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「ルート20」絆 Ⅴ
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「ローマ市内で《トラ》の「ゴウライ」を確認! バチカン内の「虎騎士団」が出動し、「ゴウライ」付近のビルから中性子爆弾が見つかりました!」
「!」
敵は中性子爆弾でタイガーを殺そうとしたのか!
「現在爆弾は処理済み! 付近は《トラ》の「ゴウライ」の影響で電子機器が全滅しています。半径1キロ程度の区画です」
「分かった」
私はフランス政府に対し、「虎」の軍としての宣戦布告を通告した。
大統領府、各軍、それに主要なメディアに対してだ。
続いてEU各国やアメリカ、そして他の諸外国にも、「虎」の軍がフランスに対して宣戦布告したことを伝える。
「虎」の軍の最高指揮官の暗殺未遂を受けてのことだと発表した。
この間にも、ローマ市内での事件は世界中を駆け巡っていた。
バチカンの「虎騎士団」から、続々と情報が回って来る。
フランス政府には、30分以内に首謀者が名乗り出ない場合、全面攻撃をすると伝えた。
そして、大統領を含む政府高官が関わっている証拠を掴んでいることも伝えた。
その情報はバチカンからもたらされた二次的なものだったが。
多分フランス政府は動かない。
30分で戦争が始まるなど、誰も想像すらしていないだろう。
だがそれは、タイガーを知らないのだ。
私は何度も政府や軍部に警告した。
タイガーはやると言ったらやるのだ。
だが、やはり彼らの反応は鈍かった。
混乱はしているようだが、何も手を打って来なかった。
そして30分が経過した。
タイガーには逐一こちらの宣戦布告とフランス政府の対応を通信で伝えている。
ディアブロはどうしているのか……
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
ターナー大将から連絡を受けて、すぐに飛んだ。
タカさんの位置は「皇紀通信」でアラスカには分かっている。
その座標データを転送してもらった。
フランスのパリだ!
「タカさーん!」
タカさんは、パリの広場にいた。
すぐに居場所が分かった。
遠くからでも、タカさんから立ち上る凄まじいエネルギーが感じられた。
飛行の途中で、ターナー大将からバチカンサイドからの細かい情報ももらっていた。
諫早さんが死に、奥さんとお子さんが人質に取られているのだと。
タカさんの怒りの大きさは計り知れない。
タカさんは地上に降りた私を見ていた。
良かった!
全てを無視するほど、タカさんは怒り狂ってはいない。
まだ私を認識する程度には理性を残している。
「タカさん、アラスカから聞きました! フランスと戦うんですね!」
「そうじゃねぇ。フランスをこの地上から消すんだ」
「え!」
「大統領と首謀者が出て来て、イサの家族が無事だったらなんとか納めてやる」
「はい!」
それはちょっと難しいんじゃないかと分かっている。
時間は30分だと聞いた。
でも、それじゃフランス政府も何も決められないだろう。
逸早くメディアが避難勧告や外へ出ないようにと訴えている。
警察車両も巡回している。
でも、半分の人も避難はしてない。
それに、恐らく非難しても無駄だ。
そのことが、タカさんの怒りの大きさから分かった。
瞬く間に30分が過ぎた。
「やるぞ」
「え?」
タカさんが動き、上空に手を振った。
近くの人がタカさんの動きに気付いて、綺麗な動作に目を留めていた。
上空が変わった。
黒い闇が拡がり、そこから巨大な蛇のようなうねる光が幾つも生じて行く。
「う、ウロボロス!」
これはまずい!
「ウロボロス」は本当にフランス全土を焦土と化してしまう!
やっぱりタカさんは本気なんだ!
