2,436 / 3,202
佐野と「アドヴェロス」 Ⅵ
しおりを挟む
佐野さんと奥さんは、まだ振り込まれた100億円のショックから抜け出せないでいた。
早くお酒を飲ませないとー。
「まったくよ。トラにこの年になっても悩まされるとは思わなかったぜ」
「ワハハハハハハハハ!」
佐野さんがぼやき、俺が笑った。
早乙女たちも笑っている。
怜花と久留守はもう先に寝ている。
二人は子ども部屋があり、それぞれのベッドで寝るようになった。
ハムがいるし、《ぴーぽん》が何かあれば知らせてくれる。
ロボは俺の後ろのシートで横になっている。
雪野さんがロボのために、フカフカのベッドを用意してくれている。
そのうちにまた雪野さんなどに甘えに行くのだろう。
俺と亜紀ちゃん、佐野さんご夫婦、早乙女と雪野さんが冷酒を飲むことにし、俺はランに「菊理媛」を頼んだ。
柳と双子は千疋屋のフレッシュジュース。
警察官の佐野さんの前なので、双子もビールは飲まない。
ランたちがすぐにつまみを作ってくれる。
真鯛とマグロの刺身。
スモークサーモン。
茹でたアスパラの生ハム巻。
亜紀ちゃんに、身欠きにしんを家から持って来させた。
雪野ナス。
それに子どもたちは大量の唐揚げを自分たちで揚げる。
佐野さんたちにつまみを勧めて、みんなで飲み始める。
「トラの家でもそうだったが、ここもいい雰囲気だなぁ」
「本当に。高級店以上ですよね」
「お、このナス、美味いぞ!」
「本当に!」
俺が「雪野ナス」なのだと言うと、雪野さんが慌てて照れた。
「佐野さん、『虎は孤高に』はご覧になりました?」
亜紀ちゃんが聞いた。
「ああ、あの日家に帰った時から、こいつと毎日観ているよ。あんなに楽しいドラマだったとは知らなかった」
「そうですよね!」
「最初に、亜紀さんから教わった回をこいつと観たんだ。本当に俺たちが出て来て驚いた」
「そうですか! あの佐野刑事役の人もいいですよね!」
「そうだね。あの日に夜中まで観て、今も毎日のように一話ずつ観てる」
「そうなんですか!」
「俺の知らないことも多くて、毎回楽しみなんだ」
「ヤッタァー!」
亜紀ちゃんが嬉しそうだ。
興奮すると手が付けられないので、俺が話題を変えた。
佐野さんの執筆の話だ。
「佐野さんがな、刑事時代の話を書いてまとめているそうなんだ」
「えぇ!」
みんなが驚いた。
「もう結構書いたでしょう?」
「ああ、出来上がったものを一度出版社の編集の人に渡しているよ。もう一冊分はあるようだ」
「そうなんですか!」
「すぐにゲラにしてくれるそうだよ」
「楽しみですね!」
「いやいや」
佐野さんが照れている。
「出版社の人を通して、南さんとも、こないだお会いして話したんだよ」
「えぇ!」
「向こうの出版社の人も好意的に話してくれてな。俺の原稿も南さんに読んでもらった」
「そ、それで!」
「面白いって言ってくれたよ。自分とは目線が違うから、本になるのが楽しみだって」
「そうなんですか!」
それは良かった。
今度南に聞いてみよー!
亜紀ちゃんが嬉しそうに俺の肩を叩きながら言った。
「佐野さん、私、一杯買いますね!」
「おう、そうだよな!」
「おいおい、そんなにしてくれなくても」
「出版社に、10000冊買うって言っときます!」
「一江にも頼むかな!」
「是非!」
「もうベストセラー確定だな!」
「「ワハハハハハハハハ!」」
亜紀ちゃんと大笑いした。
早乙女が笑って言った。
「実はですね、雪野さんも作家でして」
「あなた!」
「ほんとですか!」
早乙女が『ジャンキー・シリーズ』というものを書いていると言った。
雪野さんが困った顔で止めている。
「ああ、知ってますよ! 覚せい剤中毒者を主人公にした面白い小説があるって、前に同僚から聞いたことが」
「雪野さんです!」
「あなた、辞めて下さい!」
雪野さんが必死な顔になっている。
「じゃあ、今度読んでみますね」
「絶対辞めて下さい!」
佐野さんがまた楽しみが増えたと言った。
「ああ、早乙女も漫画の原作をしてるんですよ」
「へぇ!」
「『サーモン係長』って漫画ですが、知ってます?」
「いや、生憎と」
「あ、読まなくていいですよ!」
「テレビ放映してます。深夜枠ですけど」
「そうなんだ。じゃあ、そっちで観てみるよ」
「はい」
「みんな凄いんだなぁ」
「!」
佐野さん、待ってて下さい!
