富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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 橘弥生と徹夜でCD録音を済ませた日曜日の午後。
 亜紀ちゃんと「虎温泉」に入り、亜紀ちゃんは大満足ですぐに寝た。
 俺も疲労困憊だった。
 徹夜は全然問題ない。
 戦闘中だったら、まったく疲れは感じなかっただろう。
 しかし、今回はギター演奏を集中してやった。
 特に、橘弥生との2度のセッションが、俺の神経を疲弊させていた。
 俺もすぐに寝るつもりだった。

 「タカさーん! 早乙女さんから電話ですよー」
 「あのやろう!」

 俺のスマホをハーが持って来た。
 電話を遠ざけて眠るため、リヴィングに置いていたのだ。
 
 「あんだよー!」
 「石神! 今台東区でライカンスロープが暴れているんだ」
 「そうか」
 「外道会の連中らしい」
 「へー」

 「石神! 数が多いんだ! 手伝ってもらえないか?」
 「分かったよ!」

 早乙女は、地元のヤクザとの揉め事から、妖魔化した連中が現われたのだと説明した。

 「早霧や磯良たちは名古屋の「太陽界」の隠し本部に行ってるんだ」
 「ハンター全員でか?」
 「そうなんだよ。成瀬も指揮を執ってていない。俺だけなんだよー」
 「情けない声を出すな! 柳とルーとハーを送る」
 「ありがとう! 石神!」

 俺は三人を呼んで、台東区の現場へ向かうように言った。

 「亜紀ちゃんはもう寝てるからな。三人で大丈夫だろう」
 「はい、石神さんは?」
 「家にいる。一応起きてるよ」
 「タカさん、寝てていーよー?」
 「ああ、ありがとうな。じゃあ、宜しく頼む」
 「「「はい!」」」

 三人が柳のアルファードで出掛けた。
 まあ、そんなに時間は掛からないだろう。

 俺はスマホを目の前に置いて、ソファで休んだ。




 ウトウトしている時に、スマホが鳴った。
 アラスカのターナー少将からだった。

 「タイガー! 「セイントPMC」が妖魔に襲撃された!」
 「そうか。敵の規模は?」
 「約5万だ。どうする?」
 「聖は何と言っている?」
 「応援は不要だと」
 「じゃあ大丈夫だ」
 「おい、5万だぞ?」
 「聖が大丈夫だと言えば、その通りだよ。あいつはヘンな意地を張らないし、必要ならなんでもする男だ」
 「そうか」
 「まあ、そっちでも状況を見張っててくれ。予想外のこともあるかもしれん」
 「分かった。ああ、ロックハート家でも状況を把握していて、支援砲撃をすると言って来た」
 「そうか。それじゃ聖にその旨を伝えてくれ。そのくらいはやらせてもらえるだろう」
 「了解! では、また状況が変わったら連絡する」
 「頼んだぞ!」

 なんなんだ、この状況は。
 まあ、俺の出番は無いだろうとは思った。
 現在午後3時。
 ニューヨークは夜中の1時くらいのはずだ。




 2時間後に聖から連絡が来た。
 妖魔の軍勢は全て撃破したとのことだった。

 「随分と早かったな」
 「ああ、ロックハート家の支援砲撃が効いた。それにクレアの「スズメバチ」もな」
 「おお、あれを出したのか!」
 「クレアが準備してくれていたよ。でも、半分以上が上級妖魔にやられた」
 「上級まで出たか!」

 上級妖魔は中級までとは桁違いに強力だ。
 聖が説明を始めたが、俺は息遣いが荒いことに気付いた。

 「お前、やられたのか!」
 「大丈夫だよ。爪を一発喰らっちまった」
 「バカヤロウ!

