富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
2,452 / 3,202

挿話: 《ヒモダンス・タイガー》

しおりを挟む
 栞さんと士王ちゃんが日本へ帰って来た!
 また一緒にいろいろ出来るんだ!

 斬さんがとっても嬉しそうだった。
 今日はずっと笑っていた気がする。
 宴会で蓮花さんがまた驚くようなステージを見せてくれた。
 だから私たちも「ヒモダンス」を頑張った。
 みんなで練習し、いままでにないパフォーマンスを見せた。
 空中に飛び上がり、ウェーブやスネークを摂り入れた。
 みんなに喜んでもらった!

 今までにない、最高の「ヒモダンス」になった。

 一江さんと大森さんが漫才をやり、六花さんが歌った。
 六花さんの歌は随分と上手くなっていて驚いた。
 ルーとハーが石神家本家の剣技を披露し、後鬼さん、羅刹さんが大興奮だった。
 明日、是非また見せて欲しいと二人に言われた。
 斬さんも興奮していた。
 そしてタカさんのギターが最高にカッコ良かった!

 楽しい宴会が終わり、みんなでお風呂に入った。
 もう少し栞さんたちと話したかったが、今日はしょうがない。
 私たちはみんなで一緒の部屋で寝た。
 ロボが柳さんと一緒のベッドに入った。
 




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「あれ?」

 どこだろう。
 地平まで拡がる荒野の中に立っていた。
 岩がゴロゴロと転がっている、何も無い場所だ。

 「ここは?」

 記憶が無い。
 でも、自分ではそんなに不安も無い。
 なんだろう?

 しばらく周囲の景色を見ていたが、地平線の彼方から何かが近付いて来た。

 「なんだ?」

 巨大なもののようだが、私は不思議と恐れることもなかった。
 ソレに、何か親しいものを感じている自分がいた。
 
 近づいてくると、ソレの姿が分かった。
 巨大な虎だ!
 ただ、普通の虎と違って赤と黒の縞模様だった。
 ソレは私の目の前に降り立った。
 身体の大きさは大体100メートル。
 大きな顔は精悍で、それと同時に高い知性と優しさを感じた。
 私を綺麗な瞳で見詰めている。

 「あなたは誰ですか?」

 自然に問うていた。

 「我は《ヒモダンス・タイガー》」
 「えぇ!」
 「お前たちの「ヒモダンス」によって導かれた至高の虎だ」
 「そうなんですか!」

 なんとなく、それが本当のことだと分かった。
 なんでだかは分からない。

 「私たちの「ヒモダンス」で生まれたのですか?」
 「その通りだ。お前たちの「ヒモダンス」は最高だからな」
 「ありがとうございます!」

 やっぱりタカさんが創った「ヒモダンス」は最高だったんだ!
 私もずっと、あのダンスには何かがあるんじゃないかと思っていた。
 踊ると楽しいし。

 「我は強い」
 「そうですよね!」

 本当に途轍もなく強そうだ。
 一目見ただけで、私などは相手にもならないことが分かった。

 「我はお前たちの味方だ」
 「そうなんですか!」
 「何でも望みを言え」
 「え! じゃ、じゃあ、「業」を斃して欲しいとか?」
 「容易いことだ」
 「えぇ!」

 本当か! 
 もしもそうならば、タカさんはどんなに喜ぶだろう!

 「お願いします!」
 「承知」

 《ヒモダンス・タイガー》さんは、私に背中に乗るように言った。
 私は飛び跳ねて、大きな首の上に乗った。
 フサフサの毛に掴まる。

 「行くぞ」
 「はい!」

 《ヒモダンス・タイガー》さんが空中に上がり、猛スピードで飛んだ。
 《ヒモダンス・タイガー》さんの毛に包まれて温かい。
 それに、なんだかいい匂いがする。

 「あったかくていい匂いです!」
 「そうか!」

 《ヒモダンス・タイガー》さんが喜んだ。
 下の景色が物凄いスピードで飛んで行く。
 数分後、どこかの森の上空に来た。
 多分、ロシアのどこかだと思う。
 下に何かの構築物がある。
 でも人工のものには見えなかった。
 巨大な蟻塚のようなものだ。
 高さは数百メートル、一番下の地面の部分は直径2キロくらいか。
 もちろん自然のものであるはずもない。
 
 「ここだ」
 「そうなんですか!」

 《ヒモダンス・タイガー》さんは、「業」のいる拠点が分かっていたようだ。
 流石です!

