富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
2,613 / 3,202

竹流 アゼルバイジャンへ

しおりを挟む
 保奈美の行方はまだ不明だ。
 散々「国境なき医師団」に問い合わせ、「虎」の軍として圧力も掛けた。
 その結果分かったのは、ミラーの率いる一団は完全に「国境なき医師団」から逸脱し、勝手に活動しているらしい。
 一応、脱退しているわけではないようだが、ほとんど連絡は入れていないようだ。
 だから、「国境なき医師団」でもミラーらの居場所は不明なのだと。
 ミラーは独自に資金を手にしており、父親のコネクションもあり自由に活動できる。
 指導者としては、そこそこのやり手のようだ。
 それだけに、俺たちも行方を掴めないでいる。
 保奈美については、ミラーが重用しているようで、ずっと一緒にいるらしい。
 他にも15名ほどを引き連れて各地の戦火の地域や医療不足の場所に赴いている。

 だが、俺は聖からミラーの正体を聞いている。
 医療行為に嘘はないが、多分に売名行為であり人間的な美点からの行動ではない。
 いずれ政治家なりで世に出るための下地造りなのだろう。
 
 今後「虎」の軍は各地の戦場を回ることになる。
 その中で、ミラーの行方を捜して行くつもりだ。
 茜にはそうしながら戦場を巡ってもらい、独自に保奈美の行方を捜してもらう。

 4月に入り、茜は中南米に旅立って行った。
 「業」の《ハイヴ》や軍事施設、研究施設が世界中に幾つも建設されており、それを巡って周辺で「業」と手を結ぼうとする連中と、「虎」の軍を求める軍とで交戦が始まりつつあった。
 世界規模でその二つの勢力の戦争が始まっている。
 本格的に激化する前に、茜に保奈美を保護して欲しい。





 竹流が中学校を卒業し、「虎」の軍に入った。
 もう幾つかの戦場に出ているので、本格的に竹流に任務を与えることにした。
 何しろ竹流の戦闘力は「虎」の軍の中でも最上位の集団になる。
 俺、聖、亜紀ちゃんたち、石神家剣聖、そういった人間たちに並ぶ。
 これも茜と同じく、竹流の真面目な性格と、連城十五から引き継いだ遺伝的なものによるのだろう。

 中国政府は西安を「虎」の軍に明け渡すことを決め、また周辺でも「虎」の軍の基地建設を検討していた。
 ロシアと地続きをアジア各本面に基地を建設し、ロシアの包囲を固めるつもりだ。
 しかし、西安には《刃》が出現した。
 あの超絶の強さの怪物は、聖ですら瀕死の重傷を負った。
 聖は今も傷が癒えていない。
 だから西安の基地建設は一時中断することになった。
 ロシア包囲網の他の基地の建設を進めることにし、そのうちの一つアゼルバイジャンに竹流を派遣することにした。
 アゼルバイジャンの首都バクーに隣接して「虎」の軍の拠点を築く予定だった。
 その拠点の防衛の中核として、竹流を置く。
 アゼルバイジャンの基地には東雲を司令官として派遣した。
 東雲は気のいい奴だし、小春もいる。
 竹流の面倒を見てもらうように言ってある。
 
 まあ、どちらも人間的に問題は無い。
 上手くやってくれるだろう。
 




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 神様に言われて、僕はアセルバイジャンに赴いた。
 首都バクー近郊に、「虎」の軍の基地を建設する。
 防衛任務だ。
 その最初から立ち会うことになった。

 初めのうちはバクーのホテルに滞在していたけど、すぐに基地予定地に住居が建設され、僕たちはそこへ移ることになった。
 鉄筋の4階建ての建物で、ソルジャー20名と建設要員140名が滞在する。
 まだ防衛システムは全くないので、敵襲があれば、僕たちで対応するしかない。
 司令官の東雲さんが僕に気遣ってくれ、初めての生活にもすぐに慣れた。
 食事もしょっちゅう一緒にしてくれ、東雲さんの奥さんの小春さんが毎回美味しい食事を作ってくれた。
 東雲さんも小春さんも優しく、気持ちの良い人たちだ。
 他のソルジャーの方々も僕に優しくしてくれる。
 何人か、桜さんの作戦でご一緒した元千万組の方々もいて、特に親しくして下さる。
 僕は防衛任務で持ち場にいる他は、訓練をし、過ごしていた。

