富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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真冬の別荘 Gathering-Memory Ⅵ

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 12月30日。
 昼食の後で、みんなでスーパーへ買い物に行った。
 皇紀は仕事があるので、ロボと留守番だ。
 多分「手仕事」もある。
 六花と吹雪も今日は残る。

 鷹から連絡があり、蓮花が思い立っておせち料理を作るので手伝いに行くと聞いた。
 蓮花も忙しいはずだが、ブランたちや研究所の仲間のために何かやりたいのだろう。

 スーパーに着くと、店長さんが感激して出迎えてくれた。
 
 「まさか今日もいらして頂けるとは!」
 「すいませんね。ちょっと買い足しておこうかと思いまして」
 「それは! どうぞどうぞ!」

 スーパーは三が日は休むそうで、年内最後の追い込みで賑わっていた。
 生鮮食品は軒並み値下げをし、多分明日の大晦日はもっと値を下げるのだろう。
 昨日もそうだったが、品目は正月料理が多くなっている。

 「タカさん! 数の子!」

 亜紀ちゃんが飛びついた。

 「おお、いいな。何か食べたいものがあったらどんどん買えよ」
 「昆布巻き食べたい!」
 「タカさん! 栗きんとん!」
 「お、海老芋か。買っとくか」
 「石神さん、黒豆ちょっといいですか?」

 みんなで普段食べないものを選んで買って行った。
 亜紀ちゃんが念のためとまた肉を20キロ買い足した。
 まあ、幾らでも消費する。

 野菜コーナーで松茸が売っていた。
 昨日も気になっていた。
 売り場の一角に箱の山が出来ている。
 高いものなので、みんなあまり手を出さない感じだ。
 店長さんが俺たちの満杯のカートを引き取りに来たので聞いてみた。

 「松茸、結構ありますね」
 「ええ、ちょっと他の店舗が仕入れで失敗しましてね」

 売上絶好調のこのスーパーで引き受けることになったようだ。

 「じゃあ、うちで引き取りましょうか?」
 「え!」
 「これで全部ですか?」
 「いえ、あの、この倍がありますが」
 
 全部で200箱あるようだ。

 「じゃあ、それ全部」
 「よろしいのですか!」
 「はい。今まで子どもたちには高級食材を食い荒らさないように躾けて来たんですが、たまにはいいでしょう」
 「助かります!」
 「いいえ、こちらこそ」
 
 店長さんが店員に急いでまとめるように言った。

 「じゃあ、先ほどのお買い物と一緒にまたお届けします!」
 「すいませんね。今日は車に積んで帰るつもりだったんですが」
 「とんでもない! ありがとうございます!」

 会計をすると、随分と割り引いてくれたようだ。
 まあ、財布の紐が緩む年末に売れないと大変なことになる。
 俺たちは新館をブラつき、イタリアンレストランで軽くピザを食べた。
 またみんなで子ども広場でブレイクダンスを披露し、大勢の子どもたちを喜ばせた。

