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パレボレ誘拐
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いつものカレー屋さんでのアルバイトを終え、9時頃にお店を出た。
今日の賄のカレーも美味しかった。
「じゃあ、パレボレ君、また明日もお願いね!」
「はい! 店長、お疲れさまでした!」
お店から少し先の交差点を青信号になったので渡ろうとした。
「うわ、眩しい!」
車のヘッドライトに照らされ思わず目を閉じると、次の瞬間に身体に衝撃を感じた。
一瞬物凄く痛み、そのまま意識を喪った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「タカちゃん、飛ばし過ぎだよ!」
「うるせぇよ!」
ダチがやってるバーで散々飲んだ。
まあ、いつものことだ。
芳江を隣に乗せて、車で帰った。
気分が良く、アクセルを踏み込んで道をすっ飛ばした。
それもいつものことだ。
「タカちゃん、前!」
「!」
慌ててハンドルを切った。
ドォーン!
ヤバい、人を撥ねた。
「タカちゃん!」
芳江が叫んで蒼白になっている。
慌てて二人で車を降りた。
芳江は吹っ飛んだ奴を見に行き、俺はカマロZL1 1LEのフロントを見た。
フロントの右側が少しへこんでいる。
ちくしょう。
「タカちゃん! 首が折れてるよ!」
「なんだと!」
俺も見に行った。
本当だ、ボッキリいってやがる。
「この野郎が急に飛び出してきたんだ」
「違うよ! 信号は赤だったよ!」
「うるせぇ!」
「ドライブレコーダーが記録してる。言い訳出来ないよ!」
俺は少し考えた。
芳江が電話をしようとしている。
「お前! 何やってんだ!」
俺は芳江の手からスマホを奪い取った。
「何言ってんの! すぐに救急車を呼ばないと!」
「そいつ、もう死んでるだろう」
「タカちゃん!」
俺は死んだそいつを担いでカマロのトランクに詰めた。
カマロのトランクは狭いが、小さな男だったので何とか入った。
「芳江、警察に捕まったら終わりだ」
「タカちゃん、何を言ってるのよ! その人を病院に……」
「もう死んでる」
「……」
芳江は俺を睨んだまま黙り込んだ。
「可哀そうだが、死んだ奴はもう生き返らない。俺が警察に捕まって何もかもを喪うだけだ」
「でもさ……タカちゃんさ……」
「こいつには悪いが、このまま消えてもらった方がいいんだ。誰ももう得をしない」
「そんなこと言っても」
「芳江、頼むよ。俺はお前と別れたくないんだ」
「タカちゃん!」
芳江もどうにか黙った。
納得はしていないだろうが、理屈は分かっただろう。
もう遅いのだ。
まあ、こんな奴のために罪を償うなんて冗談じゃない。
安い人間はくたばっても仕方ないだろう。
生きてたってろくなもんじゃねぇ。
俺はカマロを走らせながら、隣の芳江を見た。
もしもこいつもダメなら、始末するしかねぇ。
そんなに惜しい女でもねぇしな。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
目が覚めると真っ暗な狭い場所に閉じ込められていた。
揺れている。
この感覚は、以前に亜紀さんのダッジ・デーモンに乗せてもらった時と同じだと感じた。
車の後ろの小さな空間に横になって入るように言われた。
その時も結構揺れて、気持ち悪くて吐いたら、物凄く怒られた。
ルーさんとハーさんもいて、3人に殴られた。
柳さんが止めてくれた。
(あの時と同じだ。亜紀さんは、こういう場合のために、ああいう経験をさせてくれたのか!)
今回はあの時とは違って、身体のあちこちが痛かった。
記憶が思い出され、車に撥ねられたのだと分かった。
それも、前に亜紀さんからやられている。
ダッジ・デーモンで、笑いながら撥ね飛ばされた。
(全部亜紀さんのお陰だなぁ)
意識はあるが、身体が動かなかった。
だから通信が出来ない。
(そのうちに、ナノマシンが修復してくれるだろう。少し待つしかないな)
亜紀さんに言われてバイトをカレー屋さんのみにしておいて良かった。
今日はもう家に帰るだけだった。
前みたいに新聞屋さんなどのバイトを入れていたら、ご迷惑を掛ける所だった。
また、前みたいに振動で気持ち悪くなった。
吐いてしまった。
しかし、誰が運んでくれているんだろう。
カレーの臭いが立ち込め、申し訳ないと思った。
親切に、怪我をした僕を運んでくれているのだろうに。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「なんだ?」
風呂上がりに酒でも飲もうと思ったら、スマホが鳴った。
表示を見ると「グランマザー」とあった。
登録した覚えはない。
電話に出ると、グランマザーが話し出した。
「石神様、大変でございます」
「どうした?」
「パレボレが攫われたようです」
「パレボレが?」
一瞬、どういうことか分からなかった。
パレボレを攫う人間がいるとは思わなかった。
「はい。恐らく自動車に撥ねられて、現在運ばれているようです」
「病院へじゃないのか?」
「恐らくは。丹沢方面に向かっているようです。パレボレの地球人スーツの緊急回路が発報しました。パレボレに異常事態が起きるとわたくしに通信が来るようになっています」
そういう機能があることは聞いている。
亜紀ちゃんに虐められても発動しないが。
「分かった。パレボレの状態は?」
「先ほどまで気を喪っていたようですが、現在は目覚めております。損傷はあった模様ですが、ナノマシンが修復を開始しております」
「生きているんだな?」
「はい。詳細の状態は分かり兼ねますが、命の危険はありません」
「そうか」
俺はそこまでの話を聞き、何が起きているのかが分かった。
「恐らく、パレボレを撥ねた奴が、事故の証拠を隠滅するために、パレボレをどこかの山にでも埋めようとしているんだろう」
「なんと!」
「怪我人や遺体が無くなれば、警察も何も調べない。そんなことを考えているんだろうな」
「酷い人たちですね」
「まったくだ。そのうちにどこかに停めるだろう。その位置を連絡してくれ」
「かしこまりました。わたくしも参ります」
「じゃあ後でな。何かあったらすぐに連絡してくれ」
「はい」
手はずは打った。
「ところでよ」
「はい、なんでございましょうか?」
「俺のスマホにどうしてお前の番号が登録されてる?」
「オーホホホホホホ!」
「おい!」
「些細なことでございます」
「妖魔みてぇなことを言うな!」
「オーホホホホホホ!」
電話が切れた。
まあいい。
俺は子どもたちにも話した。
「パレボレが!」
亜紀ちゃんが怒り心頭になった。
「許せない! 皆殺しにしてやる!」
「まあ落ち着け。とにかく車が停まったらすぐに飛ぶぞ」
「はい!」
「丹沢方面のようだ」
「よりにもよってぇ!」
「準備をしておけ。ああ、俺と亜紀ちゃん、柳だけでいい」
「「分かりました!」」
「Ωコンバットスーツ」を用意して待った。
亜紀ちゃんが獰猛な顔になっている。
亜紀ちゃんにとって、パレボレは大事な人間になっていた。
もちろん柳も同じだが、亜紀ちゃんはパレボレの変化を一層喜んでおり、可愛がっていた。
30分後、グランマザーから連絡が来た。
あいつら、本当によりにもよって、俺の山に入りやがった。
今日の賄のカレーも美味しかった。
「じゃあ、パレボレ君、また明日もお願いね!」
「はい! 店長、お疲れさまでした!」
お店から少し先の交差点を青信号になったので渡ろうとした。
「うわ、眩しい!」
車のヘッドライトに照らされ思わず目を閉じると、次の瞬間に身体に衝撃を感じた。
一瞬物凄く痛み、そのまま意識を喪った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「タカちゃん、飛ばし過ぎだよ!」
「うるせぇよ!」
ダチがやってるバーで散々飲んだ。
まあ、いつものことだ。
芳江を隣に乗せて、車で帰った。
気分が良く、アクセルを踏み込んで道をすっ飛ばした。
それもいつものことだ。
「タカちゃん、前!」
「!」
慌ててハンドルを切った。
ドォーン!
ヤバい、人を撥ねた。
「タカちゃん!」
芳江が叫んで蒼白になっている。
慌てて二人で車を降りた。
芳江は吹っ飛んだ奴を見に行き、俺はカマロZL1 1LEのフロントを見た。
フロントの右側が少しへこんでいる。
ちくしょう。
「タカちゃん! 首が折れてるよ!」
「なんだと!」
俺も見に行った。
本当だ、ボッキリいってやがる。
「この野郎が急に飛び出してきたんだ」
「違うよ! 信号は赤だったよ!」
「うるせぇ!」
「ドライブレコーダーが記録してる。言い訳出来ないよ!」
俺は少し考えた。
芳江が電話をしようとしている。
「お前! 何やってんだ!」
俺は芳江の手からスマホを奪い取った。
「何言ってんの! すぐに救急車を呼ばないと!」
「そいつ、もう死んでるだろう」
「タカちゃん!」
俺は死んだそいつを担いでカマロのトランクに詰めた。
カマロのトランクは狭いが、小さな男だったので何とか入った。
「芳江、警察に捕まったら終わりだ」
「タカちゃん、何を言ってるのよ! その人を病院に……」
「もう死んでる」
「……」
芳江は俺を睨んだまま黙り込んだ。
「可哀そうだが、死んだ奴はもう生き返らない。俺が警察に捕まって何もかもを喪うだけだ」
「でもさ……タカちゃんさ……」
「こいつには悪いが、このまま消えてもらった方がいいんだ。誰ももう得をしない」
「そんなこと言っても」
「芳江、頼むよ。俺はお前と別れたくないんだ」
「タカちゃん!」
芳江もどうにか黙った。
納得はしていないだろうが、理屈は分かっただろう。
もう遅いのだ。
まあ、こんな奴のために罪を償うなんて冗談じゃない。
安い人間はくたばっても仕方ないだろう。
生きてたってろくなもんじゃねぇ。
俺はカマロを走らせながら、隣の芳江を見た。
もしもこいつもダメなら、始末するしかねぇ。
そんなに惜しい女でもねぇしな。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
目が覚めると真っ暗な狭い場所に閉じ込められていた。
揺れている。
この感覚は、以前に亜紀さんのダッジ・デーモンに乗せてもらった時と同じだと感じた。
車の後ろの小さな空間に横になって入るように言われた。
その時も結構揺れて、気持ち悪くて吐いたら、物凄く怒られた。
ルーさんとハーさんもいて、3人に殴られた。
柳さんが止めてくれた。
(あの時と同じだ。亜紀さんは、こういう場合のために、ああいう経験をさせてくれたのか!)
