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シャドウ 誘拐 Ⅱ
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「おい、石神たちに見つかったぞ」
重々しい声が聞こえた。
その声で目が覚めた。
「機械が飛んできて、並走している」
「ほんとですか!」
重々しい声に、男たちが慌てている。
私はまだ目を閉じて動かないでいた。
自分がまだ上手く動けないことと、感覚も多くを取り戻していなかった。
「どうする? また見えなくするか?」
「お願いできますか、タームズ様?」
「分かった」
車内の雰囲気が変わった。
同時に、私の身体に触れている拘束具を感じた。
タームズと呼ばれた異様な者の力が離れたのだろう。
そっと薄目を開けて見た。
体躯は人間と同じものだが、まったく違う姿。
頭部、背中と手足に30センチもの針のような体毛があり、胸と腹部は甲殻類のような荒れた表面の外骨格。
顔は硬い仮面のようで、盛り上がった瞼の下の細い亀裂と、上部が剃刀のように鋭利な鼻、そして牙の見える大きな口。
(妖魔ではない)
なぜか、妖魔よりももっと深遠な存在と感じた。
どうしてなのかは分からないが、私の中に、そういうことが自然に浮かんで来た。
しかし、このまま拉致されるわけには行かなかった。
私には石神様の御血を頂いたこの重要な身体がある。
間違いなく敵の狙いは、この身体だ。
私を調べることで、石神様の不利になることが見つかるかもしれない。
そして、敵は石神様の追跡をかわす方法を持っているらしい。
(ならば)
私は行動を決意した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「石神さん! またロストしました!」
インカムにジェシカの声が響いた。
研究所を飛び出してすぐのことだ。
「どういうことだ!」
「分かりません! 突然、無人機の映像が車両を映さなくなったんです!」
「いつからだ?」
「3秒前! 直前までは確かに追跡していました!」
「分かった! 進行していた道路にとにかく向かう!」
「お願いします!」
やはり、敵は何らかの方法で姿を消す方法があるらしい。
霊素観測レーダーまで無効化するとは、本来は相当なレベルだ。
敵は霊素観測レーダー波を遮断することが可能だ。
グアテマラなどの施設でやっていた、妖魔の体組織を使った特殊な方法だ。
しかし、存在そのものを消すことは別な話だ。
今追っている無人機の映像まで消している。
物質を透明化する、認識疎外する技術は次元が異なる。
これまでに、何度かそういう奴と戦っている。
全て、「地獄の悪魔」たちだった。
俺は相当な能力を持った妖魔がいると考えた。
恐らく今回も「地獄の悪魔」だろう。
だが「虎王」であれば、接近すれば感知出来るはずだった。
だから、今も走っているだろう国道18号線を目指した。
GPSで俺の位置を観測しながら、ジェシカが常に車両の移動予測位置を伝えてくれる。
そして、シャドウに意識があるのならば、そろそろ行動を起こすはずだ。
俺は予測現場に到着し、国道に沿って移動を始めた。
ノアは視認出来ない。
だから「虎王」を使った。
まだ距離が離れているせいだろうが、何も感じられなかった。
俺は急いで国道を進んだ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「車を脇道に入れて停めろ」
「でも、タンムーズ様!」
「いいから停めろ。石神が来る」
「は、はい!」
タンムーズという怪物の指示で、車は国道を外れ、しばらく走ってから止まった。
「しばらくここでやり過ごす。ルートを考えろ」
「分かりました!」
私はチャンスだと思った。
「小周天」の呼吸法で、体内の気を練り上げて行った。
体内に力が満ち溢れて行く。
一気に拘束具を破り、後部の扉を破壊して外へ出た。
男たちが慌てたが、タンムーズはゆっくりと出て来た。
でも、もう私には「準備」が出来ていた。
「無駄なことをするな。お前には何も出来ない」
「お前たちの自由にはさせない」
タンムーズがゆったりと笑った。
「先ほどで分かっただろう。お前を無力にすることは簡単なのだ」
「私をどうするつもりだ!」
「お前の身体を調べ、お前を我々の仲間にする」
「なにを?」
「抵抗は出来ない。仲間になったお前をあの研究所へ送り、すべて破壊させる」
「!」
「お前にはその力がある。あの研究所は邪魔だ」
「お前ぇ!」
私は「絶花」を使い、「虚震花」を放とうとした。
また、動けなくなった。
「無駄だと言っているだろう」
「お、おまえは……」
「我は「業」様に呼び出された。地獄からな。もう我は自由だ。この地上で自由に行動出来る」
「な、なんだ……」
私では、このタンムーズには逆らえないのだということが分かった。
そして、タンムーズが言う通りに、私は改造され、蓮花さんの研究所を襲うようになるのだろう。
それだけは絶対に嫌だ。
「お前もすぐに自由にしてやる。何にも縛られずに破壊する……」
「させるかぁ!」
私は最後の力を振り絞り、自分の身体を破壊した。
石神様の御血が、私に自分を破壊する能力を与えてくれていた。
万一私が石神様に敵対するようなことがあれば、自分で自分を滅せるように。
それは私が自ら望んだ唯一の能力だった。
石神様の御血は、私に大いなる知性と力を与えて下さった。
ネズミとしての生を大きく超えさせて下さった。
だから私は、ただ一つだけ、石神様のために死ねる力を望んだ。
「石神様! お慕い申し上げていました! 蓮花さん! こんな自分を大切にしてくれてありがとうございましたぁ!」
「お前! バカなことをするな!」
タンムーズが慌てて叫ぶ声が聞こえた。
まさか自分の能力を超えて、私が自決出来るとは考えてもみなかっただろう。
私は自分が自壊するのを感じた。
