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院長夫妻と別荘 X 絵画コンクール 2
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小学6年生の時。
その頃は喧嘩に夢中で、絵の方はあまり描かなくなっていた。
デッサンは時々やっていたが水彩は描かない。
まあ、理由もあったのだが。
結局は石神家の血が燃えて来たのだろうと、今では思う。
そういう時、安田先生が児童画コンクールにうちの小学校からも出品しようと職員会議で言ったらしい。
小学校内で何人か絵の上手い生徒で選定して出品することになった。
俺もその中の一人に選ばれた。
安田先生の頼みだったので、俺も快く引き受けた。
放課後に残って、10人程で絵を描いて行く。
絵を描くのは構わないのだが、困ったことがあった。
「安田先生」
「なに、石神君」
「あの、俺、絵の具があんましなくって」
「え?」
「授業で使うのが精一杯なんですよ。ほら、うちって貧乏だから」
「!」
正直に言うしか無かった。
俺が水彩画を描かなくなった理由だった。
本当に、俺の絵の具は白と黄色とオレンジのチューブが3分の1程度しか残ってなかった。
お袋に言えば買ってもらえたのかもしれないが、言い出しにくかった。
授業では、何とかやりくりしていた。
安田先生はすぐに自分の絵の具を持って来てくれた。
ターナーの良い物だった。
「ごめんね! これ、幾らでも使って!」
「いえ、こんなには」
「いいから使って! ああ、私は石神君のことを全然分かってなかった!」
「そんな! 安田先生にはいつも良くしてもらってるじゃないですか!」
「本当にごめん! 足りなければ幾らでも言ってね!」
安田先生はうちの貧しさをよく知っていた。
半べそで言われたので、俺も有難く使わせてもらった。
何を描いてもいいと言われたので、俺は家から白い細い花瓶を持って来た。
そして山に入って、竜胆を一凛。
それを描いた。
手前に白い花瓶と竜胆を描く。
花瓶の後ろに暗い青のグラデーションで拡がっていく景色。
白い道と拡がる薄暮れの荒野と星空を描いた。
道の果が幽かに輝いている。
他のみんなが静物画を描いていたのに対し、俺はそういう絵を描いた。
安田先生に絵画コンンクールの出品の候補に選ばれたことをお袋に話すと。飛び上がって喜んでくれた。
「高虎、凄いじゃないの!」
「いや、まだ分からないよ。他にも候補はいて、10人の中から代表を選ぶんだから」
「高虎が絶対に代表になるよ!」
「なんでだよ!」
二人で笑った。
お袋は俺のことに関してはベタ甘の人だった。
俺は安田先生に絵の具をお借りしている話は出来なかった。
新しい絵の具を買って欲しいとお袋にも言えずにいたからだ。
お袋は仕事が忙しく、最近は水彩画はまったく描いていない。
だから俺の絵の具を見ることも無かった。
俺が病気ばかりするせいで家に金がなく、新しい絵の具を買ってもらうのは申し訳ない。
「高虎、がんばってね!」
「おう!」
それから毎日放課後に残って、俺たちは図工室でコンクールの絵を描いて行った。
お袋が夕方に戻って来て、俺に今日はどうだったのかと毎日聞かれた。
進行具合は説明しにくいのだが、お袋が楽しみにしているので、俺は一生懸命に話して聞かせた。
お袋はいつもニコニコして俺の話を聞いていた。
小学校でも、安田先生にお袋が楽しみにしているのだと話した。
「そう! いいお母さんね!」
「はい!」
基本的に生徒の自由に描かせていたが、安田先生は質問や相談があればいつでも丁寧に答えていた。
午後3時から5時までの時間が制作。
2週間の製作期間だったが、俺は翌週の火曜日には完成した。
「石神君、もうそれでいいの?」
「はい!」
安田先生も満足そうな顔をして、俺の作品を褒めてくれた。
絵の具をお借りしたお礼を言い、家にあったクッキーを一枚だけ差し上げた。
「すみません。こんなものしか無くって」
「石神君!」
安田先生が泣くので困った。
その翌日。
登校すると、安田先生が青い顔をして教室に飛び込んで来た。
俺の机に駆けてくる。
「石神君!
「おはようございます。安田先生、どうしたんですか?」
「ごめんなさい! 石神君の絵が破れてしまったの!」
「え!」
すぐに担任の島津先生も来て、俺は教室を連れ出された。
図工室に三人で行き、デスクの上に破れた俺の絵が置いてあった。
それは明らかに「破られた」ものだった。
ご丁寧に、8片に千切られた上に握り潰されていたのだ。
「これは……」
安田先生は、毎日俺たちが帰った後に絵を乾燥させるために大きなテーブルに広げ、教室に鍵を掛けて帰っていたそうだ。
教室の鍵は、もちろん職員室で管理されており、先生方しか持ち出せない。
先生の誰かが鍵を持ち出して開け、俺の絵をこんなにしたに違いない。
俺を嫌いな、また恨んでいる先生は何人もいる。
「石神君、ごめんなさい! 私がしっかり管理していなかったから!」
「安田先生のせいじゃないですよ。俺が悪いんだ」
「何を言うの、石神君!」
「ほら、俺って生意気じゃないですか。こんなことされてもしょうがないですよ」
「あなたのせいじゃない! こんなことをする人間が悪いに決まってるんだから!」
島津先生も許せないと言っていた。
「石神、俺が必ず犯人を捕まえるから!」
「島津先生、いいですよ。安田先生、俺、もう一度描いてもいいですか?」
「え! 石神君、でももう日数が」
「何とかしますよ。お袋が楽しみにしてるんです」
「石神君!」
安田先生が泣いてしまわれた。
「安田先生、俺、先生の絵の具をお借りしてるんですけど、またいいですか?」
「も、もちろん……よ」
泣きながら安田先生がそう言ってくれた。
俺は本当に自業自得だと思っていた。
恨まれる筋合いは幾らでも思いついた。
誰がやったかなどどうでも良かった。
ただ、楽しみにしているお袋のためにやりたかった。
期限は金曜日の夜まで。
土曜日の午後に、校長先生たちを交えて選考会があるそうだ。
あと3日。
俺は特別に安田先生に7時まで残らせてもらった。
5時にみんなが帰ると、安田先生や島津先生が差し入れを持ってきてくれた。
あんパンやサンドイッチなど。
本当に嬉しかった。
お袋には、最後の追い込みをするので遅くなると伝えていた。
破かれたのでやり直しているなどとは言えない。
申し訳ないが、7時を過ぎるようになった。
安田先生に謝ると、俺の思うようにやって欲しいと言われた。
終わると、安田先生がそっと俺の絵を持ち上げ、校長室の鍵の掛かる棚へ入れてくれる。
校長先生から鍵を預かっているのだと言われた。
最後の金曜日。
俺は仕上げに集中していた。
9時になっても終われず、安田先生は何時になってもいいと言って下さった。
校長先生がラーメンをとってくれた。
俺と安田先生とでいただいた。
本当に遅くなり、俺は何度も安田先生に謝った。
安田先生は全然構わないと言ってくれた。
午前2時。
ようやく終わった。
安田先生が泣きながら俺の絵を抱え、一緒に校長室の棚に仕舞った。
「石神君、よく頑張ったわ」
「いえ! 安田先生こそ、こんな時間までお付き合いさせてしまってすいませんでした!」
「何を言うの! これは私の責任なんだから! 石神君、ありがとう」
「お礼なんて」
「いいえ。石神君は酷い嫌がらせに負けなかった! 復讐でもなく、へこむこともなかったよ! あなたは立派だった!」
「そんな、俺は全然そんなんじゃ」
「私、あなたを尊敬するわ! 絶対に忘れない」
「やめてくださいよ。俺、なんか美味しいものが食べれて嬉しかったし」
「あなたはもう!」
安田先生に抱き締められた。
何がどうなったのか、俺の絵がコンクールで優勝し、その後文部大臣賞まで頂いてしまった。
安田先生が大泣きして飛び込んで来て、今度は他の生徒のいる俺の教室で俺を抱き締めた。
男子生徒から冷やかされ、女子生徒が文句を言っていた。
「石神君は本当に凄いよ! あなたは最高だわ!」
その頃は喧嘩に夢中で、絵の方はあまり描かなくなっていた。
デッサンは時々やっていたが水彩は描かない。
まあ、理由もあったのだが。
結局は石神家の血が燃えて来たのだろうと、今では思う。
そういう時、安田先生が児童画コンクールにうちの小学校からも出品しようと職員会議で言ったらしい。
小学校内で何人か絵の上手い生徒で選定して出品することになった。
俺もその中の一人に選ばれた。
安田先生の頼みだったので、俺も快く引き受けた。
放課後に残って、10人程で絵を描いて行く。
絵を描くのは構わないのだが、困ったことがあった。
「安田先生」
「なに、石神君」
「あの、俺、絵の具があんましなくって」
「え?」
「授業で使うのが精一杯なんですよ。ほら、うちって貧乏だから」
「!」
正直に言うしか無かった。
俺が水彩画を描かなくなった理由だった。
本当に、俺の絵の具は白と黄色とオレンジのチューブが3分の1程度しか残ってなかった。
お袋に言えば買ってもらえたのかもしれないが、言い出しにくかった。
授業では、何とかやりくりしていた。
安田先生はすぐに自分の絵の具を持って来てくれた。
ターナーの良い物だった。
「ごめんね! これ、幾らでも使って!」
「いえ、こんなには」
「いいから使って! ああ、私は石神君のことを全然分かってなかった!」
「そんな! 安田先生にはいつも良くしてもらってるじゃないですか!」
「本当にごめん! 足りなければ幾らでも言ってね!」
安田先生はうちの貧しさをよく知っていた。
半べそで言われたので、俺も有難く使わせてもらった。
何を描いてもいいと言われたので、俺は家から白い細い花瓶を持って来た。
そして山に入って、竜胆を一凛。
それを描いた。
手前に白い花瓶と竜胆を描く。
花瓶の後ろに暗い青のグラデーションで拡がっていく景色。
白い道と拡がる薄暮れの荒野と星空を描いた。
道の果が幽かに輝いている。
他のみんなが静物画を描いていたのに対し、俺はそういう絵を描いた。
安田先生に絵画コンンクールの出品の候補に選ばれたことをお袋に話すと。飛び上がって喜んでくれた。
「高虎、凄いじゃないの!」
「いや、まだ分からないよ。他にも候補はいて、10人の中から代表を選ぶんだから」
「高虎が絶対に代表になるよ!」
「なんでだよ!」
二人で笑った。
お袋は俺のことに関してはベタ甘の人だった。
俺は安田先生に絵の具をお借りしている話は出来なかった。
新しい絵の具を買って欲しいとお袋にも言えずにいたからだ。
お袋は仕事が忙しく、最近は水彩画はまったく描いていない。
だから俺の絵の具を見ることも無かった。
俺が病気ばかりするせいで家に金がなく、新しい絵の具を買ってもらうのは申し訳ない。
「高虎、がんばってね!」
「おう!」
それから毎日放課後に残って、俺たちは図工室でコンクールの絵を描いて行った。
お袋が夕方に戻って来て、俺に今日はどうだったのかと毎日聞かれた。
進行具合は説明しにくいのだが、お袋が楽しみにしているので、俺は一生懸命に話して聞かせた。
お袋はいつもニコニコして俺の話を聞いていた。
小学校でも、安田先生にお袋が楽しみにしているのだと話した。
「そう! いいお母さんね!」
「はい!」
基本的に生徒の自由に描かせていたが、安田先生は質問や相談があればいつでも丁寧に答えていた。
午後3時から5時までの時間が制作。
2週間の製作期間だったが、俺は翌週の火曜日には完成した。
「石神君、もうそれでいいの?」
「はい!」
安田先生も満足そうな顔をして、俺の作品を褒めてくれた。
絵の具をお借りしたお礼を言い、家にあったクッキーを一枚だけ差し上げた。
「すみません。こんなものしか無くって」
「石神君!」
安田先生が泣くので困った。
その翌日。
登校すると、安田先生が青い顔をして教室に飛び込んで来た。
俺の机に駆けてくる。
「石神君!