今回はあの時とは違って、身体のあちこちが痛かった。
記憶が思い出され、車に撥ねられたのだと分かった。
それも、前に亜紀さんからやられている。
ダッジ・デーモンで、笑いながら撥ね飛ばされた。
(全部亜紀さんのお陰だなぁ)
意識はあるが、身体が動かなかった。
だから通信が出来ない。
(そのうちに、ナノマシンが修復してくれるだろう。少し待つしかないな)
亜紀さんに言われてバイトをカレー屋さんのみにしておいて良かった。
今日はもう家に帰るだけだった。
前みたいに新聞屋さんなどのバイトを入れていたら、ご迷惑を掛ける所だった。
また、前みたいに振動で気持ち悪くなった。
吐いてしまった。
しかし、誰が運んでくれているんだろう。
カレーの臭いが立ち込め、申し訳ないと思った。
親切に、怪我をした僕を運んでくれているのだろうに。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「なんだ?」
風呂上がりに酒でも飲もうと思ったら、スマホが鳴った。
表示を見ると「グランマザー」とあった。
登録した覚えはない。
電話に出ると、グランマザーが話し出した。
「石神様、大変でございます」
「どうした?」
「パレボレが攫われたようです」
「パレボレが?」
一瞬、どういうことか分からなかった。
パレボレを攫う人間がいるとは思わなかった。
「はい。恐らく自動車に撥ねられて、現在運ばれているようです」
「病院へじゃないのか?」
「恐らくは。丹沢方面に向かっているようです。パレボレの地球人スーツの緊急回路が発報しました。パレボレに異常事態が起きるとわたくしに通信が来るようになっています」
そういう機能があることは聞いている。
亜紀ちゃんに虐められても発動しないが。
「分かった。パレボレの状態は?」
「先ほどまで気を喪っていたようですが、現在は目覚めております。損傷はあった模様ですが、ナノマシンが修復を開始しております」
「生きているんだな?」
「はい。詳細の状態は分かり兼ねますが、命の危険はありません」
「そうか」
俺はそこまでの話を聞き、何が起きているのかが分かった。
「恐らく、パレボレを撥ねた奴が、事故の証拠を隠滅するために、パレボレをどこかの山にでも埋めようとしているんだろう」
「なんと!」
「怪我人や遺体が無くなれば、警察も何も調べない。そんなことを考えているんだろうな」
「酷い人たちですね」
「まったくだ。そのうちにどこかに停めるだろう。その位置を連絡してくれ」
「かしこまりました。わたくしも参ります」
「じゃあ後でな。何かあったらすぐに連絡してくれ」
「はい」
手はずは打った。
「ところでよ」
「はい、なんでございましょうか?」
「俺のスマホにどうしてお前の番号が登録されてる?」
「オーホホホホホホ!」
「おい!」
「些細なことでございます」
「妖魔みてぇなことを言うな!」
「オーホホホホホホ!」
電話が切れた。
まあいい。
俺は子どもたちにも話した。
「パレボレが!」
亜紀ちゃんが怒り心頭になった。
「許せない! 皆殺しにしてやる!」
「まあ落ち着け。とにかく車が停まったらすぐに飛ぶぞ」
「はい!」
「丹沢方面のようだ」
「よりにもよってぇ!」
「準備をしておけ。ああ、俺と亜紀ちゃん、柳だけでいい」
「「分かりました!」」
「Ωコンバットスーツ」を用意して待った。
亜紀ちゃんが獰猛な顔になっている。
亜紀ちゃんにとって、パレボレは大事な人間になっていた。
もちろん柳も同じだが、亜紀ちゃんはパレボレの変化を一層喜んでおり、可愛がっていた。
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あいつら、本当によりにもよって、俺の山に入りやがった。
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