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轟翡翠 Ⅱ
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「創世の科学」は壊滅し(トラが全部潰しやがった)、俺は外道会の方を主に追うことになった。
もちろん、俺の他にも大勢の刑事や警察官が探している。
俺は彼らと連携を取りながら動いているのだが、実は俺には上司がいないし部署すらない。
早乙女さんの直属であり、完全に遊撃隊的な立ち位置だ。
「アドヴェロス」という括りの中ではあるのだが、チームは無いのだ。
それは、早乙女さんが俺の捜査能力を高く評価してくれていることがあり、また俺という存在を最大限に生かそうとしてくれているためだ。
実は警察組織は硬直することが多い。
上司の判断もそうだし、同僚とのしがらみもある。
だから外部からの干渉を受けることも多いし、上が判断を誤ればもう修正する力はない。
長い警察の組織の中で、伝説的な刑事たちもいた。
彼らは例外なく反骨精神を持ち、組織の枠に収まらなかった人間たちだ。
多分、そういうことを早乙女さんが考えてくれている。
俺が多少なりとも刑事時代に実績があったのは、和久井署長と言う類稀な人格者がいたことと、その上に更に小島将軍という日本最高の権力者が後ろ盾になってくれていたからだ。
俺はトラのいた街を護るために、懸命に動いた。
その経験が、今、評価に繋がっているのだろう。
北海道から逃げ延びたライカンスロープたちは、外道会の息の掛かった連中が運び込んだらしい。
それはロシアのマフィア「ボルーチ・バロータ」に繋がっている。
トラたちもまだ「ボルーチ・バロータ」の実態は掴んでいなかった。
相当硬く深い組織のようだ。
外道会はまともなヤクザですら出来ないはみ出し者の集団だ。
だから組織として動けるのかとも思っていた。
実際、最初の頃は「外道会」の看板はあっても、バラバラの集団だった。
寄せ集めであり、単に力のある連中がそれぞれ束ねていただけだ。
だから内部の組同士の争いも多かったし、いがみ合っていた。
それが、今では誰も本体を把握出来ない組になっていった。
トラはそれが「ボルーチ・バロータ」の影響下にあるためだと睨んでいる。
俺もそう思う。
どの組からもはみ出ていた連中を、力づくでまとめている奴がいる。
ヤサが割れている場所は、既にトラたちが潰していた。
外道会はトラたちにとって見過ごせない体質になっていたからだ。
「デミウルゴス」を流し、国内の「業」の勢力を支援する組織。
俺は慎重に捜査を進めて行った。
轟と初めて一緒に出掛けた。
新宿の歌舞伎町だ。
歌舞伎町には様々な人間が出入りする。
世界有数の歓楽街でもあり、以前はヤクザが大小林立して一般人から金やらを吸い上げていた。
新暴対法によってヤクザが激減し、今もいるがむしろ新興勢力が台頭し、またヤクザもフロントを出すようになっている。
キャバクラとホストクラブが大流行したせいで、裏社会の人間が一層苛烈に争っている。
だから歌舞伎町は人を吸い寄せる。
ヤクザ、マフィア、愚連隊といった裏社会の人間から、行き場を喪った若い連中も多いし、外国人も集まって来る。
享楽を供給する店が密集し、一般人がそれを求めて様々な場所から来る。
外道会もだ。
ヤクザはみんな酒と女が好きだ。
そして新宿の繁華街が大好きだ。
俺は轟を連れて、夜の歌舞伎町に出掛けた。
「ここは特殊な人間が集まってますね」
轟が俺の隣を歩きながら、周囲を警戒していた。
「刃物を所持した人間が結構います。中にはガンを持っている者も」
「おい、あまり周囲をジロジロ見るな。俺たちは遊びに来ているんだからな」
「分かりました」
「あまり目立つことはするな」
「はい」
俺の言っていることはすぐに呑み込んだ。
どこで誰が俺たちを見ているのか分からない。
俺たちが警察関連と見られれば、捜査がしにくくなる。
