富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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《オペレーション・ティアドロップ》 Ⅱ

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 サーシャの村はそのまま残っていた。
 村の広場に降りると、サーシャはすぐに1台のトラックを見つけ駆け寄った。
 そのドアを開けて大泣きした。

 「отец(アチェーツ:お父さん)!」

 俺が駆け寄ると、運転席に白骨化した遺体があった。
 サーシャの父親に間違いないだろう。

 俺たちはすぐに他の遺体を探し始めた。
 亜紀さんがデュールゲリエを展開して周辺の森を探させ、ソルジャーたちに各戸を探させた。
 作業員のガードは亜紀さんが担う。
 泣いているサーシャに亜紀さんが言った。

 「サーシャちゃん! しっかりして! 慰霊碑はあそこでいいのね?」
 「は、はい!」

 亜紀さんがすぐに作業員に指示し、当初の予定通りの村の墓地の前に慰霊碑を置く作業に掛からせた。
 俺はトラックの中の遺体を丁寧に収納袋へ納め、「タイガーファング」に運んだ。
 この遺体だけはアラスカへ持ち帰る。
 石神さんの特別な指示だった。

 家屋から、幾つかの遺体が見つかった。
 抵抗したために、見せしめで殺されたのだろう。
 また、デュールゲリエたちが周囲の森から何人かの遺体を運んで来た。
 俺たちは慰霊碑の後ろに穴を掘って、遺体を埋めた。
 亜紀さんが叫んだ。

 「千石さん! タカさんから緊急連絡!」
 「!」

 最悪の事態になった。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「聖! ハーの行った村は全部徹底的に破壊されて何も残ってなかった。お前の所はどうだ?」
 「ああ、こっちもだ。ハーの場所とは近いからな。拉致の証拠を残さない方針だったのかもな」
 「そうか。じゃあ、慰霊碑だけ頼むな」
 「分かった」
 「亜紀ちゃんとルーの所はまだ村が残っていたらしい」
 「そうか」
 「何かあったらすぐに知らせてくれ」
 「了解!」

 トラからの通信で、2か所の村は残っていたことを聞いた。
 遺体の回収も出来ればいいのだが。
 戦場で兵士が死ぬのは仕方が無い。
 遺体を持ち帰れない状況もあるが、しょうがない。
 だけど、この人らはそうじゃない。
 ある日突然襲われて、殺された。
 生き残った人間は、死ぬよりも酷い目に遭っている。

 俺は許せなかった。
 以前にトラと、拉致部隊の拠点を潰した。
 そこで手に入れたデータで、悪魔の所業を知った。
 あいつらは拉致した人間たちを妖魔と合体させたり、バイオノイドに改造する実験をしていた。
 そればかりではない。
 自分たちの欲望のはけ口にし、強姦や拷問、殺人をしていた。

 戦争に善悪などないと思っていた俺だが、この戦いだけはそうじゃない。
 俺は敵を絶対に許さない。

 作業員たちが慰霊碑の場所を同行のバザロフに聞いて、作業を始めている。
 ソルジャーたちとデュールゲリエたちに、周辺の遺体の捜索を命じた。
 作業員たちの警護は俺が担った。

 降下して20分。
 周辺にも遺体は残っていなかった。
 ハザロフは残念がっていたが、無残な白骨体を見なかったのは良かったかもしれない。
 俺は全員を撤収させるつもりでいた。
 その時、トラから連絡が入った。

 「聖! 敵襲だ! お前の所と亜紀ちゃんとハーが行った村に妖魔が向かってる!」
 「分かった。迎撃しつつ離脱する!」
 「ルーはすぐにアラスカへ向かわせる。お前にそっちを任せていいか?」
 「大丈夫だ!」
 「頼むぞ!」

 トラの乗っている「タイガーファング」とのデータリンクで、中級の妖魔が2000体こっちに来ることが分かった。
 会敵は2分後だ。

 「急げ! 撤収するぞ!」

 他の全員に「タイガーファング」に乗り込み次第に離陸するように命じた。

 「セイントさんは!」
 「俺は迎撃に向かう! 自分で飛んで帰るから心配するな!」
 「はい!」

 離陸までの間に、敵が来る。
 俺は妖魔たちの群れに飛んだ。
 もう敵は10キロ地点まで迫っていた。
 高速タイプだ。
 ウェアウルフを中心とした強襲部隊だろう。
 俺は「聖光」を構えて空中から群れの中心に撃ち込んだ。
 その半径500メートルが消失する。
 もう「弾丸」の威力ではない。
 妖魔の動きが止まった。
 上空の俺に注目している。
 俺は構わずに妖魔たちに向かって連射した。

