富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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ハムちゃん進化 どころじゃなかった話。

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 12月28日の朝。
 雪野さんが作ってくれた朝食を食べていた。
 怜花を膝に乗せて、雪野さんが食べさせている。
 
 ハムちゃんが楽しそうに向こうで走り回っている。

 「あー、石神はしばらくいないんだなぁ」

 俺が言うと、雪野さんが可笑しそうに笑った。

 「あなたはいつも石神さんのことばかりですね」
 「あとは雪野さんと怜花とハムちゃんだ」
 「モハメドさんは?」
 「あ! もちろんですよ!」
 《いいですよー》

 危なかった。
 ちょっと頭を小突かれたが、雪野さんは気付いていない。

 「今日はハムちゃんが楽しそうですね」
 「そうだね。何かあったかな」
 「ああ、こないだ石神さんから頂いたドングリを夕べあげたんです」
 「それかな!」
 「ウフフフフ」

 「石神にはいつもしてもらってばかりだよなぁ」
 「そうですね」

 そうは思うのだが、やはりお返しはなかなか出来ない。
 食事に誘っても、いつも石神の子どもたちがほとんどやってしまう。
 まあ、仕事で返すしかないだろうと思っている。

 朝食を食べ終えて、俺が怜花を預かった。
 雪野さんが片づけをするためだ。
 ソファに移動して、怜花をあやした。
 ハムちゃんも登って来る。
 ハムちゃんの身体を撫でると、気持ちよさそうにした。

 俺もいつの間にか眠ってしまった。
 気が付くと、隣で雪野さんが俺の肩に寄り掛かって寝ていた。
 毛布を掛けてくれている。
 怜花が反対側でソファの上で眠っており、ハムちゃんがその上で眠っていた。

 幸せだった。




 昼食の後で、俺は買い物に出た。
 雪野さんがおせち料理を作ると言うので、その材料の買い出しだ。
 去年は怜花の世話もあって、あまり本格的には作らなかった。
 今年はやる気のようだ。

 「石神さんのお宅では作らないでしょうから、お呼びしましょうよ」
 「いいね!」

 雪野さんの提案は素敵だった。
 石神たちに喜んでもらいたい。
 俺は伊勢丹で雪野さんのメモを見ながら買い物をした。
 
 ついでに「アドヴェロス」にも寄ろうと思った。
 デメルの「ザッハトルテ」を3つ買った。
 十河さんがお酒も好きだが、甘い物も大好きだ。
 俺は休暇に入っているが、本部には誰かが常にいる。
 まあ、成瀬は休暇返上でずっといると言っていたし、住まいにしている十河さんや愛鈴もいる。
 その他に当直・宿直で早霧や葛葉、新たに入った鏑木もいるかもしれない。
 早霧に誘われて磯良も。

 俺が顔を出すと、早霧と磯良たちが昼食から戻ったところだった。
 やはり今日も一緒に訓練していた。
 愛鈴と十河さんも一緒に昼食に行ったようだ。

 「早乙女さん、どうしたんです?」
 「ちょっと買い物に出たんでね。これ、差し入れだよ」
 
 早霧たちが喜んだ。
 中で一緒に食べようと誘われたが、生モノを買っていると言って断った。

 「大晦日は鍋をやろうって言ってるんです。早乙女さんも来て下さいよ」
 「じゃあ、ちょっと顔を出すよ」
 「絶対ですからね!」

 気のいい連中だ。
 最初は癖のある人間たちで苦労をしたが、みんな仲間思いのいい奴らだった。
 




 家に帰ると雪野さんがハムちゃんにマッサージをしていた。
 
 「いつ覚えたんだい?」
 「こないだうちに石神さんたちが来た時に、ルーちゃんとハーちゃんから。ハムちゃんを見て、どこをマッサージするといいと教わったんです」
 「そうなのか!」

 ルーちゃんとハーちゃんは、普通の人間には見えないものが見えるらしい。
 だからハムちゃんの状態を診て、どのようにすればいいのかが分かるのだ。
 ハムちゃんが気持ちよさそうに雪野さんの指でマッサージされていた。

 「もしかしたら、夕べもしてあげた?」
 「ええ、しましたね」
 「だからハムちゃんの調子がいいんじゃないか?」
 「ああ、なるほど!」

 効果てきめんのマッサージのようだ。
 雪野さんのマッサージと、石神に貰ったドングリのお陰だ。
 マッサージを終えると、ハムちゃんが俺の腕から肩に駆けあがって来た。
 雪野さんに向かって「チィチィ」と鳴いてお礼を言っているようだった。

 雪野さんがランたちと一緒に俺が買って来た食材を仕舞った。
 
 「さっき、「アドヴェロス」に寄って来たんだ」
 「そうだったんですか」
 「デメルの「ザッハトルテ」を差し入れて来た。大晦日に鍋をやるんで、誘われたよ」
 「まあ、楽しそうですね」
 「三人で、ちょっと顔を出そう」
 「いいですね!」

 雪野さんが嬉しそうに笑った。

 ハムちゃんが俺の肩から駆け下りて、また部屋中を走り始めた。
 雪野さんと笑いながら、それを眺めた。




 雪野さんが、もうおせち料理の一部を作り始めると言った。
 俺も手伝うと言ったが、休みの日にはゆっくりして欲しいと言われた。
 仕方なく、部屋に行って怜花とベッドに横になった。

 「おい」

 モハメドさんに呼ばれた。
 耳元での直接の音声だ。

 「なんですか?」
 「あのハム公だけどよ」
 「え、ハムちゃん?」
 「おう。ちょっと、あいつ変わって来てるぜ」
 「え?」

 何のことだろう。

 「夕べもよ。あいつに乗って見回りをしたんだが、物凄いスピードでよ」
 「そうなんですか」
 「いつもの半分の時間も掛からなかった。何が起きたのかと思ったらよ、あいつ進化してやがった」
 「どういうことですか?」
 「まあ、説明が難しいんだがな。今までよりもずっと強くなったのは確かだ」
 
 まだ、よく分からない。

 「なんで進化したんですかね」
 「多分だが、石神さん御自身の血が進化した」
 「え!」
 「それに同調して、あいつも進化したんだろうよ」
 「!」

 石神が変わったのか!

 「あの方は前に「神殺し」の試練を乗り越えられた。だからだろうな。徐々に変わって行ったんだろうが、それが完成したんだ」
 「石神も変わったんですか!」
 「ああ。もう、神を殺してもなんでもねぇだろうよ。まったくすげぇお方だぜ」
 「そうですか」

 よくは分からないが、喜ぶべきことなんだろう。

 「じゃあ、お祝いとか」
 「ばか! お前なんかが何か出来ることじゃねぇ。それにあのお方は「人間」でいたいらしいからな。滅多なことを言うんじゃねぇぞ」
 「分かりました!」
 
 なんか言うと不味いらしい。

 「とにかくだ。ハム公は俺の乗り物であると同時に、お前たちを守れるくらいに強くなったんだよ。まだまだ強くなりそうだ。俺もちょっと鍛えてやるけどな」
 「お願いしますね。あぁ! 厳しくはしないで上げて下さい」
 「おまえよー」
 「お願いします!」
 「分かったよ」

 ハムちゃんは小さいから、可哀想だ。

 「ところでよ」
 「はい」
 「これは俺が言うべきことじゃないんだけどな」
 「なんですか。何でも言って下さいよ」
 「あー、なんだ、あれだよ」
 「なんですか!」

 「雪野さんな。また妊娠してるぜ?」

 「えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!!!」

 



 ぶったまげた。
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