富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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退魔師 XⅤ

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 「虎温泉」に三人で入った。
 やはり、柏木さんが俺の身体を見て驚いていた。

 「石神先生のお身体は凄まじいですね」
 「まあ、ろくな人生じゃなかったですからね」
 「いいえ。その多くの傷から、感謝の声が聞こえてきますよ」
 「はい?」

 「タカさん!」

 皇紀が柏木さんの言葉を聞いて喜んだ。

 「柏木さんには分かるんですね!」
 「ええ、この疵の一つ一つが、誰かを助けるために負ったものだということは。例えばこの脇腹の疵」
 「それは!」

 モモの父親に裂かれた疵だった。

 「それにこの胸の銃弾を受けた疵は」
 「響子ちゃんと六花さんの!」
 「おい、お前は頭を先に洗って来い!」
 「はい!」

 俺は柏木さんの背中を流した。
 柏木さんも数多くの疵を身体に刻んでいた。

 「俺は霊感は無いですけどね。柏木さんの体中の疵が、誰かのために負ったものだということは分かりますよ」
 「私は未熟なだけです。でも、誰かのために役立ちたいと思って来たことは確かです」
 「はい」

 まだ痩せてはいるが、広い背中だった。
 柏木さんが俺の背中を洗ってくれた。

 「石神先生のお身体に触れることが出来て光栄です」
 「ホモじゃないですよね!」
 「アハハハハハハ!」

 皇紀が頭をディゾルビットで洗い、俺が皇紀の背中を洗ってやった。
 
 「お前の疵は全部ルーとハーにやられたものだよな?」
 「アハハハハハハ!」
 
 俺が双子のワルぶりを柏木さんに話すと大笑いされた。

 「こいつらが子どもの頃に山中の家に遊びに行くと、いつも皇紀が双子にやられて気絶してたんですよ」
 「えぇ?」
 「ママゴトをしてて、何か得体の知れないものを喰わされて死に掛けてたよな?」
 「ありましたね!」
 「お前、絶対に双子から頼まれると断らないもんなぁ」
 「まあ、そうですね」

 俺は最近の、皇紀たちの修学旅行の話をした。

 「フィリピンまで行きましてね。それで向こうの魔法大学の「ヘヴンズ・フォール」という儀式に参加して来たんですよ」

 俺は「ヘヴンズ・フォール」について少し柏木さんに説明した。

 「そんなことがあるのですか!」
 「ええ、何か神の世界から降って来るというね。その時は「虎」の軍のために儀式を開いてくれたみたいで」
 「そうなんですか!」

 湯船に入ってゆっくりと話した。

 「双子には腕輪のようなものが一つずつ。皇紀には槍が降って来たんですよ」
 「凄いですね! 本当にそのようなものが!」
 「ええ。それでね、帰りの飛行機の中で、こいつらが悪戯して」
 「え?」
 「槍に腕輪を通して、オチンチンとキンタマにしやがって。そうしたら振って来たものが怒っちゃって」
 「えぇ!」
 「もう、飛行機のエンジンが全部爆発して落っこっちゃって」
 「!」

 柏木さんが言葉も出ない。

 「緊急海上着水ですよ! 慌ててみんなで助けに行きました」
 「……」

 「ごめんなさい」
 
 「それでね。もう槍も腕輪も怒っちゃって持てないんですよ。持つと物凄い電撃で」
 「ごめんなさい」
 「俺がやっと宥めながら回収したんですけどね。俺も結構ビリビリして参りました」
 「ごめんなさい」

 柏木さんがしばらくして大笑いした。

 「石神先生のご家族はみなさん素敵ですね!」
 「今の話、聞いてました?」

 三人で笑った。
 双子がかき氷を作りに来て、三人で食べた。
 柏木さんは少量だ。

 風呂から上がり、女性陣に入るように言った。
 千鶴と御坂が「虎温泉」に喜んだ。

 「露天風呂もあるんですか!」
 「ああ。ルー、ハー! 謂れも説明してやれ」
 「「はい!」」

 俺たちはリヴィングへ戻り、皇紀は先につまみを作り始めた。

 「千鶴から聞きました。『虎は孤高に』は、石神先生のことを描いているのだと」
 「ええ、親友の南という女性が小学生の同級生でしてね。小説家になって、俺のことを書いていたんですよ」
 「そうなのですか。私はテレビはまったく観ないので存じ上げませんでした」
 「まあ知らなくていいんですけどね! 小説が大ヒットし、ヤマトテレビがドラマ化したんです」
 「大変な評判のようですね」
 「なんだかね。まあ原作が面白いですから」
 「今度読んでみます」
 「アハハハハハハ!」

 皇紀が手際よく料理を作っているので、柏木さんが感心して見ていた。

 「お子さんたちは料理が上手いですね」
 「まあ、奴隷ですからね!」

 皇紀が笑ってこちらを見ていた。

 「タカさんがずっと毎日美味しいものを作ってくれたんですよ。僕たちを引き取ってからずっと。忙しい仕事なんですけどね」
 「将来奴隷にするためだ!」
 「アハハハハ! でも、本当に美味しくて。だから僕たちも自然に料理を覚えました」
 「こんなこと言って、こいつら10キロも肉を喰うんですからね!」
 「一杯食べてましたねぇ」
 「牛の怨霊とかついてません?」
 「アハハハハハハ!」

 雪が降った日に、牛の雪像を作って線香を挙げたと話すと、柏木さんが爆笑した。

 「今度私も呼んで下さい」
 「是非!」
 
 俺は冗談半分でこの家に悪いものがいないか聞いてみた。

 「いるわけがありません。石神先生がいらっしゃいますし、それに随分と強い妖魔が護っていますね」
 「ああ、分かりますよね」
 「はい。私が怖がらないように大分力を加減してくれているようですが、その大きさは分かります」
 「「クロピョン」大黒丸と、他にも強い妖魔の結界もあります。以前に無かった時には潜り込んで来る奴がいましてね」
 「そうなのですか!」
 「うちの番猫が全部やっつけてました」
 「ああ、ロボさん!」

 ロボが呼ばれたと思ったか俺の膝に上がって来た。

 「私には僅かにしか分かりませんが、とてもお強いんですね」
 「まあ。可愛いネコなんですけどね」
 「はぁ」

 ロボが喜んでジルバを踊った。
 柏木さんが手を叩いて喜んだ。
 ロボは妖魔と違って、霊能者にも分からないのだろう。
 可愛いネコなのだが。

 柏木さんには、何も隠す必要は無いと考えていた。
 完全に信頼出来る人だ。

 「そうだ、吉原龍子の残した遺産を見ていただけませんか?」
 「吉原さんの?」
 「はい。ノートの他に俺に遺したいというものが結構ありまして」
 「そうなのですか」
 「でもね、ちょっと危険なものも多くて、今は一室に封印しています」
 「分かりました。拝見させていただきましょう」

 皇紀が緊張した目で俺たちを見ていた。
 俺は美味い物を作っておけと言って、柏木さんを裏の建物へ案内した。
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