みんなで楽しく話した。
佐野さんが俺の子ども時代の話をして、みんなが楽しんだ。
「タカさん、そろそろ!」
「あんだよ!」
亜紀ちゃんがまた火を点けに来る。
「ああ、トラの話かぁ」
「佐野さん!」
佐野さんが笑いながら奥さんに話した。
「あのな、こういう席ではトラが昔のいい話を聞かせてくれんだよ」
「そうなんですか!」
奥さんが楽しそうにしている。
奥さんは普段はあまりお酒を召し上がらないようだが、今日は楽しそうに飲んでいる。
本当はお酒もお好きなのだろう。
「石神、また頼むよ」
「お前、すぐに泣くしなー」
「いいじゃないか! お前の話は楽しいし美しいよ!」
「恥ずかしい奴だな!」
「いしがみぃー」
早乙女もちょっと酔っているようだ。
「何の話にすっかなぁ」
「トラ、リクエストしていいか?」
「なんです?」
「赤木の話を」
「ああ」
「俺たちがお前に一番感謝した事件だった」
「え、過激派の警察署襲撃じゃなくて?」
亜紀ちゃんが言った。
「あれももちろんそうだけどな。でも、もう一つの事件があったんだ」
佐野さんが遠い目をしていた。
俺も思い出していた。
赤木誠一郎巡査。
優しく、明るく誠実で、街の人間のために一生懸命に尽くしていた人。
誰からも好かれ、愛されていた人。
あんな人が警察の中にいたというだけで、みんなの誇りになる人。
そんな素晴らしい方だった。
早くお酒を飲ませないとー。
「まったくよ。トラにこの年になっても悩まされるとは思わなかったぜ」
「ワハハハハハハハハ!」
佐野さんがぼやき、俺が笑った。
早乙女たちも笑っている。
怜花と久留守はもう先に寝ている。
二人は子ども部屋があり、それぞれのベッドで寝るようになった。
ハムがいるし、《ぴーぽん》が何かあれば知らせてくれる。
ロボは俺の後ろのシートで横になっている。
雪野さんがロボのために、フカフカのベッドを用意してくれている。
そのうちにまた雪野さんなどに甘えに行くのだろう。
俺と亜紀ちゃん、佐野さんご夫婦、早乙女と雪野さんが冷酒を飲むことにし、俺はランに「菊理媛」を頼んだ。
柳と双子は千疋屋のフレッシュジュース。
警察官の佐野さんの前なので、双子もビールは飲まない。
ランたちがすぐにつまみを作ってくれる。
真鯛とマグロの刺身。
スモークサーモン。
茹でたアスパラの生ハム巻。
亜紀ちゃんに、身欠きにしんを家から持って来させた。
雪野ナス。
それに子どもたちは大量の唐揚げを自分たちで揚げる。
佐野さんたちにつまみを勧めて、みんなで飲み始める。
「トラの家でもそうだったが、ここもいい雰囲気だなぁ」
「本当に。高級店以上ですよね」
「お、このナス、美味いぞ!」
「本当に!」
俺が「雪野ナス」なのだと言うと、雪野さんが慌てて照れた。
「佐野さん、『虎は孤高に』はご覧になりました?」
亜紀ちゃんが聞いた。
「ああ、あの日家に帰った時から、こいつと毎日観ているよ。あんなに楽しいドラマだったとは知らなかった」
「そうですよね!」
「最初に、亜紀さんから教わった回をこいつと観たんだ。本当に俺たちが出て来て驚いた」
「そうですか! あの佐野刑事役の人もいいですよね!」
「そうだね。あの日に夜中まで観て、今も毎日のように一話ずつ観てる」
「そうなんですか!」
「俺の知らないことも多くて、毎回楽しみなんだ」
「ヤッタァー!」
亜紀ちゃんが嬉しそうだ。
興奮すると手が付けられないので、俺が話題を変えた。
佐野さんの執筆の話だ。
「佐野さんがな、刑事時代の話を書いてまとめているそうなんだ」
「えぇ!」
みんなが驚いた。
「もう結構書いたでしょう?」
「ああ、出来上がったものを一度出版社の編集の人に渡しているよ。もう一冊分はあるようだ」
「そうなんですか!」
「すぐにゲラにしてくれるそうだよ」
「楽しみですね!」
「いやいや」
佐野さんが照れている。
「出版社の人を通して、南さんとも、こないだお会いして話したんだよ」
「えぇ!」
「向こうの出版社の人も好意的に話してくれてな。俺の原稿も南さんに読んでもらった」
「そ、それで!」
「面白いって言ってくれたよ。自分とは目線が違うから、本になるのが楽しみだって」
「そうなんですか!」
それは良かった。
今度南に聞いてみよー!
