した。
「ここが誰もいなくて綺麗なんだよ」
「そうなんだ!」
少し崖を降りて、ちょっとした広場のような場所に出る。
美しい地層が剥き出している崖と、目の前に拡がる海が美しい。
「綺麗だね!」
「な!」
ミユキが喜んでくれて嬉しかった。
ばあちゃんの寮に行った。
「ばあちゃん!」
出て来ないので、勝手に上がってばあちゃんの部屋へ行った。
布団が敷いてあって、ばあちゃんが寝ていた。
「なんだよ、今日来るって言ってただろう」
「ああ、ちょっと調子が悪くて寝込んでる」
「え!」
「大分悪いんだ」
「おい、ばあちゃん! 今日だけは死ぬなよな!」
「なんだと!」
「大事な友達を連れて来たんだ! 今日死ぬと面倒だぜ!」
「トラ! てめぇ!」
物凄い顔で睨まれた。
「頼むから死なないで」
「おう!」
「石神くん……」
「うん、今日は死なないって!」
「……」
俺は空いている部屋へ案内し、ミユキを着替えさせた。
自分もばあちゃんの部屋で着替える。
「ばあちゃん、大丈夫?」
「ぜってぇ死なねぇ!」
「よかったー!」
また睨まれた。
寮の向かいがすぐに海だ。
道路を渡るとすぐに砂浜になっている。
ミユキはワンピース型の白い水着を着ていた。
水着に長袖は無い。
ミユキの左の方から腕、左の腿の火傷の痕が晒されていた。
全然醜くない。
「ミユキ! オッパイ大きいな!」
「やだ!」
俺はミユキの手を引いて海岸に出た。
他にも海水浴客がいる。
二人で海に入った。
ミユキが泳げないと言うので、急いで寮に戻って、誰かの浮き輪を拝借した。
ミユキが喜んで浮き輪を付ける。
俺もミユキの浮き輪に捕まって一緒に泳いだ。
「前にさ、さっきの寮の真島さんって人とここで遊んでたのな」
「うん」
「そうしたら流されちゃって。横須賀まで行っちゃった」
「えぇー!」
「なんか大事件になっててさ。新聞にまで載ったんだ」
「大丈夫だったの?」
「へーき。まあ、昼間だったらヤバかったのかな。日焼けで死んでたかも」
「そうなんだ!」
「真島さんが病院に来てさ。ワンワン泣くんだよ」
「そうだろうね!」
「俺もそんなに心配してもらって申し訳ないって謝ろうとしたんだ」
「それで?」
「もう絶対に二度と俺と海で遊ばないってさ」
「アハハハハハハ!」
「参ったぜ。まあ、親父に散々脅されたんだろうなぁ」
ミユキは笑いながら俺に言った。
「一度だけね、石神くんのお父さんに会ったの」
「え? 親父と?」
「うん。石神くんの家から帰る途中でね。「高虎と仲良くしてくれてありがとう」って。優しそうな人だったよ?」
「親父が!」
「うん」
俺は外面がいいのだと言った。
「前に矢田とか遊びに来ててさ。親父がいて、「牛乳を飲め」って言うんだよ。それで矢田たちが帰って、俺が残った牛乳飲んでたの。そうしたら引っぱたかれてさ。「お前! 贅沢なもの飲んでんじゃねぇ!」って」
「アハハハハハハ!」
「俺が小さい頃はさ、よく後輩とか部下の人とか飲んで連れて来てたな。でも俺が病気するようになってからは、さっぱりだ。親父も楽しいことが出来なくなっちゃった」
「そうなんだ」
いろいろな話をした。
他の連中とは話さないことも、ミユキには何でも話したかった。
昼になり、寮に一度戻った。
ばあちゃんが起きていた。
「大丈夫なのかよ?」
「お前の彼女だろう。飯くらい作ってやる」
「いいよ、俺が作るって!」
ばあちゃんが死んだら困る。
寝ててもらい、ご飯を炊き、鮭を焼いた。
ミユキが美味しいと言って食べてくれた。
「高虎」
「なんだ、ばあちゃん?」
「俺の飯は?」
「あ、ああ!」
忘れてた。
茶碗にご飯を盛り、海苔を出した。
ばあちゃんは俺を睨みながら、一緒に食事をした。
午後も海に行った。
二人で砂で遊んでいると、後ろで若い男たちが話していた。
「おい、あの身体、すげぇな……」
「てめぇ! ミユキが気にしてることを!」
「い、いや、今のはお前の……」
ドコドコドコ! ポーン プカプカ……
「石神くん……」
「おう、やっつけてやったぜ」
「うん……」
そろそろ帰ろうということになった。
ミユキにシャワーを使わせ、俺も次に入った。
さっぱりして、ばあちゃんに挨拶に行った。
「じゃあ、そろそろ帰るからさ」
「おう」
「お世話になりました」
「おう」
「ばあちゃん、死なないでくれてありがとうな!」
「おう」
「あの、お加減大丈夫ですか?」
「ああ、高虎をよろしくー」
大丈夫そうだった。
帰りにシシクラでハンバーグ定食を二人で食べた。
ミユキも美味しいと言ってくれた。
まだ、お金が一杯あった。
ミユキを連れて、アーケード街を回った。
おもちゃ屋の前にガチャがあった。
「ミユキ、回してみろよ!」
一回100円。
当時としては高額だ。
俺が金を出し、ミユキに回させた。
「あ」
プラスチックの指輪だった。
「指輪だー!」
「なんだ、100円も取って随分なものだな」
「いいよ! 凄く嬉しい!」
「そっか」
ミユキが指に嵌め、ケースも大事にバッグに入れた。
二人で帰りの電車の中でも楽しく話した。
俺たちの別れの旅行。
最高に楽しい思い出。
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