富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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百家の来訪 Ⅶ

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 「あ、あの」
 「おい、石神!」
 
 早乙女と俺が慌てている間にも、「柱」が俺の両手を持ってブンブンする。

 「お、おう、久し振りだな」

 ブンブン

 「「葛柱命」様! 「翼柱命」様! 誓いが遅れて大変申し訳ございません!」

 尊正さんが叫んだ。
 平伏したままだ。
 ロボが「柱」の足元に行って、上半身と両手を伸ばして挨拶していた。

 「石神様には先ほど御誓い致しました! 今後は百家は命を懸けて石神様を御支援致す所存です! まずはこの小身のわたくしと娘の身を捧げます! 存分に!」
 「ちょ、ちょっと!」

 俺は慌てた。

 「石神様、この御柱様方にまずはこの身を捧げます! それでどうかお許し下さい!」
 「何言ってんですか! ちょっと辞めて下さい! おい、お前らも絶対に受け取るなよな!」

 「柱」たちに向かって言った。
 「柱」も縦に身体を揺すって了承する。

 「ほら、いらないって言ってますから!」
 「でも、それでは「葛柱命」様と「翼柱命」様に申し訳なく!」
 「何言ってんですか!」

 早乙女もオロオロして、とにかく中へ入ってくれと言った。
 俺は亜紀ちゃんに言って緑さんを抱えさせ、俺は尊正さんを抱えて早乙女の家に入った。
 俺たちが上がると、雪野さんが怜花を抱いて待っていた。
 早乙女がお茶を頼んでくれた。

 「おい、俺たちは何もいらないからな」

 早乙女が一緒にキッチンへ行ったので、事情を話してくれるのだろう。
 俺はリヴィングの椅子に尊正さんたちを座らせた。
 「柱」にはいつもの場所にいてくれと言った。
 「小柱」は俺の胸に入ったままだ。
 仕方が無い。

 しばらくすると、俺たちの分もお茶を用意してくれ、恐縮してみんなで座った。
 ロボにまでミルクを頂いた。
 響子が俺の隣で俺の手を握っている。
 何が起きたかと不安に思っているのだろう。
 お茶を頂き、尊正さんたちも多少落ち着かれた。

 「まったく、いきなり何なんですか」
 
 俺は多少きつい口調で言った。

 「申し訳ありません。まさか「葛柱命」様と「翼柱命」様が既に顕現されているとは知らず、石神様への御協力の誓いが遅れてしまい……」
 「あの、俺のことは石神さんでお願いします。それと、協力なら以前からして下さってるじゃないですか」
 「いいえ、先ほども申し上げた通り、百家の全面的な協力をお約束するべきだったのです。私の一存で、百家の存続などという小さな欲で、これまで躊躇していたのでございます」
 「全然構いませんよ。それは正しい判断です。百家は名家中の名家だ。絶やすことは出来ませんよ」
 「そうではないのです。神意が現われることになれば、それは人の身では当然決めなければならないことでした」
 「神意ってねぇ……」

 尊正さんは、神(柱)の出現で決意されたのだと言った。
 だからあれだけ、うちに来る日程を早くと望んでいたのだろうことが分かった。
 しかし、既に「柱」は二柱も現われていた。
 知らなかったとはいえ、百家にとっては途轍もない失態だったということらしい。
 尊正さんの話を聞き、俺は仕方が無いことだと言った。

 「そうではないのです。石神様が「炎の柱」の方と伝にありましたことから、百家は最初から全てを捧げる決意を持たなければならなかったのです。それをわたくしが……」
 「もう辞めて下さいね! さっき「柱」も命はいらないって言ってましたから」
 「でも、そのような」

 尊正さんは納得しない。

 「おい、お前も何とか言え!」

 胸の「小柱」に言った。
 「小柱」がスポっと抜けてテーブルの上に舞った。
 突然激しく光った。

 「おい! 眩しい!」

 目を開けていられない。
 やがて光が納まり、目を開けると尊正さんと緑さんが泣いていた。

 「え? あの?」
 「石神様! 今「翼柱命」様から御赦しを頂きました!」
 「そうなの?」
 「はい! これで百家は一層石神様のために尽くしていく所存です!」
 「いや、普通でいいですから」
 「今後とも! よろしくお願いいたします!」
 「はい、こちらこそ」

 まったく困ったものだ。
 夜分に他人の家に押し掛けて、その上に死ぬだなんて。
 まあ、人の世のことではないのだから、しょうがないのだろうが。
 俺は早乙女と雪野さんに謝って、帰ることにした。
 1階のエレベーターホールで、「柱」が待っていた。
 俺の意を察したか、「柱」が尊正さんたちの肩を叩き、片手で顔の前で手を振る。
 「気にするな」というジェスチャーだろう。

 「そうだ、早乙女、ちょっと照明を落としていいか?」
 「ああ、あれか!」

 早乙女がエレベーターホールの照明を落とした。
 俺の置いたガラスの蝶のランプが美しく輝いていた。

 「こ、これは!」
 「お父様! 響ちゃんの!」
 「そうだな!」

 あんだ?

 二人が見惚れているので、しばらくみんなで暗い中で待った。
 本当に嬉しそうに見詰めていたからだ。




 家に戻り、また謝罪されたので困った。
 そして尊正さんが言った。

 「あの二柱様方の所に、蝶のあのようなものが置かれていたとは」
 「あれ、タカさんが置いたんですよ!」

 亜紀ちゃんが言った。
 余計なことを言うなと頭を引っぱたいた。

 「やはりそうですか! ありがとうございます!」
 「いえ、あれは以前に「柱」たちに助けてもらったんで、その礼なんですよ」
 「響は蝶の柄の着物が大好きでした」
 「「!」」

 俺と響子が思い出した。
 夢の中で、美しい蝶と石楠花の着物を着ていた。
 緑さんから、あれが特別に気に入っていたのだと教えてもらっている。

 「御導きですね。響は二柱様と共にいるに違いありません。これほど嬉しいことはございません」
 「そうですか」

 どう応えていいのか分からない。
 偶然だと言えば、お二人を悲しませるのかもしれない。
 俺は黙っていた。

 もう飲む気分ではなかった。
 解散にしようかと思っていると、響子が言った。

 「タカトラ、ギターを弾いて?」
 「え? でも今日はよ」

 緑さんが言った。

 「そう言えば、先週は石神様のコンサートでしたのよね?」
 「ええ、まあ」
 「宜しければ私たちも一曲お聞きしたいのですが」

 「お任せ下さい!」

 亜紀ちゃんが叫び、リヴィングにマヌエル・ラミレスを持って来た。
 俺は笑って調弦し、『KYOKO』を弾いた。

 「響子のために作った『KYOKO』という曲です」
 「素敵な曲でした!」
 「石神様、ありがとうございます」

 俺はまた「石神さん」と呼んで欲しいと言ったが、断られた。
 まあ、仕方ないかもしれない。
 今日はここまでで解散した。




 吹雪をベビーベッドで寝かせ、俺と響子、六花でベッドに横になる。
 響子はすぐに眠った。

 「六花、今日はいろいろ難しい話になっちゃってごめんな」
 「いいえ、すべて私の予想通りでした」
 「そうかよ!」

 俺は笑った。
 六花も微笑む。
 まあ、六花の予想通りなら何の問題もない。
 こいつは俺を愛し、俺のために何でもしてくれる。
 六花も小さな寝息を立て始め、俺もそれを聴きながら眠った。
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