 3時に家に帰ると、皇紀がスーパーの荷物を受け取っていた。
 店長さんが来てくれていて、また焼き芋とタイ焼きを頂いてしまった。

 さて、大量の松茸をどうするか。
 今晩はカレーの予定なので、明日の晩に食べることにする。
 その前に、少し食べておくか。

 天ぷら、フライ、コロッケ、それに雪野松茸を作ることにした。

 響子が起きて来て、お茶にした。
 紅茶とパンプキンプリンだ。
 子どもたちと六花は焼き芋とタイ焼きも食べる。

 「皇紀ちゃん、ちゃんと手を洗ってね!」
 「うん」

 皇紀が手を洗った。

 「……」

 みんなでワイワイと話しながらお茶を楽しむ。

 「そう言えば蓮花がおせち料理を作るんで、鷹を呼んだらしいぞ」
 「えー! 私も食べたいー!」
 「お前らが行ったらみんな喰えなくなるだろう!」
 「えーん」

 鷹と蓮花が作るのなら絶対に美味しいとみんなが言っていた。

 「うちはすっかり作らなくなったな」
 「そうですね。でもみんなそれほど好きなものでもありませんし」
 「そうか」

 俺がそうだからなのだが、山中家では奥さんが毎年作っていたと聞いている。
 俺のワガママで、その思い出を遠ざけてしまったかもしれない。

 「今年はちょっとだけ作るか」
 「え、やりますか?」
 「たまにはいいんじゃないか?」
 「でも、さっき結構買いましたよ」
 「そうかー」

 まあ、今年はスーパーのものでいいか。
 来年は考えよう。

 「石神家のお正月は「肉」ですから!」
 「ワハハハハハハ!」

 仕方ねぇ。
 もしかしたら亜紀ちゃんが察して気を遣ったのかもしれない。
 子どもたちが来てからのことを、俺は思い出していた。

 「タカトラ、遠い目をしてるよ?」

 響子がそう言い、亜紀ちゃんが駆け寄って来た。

 「思い出ですか!」
 「ちげぇよ!」

 響子の顔を両手で挟み、キスをした。
 響子が喜ぶ。

 「俺はお前のことしか見てないからな!」
 「うん!」

 亜紀ちゃんが呆れて離れて行った。
 めんどくせー。

 



 最初に亜紀ちゃんたちをここへ連れて来た時。
 まだみんな突然両親を失ったことで戸惑っていた。
 俺に引き取られたことで安心はしていたが、その喪失感はどうしようもない。
 今だって、きっとまだ山中たちのことを思い出しているだろう。

 だから俺は懸命に美味い食事を作ろうとし、いろいろな話をして慰めようとした。

 いつの間にか、子どもたちは元気になり、俺も一安心した。
 こいつらはどうやって、あの大きな悲しみを乗り越えて来たのか。
 一番上の亜紀ちゃんだって、まだ中学2年生だった。
 皇紀と双子のために懸命に働こうとしていた。
 皇紀は姉と妹たちのことを最優先で考える奴だった。
 大人しいと見えるが、それは自分よりも兄弟を優先するからだ。
 双子は逸早く独立した。
 無邪気な性格で、真っ先に俺に逆らうようになった。
 でもそれは、俺への深い愛情故だった。

 なんだ、そうか。
 こいつらはずっと俺のために何かをやろうとして、あの大きな悲しみを乗り越えて来たのか。
 俺は一度も可愛そうだと言うことも無かった。
 そんな言葉はこいつらには必要なかっただろう。

 可愛そうに決まっている。

 だから言葉にはしなかった。
 
 「タカさーん。なんで笑ってるの?」
 
 ルーが俺に言った。

 「え?」
 「なんか嬉しそうだよ?」
 「そうか?」

 みんなが俺を見ていた。
 ニコニコしている。

 「響子が傍にいるからな!」
 「そうだよね!」
 「俺たちはラブラブだからな!」
 「そうだぞー!」

 みんなが笑った。

 「じゃあ、パンツ脱がすかー」
 「なんでよ!」
 「いいじゃんか。俺は響子のパンツが大好きだからな!」
 「やめてよ!」

 みんなに、寝ている間にパンツを脱ぐ癖があるのだと言った。

 「そんなことないよー!」
 「だって脱いでるじゃん」
 「タカトラが脱がしてるんでしょ!」
 「六花、響子がいつも自分で脱いでるよな?」
 「はい。困ったものです」
 「ウソだよー!」

 むくれた響子に双子が言った。

 「私たちもよくタカさんに脱がされるよ?」
 「でも、自分たちでも脱いでくよ?」
 「顔を挟んでジョリジョリすると喜ぶよねー」

 「タカトラ!」

 「そう言えば私もよく脱がされます」

 六花が言った。

 「お前ぇ!」
 「「ギャハハハハハハ!」」

 双子が大笑いした。

 「アキたちは?」
 「うーん、私と柳さんはよく一緒にお風呂に入るし」
 「最近慣れたね」

 「てめぇら!」
 



 俺の美しい思い出はどこへ行った?
 まあ、こういうのでいいのだが。
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