 俺は電話を切り、急いでハーを呼んだ。
 まだ早乙女に頼まれた現場は片付いていない。
 だから柳とルーに任せる。

 「聖がやられた!」
 「え!」
 
 ハーが飛んで来た。
 通常の戦闘なので、普通のコンバットスーツを着ていたためにもう服は無く全裸だ。
 俺のいるリヴィングに駆け上がって来る。

 「すぐに飛ぶぞ!」
 「はい!」

 俺も着替える間も惜しんでハーと飛んだ。
 2分後に「セイントPMC」に到着する。
 俺も全裸だ。
 コントロール・ルームに走り、椅子に座っている聖が俺に笑って手を挙げた。
 シャツを巻いていたが、左脇腹に血が滲んでいる。
 すぐに、太い動脈は傷ついていないことを見て取った。
 動脈が破れたら、あんな出血では済まない。

 「ばかやろう! 妖魔に負わされた傷はどうなるか分からねぇんだ!」
 「ああ、悪かった」

 俺はすぐに「エグリゴリΩ」の粉末と「オロチ」の皮を聖に食べさせた。
 嚥下した瞬間に、聖の身体が戻ったことが分かった。
 念のためにハーに走査と「手かざし」をさせた。
 聖がもう大丈夫だと言った。

 スージーが服を用意してくれ、俺は着たがハーはタオルを巻いただけだった。
 こいつは全裸が大好きだ。
 まあ、帰りも全裸になるので、面倒だと思ったのかもしれない。
 中学生だが、もう身長は175センチになっており、顔は亜紀ちゃんに似た相当な美人だ。
 コントロール・ルームの男たちが目のやり場に困っていた。

 俺は聖を医療ルームに運んで、改めて戦闘の話を聞いた。
 スージーが記録映像を持って来る。

 「聖! あいつと遣り合ったの!」

 ハーが叫んだ。
 ロシアでの移民輸送作戦の折に見た上級妖魔のタイプがいた。
 亜紀ちゃん以外では歯が立たなかった奴だ。
 それが8体いた。
 聖が腹に負傷しながらも、こいつが自分で編み出した技で撃破していた。

 「トラ」
 「なんだよ?」
 「あの技に名前を付けて」
 「あ?」
 
 聖がよく分からないことを言った。

 「俺ってさ、バカじゃん。技は作ったんだけど、カッコイイ名前が思い付かなくて」
 「ああ」
 「トラ、頼むよ!」

 聖の両手から撃ち出される、真っ白な美しい螺旋だった。
 俺の知らない所で、密かに鍛錬して編み出したのだろう。
 俺を護るために。

 「Saint-Helical(聖なる螺旋)」
 「ウオォー!」

 聖が喜んだ。

 「聖、ありがとうな」
 「何言ってんだ? 礼は俺が言う方だろう?」

 聖がもう大丈夫なことを確認し、帰ることにした。
 外に出てからでいいのに、ハーがすぐにタオルを外し全裸になった。
 俺も笑って服を脱いだ。

 聖とスージーが外まで見送りに来た。
 ハーと「オッケーおけけ」を踊ってやった。
 二人が爆笑した。

 「じゃあ、帰るな」
 「ああ、わざわざ来てくれてありがとう」
 「石神さん、また」
 「スージーも元気でな!」

 夜の6時に家に着いた。





 亜紀ちゃんが起きており、柳とルーも戻っていた。
 皇紀はフィリピンに出張中。

 これから夕飯の準備をすると亜紀ちゃんが言ったので、俺は出前にしようと言った。
 鰻と寿司を取る。
 亜紀ちゃんと柳が寿司の注文を取って回った。

 8時に出前が届き、うちにしては遅い夕飯をみんなで食べた。

 「タカさん、すいません。眠ってしまってて」
 「いいよ。今日は亜紀ちゃんの出番は無かったさ」
 「すいません」

 柳とルーから状況を聞いた。

 「私たちが到着したら、もう逃げ回って隠れちゃってて」
 「探すの大変だったよね!」

 ルーが探知をして回ったらしい。

 「隠れるのが上手い奴がいてね。気配はあるんだけど、どこか分からなくて」
 
 そのために時間が掛かった。
 
 「しょうがないんで、便利屋さんを呼んでもらったの」
 「そうしたらすぐだったよね?」

 俺は笑った。
 まあ、みんな無事で良かった。

 夕飯を食べ終え、みんなで「虎温泉」に入った。
 双子がまたかき氷を作ってくれる。

 「タカさん、お疲れ様でしたー!」

 亜紀ちゃんが湯船で俺の肩を揉んでくれる。

 「マジ、疲れたよなー!」

 「虎温泉」のナゾ成分が俺の疲れを癒してくれる。

 「明日は休むよ」
 「はい!」

 そう決めて、俺は風呂上がりに少し飲もうと言った。
 一江に電話し、休むことを話した。





 身体がいい具合に疲労を訴え、気分が良くなった。
 本当にやり切った実感があった。
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