ターナー大将に連絡した。
「こちらでは「ウロボロス」が発動しました! ほんとに全員死にますよ!」
「わ、分かった! もう一度フランス政府に掛け合う!」
「急いでぇ!」
広場にいた人たちも、異様な上空の変化に気付いて来た。
もう、見るだけですべてが終わることが分かる。
黒い闇の空に、巨大な蛇の光る胴体が無数にうねっている。
やっとみんなが騒ぎ出した。
「タカさん! フランス中が無くなっちゃいますよ!」
「イサを殺したんだ。フランス人などこの世にいる必要はねぇ」
「タカさん!」
本当の本気だ。
タカさんに害をなすつもりがなかった人たちがほとんどのはずだけど、もうそんなことは関係ない。
フランス政府がやったことだから、フランス全部で償えと言っているのだ。
無茶苦茶に聞こえるだろうけど、私にはよく分かる。
タカさんにとって、イサさんの命はどこまでも大きいのだ。
そこに理屈や正しさなんて入り込む余地は無いのだ。
フランスがイサさんを殺した。
だから誰かが自分がやったと名乗り出ない限り、フランスが終わるのだ。
そうしている間にも、「ウロボロス」はフランス全土へ拡がって行った。
その様子が衛星写真でマスコミに公開されると、ようやくフランス中の人々が騒ぎ出した。
市民を誘導していた警官たちにも動揺が拡がって行く。
誰もが何も出来ずに、上空を見上げていた。
ネットにも情報が拡散して行った。
多分、ジャングル・マスターさんが情報操作を始めたんだ。
今回の騒動が、誰にも分かりやすく語られて行く。
フランス政府が「虎」の軍の最高指揮官の暗殺を企み、そのせいで大事な仲間が殺された。
その家族が今も人質になっている。
現大統領が今回の戦争の発端だと分かり、人々が大統領府のあるエリゼ宮殿へ押し寄せた。
私もタカさんを連れて向かった。
タカさんは大人しく一緒に来てくれた。
タカさんは無言だ。
エリゼ宮殿を護る親衛隊はたちまち逃げ出し、宮殿前は民衆で埋まって行く。
彼らは宮殿内部に押し寄せようとしている。
上空に「タイガーファング」が来た。
ターナー大将が、鈍いフランス政府の対応に、強硬的に事態を解決するために派遣したのだ。
私の端末に、その説明が来た。
デュールゲリエが地上に降りて、民衆たちをどけて「タイガーファング」の着陸場所を確保していく。
そしてデュールゲリエとソルジャーたちに護衛された数十人がエリゼ宮殿に入って行った。
多分、「虎」の軍の外務部門の人たちだろう。
見えてはいないが、「虎」の軍の外交官筆頭のアーネスト・ウィルソンさんも来ているに違いない。
遮る扉やバリケードはどんどんソルジャーたちによって破壊されていく。
私の端末に、「ウロボロス」がほぼフランス全土に広がったことが報告された。
いよいよだ。
その時、エリゼ宮殿から、10数人の男たちが連れ出された。
「タイガー! こいつらが主犯です! 確保しました!」
ソルジャーの一人が叫んだ。
隣にやっぱりウィルソン外交官が立っていた。
タカさんはまだ黙って見ている。
「タイガー! もう終わりにして下さい! 多くのフランス人は無関係なんです!」
ウィルソンさんが叫んだ。
「赦さん!」
タカさんの叫びが響く。
日本語の分からない人も多いだろうけど、タカさんが終わる気がないことは伝わったと思う。
「タイガー、頼みます!」
私もタカさんの背を抱いた。
肯定も否定も無い。
ただ、タカさんの激しい悲しみを少しでも癒したかった。
「ウロボロス」が上空から少しずつ下がって来た。
渦の先端の様に伸びて、エリゼ宮殿に一部が向かって来る。
「!」
敵は中性子爆弾でタイガーを殺そうとしたのか!
「現在爆弾は処理済み! 付近は《トラ》の「ゴウライ」の影響で電子機器が全滅しています。半径1キロ程度の区画です」
「分かった」
私はフランス政府に対し、「虎」の軍としての宣戦布告を通告した。
大統領府、各軍、それに主要なメディアに対してだ。
続いてEU各国やアメリカ、そして他の諸外国にも、「虎」の軍がフランスに対して宣戦布告したことを伝える。
「虎」の軍の最高指揮官の暗殺未遂を受けてのことだと発表した。
この間にも、ローマ市内での事件は世界中を駆け巡っていた。
バチカンの「虎騎士団」から、続々と情報が回って来る。
フランス政府には、30分以内に首謀者が名乗り出ない場合、全面攻撃をすると伝えた。
そして、大統領を含む政府高官が関わっている証拠を掴んでいることも伝えた。
その情報はバチカンからもたらされた二次的なものだったが。
多分フランス政府は動かない。
30分で戦争が始まるなど、誰も想像すらしていないだろう。
だがそれは、タイガーを知らないのだ。
私は何度も政府や軍部に警告した。
タイガーはやると言ったらやるのだ。
だが、やはり彼らの反応は鈍かった。
混乱はしているようだが、何も手を打って来なかった。
そして30分が経過した。
タイガーには逐一こちらの宣戦布告とフランス政府の対応を通信で伝えている。
ディアブロはどうしているのか……
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
ターナー大将から連絡を受けて、すぐに飛んだ。
タカさんの位置は「皇紀通信」でアラスカには分かっている。
その座標データを転送してもらった。
フランスのパリだ!
「タカさーん!」
タカさんは、パリの広場にいた。
すぐに居場所が分かった。
遠くからでも、タカさんから立ち上る凄まじいエネルギーが感じられた。
飛行の途中で、ターナー大将からバチカンサイドからの細かい情報ももらっていた。
諫早さんが死に、奥さんとお子さんが人質に取られているのだと。
タカさんの怒りの大きさは計り知れない。
タカさんは地上に降りた私を見ていた。
良かった!
