富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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石神家 ハイスクール仁義 Ⅶ

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 部団連盟本部会議室。
 白ランの幹部たちが集まっている。
 ボクシング部の副部長・今村が入って来た。
 すぐに応援団長の郷間から問われた。

 「榊はどうしている?」
 「先ほど病院へ搬送されました。全身に何か所も骨折があります」
 「そうか」

 郷間はそう聞くと、腕を組んで今村を睨みつけた。

 「ボクシング部は無様に猫神に負け、部団連盟に大きな恥を掻かせた。お前ら、その責任をどう取る?」
 「申し訳ありません」
 「まさかボクシングの素人の人間に負けるとはな。しかも一発も入れることなくだ」
 「はい」
 「お前ら、特別キャンプに行きたいか?」
 「……」

 今村は黙っている。
 そのことが郷間を苛立たせた。

 「おい、本当にキャンプへ送るぞ!」

 今村が郷間を見返した。
 両手を後ろに組み、胸を逸らせて叫んだ。

 「星蘭高校ボクシング部部長・榊の言葉をお伝えします。本日を以てボクシング部は部団連盟から脱退します!」
 「な、なんだとぉ!」

 郷間が立ち上がった。
 顔が赤く染まり、全身が震え、その怒りの大きさが分かる。
 2メートルを越す巨体の郷間は、憎悪の眼を今村へ向けた。
 この威圧に耐える人間は少ないだろう。

 「お前、それを宣言してただで帰れるとは思っていないよな!」
 「構いません。榊の言葉は絶対です。部員一同、それに従います」
 「貴様ぁ!」

 郷間が動き、今村は構えた。
 流石に榊の下で副部長を任ずるだけあり、見事なファイトスタイルだった。

 「郷間!」

 久我が叫ぶ。

 「よせ! 今日は部団連盟が負けたのだ」
 「久我さん!」

 郷間は久我の命令には逆らえない。
 構えを解かない今村を睨みつけながらも足を止めた。

 「郷間! わしにやらせろ」
 「島津!」
 「わしが全部片づける。猫神を頭から両断してやる。だからわしに任せろ」
 「……」

 郷間はもちろんそのつもりだった。
 あの猫神の異常な強さを見て、もう島津しかいないと分かっていた。 
 久我が言った。

 「ボクシング部のことは保留だ。島津の「仕合」をボクシング部全員に見させろ」
 「分かりました!」
 「明日の朝だ。部団連盟の幹部とボクシング部、それに「ノスフェラトウ」「髑髏連盟」「爆撃天使」「死愚魔」「間宮会」にも通達を出せ。代表者が来るようにだ」
 「はい! 必ずそのように!」

 以前にも同じことがあった。
 相撲部の主将が部団連盟に逆らい、久我の代わりに自分が支配すると言った。
 その時にも島津が相撲部の主将を殺し、他のチームにも見せしめとしていた。
 その時のあまりにも凄まじい剣技に、誰も殺人事件を表に出そうとは思わなかった。
 竹刀で巨漢の男を両断するなど、尋常ではない。
 それに実質的に学校を支配している部団連盟に逆らえば、自分の命が危ういことも分かった。
 相撲部は廃部となり、全員が退学していった。
 本当に退学したのかどうかも分からない。
 誰も確認しようとはしなかった。
 
 他の白ランの幹部たちは黙って久我を見ていた。
 また、相撲部の時と同じことが行なわれることが分かっていた。
 その中でアーチェリー部のマンロウ千鶴と空手部の鷲崎九丈だけは笑っていた。

 「久我さん」
 「おい、なんだマンロウ!」
 
 久我ではなく郷間が応える。

 「島津が負けたら、アーチェリー部も部団連盟から脱退するわ」
 「貴様! 何を言うか!」
 「猫神は本物よ。あいつを押さえられないのなら、この学校は猫神のもの。私は喜んで猫神の下に付くわ」
 「お前ぇ! 死にたいのかぁ!」
 「そんなことが出来る? まあ、今までも我慢してたのよね。なんか暗いのよ、ここ」

 「ワァッハッハッハハハハハハ!」

 大きな哄笑が響く。
 人間の声量とは思えない音圧だった。

 「郷間! 島津がやられたら俺にやらせろ!」
 「鷲崎!」
 
 郷間が怒鳴り、島津が鷲崎を睨む。

 「いや、最初から俺にやらせろ。俺が猫神を殺すから、そうしたらアーチェリー部は俺に自由にさせろ」
 「お前、何を言ってる!」
 「あんた、本当にサイテーよね」

 郷間が怒鳴り、マンロウ千鶴が顔をしかめて吐き出す。
 久我が手で制した。

 「島津にこの件は任せる。島津が負けるわけがない。島津の実力を知れば、全ての人間が分かる」
 「はい!」

 久我が立ち上がった。

 「以上だ。明日、全てが終わる」

 「「「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」」」

 マンロウ千鶴や鷲崎も含め、全員が起立し、深々と頭を下げた。
 今村も同じだった。

 久我が部屋を出て行き、郷間だけがそれに従い付いて行った。
 久我が出て行くまで、全員が頭を下げたままだった。

 「千鶴、お前猫神に惚れたか?」

 鷲崎がにやついた顔で言った。

 「どうだかね」
 「あいつは強い。榊を最後にやった技は「花岡」だな」
 「そう」
 「猫神は「花岡」が使えることで自信があるようだ。一緒に転校してきた連中もそうなんだろうよ」
 「へぇ」
 「二年生の二人がバレーでとんでもないことをしたようだ」
 「よく知ってるわね」

 他の幹部たちの何人かが騒いでいる。
 「花岡」は今、全国的に驚異的な拳法として知られている。

 「島津、お前明日は負けろよ」
 「……」
 「その方が面白い。千鶴、お前ら覚悟しておけよな」
 「ふん! あんたなんかにやられるわけないじゃない。汚い悲鳴を挙げさせながら潰してやるわ」
 「ほう!」

 鷲崎が笑いながら出て行き、他の幹部たちも退出した。
 入り口の隅で頭を下げていた今村の肩を、マンロウ千鶴が叩いた。

 「あなた、根性あるわね」
 「いいえ!」
 「面白いことになるかもよ」
 「……」

 マンロウ千鶴も笑いながら出て行った。
 最後に島津一剣が部屋を出る時、今村の身体が硬直した。
 恐ろしい波動で動けない。
 一瞬で死を感じた。

 そしてそれが急に解けた。
 安堵し、床に膝を付く。

 島津が横に立っており、廊下の先にマンロウ千鶴がこちらを睨んでいた。
 マンロウ千鶴の周囲に靄のものがあるように見えた。
 島津が再び歩き出した。





 今村は、自分が死ぬはずだったことを理解した。
 マンロウ千鶴に護られたのだ。
 今村はマンロウ千鶴に向け、頭を下げ続けた。
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