1,752 / 3,202
ミユキの来訪 Ⅲ
しおりを挟む
ミユキは素晴らしい露天風呂だったと言った。
「ルーちゃんとハーちゃんがね、かき氷まで作ってくれて」
「ああ、あいつらの最高のもてなしなんだよ」
「そうなんだ!」
風呂から上がったミユキに、何を飲むのか聞いた。
「何でもあるぞ?」
「焼酎がいいな」
「薩摩焼酎でいいか?」
「大好き!」
一江が好きなので置いてある。
まあ、最近はあまり飲んで行かないが。
ミユキがロックで飲むというので、相当酒好きなのだろう。
「タカさん、身欠きにしん出していいですか?」
「ああ、いいな!」
身欠きにしん。
各種刺身。
雪野ナス。
味噌田楽。
マッシュルームのアヒージョ。
キャビア(俺とミユキのみ)。
唐揚げとソーセージ焼き(獣用)。
新ショウガの漬物。
「また随分と豪華だね」
「いつもは塩だけだけどな」
「味噌もたまにありますよ!」
「アハハハハハ!」
モロキュウも作った。
ワゴンに乗せて移動した。
「何ここ!」
ミユキが「幻想空間」に驚く。
子どもたちが笑って、一通りミユキを案内する。
ライトアップされた中庭にも、ミユキは感動していた。
俺の隣に座らせた。
「じゃあ、あらためて! ようこそ、ミユキ!」
みんなで乾杯した。
「なんかよ、ドラマのミユキの台詞のせいでさ、三島由紀夫の『美しい星』がすごく売れているらしいぜ」
「そうなんだ!」
ミユキが俺から教わったと『美しい星』の一節を語るシーンがあった。
それが多くの人間の琴線に触れ、文庫本が幾版も更新するくらいに売れているらしい。
「あれは石神くんからもらった、忘れられない言葉だよ」
「そうか」
ミユキはあの言葉通り、普通の人間が辿り着けない所まで行った。
聞いてはいないが、JAXAでも結構上にいる人間だろう。
俺たちは名刺も交換しなかった。
そういう間柄ではない。
ミユキが自分の左側の頬を撫でていた。
「どうした?」
「あのさ、お酒が回ると傷が真っ赤になるんだ」
「そうか。ああ、真っ赤だな」
「ウフフフ」
ミユキが嬉しそうに笑った。
「なんだよ?」
「やっぱり石神くんはそうだった。私の顔の傷なんて、全然気にしてないんだよね」
「そりゃそうだよ」
「石神くんは自分の傷を気にしてたよね?」
「そりゃ、俺のは他の人が気持ち悪がるからな」
「そんなことないよ!」
「そうです! タカさんの身体は全然気持ち悪くありません!」
亜紀ちゃんが立ち上がって言った。
俺は笑って分かったと言った。
「今じゃな。ようやく気にしなくなったけどな」
「そうなんだ!」
「こいつらのお陰でな」
「石神さん! 来年は一緒に海に行きましょうね!」
「やだよ」
「なんでぇー」
みんなが笑った。
双子が柳を慰める。
唐揚げを口に突っ込まれていた。
「そういえばさ、石神くんと一緒に入院したことあるじゃない」
「おお、楽しかったよな」
「あの時、しょっちゅう裸で歩いてたよね」
「ワハハハハハハハ!」
亜紀ちゃんが、今でもしょっちゅうオチンチンを出すのだと言った。
「おい!」
「アハハハハハ!」
双子がしょっちゅうパンツを脱がされると言った。
「石神くん!」
「てめぇら!」
「「ワハハハハハハハ!」」
「もう、辞めてあげてね!」
「こいつら喜ぶんだよ」
「「えぇー」」
「おい!」
ミユキがちょっとコワイ顔で睨んだが、やがて笑った。
「石神くんはやっぱり変わらないな」
「それはお前もだろう、ミユキ」
「うん。私はずっと石神くんと出会った頃のまま」
「そうだよな」
楽しく話した。
「石神くんってね、本当に他の入院してる人たちと仲良しでね」
「はい、しょっちゅう外の居酒屋に行ったんですよね!」
「そうそう。それとあのね」
「なんです?」
「ちょっとエッチな本の人もね」
「ああ! エロ魔人のチョーさん!」
「そんなことまで知ってるの!」
「「トラ文庫」に一杯エロ本を入れてくれて!」
