富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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茜 Ⅲ

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 病院へ行くと、もうすっかり茜の部屋の準備が出来ていた。

 「え、一人部屋なんです?」
 「おう、特別室だ」
 「えぇ!」
 「お前は俺の大事な人間だからな。御堂からもくれぐれもと頼まれてる」
 「私なんか!」
 「お前は超VIPだ」
 「そんなぁ! 私、トラックの運送屋ですよ!」
 「世界で最高のな!」
 「そんな!」

 笑って俺は寝間着に着替えさせた。
 俺は簡単に、設備の説明をした。
 洗面所は室内にある。
 トイレは廊下の左側で、シャワー室はその向かい。
 
 「特別室は、消灯の決まりが無い」
 「そうなんですか!」
 「好きなだけ起きてていいし、テレビも見放題だ。WiFiも使いたい放題な」
 「すごいですね!」
 「ただ、夜の決まった時間はあまり部屋の外へ出歩くな。トイレと自動販売機はいい」
 「分かりました」

 部屋には40インチのテレビとソファ、それに冷蔵庫とワードローブがある。


 「冷蔵庫にいろいろ入れておいたからな」
 「そうなんですか!」
 「飲み物と軽食を少しな」
 「はあ」
 「食事は特別メニューだ。食べたいものがあったら遠慮なく言ってくれ」
 「はい?」

 特別室の専任看護師がいて、買い物もしてもらえると話した。
 費用は全面的に御堂が出すから遠慮するなと。

 「それと、専任看護師がお前の世話をするけど、洗濯なんかもやるからな」
 「えぇー!」
 「ああ、明日寝間着や下着も買って来るから、遠慮なく使え」
 「何言ってんですかぁ!」
 「ワハハハハハハ!」

 茜がしどろもどろになる。
 俺の所へ来たのだから、諦めろと言った。

 「あとで、俺のヨメを紹介するよ」
 「エェー!」

 茜であれば、響子を見せてもいい。
 多分、また六花もいるだろう。

 俺は響子の部屋へ行った。
 やはり六花がいて、一緒に遊んでいた。

 「おう! 茜を連れてきたぞ!」
 「会える?」
 「じゃあ、これから行くか!」

 俺が吹雪を抱いて、みんなで茜の部屋へ行った。

 「おい、俺の子どもの吹雪だ!」
 「トラさん!」

 吹雪を見て茜が驚いた、

 「綺麗な赤ちゃんですね!」
 「そうだろう? こっちが母親の一色六花だ」
 「よろしくお願いします」
 「こちらこそ!」
 「六花はここのナースでな」
 「そうなんですか!」

 「そして、俺のヨメの「響子」だ」
 「響子です!」
 「?????」

 茜が戸惑っているので、俺が簡単に説明した。

 「まあ、あれだ。俺には数人の恋人がいるんだが、響子はその筆頭だ」

 響子がそう紹介され、ニコニコしていた。
 
 「あの、おいくつですか?」
 「14歳!」
 「ゲェ!」
 「お、お前、誤解すんな! まだ肉体関係はねぇ!」
 「一緒にお風呂にはいるけどね!」
 「おい!」
 「もう毛も生えたしね!」
 「バカ!」

 六花が大笑いしている。
 茜も笑っていた。
 響子は茜のことが一目で気に入ったようで、気後れすることなく話した。

 「響子はアメリカ人なんだけど、日本語は全然大丈夫だからな」
 「納豆好きだよ!」
 「そうなんだ!」

 茜も響子を気に入ったようだ。
 六花には、そのあまりの美しさに少し緊張していた。

 「六花は、響子の専任のナースなんだよ。だから二人はいつも一緒だ」
 「そうなんすか!」
 「こいつ、響子が大好きでなぁ。今日も休みなのに来てやがる」
 「へぇ!」

 そのことで、茜も六花のことを気に入ってくれたようだった。
 俺は六花に吹雪を渡し、響子と病室へ戻させた。

 「あの響子は何年もここで入院していてな」
 「え、そうなんすか? 元気そうでしたが」
 「まあ、最近はな。でも末期がんで死ぬところだったんだ。奇跡的に手術が上手く行ったんだが、ずっといつ死ぬか分からない状態だった」
 「可哀そうに」
 「でも徐々に体力を付けて来てな。このまま一生ベッドの生活だろうが、あいつは生きようとしている」
 「そうっすか! 立派な人ですね!」
 「そうだな」

 茜は昔と変わらなかった。
 まあ、今でも「保奈美 命」などと掲げている奴だ。
 純粋でバカで燃える血を持っていて、この上なく優しい。
 最高の女だ。

 「トラさんはここの病院に勤めてるんですね?」
 「ああ。御堂がお前に本当に申し訳ないってな。俺の病院で絶対に後遺症が残らないように治してくれってさ」
 「そうっすか。あの方はテレビで見た通り、本当に誠実で優しい方でした」
 「そうだろう!」

 俺が叫ぶと、茜が笑った。

 「私なんかに頭を深々下げて謝るんですよ」
 「おう! そういう奴だよな!」
 「それで、治療費はもちろん、賠償も何でもするって。怪我は絶対に治すからって言ってくれました」
 「そうだそうだ!」
 「何か必要なものがないかって、何度も聞かれて。ああ、私の会社のほうにもさっそく謝罪と賠償の相談に行ったって」
 「やっぱ御堂だよなー!」
 
 茜が笑っていた。
 
 「あんだよ?」
 「トラさん、御堂さんのことが大好きなんですね」
 「ったりめぇだぁー!」

 茜の頭を撫でた。

 「御堂は最高だ! あいつのためなら何でもするぞ!」
 「そうですか」
 「もう一人の聖とな」
 「あ! トラさんと一緒にアメリカで傭兵になった人ですね!」
 「そうだ。あいつには、人生で一番苦しい時に助けてもらった。俺の大親友で大恩人だ」
 「トラさんよりも強い人でしたね」
 「バカヤロウ! どっこいだぁ!」
 「す、すみません!」

 まあ、最初の喧嘩で負けているが。

 「聖さんは今は?」
 「ああ、あいつはアメリカに残って、傭兵の会社を設立したよ。もう世界最高峰の会社だぞ」
 「すっごいですね!」
 「な!」

 話は尽きなかったが、茜を休ませるために帰ることにした。

 「検査をもう一度させてくれ。来週の月曜日からになるけどな」
 「分かりました。お手数をお掛けします」
 「食事は特別食が出るけど、喰いたいものがあったらナースに言ってくれ。大体希望通りになるからな」
 「え、牛丼とかも?」
 「うーん、まあ出来ねぇことはないけどなぁ。好きなのかよ?」
 「大好物です!」
 「じゃあ、俺が作ってやるかぁ」
 「え! トラさんが!」
 
 俺は笑って言った。

 「昔もよく作ってやったじゃねぇか」
 「はい! チャーハンとか美味かったです!」
 「おし! じゃあ楽しみにしてろ!」
 「はい!」

 まったく茜はカワイイ。

 「じゃあ、また明日来るからな」
 「え、いいですよ。お忙しいでしょう」
 「バカヤロウ! 妹分の茜がいるんだ! 来るに決まってんだろう!」
 「トラさん!」

 茜が顔をしかめて無理矢理笑おうとしていた。
 俺はまた優しく抱き締めた。

 「お前に会えて本当に嬉しいよ」
 「私もです!」




 茜が少し泣いた。
 俺はそっと離れて病室を出た。
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