 「竹流、たまには街に行って来いよ」
 「ええ、でもやることがありますから」
 「ばかやろう。虎の旦那は休みの使い方も、そりゃあお上手なんだ。お前も勉強しろ」
 「はい!」

 東雲さんから、街で遊んで来いとよく言われた。
 最初はあまり気が進まなかったけど、神様のようになるために、たまには出掛けようと思った。





 バクーの街にはいろいろなものがある。
 東京のようには行かないけど、結構活気があった。
 食事をしようと飲食店を探していると、テラスで綺麗な女の人を見つけた。
 日本人のようで、僕は思わず声を掛けた。

 「あの、日本人の方ですか?」

 僕は日本語しか出来ない。

 「ええ、あなたも!」
 「はい!」

 やはり日本人の方で、良かった、

 「こんな場所で日本人に会うなんて!」
 「そうですか。僕も嬉しいですよ」
 「日本語で話したのなんて、本当に久しぶりよ!」
 「アハハハハハハ!」

 お互いに自己紹介をした。

 「西野保奈美です」
 「連城竹流です」

 西野さんは170センチ近くあり、髪はショートにしている。
 お化粧はしていないけど、綺麗な顔の人だった。
 僕のことはみんなが呼ぶ「竹流」と呼んで欲しいと言った。
 西野さんは、医療のお仕事で来ているそうだ。
 僕は「虎」の軍の仕事なのだとは話せずに、建築関係でとお話しした。
 西野さんに誘われて、一緒に食事をした。
 
 「そうなんだ。まだ若いのに偉いね」
 「はい! 神様にお願いして、その会社に入れてもらったんです」
 「神様?」
 「ああ! 僕は孤児だったんですけど、そこで大変お世話になった方のことを「神様」ってお呼びしてるんです」
 「そうなんだ。とってもいい人なのね」
 「はい、最高です!」

 まだ、バクー市郊外に軍事基地を建設することは秘密だ。
 申し訳ないけど、西野さんにもお話し出来なかった。
 西野さんはしばらく日本を離れているそうで、結構世界中を回っているらしい。
 医療グループのチームで行動しているらしく、日本を懐かしんでいた。

 「日本へは帰らないんですか?」
 「うん。ちょっとね、仕事の関連もあるんだけど、私、本当は人を探しているの」
 「そうなんですか?」
 「昔の恋人。高校時代のね。その人が世界のどこかにいると思って、ずっと海外で活動しているの」
 「凄いですね!」

 素敵なお話だ。

 「でもね、会えることはないのは分かってるの」
 「なんでですか?」
 「だって全く宛は無いのよ。その人がどこにいるのかも全然知らない。日本じゃないことだけは分かっているけど、どの国にいるのかすら知らないの」
 「そんな……」

 西野さんが寂しそうな顔をする。
 
 「だけどさ、ジッとしてられなかった。日本にいないのが分かってて、日本にいられなかった。バカみたいだよね」
 「そんなことありません! 西野さんは素敵です!」
 「そう?」
 「それに、西野さん! 奇跡は起きるんですよ!」
 「え?」
 「神様が教えてくれました! 僕も奇跡を見ました!」
 「そうなんだ」
 「はい!」

 西野さんが嬉しそうに笑った。

 「竹流君、また会いたいな」
 「はい! 僕はしばらくこの街の近くにいますので。街には休日のたびに来ますよ」
 「本当に! 私もしばらくこの街に滞在しそうなの。次の仕事がまだ段取りが付かなくてね」
 「そうなんですか!」
 「〇〇というホテルに泊まってる。西野って言って貰えれば伝わるようにしておくわ」
 「はい! 必ずご連絡します!」
 「楽しみにしてるね!」

 とてもいい方にお会い出来た。
 東雲さんが勧めてくれたお陰だ。
 帰ってから東雲さんに話すと、喜んでくれた。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

処理中です...