感謝の歓喜の中で、私は消えて行った。
石神様と蓮花さんの顔を思い浮かべながら。
重々しい声が聞こえた。
その声で目が覚めた。
「機械が飛んできて、並走している」
「ほんとですか!」
重々しい声に、男たちが慌てている。
私はまだ目を閉じて動かないでいた。
自分がまだ上手く動けないことと、感覚も多くを取り戻していなかった。
「どうする? また見えなくするか?」
「お願いできますか、タームズ様?」
「分かった」
車内の雰囲気が変わった。
同時に、私の身体に触れている拘束具を感じた。
タームズと呼ばれた異様な者の力が離れたのだろう。
そっと薄目を開けて見た。
体躯は人間と同じものだが、まったく違う姿。
頭部、背中と手足に30センチもの針のような体毛があり、胸と腹部は甲殻類のような荒れた表面の外骨格。
顔は硬い仮面のようで、盛り上がった瞼の下の細い亀裂と、上部が剃刀のように鋭利な鼻、そして牙の見える大きな口。
(妖魔ではない)
なぜか、妖魔よりももっと深遠な存在と感じた。
どうしてなのかは分からないが、私の中に、そういうことが自然に浮かんで来た。
しかし、このまま拉致されるわけには行かなかった。
私には石神様の御血を頂いたこの重要な身体がある。
間違いなく敵の狙いは、この身体だ。
私を調べることで、石神様の不利になることが見つかるかもしれない。
そして、敵は石神様の追跡をかわす方法を持っているらしい。
(ならば)
私は行動を決意した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「石神さん! またロストしました!」
インカムにジェシカの声が響いた。
研究所を飛び出してすぐのことだ。
「どういうことだ!」
「分かりません! 突然、無人機の映像が車両を映さなくなったんです!」
「いつからだ?」
「3秒前! 直前までは確かに追跡していました!」
「分かった! 進行していた道路にとにかく向かう!」
「お願いします!」
やはり、敵は何らかの方法で姿を消す方法があるらしい。
霊素観測レーダーまで無効化するとは、本来は相当なレベルだ。
敵は霊素観測レーダー波を遮断することが可能だ。
グアテマラなどの施設でやっていた、妖魔の体組織を使った特殊な方法だ。
しかし、存在そのものを消すことは別な話だ。
今追っている無人機の映像まで消している。
物質を透明化する、認識疎外する技術は次元が異なる。
これまでに、何度かそういう奴と戦っている。
全て、「地獄の悪魔」たちだった。
俺は相当な能力を持った妖魔がいると考えた。
恐らく今回も「地獄の悪魔」だろう。
だが「虎王」であれば、接近すれば感知出来るはずだった。
だから、今も走っているだろう国道18号線を目指した。
GPSで俺の位置を観測しながら、ジェシカが常に車両の移動予測位置を伝えてくれる。
そして、シャドウに意識があるのならば、そろそろ行動を起こすはずだ。
俺は予測現場に到着し、国道に沿って移動を始めた。
ノアは視認出来ない。
だから「虎王」を使った。
まだ距離が離れているせいだろうが、何も感じられなかった。
俺は急いで国道を進んだ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「車を脇道に入れて停めろ」
「でも、タンムーズ様!」
「いいから停めろ。石神が来る」
「は、はい!」
タンムーズという怪物の指示で、車は国道を外れ、しばらく走ってから止まった。
「しばらくここでやり過ごす。ルートを考えろ」
「分かりました!」
私はチャンスだと思った。
「小周天」の呼吸法で、体内の気を練り上げて行った。
体内に力が満ち溢れて行く。
一気に拘束具を破り、後部の扉を破壊して外へ出た。
男たちが慌てたが、タンムーズはゆっくりと出て来た。
でも、もう私には「準備」が出来ていた。
「無駄なことをするな。お前には何も出来ない」
「お前たちの自由にはさせない」
タンムーズがゆったりと笑った。
「先ほどで分かっただろう。お前を無力にすることは簡単なのだ」
「私をどうするつもりだ!」
「お前の身体を調べ、お前を我々の仲間にする」
「なにを?」
「抵抗は出来ない。仲間になったお前をあの研究所へ送り、すべて破壊させる」
「!」
「お前にはその力がある。あの研究所は邪魔だ」
「お前ぇ!」
私は「絶花」を使い、「虚震花」を放とうとした。
また、動けなくなった。
「無駄だと言っているだろう」
「お、おまえは……」
「我は「業」様に呼び出された。地獄からな。もう我は自由だ。この地上で自由に行動出来る」
「な、なんだ……」
私では、このタンムーズには逆らえないのだということが分かった。
そして、タンムーズが言う通りに、私は改造され、蓮花さんの研究所を襲うようになるのだろう。
それだけは絶対に嫌だ。
「お前もすぐに自由にしてやる。何にも縛られずに破壊する……」
「させるかぁ!」
私は最後の力を振り絞り、自分の身体を破壊した。
石神様の御血が、私に自分を破壊する能力を与えてくれていた。
万一私が石神様に敵対するようなことがあれば、自分で自分を滅せるように。
それは私が自ら望んだ唯一の能力だった。
石神様の御血は、私に大いなる知性と力を与えて下さった。
ネズミとしての生を大きく超えさせて下さった。
だから私は、ただ一つだけ、石神様のために死ねる力を望んだ。
「石神様! お慕い申し上げていました! 蓮花さん! こんな自分を大切にしてくれてありがとうございましたぁ!」
「お前! バカなことをするな!」
タンムーズが慌てて叫ぶ声が聞こえた。
まさか自分の能力を超えて、私が自決出来るとは考えてもみなかっただろう。
私は自分が自壊するのを感じた。
感謝の歓喜の中で、私は消えて行った。
石神様と蓮花さんの顔を思い浮かべながら。
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