 「聖! そっちはどうだ!」
 
 トラからインカムに連絡が来た。

 「問題ない! 今、迎撃している」
 「任せて大丈夫だな!」
 「任せろ!」

 トラは亜紀とハーの所へ向かうのだろう。
 トラは口にしないが、最初からここを俺に任せたいと思っていた。
 それは、亜紀とハーの方へ向かった敵が強大だということだ。
 2000もの妖魔よりも。
 俺は急いで妖魔たちを殲滅して行った。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 霊素観測レーダーは、周囲20キロの索敵をしている。
 ウラールであれば、もっと広範囲が可能だが、「タイガーファング」に積み込めるものでは、それが限界だった。
 だから、俺は別な機体に乗り込み、作戦地域全体を覆うより高性能の霊素観測レーダーを積んで索敵に専念していた。
 それが功を奏した。

 聖とハーの行った村は完全に消失していた。
 慰霊碑を建てる作業と、念のために周囲の遺体の捜索をしている。
 20分が経過した時、俺の乗る「タイガーファング」の霊素観測レーダーに感があった。
 レーダーの観測員が叫ぶ。

 「3カ所に妖魔の反応! 同時攻撃です!」
 「解析しろ!」

 観測員が即座に量子コンピューターの解析を始める。

 「S(セイント)エリアへ中級妖魔約2000! A(アキ)エリアとH(ハー)エリア、これは恐らく《神》です!」
 「なんだと!」
 「R(ルー)エリアには敵はいません!」
 「即時連絡! 急いで離脱させろ!」

 俺はすぐに聖に連絡した。
 聖は自分のエリアを任せろと言ってくれた。
 次いで亜紀ちゃんに連絡する。

 「亜紀ちゃん! そっちとハーのエリアに《神》が行く!」
 「分かりました! タカさんはハーの方へ行って下さい!」

 亜紀ちゃんも即座に状況判断した。

 「すぐにそっちへ行く! 持ちこたえてくれ!」
 「はい!」

 亜紀ちゃんと千石がいる。
 千石は「黒笛」を携帯している。
 なんとか二人で時間を稼いで欲しい。

 俺は「タイガーファング」の後部ハッチから飛び出した。

 「ハー! 今そっちへ行くからな!」
 「はい!」

 20秒後に現着した。
 巨大な黒い卵のようなモノがいた。
 長辺の直径が400メートルほどある。
 
 ハーの指揮する部隊はまだ「タイガーファング」に乗り込んでいない。
 周辺を捜索していた人間たちが戻っていないのだ。

 俺は二本の「虎王」を抜いた。

 「行くぞ!」
 「はい!」




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「千石さん! 《神》が来ます!」
 「え?」
 「はっきり言って、タカさんじゃないと無理です! 時間を稼ぎますよ!」
 「分かった!」

 敵はすぐに見えて来た。
 地上と天で拡がった円錐形の柱のような姿だ。
 高さは1キロはある。

 私は先行して飛んだ。
 空中から、大技を放った。

 「オロチ・エクスプロージョン!」

 上級妖魔の群れを粉砕する技だ。
 柱の上端に向けて撃った。
 僅かに円錐の一部が破壊される。

 「行けるか!」

 その時、柱の全体が歪んだ。

 「!」

 私の身体が高熱を発し、地上へ落ちた。
 地面に激突する寸前に意識を取り戻し、何とか上昇して千石さんの所へ戻った。
 千石さんはサーシャちゃんに覆いかぶさって倒れていた。

 「千石さん!」
 「イヤァァー!」
 
 サーシャちゃんが泣き叫んでいた。
 サーシャちゃんは無事のようだった。
 デュールゲリエの一部が倒れており、ソルジャーも数人が立っているだけだった。
 作業員は「タイガーファング」に乗り込んでいるので、どうなっているかは分からない。

 「千石さん!」

 千石さんを揺すると、目を開いた。

 「亜紀さん……」

 「千石さん、不味い。私たちじゃ相手にならない」
 「……」

 私は覚悟を決めた。





 「亜紀さん、笑っているのか」

 千石さんの声が小さく聞こえた。
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