「そうなんだよ! 私に本を貸してくれるって言ってね。見たらもう!」
「ワハハハハハハハ!」
俺は笑って誤魔化した。
「あ! 「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」!」
「それも知ってるの! あの曲はもう一番大事な曲なんだ!」
「タカさん、歌って下さい!」
「おう! ミユキのためならいつでもな!」
亜紀ちゃんがちょっと待てと言い、地下からギターを持って来た。
俺はギターを弾きながらミユキに歌ってやった。
「あの時よりも上手いね!」
「そりゃ、ミユキのために練習したからな!」
「ほんと!」
ミユキが喜んだ。
本当にそうだった。
ミユキを思ってよく弾いて歌って来た。
そんな機会は無いだろうと思っていたが、いつかミユキにまた歌ってやりたかった。
ミユキが今度は自分が歌うと言った。
美しい声だった。
「私もね、いつか石神くんに歌ってあげたかったの」
「そうか!」
亜紀ちゃんが言った。
「タカさん、そろそろ」
「あんだよ! みんなで楽しく話してるだろう!」
「?」
亜紀ちゃんがミユキに、ここでは俺がいつも「いい話」をするのが決まりなのだと言った。
「だから! そんな決まりはねぇ!」
「「「「「えぇー!」」」」」
「てめぇら!」
「石神くん、お願い」
「なんだとぉ!」
ミユキが可愛らしく手を合わせていた。
「じゃあ、今日だけだからな!」
俺は話し出した。
「ルーちゃんとハーちゃんがね、かき氷まで作ってくれて」
「ああ、あいつらの最高のもてなしなんだよ」
「そうなんだ!」
風呂から上がったミユキに、何を飲むのか聞いた。
「何でもあるぞ?」
「焼酎がいいな」
「薩摩焼酎でいいか?」
「大好き!」
一江が好きなので置いてある。
まあ、最近はあまり飲んで行かないが。
ミユキがロックで飲むというので、相当酒好きなのだろう。
「タカさん、身欠きにしん出していいですか?」
「ああ、いいな!」
身欠きにしん。
各種刺身。
雪野ナス。
味噌田楽。
マッシュルームのアヒージョ。
キャビア(俺とミユキのみ)。
唐揚げとソーセージ焼き(獣用)。
新ショウガの漬物。
「また随分と豪華だね」
「いつもは塩だけだけどな」
「味噌もたまにありますよ!」
「アハハハハハ!」
モロキュウも作った。
ワゴンに乗せて移動した。
「何ここ!」
ミユキが「幻想空間」に驚く。
子どもたちが笑って、一通りミユキを案内する。
ライトアップされた中庭にも、ミユキは感動していた。
俺の隣に座らせた。
「じゃあ、あらためて! ようこそ、ミユキ!」
みんなで乾杯した。
「なんかよ、ドラマのミユキの台詞のせいでさ、三島由紀夫の『美しい星』がすごく売れているらしいぜ」
「そうなんだ!」
ミユキが俺から教わったと『美しい星』の一節を語るシーンがあった。
それが多くの人間の琴線に触れ、文庫本が幾版も更新するくらいに売れているらしい。
「あれは石神くんからもらった、忘れられない言葉だよ」
「そうか」
ミユキはあの言葉通り、普通の人間が辿り着けない所まで行った。
聞いてはいないが、JAXAでも結構上にいる人間だろう。
俺たちは名刺も交換しなかった。
そういう間柄ではない。
ミユキが自分の左側の頬を撫でていた。
「どうした?」
「あのさ、お酒が回ると傷が真っ赤になるんだ」
「そうか。ああ、真っ赤だな」
「ウフフフ」
ミユキが嬉しそうに笑った。
「なんだよ?」
「やっぱり石神くんはそうだった。私の顔の傷なんて、全然気にしてないんだよね」
「そりゃそうだよ」
「石神くんは自分の傷を気にしてたよね?」
「そりゃ、俺のは他の人が気持ち悪がるからな」
「そんなことないよ!」
「そうです! タカさんの身体は全然気持ち悪くありません!」
亜紀ちゃんが立ち上がって言った。
俺は笑って分かったと言った。
「今じゃな。ようやく気にしなくなったけどな」
「そうなんだ!」
「こいつらのお陰でな」
「石神さん! 来年は一緒に海に行きましょうね!」
「やだよ」
「なんでぇー」
みんなが笑った。
双子が柳を慰める。
唐揚げを口に突っ込まれていた。
「そういえばさ、石神くんと一緒に入院したことあるじゃない」
「おお、楽しかったよな」
「あの時、しょっちゅう裸で歩いてたよね」
「ワハハハハハハハ!」
亜紀ちゃんが、今でもしょっちゅうオチンチンを出すのだと言った。
「おい!」
「アハハハハハ!」
双子がしょっちゅうパンツを脱がされると言った。
「石神くん!」
「てめぇら!」
「「ワハハハハハハハ!」」
「もう、辞めてあげてね!」
「こいつら喜ぶんだよ」
「「えぇー」」
「おい!」
ミユキがちょっとコワイ顔で睨んだが、やがて笑った。
「石神くんはやっぱり変わらないな」
「それはお前もだろう、ミユキ」
「うん。私はずっと石神くんと出会った頃のまま」
「そうだよな」
楽しく話した。
「石神くんってね、本当に他の入院してる人たちと仲良しでね」
「はい、しょっちゅう外の居酒屋に行ったんですよね!」
「そうそう。それとあのね」
「なんです?」
「ちょっとエッチな本の人もね」
「ああ! エロ魔人のチョーさん!」
「そんなことまで知ってるの!」
「「トラ文庫」に一杯エロ本を入れてくれて!」
「そうなんだよ! 私に本を貸してくれるって言ってね。見たらもう!」
「ワハハハハハハハ!」
俺は笑って誤魔化した。
「あ! 「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」!」
「それも知ってるの! あの曲はもう一番大事な曲なんだ!」
「タカさん、歌って下さい!」
「おう! ミユキのためならいつでもな!」
亜紀ちゃんがちょっと待てと言い、地下からギターを持って来た。
俺はギターを弾きながらミユキに歌ってやった。
「あの時よりも上手いね!」
「そりゃ、ミユキのために練習したからな!」
「ほんと!」
ミユキが喜んだ。
本当にそうだった。
ミユキを思ってよく弾いて歌って来た。
そんな機会は無いだろうと思っていたが、いつかミユキにまた歌ってやりたかった。
ミユキが今度は自分が歌うと言った。
美しい声だった。
「私もね、いつか石神くんに歌ってあげたかったの」
「そうか!」
亜紀ちゃんが言った。
「タカさん、そろそろ」
「あんだよ! みんなで楽しく話してるだろう!」
「?」
亜紀ちゃんがミユキに、ここでは俺がいつも「いい話」をするのが決まりなのだと言った。
「だから! そんな決まりはねぇ!」
「「「「「えぇー!」」」」」
「てめぇら!」
「石神くん、お願い」
「なんだとぉ!」
ミユキが可愛らしく手を合わせていた。
「じゃあ、今日だけだからな!」
俺は話し出した。
1
あなたにおすすめの小説
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
【完結】狡い人
ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。
レイラは、狡い。
レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。
双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。
口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。
そこには、人それぞれの『狡さ』があった。
そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。
恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。
2人の違いは、一体なんだったのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる