富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
2,425 / 3,202

佐野さんとの再会 Ⅸ

しおりを挟む
 昼食は釜めしだった。
 双子が50もの鉄釜を購入し、様々な材料で作るようになった。
 俺が時々出前で釜めしを取るので、子どもたちも大好きになったためだ。
 バーベキュー台に、皇紀が専用の釜めし用の穴の空いた鉄板を作った。
 食に対するこいつらの執念は凄い。

 基本の鳥ごぼう、それにカニ、鮭、鯛、ウナギ、アサリ、海老、牛タンなどをメインで作っていく。
 子どもたちが釜めしの準備を始めた。
 佐野さんが俺のギターを聴きたいと言うので、早乙女達も誘って地下へ移動した。
 ロボが大好きな雪野さんから離れない。

 地下で『SAOTOME』など何曲か弾くと、早乙女たちも喜んだ。

 「次のCDはいつ出るんだ?」
 「よ、予定はないですよ!」
 「そうなのか?」
 「俺、医者ですからね!」
 「だってお前、もう2枚も出してるじゃんか」
 「あぁぁー!」

 みんなが笑った。
 早乙女が思い出したように俺に言った。

 「そういえば石神」
 「なんだ?」
 「何か庭にスゴイものが置いてあったけど」
 「アァァァァァァーーー!」

 「どうした!」
 「忘れてたぁ!」

 真夜が草むしりをしていて掘り出した物があった!

 「あ、あれはさ」
 「うん」
 「早乙女家に宅急便でさ」
 「おい!」
 「お前の家が留守だったみたいで、うちで預かった」
 「お前、いい加減にしろ!」

 ちきしょう、早乙女家の庭に放り込もうと思ってたのに!

 「《アイオーン》!」
 《はい、石神様》
 「亜紀ちゃんを呼んでくれ」
 《かしこまりました》

 今、ウッドデッキで釜めしをみんなで作っているはずだ。
 亜紀ちゃんがすぐに地下に来た。

 「はい、なんですかー」
 「おい、庭のアレを説明しろ」
 「ハゥッ!」

 亜紀ちゃんも忘れてたようだ。
 佐野さんが突然に訪ねて来たので、それどころじゃなかったのだろう。
 亜紀ちゃんが説明した。
 
 「麗星さんに聞いたんです」
 「またあちこちにてめぇ……」
 「す、すいません。それでですね、あれは「トゥアハ・デ・ダナーン(Tuatha De Danann)族の秘宝の一つで、《リア・ファル (Liath Fail、運命の石)》だろうって!」
 「タラの丘かぁ!」
 「タカさん、よく知ってますね!」
 「有名だろう!」

 早乙女の方を向くと、雪野さんと一緒に目を閉じていた。
 
 「ああ、『風と共に去りぬ』かぁ」
 「流石、佐野さん!」

 早乙女達が驚いて佐野さんを見た。
 亜紀ちゃんが喜んで佐野さんの肩をポンポンした。
 佐野さんが笑った。
 映画『風と共に去りぬ』では、主人公の一族がアイリッシュであることから、伝承の聖地「タラ」に深い郷愁を持っている。
 そのことが分かっていなければ、主人公のあの最後の台詞に感動出来ない。

 「まったくてめぇらはまたとんでもねぇものを!」
 「す、すいません!」
 「さて、どうすっかなぁ」
 「そうですね。蓮花さんの研究所ですかね」
 「なんでもかんでも送れるかぁ! あいつだって一杯一杯なんだ」
 「そうですか……」

 本当にいろんなものを送り付けてしまっている。
 真面目な蓮花のことだ。
 送れば徹底的に調べるに決まっている。

 「しょうがねぇ。後で調べて観るか」
 「はい!」

 亜紀ちゃんが食事作りに戻った。

 「石神、いつも大変だな」
 「うるせぇ!」
 「でもいつもうちの庭にっていうのは辞めてくれな」
 「うるせぇ!」

 佐野さんが笑っていた。
 俺は佐野さんに、今年の子どもたちの修学旅行の話をした。

 「双子と、今外国に行ってる皇紀が、中学の修学旅行に行ったんですよ」
 「ああ、そうなのか」
 「フィリピンでしてね」
 「すごいな」
 「そこで、向こうの魔法大学が「虎」の軍のために「ヘヴンズ・フォール」という儀式をしてくれたんです」
 「なんだ?」
 「何でも、神の国から何かが降って来るというものだそうですよ」
 「なんだ、そりゃ?」
 「それでね、腕輪とか槍とかが空中から本当に降って来まして」
 「おい、マジかよ」
 「はい。それで最後に、俺のために祈ったんです」
 「おう」
 「直径40メートルの水晶のでかい塊が出まして」
 「へ?」
 「数百トンですよ。参りました」
 「「「……」」」

 佐野さんも早乙女たちも驚いている。
 そういえば、早乙女たちには話してなかった。
 俺は上に行ってノートPCを持って降りた。

 「これです」
 「「「!」」」

 フィリピンでの儀式の洞窟前で撮影した写真を見せた。
 俺たちが一緒に写っているので、あれの大きさが分かる。
  
 「石神! なんだこれは!」
 「早乙女家宛のものが間違って……」
 「やめてくれよ!」
 「ワハハハハハハハハ!」

 俺は画像をスライドして、様々な角度から内部に見えるものを見せて行った。
 三人が声も無く驚いていた。

 「トラ、俺お前とやってけるかな」
 「ワハハハハハハハハ!」

 「《アイギスの宝玉》がまた降ったのですね」

 突然久留守が喋ったのでみんなが驚いた。
 またいつもの可愛らしい顔ではなく、やけに大人びた表情になっていた。

 「久留守、なんて言ったんだ?」

 久留守はまた黙ってしまった。
 今はまだ俺たちが知る必要もないものなのだろう。

 「百家の人間たちが予言していたんです」
 「百家!」
 「はい。俺たちはそのための土台というか神殿というか、そういうものを用意していただけなんですけど」
 「なんだか分からん」
 「俺たちもですよ。あるものを乗せるものかとは思っていたんですが、ピッタリなサイズのアレが出て来たんで俺がすぐに気付きました」
 「おい、そろそろ……」
 
 佐野さんが精一杯になって来た。
 俺は笑って話を終え、佐野さんたちを連れて上に上がった。
 丁度釜めしが炊き上がっていた。
 暑いのでリヴィングに運ばせる。

 蓋を開いて見せて、佐野さんに好きな釜を選んでもらい、佐野さんはカニとイクラのものを選んだ。
 俺はウナギと鮭の五目の二つをもらった。
 早乙女達もめいめいに好きな釜を選び、みんなで食べる。

 「トラ、これは美味いな!」
 「ルーとハーが料理好きになりましてね。毎日美味いものを喰わせてくれるんですよ」
 「そうか、二人とも偉いね!」
 「「エヘヘヘヘヘ!」」

 早乙女と雪野さんも二人を褒め称える。

 「ルーちゃん、ハーちゃん、本当に美味しい!」
 「うん、ますます腕が上がったね!」
 「「ありがとうございますー!」」

 亜紀ちゃんが帰って来た柳に、庭のアレを忘れてたと話していた。
 柳も顔が青くなる。

 「もういいよ! ちょっと考えてることがある」
 「「え?」」
 「「トゥアハ・デ・ダナーン」なんだろ? だったらな」
 「え、タカさん、当てがあるんですか!」
 「ああ。だから深刻にならなくていい」
 「「はい!」」
 
 亜紀ちゃんと柳が喜んだ。

 「でも、もう真夜に庭を掘らせるんじゃねぇぞ!」
 「「は、はい!」」





 まさか、こんなところでアレに繋がるとは思っていなかった。
 俺は無関係でいたかったのだが。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

政略結婚の先に

詩織
恋愛
政略結婚をして10年。 子供も出来た。けどそれはあくまでも自分達の両親に言われたから。 これからは自分の人生を歩みたい

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

処理中です...