富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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怜花ちゃん、石神家へ Ⅱ

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 3時前に思い出した。
 そうだ、そろそろ怜花ちゃんのおしめを替えてあげないと。
 士王ちゃんや吹雪ちゃんのは何度も替えているので大丈夫だ。
 そっと寝ている怜花ちゃんのおしめをはずした。
 さっき経口補水液を飲ませたので、ちょっと湿っている。
 ウェットティッシュで拭いてから、新しいおしめにした。

 「気持ちいーでちゅねー」

 おしめを替えて怜花ちゃんの頭を撫でると、ニコニコして目を覚ました。
 抱き上げてリヴィングへ行った。

 みんながお茶の支度をしている。
 柳さんも庭の鍛錬を終えてシャワーを浴びて来た。
 今日はトロイカのベイクドチーズケーキだ。
 紅茶を淹れ、ルーとハーがケーキをカットする。
 
 「タカさんの分もね!」
 「「はーい」」

 言っとかないと、いつも二人は食べてしまう。
 こないだ、カツカレーのカツが両端しか残ってなくて、タカさんが激怒していた。

 「怜花ちゃんも食べられるかな」
 「大丈夫だよ」

 私は膝の上に怜花ちゃんを乗せて、スプーンで少しだけ掬って口の前に持って行った。
 子どもはよく食べ物を喉に詰まらせるので、必ずほんの少しずつ与えなければいけないと、タカさんに言われている。
 怜花ちゃんが口に入れ、幸せそうな顔をした。

 「カワイイー!」

 もう一口あげた。
 さっきは下痢になってお昼に食べたものが出ちゃっている。
 お腹が空いているかもしれない。
 柳さんが来て、「わたしもー」と言った。
 スプーンを渡した。

 私のチーズケーキから掬った。

 「……」

 「はい、あーん」

 怜花ちゃんが両手をプルプルさせて食べた。

 「かわいー!」

 私は皇紀のこめかみを殴ってから、皇紀のチーズケーキを食べた。

 「わーん」

 怜花ちゃんはニコニコしながら「けぷ」と言った。
 もう満腹らしい。

 「さー、午後は何して遊ぶかなー!」

 怜花ちゃんが私を見てニコニコしている。
 
 「そうだ! ドライブに行こうか!」
 「亜紀ちゃん、ダッジ・デーモン?」
 「そうだよ?」
 「大丈夫かな」

 ルーとハーが心配する。

 「平気! あ、ベビーシートあったよね?」
 「あるけどさー」
 「じゃあ、私も一緒に行くよ」
 「柳さん! じゃあ、3人で行きましょ!」
 「うん!」

 タカさんが士王ちゃんや吹雪ちゃんを乗せてよくドライブに行くので、ベビーシートがある。
 ダッジ・デーモンの助手席に取りつけて、怜花ちゃんを固定した。
 柳さんが後ろのシートに座る。

 「じゃー、行くよー!」

 門を出てから後輪を固定して激しく回した。

 「亜紀ちゃん!」
 「世界最高の加速を体験させてあげるよー!」
 「待って!」

 6.2リッターのV8エンジンが唸り、スーパーチャージャーが激しく吼える。

 「ごー!」
 
 ダッジ・デーモンが弾丸のように弾け飛ぶ。

 「今、前が浮いたよね!」
 「ワハハハハハ!」

 前輪が持ち上がるパワーは他の車には無い。
 角をドリフトしながら曲がった。
 タイヤが激しいスキール音を響かせる。

 「亜紀ちゃん、普通に走って!」
 「ガハハハハハ!」

 栞さんにドリフトを教わった。
 対向車に急接近するが、慌てずに逆ハンを切りながら車体を安定させて鼻先をすり抜けた。

 「危ないってぇー!」
 「ガハハハハハ!」

 青梅街道に出てからも、私のドライヴィング・テクを披露していく。
 柳さんがずっと後ろで怒鳴っている。

 「怜花ちゃんは大丈夫なの!」
 「え?」

 隣を見ると目を閉じて眠っていた。
 
 「寝てるよ?」

 柳さんが後ろから覗き込んだ。

 「気絶してるよ! 口から泡が出てる!」
 「え?」

 柳さんに頭を叩かれて車を停めた。

 「あ……」
 「亜紀ちゃん! すぐに石神さんの病院に行って!」
 「は、はい!」
 「急いで! あぁ! 急がないで!」
 「どっちですかー!」

 できるだけ丁寧に走って、タカさんの病院に行った。
 タカさんに本気で殴られた。
 柳さんも。

 ごめんなさい。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 亜紀ちゃんたちを叱って返し、怜花は俺が預かった。
 響子の部屋へ連れて行き、六花に見てもらった。
 亜紀ちゃんの運転で気絶したとのことだが、異常は無い。
 幼い子どもの神経が驚いて、気を喪わせたのだろう。
 人間にはそういう機構がある。

 「レイカだー!」

 響子が大喜びだ。
 目を覚ました怜花を抱き締めて可愛がる。

 「女の子っていいね!」
 「そうだな」

 俺の子どもはみんな男の子だ。
 三人とも女の子以上に美しい顔をしているが。
 まあ、親の欲目かもしれないが。

 「吹雪ちゃんも連れて来てー!」
 
 俺は笑って許可を出して、六花に連れて来させた。
 響子のベッドに怜花と並べて寝かせる。

 「おー!」

 響子が大喜びだ。

 「カワイイな!」
 「そうですね!」

 二人とも花のように輝いてカワイイ。

 「裸にしましょうか」
 「何すんだよ!」

 六花が既成事実が何とか言っていた。

 「吹雪曜日に入れますね」
 「やめろ!」

 「じゃあ、やっぱり虎曜日」

 頭を引っぱたいた。
 響子が一緒にセグウェイで遊びたいと言った。

 「いや、まだ乗れねぇから」
 「そっか」
 「ちょっとさっき亜紀ちゃんたちが無茶なことをしたんでな。ゆっくり休ませてやってくれ」
 「分かった!」

 響子はタブレットを出して、二人に動画を見せ始めた。




 5時になり、俺はそろそろ帰ることにした。
 響子の部屋へ行くと、三人とも寝ていた。

 「しばらく三人でタブレットを見てたんですけど、すぐに眠ってしまいました」
 「そうか」

 俺は笑って怜花を抱き上げて、六花にベビーシートを借りて帰った。
 助手席に座らせると、怜花が目を覚ました。

 「おう、起きたか。これから帰るからな」
 「うん」

 怜花の額にキスしてやると、嬉しそうに笑った。
 そっとアヴェンタドールのドアを閉める。
 俺もシートに座り、出発した。

 「今日はいろいろ大変だったな」

 怜花はニコニコしている。

 「まあ、亜紀ちゃんたちも怜花が来てくれて嬉しかったんだよ。それでついはしゃいじゃってな。悪かったな」
 
 怜花は俺を見て首を振った。

 「分かってくれるか。ありがとうな」

 俺は怜花の頭を撫で、怜花は俺の手を掴んだ。

 「たのしいよ」
 「そっか!」

 俺は運転しながら考えていた。
 亜紀ちゃんは反省しているだろう。
 怜花に気を付けながら接しようとするだろう。

 しかーし!

 今日はアレがある。
 怜花が眠ればいいが、そうでない場合は一緒にいることになる。
 俺が外せばいいのだが、アレは石神家全員参加行事だ。

 「まあ、ちょっと騒がしいかもしれねぇが、勘弁してくれな」

 怜花は俺の言うことは分からないだろうが、俺を向いてニコニコしていた。
 精一杯守ろう。
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