富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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西安 潜入調査

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 中国から西安の割譲を受けることになり、俺たちは早速基地建設の調査に乗り込んだ。
 立地的に西安は俺たちの戦略にピッタリだったからだ。
 南と東に大山脈を配し、北に開いた平原を持つ。
 対ロシアには適した地形で、ほぼロシアの中心に向いている。
 同時に中国に対しても睨みを効かせやすい位置にある。
 今後はここを中心にモンゴルやカザフスタンに拠点を配していくつもりだった。
 最初は地理的な好条件もあり、中国政府も難色を示していた。
 「虎」の軍の軍事基地が出来れば、通常戦力は一切通用しない。
 俺にその意図は無かったが、中国が完全に支配下に置かれることもあり得る。
 だが、幾度かの中国政府の「虎」の軍への反抗への賠償請求や、特に「ガンドッグ」の亡命事件での激しい攻防のことを切り出しているうちに、ある時一転して西安の割譲を認めるようになった。
 後から思えば、それは俺たちを陥れる意図があったのだろうと思う。

 皇紀を調査員に加え、護衛を聖に頼んだ。
 通常は聖にそこまでのことを頼むことは無い。
 あいつは忙しいし、何よりも現地調査で危険なことは想定出来なかったからだ。
 しかし、俺には嫌な予感があった。

 中国政府の中枢は「業」と連携しようとしていた。
 それは主に西側諸国が「虎」の軍に協調する流れにあったからで、これまで何度も親しくしてきたロシアと手を結ぶ外交政策を取ったということだ。
 もちろん、中国政府は「業」が人類を破滅させるつもりだなどとは思ってもいない。
 「虎」の軍という、新たな超大国を上回る勢力を警戒した結果に過ぎない。
 まだ「業」は自分の世界戦略の意図を明かしてはいない。
 だから「虎」の軍は、新たな超大国以上の新興勢力であり、俺たちが「業」の真の意図と言っている人類破滅は、聞き入れられないことも多い。
 逆に中国のような大国が支配して来た世界情勢を覆す、恐るべき組織という認識になった。
 俺たちに付こうとしている西側諸国や他の国々であっても、まだ「虎」の軍を本当の意味で信用していない部分もある。
 「業」の勢力も、そうやって人類を二分化し、互いに争わせて戦力を高めない戦略を取っているのだ。
 俺たちにはジャングルマスターという希代の情報操作の天才がいるので、世界世論をある程度は誘導している。
 「業」の側にはそういう人材は少ないようだ。
 だから、徐々に世界各国が俺たちに協調してくれるようになったが、現状はまだまだ対立している部分も多い。
 今は世界的に二分化して互いに争っている。
 その根底には、「虎」の軍による世界支配を阻止するという意図があるのだ。

 そういう中で、中国政府は「虎」の軍に協力する勢力が台頭してきた。
 フィリピンの三合会の失敗により、皇紀が中国本土の三合会の拠点を潰して回った。
 あの件が切っ掛けとなり、その後の「虎」の軍との戦闘の中で、政府中枢の勢力が衰え、新たに「虎」の軍に接近する派閥が中心となりつつあった。
 最終的には「ガンドッグ」の亡命事件が決定的となり、ついに西安の割譲が決まった。
 まだ正式な外交手続きは済んでいないが、ほぼ決定事項だ。

 だが、俺は嫌な予感がしていた。
 中国国内の反抗勢力はある程度把握し、もう俺たちに正面切って逆らう連中はいないことは分かっていた。
 それでも、「業」の側は中国を喪うことをよしとはしないだろう。
 当然何らかの攻撃や工作は覚悟している。
 でも、まさか基地建設予定の視察の段階で襲ってくるとは思わなかった。
 俺の予感が聖をつけさせたわけだが、それ以上に強い敵が現われた。
 聖は瀕死の重傷を負い、奇跡的に命を取り留めた。
 聖は5月に入ってもまだ療養中だ。
 
 俺は、様々な伝手を辿って、西安や中国政府の内部調査を始めた。





 ようやく前政権が交代し、新たな親「虎」の軍の政権になった。
 ルイーサが優秀な人間を回してくれ、中国との外交交渉にカール・アイヒホルンとコンラート・バルツァーという二人の人間が来た。
 新政権と交渉を始めた。
 俺は別途にデュールゲリエを2体派遣し、情報収集をさせることにした。
 中国系の義体で、浩宇(ハオユー)と子涵(ズハン)という兄妹という設定だ。
 30代前半の若い美男美女で、ニューヨークの華僑の子どもということになっている。
 もちろん広東語も他の中国語も流ちょうに話せる。

 そのうちに、とんでもない事実が明らかになった。
 アイヒホルンとバウツァーが、新政権から西安には元々「業」の軍事施設があったという情報を得た。
 極秘の条約で秘密裏に建設されていたようだが、どうやら実態は特殊な《ハイヴ》のだったようだ。
 他の《ハイヴ》と違うのは、極力内部の実態が外へ漏れないように隠蔽されていたことで、そのために俺たちの霊素観測レーダーにも感知されなかった。
 どのような技術なのかは分からない。
 恐らく、前政権は俺たちに西安を渡すと言いながら、「業」の軍と戦わせようと考えたのだ。
 俺たちが勝利すればそれで良いし、俺たちが負ければそのまま「業」との蜜月を続けるつもりだった。
 多分、「業」の側に情報が流され、視察に行った聖たちを襲うように計画されていたのだろう。
 
 どのような施設なのかはまだ不明だが、相当高度な実験が行われていた可能性が高い。
 あの《刃》も、そこで生まれた。
 今も《ハイヴ》の中であの周辺を警戒しているに違いない。
 他の戦場にゲートで出て来る可能性もあるが、俺の勘がまだあそこにいると告げていた。
 ハオユーとズハンに西安近郊に行くように命じた。
 レーダーで監視はしているが、実際にどうなっているのか調べたかった。
 但し、ハオユーたちには絶対に無理をするなと言ってある。
 西安に入り、街の状況や噂などを集めるように命じた。
 皇紀と聖が行った山中には近づくなと。

 「今は情報収集が先だ。攻撃は万全の体制でやるからな」
 「「分かりました!」」

 二人は西安に向かった。
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