全てを無視するほど、タカさんは怒り狂ってはいない。
まだ私を認識する程度には理性を残している。
「タカさん、アラスカから聞きました! フランスと戦うんですね!」
「そうじゃねぇ。フランスをこの地上から消すんだ」
「え!」
「大統領と首謀者が出て来て、イサの家族が無事だったらなんとか納めてやる」
「はい!」
それはちょっと難しいんじゃないかと分かっている。
時間は30分だと聞いた。
でも、それじゃフランス政府も何も決められないだろう。
逸早くメディアが避難勧告や外へ出ないようにと訴えている。
警察車両も巡回している。
でも、半分の人も避難はしてない。
それに、恐らく非難しても無駄だ。
そのことが、タカさんの怒りの大きさから分かった。
瞬く間に30分が過ぎた。
「やるぞ」
「え?」
タカさんが動き、上空に手を振った。
近くの人がタカさんの動きに気付いて、綺麗な動作に目を留めていた。
上空が変わった。
黒い闇が拡がり、そこから巨大な蛇のようなうねる光が幾つも生じて行く。
「う、ウロボロス!」
これはまずい!
「ウロボロス」は本当にフランス全土を焦土と化してしまう!
やっぱりタカさんは本気なんだ!
ターナー大将に連絡した。
「こちらでは「ウロボロス」が発動しました! ほんとに全員死にますよ!」
「わ、分かった! もう一度フランス政府に掛け合う!」
「急いでぇ!」
広場にいた人たちも、異様な上空の変化に気付いて来た。
もう、見るだけですべてが終わることが分かる。
黒い闇の空に、巨大な蛇の光る胴体が無数にうねっている。
やっとみんなが騒ぎ出した。
「タカさん! フランス中が無くなっちゃいますよ!」
「イサを殺したんだ。フランス人などこの世にいる必要はねぇ」
「タカさん!」
本当の本気だ。
タカさんに害をなすつもりがなかった人たちがほとんどのはずだけど、もうそんなことは関係ない。
フランス政府がやったことだから、フランス全部で償えと言っているのだ。
無茶苦茶に聞こえるだろうけど、私にはよく分かる。
タカさんにとって、イサさんの命はどこまでも大きいのだ。
そこに理屈や正しさなんて入り込む余地は無いのだ。
フランスがイサさんを殺した。
だから誰かが自分がやったと名乗り出ない限り、フランスが終わるのだ。
そうしている間にも、「ウロボロス」はフランス全土へ拡がって行った。
その様子が衛星写真でマスコミに公開されると、ようやくフランス中の人々が騒ぎ出した。
市民を誘導していた警官たちにも動揺が拡がって行く。
誰もが何も出来ずに、上空を見上げていた。
ネットにも情報が拡散して行った。
多分、ジャングル・マスターさんが情報操作を始めたんだ。
今回の騒動が、誰にも分かりやすく語られて行く。
フランス政府が「虎」の軍の最高指揮官の暗殺を企み、そのせいで大事な仲間が殺された。
その家族が今も人質になっている。
現大統領が今回の戦争の発端だと分かり、人々が大統領府のあるエリゼ宮殿へ押し寄せた。
私もタカさんを連れて向かった。
タカさんは大人しく一緒に来てくれた。
タカさんは無言だ。
エリゼ宮殿を護る親衛隊はたちまち逃げ出し、宮殿前は民衆で埋まって行く。
彼らは宮殿内部に押し寄せようとしている。
上空に「タイガーファング」が来た。
ターナー大将が、鈍いフランス政府の対応に、強硬的に事態を解決するために派遣したのだ。
私の端末に、その説明が来た。
デュールゲリエが地上に降りて、民衆たちをどけて「タイガーファング」の着陸場所を確保していく。
そしてデュールゲリエとソルジャーたちに護衛された数十人がエリゼ宮殿に入って行った。
多分、「虎」の軍の外務部門の人たちだろう。
見えてはいないが、「虎」の軍の外交官筆頭のアーネスト・ウィルソンさんも来ているに違いない。
遮る扉やバリケードはどんどんソルジャーたちによって破壊されていく。
私の端末に、「ウロボロス」がほぼフランス全土に広がったことが報告された。
いよいよだ。
その時、エリゼ宮殿から、10数人の男たちが連れ出された。
「タイガー! こいつらが主犯です! 確保しました!」
ソルジャーの一人が叫んだ。
隣にやっぱりウィルソン外交官が立っていた。
タカさんはまだ黙って見ている。
「タイガー! もう終わりにして下さい! 多くのフランス人は無関係なんです!」
ウィルソンさんが叫んだ。
「赦さん!」
タカさんの叫びが響く。
日本語の分からない人も多いだろうけど、タカさんが終わる気がないことは伝わったと思う。
「タイガー、頼みます!」
私もタカさんの背を抱いた。
肯定も否定も無い。
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