「おはようございます。安田先生、どうしたんですか?」
「ごめんなさい! 石神君の絵が破れてしまったの!」
「え!」
すぐに担任の島津先生も来て、俺は教室を連れ出された。
図工室に三人で行き、デスクの上に破れた俺の絵が置いてあった。
それは明らかに「破られた」ものだった。
ご丁寧に、8片に千切られた上に握り潰されていたのだ。
「これは……」
安田先生は、毎日俺たちが帰った後に絵を乾燥させるために大きなテーブルに広げ、教室に鍵を掛けて帰っていたそうだ。
教室の鍵は、もちろん職員室で管理されており、先生方しか持ち出せない。
先生の誰かが鍵を持ち出して開け、俺の絵をこんなにしたに違いない。
俺を嫌いな、また恨んでいる先生は何人もいる。
「石神君、ごめんなさい! 私がしっかり管理していなかったから!」
「安田先生のせいじゃないですよ。俺が悪いんだ」
「何を言うの、石神君!」
「ほら、俺って生意気じゃないですか。こんなことされてもしょうがないですよ」
「あなたのせいじゃない! こんなことをする人間が悪いに決まってるんだから!」
島津先生も許せないと言っていた。
「石神、俺が必ず犯人を捕まえるから!」
「島津先生、いいですよ。安田先生、俺、もう一度描いてもいいですか?」
「え! 石神君、でももう日数が」
「何とかしますよ。お袋が楽しみにしてるんです」
「石神君!」
安田先生が泣いてしまわれた。
「安田先生、俺、先生の絵の具をお借りしてるんですけど、またいいですか?」
「も、もちろん……よ」
泣きながら安田先生がそう言ってくれた。
俺は本当に自業自得だと思っていた。
恨まれる筋合いは幾らでも思いついた。
誰がやったかなどどうでも良かった。
ただ、楽しみにしているお袋のためにやりたかった。
期限は金曜日の夜まで。
土曜日の午後に、校長先生たちを交えて選考会があるそうだ。
あと3日。
俺は特別に安田先生に7時まで残らせてもらった。
5時にみんなが帰ると、安田先生や島津先生が差し入れを持ってきてくれた。
あんパンやサンドイッチなど。
本当に嬉しかった。
お袋には、最後の追い込みをするので遅くなると伝えていた。
破かれたのでやり直しているなどとは言えない。
申し訳ないが、7時を過ぎるようになった。
安田先生に謝ると、俺の思うようにやって欲しいと言われた。
終わると、安田先生がそっと俺の絵を持ち上げ、校長室の鍵の掛かる棚へ入れてくれる。
校長先生から鍵を預かっているのだと言われた。
最後の金曜日。
俺は仕上げに集中していた。
9時になっても終われず、安田先生は何時になってもいいと言って下さった。
校長先生がラーメンをとってくれた。
俺と安田先生とでいただいた。
本当に遅くなり、俺は何度も安田先生に謝った。
安田先生は全然構わないと言ってくれた。
午前2時。
ようやく終わった。
安田先生が泣きながら俺の絵を抱え、一緒に校長室の棚に仕舞った。
「石神君、よく頑張ったわ」
「いえ! 安田先生こそ、こんな時間までお付き合いさせてしまってすいませんでした!」
「何を言うの! これは私の責任なんだから! 石神君、ありがとう」
「お礼なんて」
「いいえ。石神君は酷い嫌がらせに負けなかった! 復讐でもなく、へこむこともなかったよ! あなたは立派だった!」
「そんな、俺は全然そんなんじゃ」
「私、あなたを尊敬するわ! 絶対に忘れない」
「やめてくださいよ。俺、なんか美味しいものが食べれて嬉しかったし」
「あなたはもう!」
安田先生に抱き締められた。
何がどうなったのか、俺の絵がコンクールで優勝し、その後文部大臣賞まで頂いてしまった。
安田先生が大泣きして飛び込んで来て、今度は他の生徒のいる俺の教室で俺を抱き締めた。
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