顔中にトライバルの刺青を入れた男と額に目の刺青を彫った女が楽しそうに話している。
そういう街なのだ。
身体のでかい外国人が集団でたむろし、キャッチの男たちが愛想よくカモを引っ掛けている。
キラキラのスーツの細身の男たちが、若い娘たちと話している。
狭い道が多いのに、でかいベンツやロールスロイスがクラクションを鳴らしながら走っている。
区役所通りに沿った駐車場で、ローティーンの少女2人がホストらしい男3人に絡まれているのが見えた。
男たちが少女たちを怒鳴っている。
その様子を見て、大体分かった。
男たちは少女たちをどこかの店に連れ出し、そこで支払えないほどの請求をするのだ。
家出少女たちがよく引っ掛かる。
彼女らは携帯を取り上げられ、どこかへ軟禁され売春なりをさせられる。
男たちが怒鳴っているのは、脅せば簡単に連れ込めると判断したからだ。
家出していることと、バックに誰もついていないことが会話の中で確認されたのだろう。
轟が俺を見た。
「佐野さん、助けますね」
「……」
俺は何も言わなかった。
轟はうなずいて、そのまま男たちに割って入った。
「その子たちを放しなさい」
「なんだ、てめぇは?」
「君たち、早く行きなさい」
「おい、勝手な真似をすんじゃねぇ!」
少女の一人を掴んでいた男の手を轟が捻り上げた。
男は小さな悲鳴を挙げて手を放す。
「さあ、早く行きなさい」
少女たちは礼も言わずに走り去った。
「おい、姉ちゃん、ただで済むと思うなよな?」
二人の男が正面に立ち、もう一人が轟の背後に回った。
あいつら、ホストのくせに慣れてやがる。
これまでも何度も力づくで少女たちを攫ったのだろう。
後ろの男が腰から何かを出した。
30センチほどのしなる太い棒状のもの。
ブラックジャックか。
鉛やパチンコ玉などを革に包んで、外傷を負わせずに相手にダメージを与える武器だ。
二人の男が轟を罵りながら、後ろの男がブラックジャックを振り上げた。
後ろの男が吹っ飛んだ。
轟の後ろ蹴りだ。
轟は後ろにも目があるのだ。
高感度のレーダーやソナーなどで常に全空間を把握している。
同時に前の二人も地面にしゃがんだ。
そっちは何をしたのか分からない。
俺が近付くと轟が頭を下げた。
「すみません」
「いいよ」
「こいつら、どうしましょうか?」
「俺に任せろ」
轟は俺の名前も呼ばないし、警察という単語も使わなかった。
いい判断だ。
俺は電話で千万組の人間を呼んだ。
場所を言うと、すぐに人間を回すと言って来た。
本当に2分でバンに乗った2人の男が来た。
「こいつらですね」
「ああ、素性を聞いておいてくれ」
「分かりました」
手慣れた様子で男たちを連れて行く。
俺と轟はまた歩き出した。
「さっきの方たちは?」
「ああ、千万組の連中だ。この辺を取り仕切っている」
「ああ、なるほど!」
早乙女さんから、新宿でトラブルがあった場合は千万組に連絡するように言われていた。
トラの下の連中で、元は北関東最大のヤクザだったが、今はまっとうな商売をしている。
まあ、グレーな部分もあるが、それは仕方がない。
「あの、佐野さん。さっきは勝手に飛び出してすみませんでした」
「いいさ。お前は俺に一度断っただろう?」
「ええ、でも承諾は」
「俺が止めなかったんだ。あれでいいんだよ」
「そうですか」
俺は轟という「人間」を観たかった。
あの少女たちを放置するのか助けるのか。
助けるのならば、どういう助け方をするのか。
「俺たちは警察官だ」
「はい」
「犯罪は見過ごせない。困った人は助けたい」
「はい」
「俺はよ、捜査のために困っている人間を放置するような奴は嫌いだ」
「え?」
「轟、お前、いい奴だな!」
「佐野さん!」
轟が嬉しそうに俺に微笑み、俺の腕を組んだ。
「おい!」
「いいじゃないですか! 上司と部下の不倫みたいですよ?」
「お前、どこでそんなことを!」
「エヘヘヘヘヘ!」
まあ、轟が嬉しそうなのでそのまま歩いた。
美しい轟を見て、みんなが俺を羨ましそうに見ていた。
「おい、情報屋のいる店はそこだ」
「はい!」
雑居ビルの4階に上がった。
もちろん、俺の他にも大勢の刑事や警察官が探している。
俺は彼らと連携を取りながら動いているのだが、実は俺には上司がいないし部署すらない。
早乙女さんの直属であり、完全に遊撃隊的な立ち位置だ。
「アドヴェロス」という括りの中ではあるのだが、チームは無いのだ。
それは、早乙女さんが俺の捜査能力を高く評価してくれていることがあり、また俺という存在を最大限に生かそうとしてくれているためだ。
実は警察組織は硬直することが多い。
上司の判断もそうだし、同僚とのしがらみもある。
だから外部からの干渉を受けることも多いし、上が判断を誤ればもう修正する力はない。
長い警察の組織の中で、伝説的な刑事たちもいた。
彼らは例外なく反骨精神を持ち、組織の枠に収まらなかった人間たちだ。
多分、そういうことを早乙女さんが考えてくれている。
俺が多少なりとも刑事時代に実績があったのは、和久井署長と言う類稀な人格者がいたことと、その上に更に小島将軍という日本最高の権力者が後ろ盾になってくれていたからだ。
俺はトラのいた街を護るために、懸命に動いた。
その経験が、今、評価に繋がっているのだろう。
北海道から逃げ延びたライカンスロープたちは、外道会の息の掛かった連中が運び込んだらしい。
それはロシアのマフィア「ボルーチ・バロータ」に繋がっている。
トラたちもまだ「ボルーチ・バロータ」の実態は掴んでいなかった。
相当硬く深い組織のようだ。
外道会はまともなヤクザですら出来ないはみ出し者の集団だ。
だから組織として動けるのかとも思っていた。
実際、最初の頃は「外道会」の看板はあっても、バラバラの集団だった。
寄せ集めであり、単に力のある連中がそれぞれ束ねていただけだ。
だから内部の組同士の争いも多かったし、いがみ合っていた。
それが、今では誰も本体を把握出来ない組になっていった。
トラはそれが「ボルーチ・バロータ」の影響下にあるためだと睨んでいる。
俺もそう思う。
どの組からもはみ出ていた連中を、力づくでまとめている奴がいる。
ヤサが割れている場所は、既にトラたちが潰していた。
外道会はトラたちにとって見過ごせない体質になっていたからだ。
「デミウルゴス」を流し、国内の「業」の勢力を支援する組織。
俺は慎重に捜査を進めて行った。
轟と初めて一緒に出掛けた。
新宿の歌舞伎町だ。
歌舞伎町には様々な人間が出入りする。
世界有数の歓楽街でもあり、以前はヤクザが大小林立して一般人から金やらを吸い上げていた。
新暴対法によってヤクザが激減し、今もいるがむしろ新興勢力が台頭し、またヤクザもフロントを出すようになっている。
キャバクラとホストクラブが大流行したせいで、裏社会の人間が一層苛烈に争っている。
だから歌舞伎町は人を吸い寄せる。
ヤクザ、マフィア、愚連隊といった裏社会の人間から、行き場を喪った若い連中も多いし、外国人も集まって来る。
享楽を供給する店が密集し、一般人がそれを求めて様々な場所から来る。
外道会もだ。
ヤクザはみんな酒と女が好きだ。
そして新宿の繁華街が大好きだ。
俺は轟を連れて、夜の歌舞伎町に出掛けた。
「ここは特殊な人間が集まってますね」
轟が俺の隣を歩きながら、周囲を警戒していた。
「刃物を所持した人間が結構います。中にはガンを持っている者も」
「おい、あまり周囲をジロジロ見るな。俺たちは遊びに来ているんだからな」
「分かりました」
「あまり目立つことはするな」
「はい」
俺の言っていることはすぐに呑み込んだ。
どこで誰が俺たちを見ているのか分からない。
俺たちが警察関連と見られれば、捜査がしにくくなる。
顔中にトライバルの刺青を入れた男と額に目の刺青を彫った女が楽しそうに話している。
そういう街なのだ。
身体のでかい外国人が集団でたむろし、キャッチの男たちが愛想よくカモを引っ掛けている。
キラキラのスーツの細身の男たちが、若い娘たちと話している。
狭い道が多いのに、でかいベンツやロールスロイスがクラクションを鳴らしながら走っている。
区役所通りに沿った駐車場で、ローティーンの少女2人がホストらしい男3人に絡まれているのが見えた。
男たちが少女たちを怒鳴っている。
その様子を見て、大体分かった。
男たちは少女たちをどこかの店に連れ出し、そこで支払えないほどの請求をするのだ。
家出少女たちがよく引っ掛かる。
彼女らは携帯を取り上げられ、どこかへ軟禁され売春なりをさせられる。
男たちが怒鳴っているのは、脅せば簡単に連れ込めると判断したからだ。
家出していることと、バックに誰もついていないことが会話の中で確認されたのだろう。
轟が俺を見た。
「佐野さん、助けますね」
「……」
俺は何も言わなかった。
轟はうなずいて、そのまま男たちに割って入った。
「その子たちを放しなさい」
「なんだ、てめぇは?」
「君たち、早く行きなさい」
「おい、勝手な真似をすんじゃねぇ!」
少女の一人を掴んでいた男の手を轟が捻り上げた。
男は小さな悲鳴を挙げて手を放す。
「さあ、早く行きなさい」
少女たちは礼も言わずに走り去った。
「おい、姉ちゃん、ただで済むと思うなよな?」
二人の男が正面に立ち、もう一人が轟の背後に回った。
あいつら、ホストのくせに慣れてやがる。
これまでも何度も力づくで少女たちを攫ったのだろう。
後ろの男が腰から何かを出した。
30センチほどのしなる太い棒状のもの。
ブラックジャックか。
鉛やパチンコ玉などを革に包んで、外傷を負わせずに相手にダメージを与える武器だ。
二人の男が轟を罵りながら、後ろの男がブラックジャックを振り上げた。
後ろの男が吹っ飛んだ。
轟の後ろ蹴りだ。
轟は後ろにも目があるのだ。
高感度のレーダーやソナーなどで常に全空間を把握している。
同時に前の二人も地面にしゃがんだ。
そっちは何をしたのか分からない。
俺が近付くと轟が頭を下げた。
「すみません」
「いいよ」
「こいつら、どうしましょうか?」
「俺に任せろ」
轟は俺の名前も呼ばないし、警察という単語も使わなかった。
いい判断だ。
俺は電話で千万組の人間を呼んだ。
場所を言うと、すぐに人間を回すと言って来た。
本当に2分でバンに乗った2人の男が来た。
「こいつらですね」
「ああ、素性を聞いておいてくれ」
「分かりました」
手慣れた様子で男たちを連れて行く。
俺と轟はまた歩き出した。
「さっきの方たちは?」
「ああ、千万組の連中だ。この辺を取り仕切っている」
「ああ、なるほど!」
早乙女さんから、新宿でトラブルがあった場合は千万組に連絡するように言われていた。
トラの下の連中で、元は北関東最大のヤクザだったが、今はまっとうな商売をしている。
まあ、グレーな部分もあるが、それは仕方がない。
「あの、佐野さん。さっきは勝手に飛び出してすみませんでした」
「いいさ。お前は俺に一度断っただろう?」
「ええ、でも承諾は」
「俺が止めなかったんだ。あれでいいんだよ」
「そうですか」
俺は轟という「人間」を観たかった。
あの少女たちを放置するのか助けるのか。
助けるのならば、どういう助け方をするのか。
「俺たちは警察官だ」
「はい」
「犯罪は見過ごせない。困った人は助けたい」
「はい」
「俺はよ、捜査のために困っている人間を放置するような奴は嫌いだ」
「え?」
「轟、お前、いい奴だな!」
「佐野さん!」
轟が嬉しそうに俺に微笑み、俺の腕を組んだ。
「おい!」
「いいじゃないですか! 上司と部下の不倫みたいですよ?」
「お前、どこでそんなことを!」
「エヘヘヘヘヘ!」
まあ、轟が嬉しそうなのでそのまま歩いた。
美しい轟を見て、みんなが俺を羨ましそうに見ていた。
「おい、情報屋のいる店はそこだ」
「はい!」
雑居ビルの4階に上がった。
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