亜紀ちゃんが嬉しそうに俺の肩を叩きながら言った。
「佐野さん、私、一杯買いますね!」
「おう、そうだよな!」
「おいおい、そんなにしてくれなくても」
「出版社に、10000冊買うって言っときます!」
「一江にも頼むかな!」
「是非!」
「もうベストセラー確定だな!」
「「ワハハハハハハハハ!」」
亜紀ちゃんと大笑いした。
早乙女が笑って言った。
「実はですね、雪野さんも作家でして」
「あなた!」
「ほんとですか!」
早乙女が『ジャンキー・シリーズ』というものを書いていると言った。
雪野さんが困った顔で止めている。
「ああ、知ってますよ! 覚せい剤中毒者を主人公にした面白い小説があるって、前に同僚から聞いたことが」
「雪野さんです!」
「あなた、辞めて下さい!」
雪野さんが必死な顔になっている。
「じゃあ、今度読んでみますね」
「絶対辞めて下さい!」
佐野さんがまた楽しみが増えたと言った。
「ああ、早乙女も漫画の原作をしてるんですよ」
「へぇ!」
「『サーモン係長』って漫画ですが、知ってます?」
「いや、生憎と」
「あ、読まなくていいですよ!」
「テレビ放映してます。深夜枠ですけど」
「そうなんだ。じゃあ、そっちで観てみるよ」
「はい」
「みんな凄いんだなぁ」
「!」
佐野さん、待ってて下さい!
みんなで楽しく話した。
佐野さんが俺の子ども時代の話をして、みんなが楽しんだ。
「タカさん、そろそろ!」
「あんだよ!」
亜紀ちゃんがまた火を点けに来る。
「ああ、トラの話かぁ」
「佐野さん!」
佐野さんが笑いながら奥さんに話した。
「あのな、こういう席ではトラが昔のいい話を聞かせてくれんだよ」
「そうなんですか!」
奥さんが楽しそうにしている。
奥さんは普段はあまりお酒を召し上がらないようだが、今日は楽しそうに飲んでいる。
本当はお酒もお好きなのだろう。
「石神、また頼むよ」
「お前、すぐに泣くしなー」
「いいじゃないか! お前の話は楽しいし美しいよ!」
「恥ずかしい奴だな!」
「いしがみぃー」
早乙女もちょっと酔っているようだ。
「何の話にすっかなぁ」
「トラ、リクエストしていいか?」
「なんです?」
「赤木の話を」
「ああ」
「俺たちがお前に一番感謝した事件だった」
「え、過激派の警察署襲撃じゃなくて?」
亜紀ちゃんが言った。
「あれももちろんそうだけどな。でも、もう一つの事件があったんだ」
佐野さんが遠い目をしていた。
俺も思い出していた。
赤木誠一郎巡査。
優しく、明るく誠実で、街の人間のために一生懸命に尽くしていた人。
誰からも好かれ、愛されていた人。
あんな人が警察の中にいたというだけで、みんなの誇りになる人。
そんな素晴らしい方だった。
1
あなたにおすすめの小説
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
【完結】狡い人
ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。
レイラは、狡い。
レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。
双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。
口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。
そこには、人それぞれの『狡さ』があった。
そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。
恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。
2人の違いは、一体なんだったのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる