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パレボレのアルバイト
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5月9日火曜日。
子どもたちはみんな学校へ行く。
俺は明日まで休みにしている。
2日間はのんびりと過ごすつもりだった。
「タカさん、「カタ研」に顔を出して下さいよ」
「ああ」
「タカさんが来るとみんな喜びますから!」
「そうだなぁ」
「石神さん、お願いします!」
まあ、ヒマだしいいかと思った。
久し振りに東大へ行くのもいい。
木下さんの食堂に顔を出そうか。
「そういえば、本郷校舎の近くに美味しいカレー屋が出来たんですよ!」
「ほんとか!」
「インド人の経営者で、本格的ですよ!」
「いいな!」
「カタ研」の集まりは3時だそうだ。
俺はカレーが大好きだ。
「私、午後は授業は無いんでタカさんに合わせますよ?」
亜紀ちゃんがニコニコして言った。
「じゃあ、一緒に喰うか」
「はい!」
「え! 私はフランス語の講義が!」
「じゃあ、またな」
「なんでぇー!」
12時にしようと柳が言ったが、亜紀ちゃんが間に合わず俺も喰った後で時間を持て余す。
柳も半泣きで諦めた。
しょっちゅう一緒に昼飯を食ってるじゃんか。
俺はアヴェンタドールで亜紀ちゃんを迎えに行くことにした。
亜紀ちゃんを1時に迎えに行き、カレー屋は1時半頃に入れるだろう。
子どもたちが出掛け、俺はロボとゆっくりした。
ロボを乗せて亜紀ちゃんをピックアップした。
「カタ研」のために用意したマンションの駐車場に車を停め、ロボの御飯を用意する。
俺たちはそのままカレー屋に行った。
「予約した石神です!」
亜紀ちゃんが言うと、奥のテーブルに案内された。
40もテーブルが並ぶ大きな店だった。
スパイスのいい香りが漂っている。
店内は清潔で、ちょっとしたフレンチレストランの感じだ。
真っ白な漆喰の壁に、インドのカラフルな織物が掛けられている。
他のインド料理店のような派手さはなく、俺は気に入った。
ランチのコースに幾つかの料理を追加した。
ナスとマトン、ダル、キーマ、それにグリーンカレー。
グリーンカレーにライスをつけてもらった。
他はナンで食べる。
ナンはプレーンとチース、セサミ、ガーリックを頼んだ。
5人前になるが、亜紀ちゃんがいるから大丈夫だ。
サラダが最初に来た。
「きちんと喰えよ!」
「はい!」
サラダは一人前だ。
千切りのキャベツとトマト、キュウリ、コーンの普通の野菜サラダだった。
ドレッシングが別について来る。
俺たちはドレッシングを注いで食べ始めた。
「「お!」」
美味かった。
イタリアンに近いが、絶妙な酸味と旨味があった。
自家製だろうが、大した腕前だ。
野菜に興味の無い亜紀ちゃんがバリバリと食べた。
「このドレッシング、欲しいですね!」
「頼んでみろよ!」
俺も気に入った。
店員をブザーで呼ぶ。
小柄な男が来た。
「「!」」
パレボレだった。
「お前! 何してる!」
「アルバイトです! 先月報告しましたよね?」
「ん?」
亜紀ちゃんがメールを確認した。
「あ、あった」
読んでいなかったようだ。
「パレボレ、お前にはちゃんと金を渡しているだろう?」
俺が言った。
以前は酷いものだったが、パレボレが心を入れ替えてからはちゃんとしたマンションに住まわせ、生活費も十分に渡しているはずだ。
もちろん、電気ガス水道も使える。
「はい、でもお世話になりっぱなしというのも申し訳なくて」
「何言ってんだよ。お前、最近じゃ結構「カタ研」で活躍してるそうじゃないか」
「いいえ、とんでもない! 自分なんか全然ですよ!」
パレボレは変わった。
以前は自分が高等な人間だと思っていたが、俺たちと付き合うようになってそれが与えられただけのものだと悟った。
人間は能力や知識ではない。
自分以外の大事な何かのために生きることだと分かったようだ。
亜紀ちゃんが聞いた。
「お前、何か欲しいものがあるのか?」
「いいえ。でも、たまにはみなさんにお菓子なども買って行きたいと思います」
「その金はあるだろう?」
「はい。でも自分のお金は全部石神さんたちに頂いているものなので。そういうお金を使うことは出来ませんから」