 蟻塚のようなものから、無数の妖魔が出て来た。
 もう発見されたかぁ!
 上空から見下ろしているが、数億はいるのではないか!

 「大丈夫ですか!」
 「他愛無し」

 《ヒモダンス・タイガー》さんが右の前足を一閃させた。
 何か巨大なエネルギーが走り、地上の妖魔が全て一瞬で消えた。
 そのままどんどん湧いてくる無数の妖魔を掻き消して行った。

 「スゴイですね!」
 「フフフ」

 強そうな妖魔が出て来た。
 また数億いそうだ。

 「あ! あれは《地獄の悪魔》ですよ!」
 「他愛無し」

 今度は左の前足を一閃させる。
 《地獄の悪魔》が全部消えた。

 今度は《神》が出て来た!
 数百はいるぞ!

 「《神》まで来ましたよ!」
 「ふん、片腹痛し」

 《ヒモダンス・タイガー》さんがロボの「ばーん」みたいに口から何かを吐いた。
 巨大な光芒が《神》たちに降り注がれる。
 一瞬で消えた。
 うわぁぁぁーー!

 「「神殺し」の呪いは大丈夫ですか!」
 「問題無し」

 全然平気そうだ。
 凄すぎです、《ヒモダンス・タイガー》さん!

 蟻塚のようなものから、何か巨大なモノが出て来た。
 全身から黒い霧を発している。
 大きさは数百キロ!
 あれは!

 「《ヒモダンス・タイガー》さん! 「業」が出ましたよ!」
 「他愛無し」

 また《ヒモダンス・タイガー》さんの口から、さっきよりも大きな光芒が「業」に向かった。
 「業」の身体は、光芒が当たった場所から爆散していき、どんどん小さくなる。

 「がんばれ、《ヒモダンス・タイガー》さん!」
 「ガハハハハハハハ!」

 「業」が小さくなって行き、普通の人間の大きさになった。

 「分かった! もう降参だ!」
 「《ヒモダンス・タイガー》さん、ダメですよ!」
 「もう悪いことはしない!」
 「騙されないでぇ!」
 「片腹痛し」

 右前足で一閃する。


 ペチ


 「業」の身体が潰れて動かなくなった。

 「やったぁー!」
 「ふふふ、他愛無し」
 「これで戦いは終わりだぁ!」
 「良かったな」
 「ありがとうございましたぁ!」
 
 地上に降りて、私はお礼に渾身の「ヒモダンス」を踊った。
 




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「亜紀ちゃん! うるさいよ!」
 「もう! なんなのよ!」

 ルーとハーに頭をペチペチされた。

 「ほら、起きてよ!」
 「うーん……」
 「亜紀ちゃん!」
 「!」

 「起きた?」
 「もう戦いは終わったよ!」
 「「え?」」
 「《ヒモダンス・タイガー》さんが「業」を斃してくれたから!」

 頭に衝撃が走った。
 二人に頭をはたかれた。

 「寝ぼけないで!」
 「ちゃんと起きてよ!」

 辺りを見回すと、柳さんも皇紀も起きて私を見てた。
 ロボが不機嫌そうに睨んでいる。

 「ん?」
 「ほんとに起きた?」
 「もう、夜中に騒いで!」
 「あれ?」
 「何の夢よ!」
 「え、《ヒモダンス・タイガー》さんの……」
 「なにそれ!」
 「えーと」
 「もう!」

 「ごめんなさい」

 みんなに謝った。
 なんだ、夢かー……






 翌朝、タカさんに夢の話をした。
 多分だけど、重要なことが夢で示されたのではないか!

 「それで《ヒモダンス・タイガー》さんがですね」
 「なんだ?」
 「「業」を斃してくれたんですよ!」
 「あ、そう」
 「そうです!」

 タカさんは呆れた顔で士王ちゃんと吹雪ちゃんを抱いて食堂を出て行った。

 「……」
 
 私は、「ヒモダンス」を徹底的に極めることにした。
 いつか、本物の《ヒモダンス・タイガー》さんが来てくれるかもしれないもん!
 がんばるぞー!
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

政略結婚の先に

詩織
恋愛
政略結婚をして10年。 子供も出来た。けどそれはあくまでも自分達の両親に言われたから。 これからは自分の人生を歩みたい

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

処理中です...