富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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石神家 ハイスクール仁義 XⅠ

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 朝の練習が終わり、全員が整列した所で、私が主将の島津に聞いた。

 「島津主将」

 私は今日の「公開処刑」の話を先ほど聞いた。
 そのことでどうしても言っておかなければならないと思った。

 「どうした御坂」
 「私は断固反対です」
 「副将のお前が反対するのか」
 「当然です。以前の相撲部の件は聞いています。あれは反乱を起こそうとした上での処分でした。それでも相手を殺すだなんて納得はしていません」
 「あれは事故だ」
 「今回の猫神に関しては、ボクシング部の生徒と些細な衝突があっただけだと聞いています」
 「猫神は部団連盟に逆らったのだ。制裁は当然だ」
 「どうして制裁など出来るのですか! 部団連盟はこの学校の支配者ですか!」
 「その通りじゃないか?」
 「何を!」

 島津は話しながら襷を掛けて準備を進めていた。

 「星蘭高校剣道部副将・御坂鈴葉は本日を以て剣道部を退部いたします!」
 「ふん、好きにしろ」
 「私と意志を同じくする部員40名も同道します」
 「なんだと?」

 私の後ろに私と共に退部を決意した部員が並んだ。
 剣道部のほとんどの部員だ。
 朝練の前に、全員が私に同意してくれた。

 「もうあなたのやり方にはついていけないの。部団連盟の陰湿な体質も大嫌い。みんな嫌気がさしているのよ」
 「御坂!」
 「怒鳴っても無駄。今まではあんたが怖くてみんな嫌々従ってたけどね。もう御免だわ」
 「お前を斬れば片付きそうだな」

 島津が口を吊り上げて笑った。
 普段は滅多に笑わないが、こういう時に本当に卑しい笑顔になる。

 「へぇ! あんた、私が斬れるの?」
 「当然だ」
 「じゃあやってみなさいよ。あんたが今まで唯一勝てなかったのが私。やれるもんならやりなさい。私も本気を出すわ」
 「ふん、待っていろ。猫神を斬ったらお前の番だ」
 「猫神に勝てるのかしら?」
 「なんだと?」

 島津の口が戻り、いつもの冷たい顔に戻った。

 「あいつは底知れない。あんたには分からないでしょうけどね」
 「お前こそ何が分かる」
 
 本当にこいつは自己中心の世界しか持っていない。
 確かに剣技は凄まじいが、自分の世界だけなので相手の力量が見えていない。

 「アーチェリー部の千鶴が言ってたわ。猫神はあんたも久我も凌駕するって。星蘭高校の支配図は変わるのよ」
 「バカな。猫神にそんな力はない」
 「答え合わせはもうすぐね。まあ最後だから見ていてあげる」
 「お前を斬る」
 「あんた、そればっかね」

 他の部員は着替えさせ、私は道着のままでいた。
 もしかすると猫神遣り合う前に、本当に島津が斬りに来るかもしれない。
 私ならば島津の剣を受けられる。
 他の部員を逃がすことが出来るだろう。
 島津に勝てるかどうかは微妙だ。
 先ほどはああ言ったが、島津の剣技はやはり凄まじい。
 私の剣技が劣るとは思っていないが、伯仲する可能性はある。

 猫神は、あのマンロウ千鶴が太鼓判を押した男だ。
 あのボクシングの試合も圧倒的な力だった。
 でも、剣技についてはどうだか分からない。
 もしも剣技に精通していない男ならば、島津には勝てない。
 格闘技の強さではないのだ。
 それでも、マンロウ千鶴は大丈夫だ言った。
 千鶴の言葉ならば信頼できる。
 きっと猫神は剣技も相当なのだろう。

 早く仕合が見たかった。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 スーパーレッジェーラで登校すると、既に校門は閉まっていた。
 まあ、10時過ぎだから当然だ。
 加速してジャンプし、校庭に入り、職員用の駐車場へ向かった。
 俺がヘルメットを脱いでいると、部団連盟の人間らしい数人が来た。
 俺のバイクを見て驚いている。
 高校生が乗り回せるものではない。
 しかし、敢えてそこは無視したようだ。

 「猫神、今登校か」
 「お腹が痛くて」
 「……」

 「バイクでの通学は禁じられている」
 「そうなの!」

 驚いて見せた。

 「まあいい。一緒に来い」
 「えーと、これから教室に行くんだけど?」
 「先生には断ってある」
 「そうなんだ」
 
 まあ、昨日双子がマンロウ千鶴から聞いている。
 剣道部の島津一剣と遣り合わされるのだ。






 格技場に行くと、既に集まっていた。
 俺を待っていたのだろう。
 部団連盟の久我や郷間、白ランの幹部たちとその他の各部の数人。
 剣道部は全員いるようだ。
 マンロウ千鶴も当然いた。
 俺に笑顔で手を振って来るので、俺も挨拶した。

 刈谷他の、不良チームの面々もいる。
 部団連盟の私刑を見せるために呼び出されたのだろう。
 それにうちの子どもたち。
 
 そして島津一剣。
 剣道着を着て、面当てや胴当てはない。
 木刀を握っている。
 剣道場の上座にあるいかめしい甲冑の前に立っていた。
 応援団長の郷間が言った。

 「猫神。今から島津と仕合え」
 「やだよ」
 「お前は断れん」
 「またかよ!」
 
 剣道部の女子生徒が俺に木刀を渡しに来た。

 「副将の御坂です。猫神さんを応援してます」
 「おう!」

 綺麗な子だった。
 清潔感があり、更に凛とした強い意志を感じる。
 自分の信ずるもののために真っすぐに進める人間と見た。
 ならば、今俺に声を掛けたということは、部団連盟、島津に逆らうことを決めたのだろう。
 俺は一応木刀を確認した。
 まあ、素人と見做す人間に木刀で試合をさせるなど、所詮どうかしている。
 俺を殺すのを隠すつもりもないのだ。

 ならば、俺も手加減することもない。
 着替えを勧められたが断り、白ランのままで島津と向き合った。
 靴下だけは脱いでいる。
 集まっている連中を改めて見た。
 刈谷、他は知らないが真面目そうな細身の男が間宮だろう。
 あとの連中は「ノスフェラトウ」と「髑髏連盟」の幹部なのだろう。
 そして「死愚魔」はヘッドだった安藤と一緒に亜紀ちゃんが隣に立っている。
 昨日締めて自分がヘッドになったからだ。
 ニコニコして俺に手を振っていた。

 島津は俺を見上げていた。
 身長は170センチくらい。
 体重は60キロというところか。
 細身だが、肉が引き締まっているのが分かる。
 道着から見える腕がワイヤーを絡めたように強靭そうだ。

 俺は郷間に言った。

 「一応よ、説明しろよ。ああ、久我は日本語が上手く喋れねぇらしいから、代わりにお前が言え」
 「猫神!」
 「早くしろ! みんな忙しいんだ」
 「これからお前を殺す。島津にバラバラにされてお前は死ぬんだ」
 「あ?」
 「昨日の試合で、お前は負ければよかったんだよ。榊に勝ってしまい、お前は部団連盟に恥を掻かせた」
 「おいおい、お前らの自業自得だろう!」
 「ワハハハハハハ!」

 俺が言うと、亜紀ちゃんが笑い、マンロウ千鶴が手を叩いた。

 「まったくよ! イチャモンつけて負けたら逆恨みってなぁ! 冗談じゃねぇぞ」
 「猫神! 何を言っても無駄だ! 島津!」
 
 島津が前に出た。

 「おい、ネクラ剣士!」

 俺が言うとマンロウ千鶴や亜紀ちゃんが笑った。
 もう一人、先ほど俺に木刀を持ってきた御坂という剣道部の副将も。

 「お前、これまで何人殺した?」
 「3人だ」
 「あ? なんだ桁が全然違うな!」

 亜紀ちゃんが大笑いした。

 「島津! さっさと殺せ!」

 郷間が叫び、試合開始の合図も無く始まった。
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