2,018 / 3,202
道間家の休日 Ⅳ
しおりを挟む
「もう一つの問題は、北海道のものですね」
先日羽入と紅が遭遇した、鳥人の妖魔の集団だ。
「ああいうものは他にもいるということだな」
「本来は決して多くはございません。ほぼ、人間が遭遇することは稀かと」
「でも、いるにはいるんだな」
「さようでございます。石神家の方々が定期的に間引きしていた堕乱我などもそうですね」
「あれは半分養殖みたいなものだったけどな」
「ワハハハハハ!」
虎白さんたちは狩り尽くさないで少し残して、翌年にまた狩る楽しみにしていた。
困っている人たちにとっては迷惑な話だっただろうが。
まあ、俺と同じで善人の集団じゃない。
「稀だとはしても、妖魔に人間が犠牲になることはあるんだなぁ」
「さようでございます。恐らくは常の人間には理解できないことですので、単なる犯罪として解かれているのではないかと思います」
「俺は知らなかったぜぇ」
「まあ、一般には関わることがありませんからね」
「でも、今じゃ俺、頻繁だぜ?」
「アハハハハハ!」
麗星も笑っていた。
「あなた様が特別であられることと、それと」
「ああ、「業」との絡みだな」
「はい。そのようなことかと」
俺たちは「業」の操る妖魔との戦いを始めている。
その関わりということだ。
「これまで人間と妖魔とは特別な関りでありました。それこそ滅多には遭遇することのない、ほぼ無縁と言ってもよろしいかと」
「お前たちのような一部のヘンタイだけのものだったよな」
「さようでございます」
「それが今じゃ妖魔との戦いを前提としていなきゃならねぇ。どうなってんだ、これ?」
「まったくです」
「どれもこれも「業」のせいかぁ」
「ろくでもない奴ですね」
「まったくだぁ」
三人で笑った。
こんな異常事態を俺たちは笑うことが出来る。
「業」の出現で、世界が変容したのだ。
人間と出会うことのない妖魔が跋扈する世界になった。
「まあ、こうなっては仕方がねぇ。今後もああいうことが増えていくということだな」
「はい。恐らくは、「業」との戦争以外でも、人間は妖魔と接していくことになるでしょう」
「この世の理(ことわり)が壊れたな」
「はい。ほぼ接点を持たなかった妖魔との関係が、これから増えて行きます。それに対して対策を持つ必要がありますね」
俺、異世界転生はスローライフ物が好きなのだが。
現実は忙しいバトル物だ。
「出会えば戦いになるな」
「多くの場合は」
「それ以外を考えない方がいいだろう。紅は初見でカワイイものだと思ったようだけどな」
「確かに綺麗な顔をしていますね」
麗星が割って入って言った。
「俺には分からんけどなぁ。まあ、妖魔と人間は思考が違うから油断は出来ないということだな」
「私にも人間離れした顔に見えますね」
「そうだろう?」
五平所が同意する。
「あの、わたくしは結構愛くるしい顔だと」
「おお、女性にはそう見えるのかな」
「でも男性を魅惑するところじゃないですか?」
五平所が反論する。
麗星がカワイイと拘る。
「女性型なんだから、女じゃなくて男を魅了しなきゃなぁ」
「あの、別にわたくしも魅了されているわけでは」
「百合じゃないの?」
「あなた様!」
まあ、どうでもいい。
でも、男女で意見が分かれるのかもしれない。
「紅がよ、ピルちゃんって愛称を付けたんだよ」
「さようでございますか」
麗星が俺に言う。
「資料ではあなた様が集落の敵を何とかして欲しいと言ったとありますが」
「おお、言ったな! そう言えばな!」
「それが紅さんの意識を誘導したのでは……」
「そう言われるとそうかもな!」
「「……」」
「あんだよ!」
「いえ、なんでもございません」
まるで「お前のせいだろう」という目だった。
ちょっと話題を逸らす。
「ああ、そういえばさ、こいつらなんていう妖魔か分かるか?」
「卑流卑流(ぴるぴる)という名ですね」
「あれ、ピルちゃんに似てるじゃん」
「はい、あの鳴き声に因んだものだと、今回初めて分かりました」
「安直だなー」
こいつら、やたらと拘った名前を付けやがってるくせに。
「まあいい。道間家で、他にもこういう妖魔が常態でいる場所は知っているか?」
「はい、幾つかは。ですが、ほとんどが管理されております」
「管理?」
「比較的、人間に友好的か、あるいは実害の無い者たちです。集団でいるのは、石神家の方々が関わっている場所だけでございますし」
「あの人らなー」
「堕乱我は吉野の金山寺と百家が管轄と言いますか、石神家の方々との繋がりを続けるためにでございます」
「え、じゃあ虎白さんたちがこっそり遺してたのも知ってたの?」
「はい、それはもう。でも被害が起きない数まで減らしてはくれていましたので」
「毎年10億円とか聞いたけど?」
「その程度、石神家とのパイプを思えば」
「そっかー」
「何かあった場合に、あの方々の手をお借りできるのであれば、本当に安いものかと」
「へぇー」
そんなに頼りにされていたか。
俺はふと思った。
「あれ?」
「どうなさいました?」
「いや、俺ってさ、石神家の当主じゃない」
「さようでございますね?」
「あのさ、去年の堕乱我狩の後で、10億円なんて見てねぇんだけど」
「あぁ!」
「どうなってんだろうな?」
「まあ、愉快な一族でございますね」
「そんなもんかよ!」
麗星と五平所が笑った。
まあ、俺も金が欲しいわけではない。
あの人たちもそうだとは思うが、だからこそ気にしていないのだろう。
次の問題に移った。
先日羽入と紅が遭遇した、鳥人の妖魔の集団だ。
「ああいうものは他にもいるということだな」
「本来は決して多くはございません。ほぼ、人間が遭遇することは稀かと」
「でも、いるにはいるんだな」
「さようでございます。石神家の方々が定期的に間引きしていた堕乱我などもそうですね」
「あれは半分養殖みたいなものだったけどな」
「ワハハハハハ!」
虎白さんたちは狩り尽くさないで少し残して、翌年にまた狩る楽しみにしていた。
困っている人たちにとっては迷惑な話だっただろうが。