「ほう」
亜紀ちゃんが冷たく言ったが、顔は綻んでいた。
「まあ、無理するなよな。それに俺たちがやってる金で「カタ研」のみんなに菓子を買ったっていいんだぞ」
「ありがとうございます。でも経験にもなりますし、アルバイトはさせてください」
「そうか」
俺は改めてこの店のドレッシングが欲しいと言った。
パレボレが店長に聞いて来ると言った。
「あいつも変わったな」
「そうですね!」
亜紀ちゃんが嬉しそうに笑った。
カレーがまた美味かった。
頼んだどれも絶品に美味い。
ドレッシングを頼んだが、カレーも全部レシピが欲しいくらいだった。
「美味いな!」
「そうですよね!」
亜紀ちゃんと堪能した。
山盛りのタンドリーチキン。
ベトベトしたものは俺は嫌いなのだが、この店のものはカリッと焼き上げられていた。
漬け込みも抜群で、肉に旨味が増している。
「これもいいな!」
「ね!」
二人でバリバリ食べる。
シシカバブも美味かった。
パレボレが2リットルのペットボトルを抱えて来た。
「店長がどうぞって。気に入って貰えて嬉しいと言ってました」
「そうか、ありがとうな!」
「パレボレ、どうしてこの店で働こうと思ったんだ?」
「はい! 賄いが出ますので!」
「「ワハハハハハハ!」」
ニコニコとして戻って行った。
「まあ、あいつも楽しそうに働いてて良かったな」
「そうですね」
亜紀ちゃんと満足して食べ終え、レジで会計を頼んだ。
パレボレがレジに入る。
信頼されているのだろう。
俺が支払い、明細を見た。
「おい、ドレッシングの分が入ってねぇじゃんか」
「あれは自分からのプレゼントで」
「おい、それは申し訳ないよ」
「いいんです! 石神さんにはお世話になってますから」
「ダメだって。払うから言ってくれ」
「いえ、本当に! 大した金額でもありませんし」
他の客が後ろに並んだので、俺も引っ込んだ。
「じゃあ、今度お礼をするな」
「いえ! 今日は来て頂いて嬉しかったです!」
「おお! 本当に美味い店だったな! また来るからな!」
「はい!」
厨房から店主らしいインド人の男性が出て来て、ニコニコしながら頭を下げた。
俺は亜紀ちゃんと、マンションに戻った。
子どもたちはみんな学校へ行く。
俺は明日まで休みにしている。
2日間はのんびりと過ごすつもりだった。
「タカさん、「カタ研」に顔を出して下さいよ」
「ああ」
「タカさんが来るとみんな喜びますから!」
「そうだなぁ」
「石神さん、お願いします!」
まあ、ヒマだしいいかと思った。
久し振りに東大へ行くのもいい。
木下さんの食堂に顔を出そうか。
「そういえば、本郷校舎の近くに美味しいカレー屋が出来たんですよ!」
「ほんとか!」
「インド人の経営者で、本格的ですよ!」
「いいな!」
「カタ研」の集まりは3時だそうだ。
俺はカレーが大好きだ。
「私、午後は授業は無いんでタカさんに合わせますよ?」
亜紀ちゃんがニコニコして言った。
「じゃあ、一緒に喰うか」
「はい!」
「え! 私はフランス語の講義が!」
「じゃあ、またな」
「なんでぇー!」
12時にしようと柳が言ったが、亜紀ちゃんが間に合わず俺も喰った後で時間を持て余す。
柳も半泣きで諦めた。
しょっちゅう一緒に昼飯を食ってるじゃんか。
俺はアヴェンタドールで亜紀ちゃんを迎えに行くことにした。
亜紀ちゃんを1時に迎えに行き、カレー屋は1時半頃に入れるだろう。
子どもたちが出掛け、俺はロボとゆっくりした。
ロボを乗せて亜紀ちゃんをピックアップした。
「カタ研」のために用意したマンションの駐車場に車を停め、ロボの御飯を用意する。
俺たちはそのままカレー屋に行った。
「予約した石神です!」
亜紀ちゃんが言うと、奥のテーブルに案内された。
40もテーブルが並ぶ大きな店だった。
スパイスのいい香りが漂っている。
店内は清潔で、ちょっとしたフレンチレストランの感じだ。
真っ白な漆喰の壁に、インドのカラフルな織物が掛けられている。
他のインド料理店のような派手さはなく、俺は気に入った。
ランチのコースに幾つかの料理を追加した。
ナスとマトン、ダル、キーマ、それにグリーンカレー。
グリーンカレーにライスをつけてもらった。
他はナンで食べる。
ナンはプレーンとチース、セサミ、ガーリックを頼んだ。
5人前になるが、亜紀ちゃんがいるから大丈夫だ。
サラダが最初に来た。
「きちんと喰えよ!」
「はい!」
サラダは一人前だ。
千切りのキャベツとトマト、キュウリ、コーンの普通の野菜サラダだった。
ドレッシングが別について来る。
俺たちはドレッシングを注いで食べ始めた。
「「お!」」
美味かった。
イタリアンに近いが、絶妙な酸味と旨味があった。
自家製だろうが、大した腕前だ。
野菜に興味の無い亜紀ちゃんがバリバリと食べた。
「このドレッシング、欲しいですね!」
「頼んでみろよ!」
俺も気に入った。
店員をブザーで呼ぶ。
小柄な男が来た。
「「!」」
パレボレだった。
「お前! 何してる!」
「アルバイトです! 先月報告しましたよね?」
「ん?」
亜紀ちゃんがメールを確認した。
「あ、あった」
読んでいなかったようだ。
「パレボレ、お前にはちゃんと金を渡しているだろう?」
俺が言った。
以前は酷いものだったが、パレボレが心を入れ替えてからはちゃんとしたマンションに住まわせ、生活費も十分に渡しているはずだ。
もちろん、電気ガス水道も使える。
「はい、でもお世話になりっぱなしというのも申し訳なくて」
「何言ってんだよ。お前、最近じゃ結構「カタ研」で活躍してるそうじゃないか」
「いいえ、とんでもない! 自分なんか全然ですよ!」
パレボレは変わった。
以前は自分が高等な人間だと思っていたが、俺たちと付き合うようになってそれが与えられただけのものだと悟った。
人間は能力や知識ではない。
自分以外の大事な何かのために生きることだと分かったようだ。
亜紀ちゃんが聞いた。
「お前、何か欲しいものがあるのか?」
「いいえ。でも、たまにはみなさんにお菓子なども買って行きたいと思います」
「その金はあるだろう?」
「はい。でも自分のお金は全部石神さんたちに頂いているものなので。そういうお金を使うことは出来ませんから」
「ほう」
亜紀ちゃんが冷たく言ったが、顔は綻んでいた。
「まあ、無理するなよな。それに俺たちがやってる金で「カタ研」のみんなに菓子を買ったっていいんだぞ」
「ありがとうございます。でも経験にもなりますし、アルバイトはさせてください」
「そうか」
俺は改めてこの店のドレッシングが欲しいと言った。
パレボレが店長に聞いて来ると言った。
「あいつも変わったな」
「そうですね!」
亜紀ちゃんが嬉しそうに笑った。
カレーがまた美味かった。
頼んだどれも絶品に美味い。
ドレッシングを頼んだが、カレーも全部レシピが欲しいくらいだった。
「美味いな!」
「そうですよね!」
亜紀ちゃんと堪能した。
山盛りのタンドリーチキン。
ベトベトしたものは俺は嫌いなのだが、この店のものはカリッと焼き上げられていた。
漬け込みも抜群で、肉に旨味が増している。
「これもいいな!」
「ね!」
二人でバリバリ食べる。
シシカバブも美味かった。
パレボレが2リットルのペットボトルを抱えて来た。
「店長がどうぞって。気に入って貰えて嬉しいと言ってました」
「そうか、ありがとうな!」
「パレボレ、どうしてこの店で働こうと思ったんだ?」
「はい! 賄いが出ますので!」
「「ワハハハハハハ!」」
ニコニコとして戻って行った。
「まあ、あいつも楽しそうに働いてて良かったな」
「そうですね」
亜紀ちゃんと満足して食べ終え、レジで会計を頼んだ。
パレボレがレジに入る。
信頼されているのだろう。
俺が支払い、明細を見た。
「おい、ドレッシングの分が入ってねぇじゃんか」
「あれは自分からのプレゼントで」
「おい、それは申し訳ないよ」
「いいんです! 石神さんにはお世話になってますから」
「ダメだって。払うから言ってくれ」
「いえ、本当に! 大した金額でもありませんし」
他の客が後ろに並んだので、俺も引っ込んだ。
「じゃあ、今度お礼をするな」
「いえ! 今日は来て頂いて嬉しかったです!」
「おお! 本当に美味い店だったな! また来るからな!」
「はい!」
厨房から店主らしいインド人の男性が出て来て、ニコニコしながら頭を下げた。
俺は亜紀ちゃんと、マンションに戻った。
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