まあ、俺と同じで善人の集団じゃない。
「稀だとはしても、妖魔に人間が犠牲になることはあるんだなぁ」
「さようでございます。恐らくは常の人間には理解できないことですので、単なる犯罪として解かれているのではないかと思います」
「俺は知らなかったぜぇ」
「まあ、一般には関わることがありませんからね」
「でも、今じゃ俺、頻繁だぜ?」
「アハハハハハ!」
麗星も笑っていた。
「あなた様が特別であられることと、それと」
「ああ、「業」との絡みだな」
「はい。そのようなことかと」
俺たちは「業」の操る妖魔との戦いを始めている。
その関わりということだ。
「これまで人間と妖魔とは特別な関りでありました。それこそ滅多には遭遇することのない、ほぼ無縁と言ってもよろしいかと」
「お前たちのような一部のヘンタイだけのものだったよな」
「さようでございます」
「それが今じゃ妖魔との戦いを前提としていなきゃならねぇ。どうなってんだ、これ?」
「まったくです」
「どれもこれも「業」のせいかぁ」
「ろくでもない奴ですね」
「まったくだぁ」
三人で笑った。
こんな異常事態を俺たちは笑うことが出来る。
「業」の出現で、世界が変容したのだ。
人間と出会うことのない妖魔が跋扈する世界になった。
「まあ、こうなっては仕方がねぇ。今後もああいうことが増えていくということだな」
「はい。恐らくは、「業」との戦争以外でも、人間は妖魔と接していくことになるでしょう」
「この世の理(ことわり)が壊れたな」
「はい。ほぼ接点を持たなかった妖魔との関係が、これから増えて行きます。それに対して対策を持つ必要がありますね」
俺、異世界転生はスローライフ物が好きなのだが。
現実は忙しいバトル物だ。
「出会えば戦いになるな」
「多くの場合は」
「それ以外を考えない方がいいだろう。紅は初見でカワイイものだと思ったようだけどな」
「確かに綺麗な顔をしていますね」
麗星が割って入って言った。
「俺には分からんけどなぁ。まあ、妖魔と人間は思考が違うから油断は出来ないということだな」
「私にも人間離れした顔に見えますね」
「そうだろう?」
五平所が同意する。
「あの、わたくしは結構愛くるしい顔だと」
「おお、女性にはそう見えるのかな」
「でも男性を魅惑するところじゃないですか?」
五平所が反論する。
麗星がカワイイと拘る。
「女性型なんだから、女じゃなくて男を魅了しなきゃなぁ」
「あの、別にわたくしも魅了されているわけでは」
「百合じゃないの?」
「あなた様!」
まあ、どうでもいい。
でも、男女で意見が分かれるのかもしれない。
「紅がよ、ピルちゃんって愛称を付けたんだよ」
「さようでございますか」
麗星が俺に言う。
「資料ではあなた様が集落の敵を何とかして欲しいと言ったとありますが」
「おお、言ったな! そう言えばな!」
「それが紅さんの意識を誘導したのでは……」
「そう言われるとそうかもな!」
「「……」」
「あんだよ!」
「いえ、なんでもございません」
まるで「お前のせいだろう」という目だった。
ちょっと話題を逸らす。
「ああ、そういえばさ、こいつらなんていう妖魔か分かるか?」
「卑流卑流(ぴるぴる)という名ですね」
「あれ、ピルちゃんに似てるじゃん」
「はい、あの鳴き声に因んだものだと、今回初めて分かりました」
「安直だなー」
こいつら、やたらと拘った名前を付けやがってるくせに。
「まあいい。道間家で、他にもこういう妖魔が常態でいる場所は知っているか?」
「はい、幾つかは。ですが、ほとんどが管理されております」
「管理?」
「比較的、人間に友好的か、あるいは実害の無い者たちです。集団でいるのは、石神家の方々が関わっている場所だけでございますし」
「あの人らなー」
「堕乱我は吉野の金山寺と百家が管轄と言いますか、石神家の方々との繋がりを続けるためにでございます」
「え、じゃあ虎白さんたちがこっそり遺してたのも知ってたの?」
「はい、それはもう。でも被害が起きない数まで減らしてはくれていましたので」
「毎年10億円とか聞いたけど?」
「その程度、石神家とのパイプを思えば」
「そっかー」
「何かあった場合に、あの方々の手をお借りできるのであれば、本当に安いものかと」
「へぇー」
そんなに頼りにされていたか。
俺はふと思った。
「あれ?」
「どうなさいました?」
「いや、俺ってさ、石神家の当主じゃない」
「さようでございますね?」
「あのさ、去年の堕乱我狩の後で、10億円なんて見てねぇんだけど」
「あぁ!」
「どうなってんだろうな?」
「まあ、愉快な一族でございますね」
「そんなもんかよ!」
麗星と五平所が笑った。
まあ、俺も金が欲しいわけではない。
あの人たちもそうだとは思うが、だからこそ気にしていないのだろう。
次の問題に移った。
1
あなたにおすすめの小説
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
【完結】狡い人
ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。
レイラは、狡い。
レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。
双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。
口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。
そこには、人それぞれの『狡さ』があった。
そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。
恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。
2人の違いは、一体なんだったのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる