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《 лезвие(リェーズヴィエ:刃)》そして秘策 Ⅱ
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「業」様の居室から戻り、タイニータイドに連絡した。
ミハイルとは違い、私が頼むとすぐにやって来てくれる。
私はタイニータイドに、「業」様から言われた石神家の首を手に入れる方法を相談した。
「石神が関わることで、今後石神家が飛躍すると「業」様が仰っておられた。お前の予言だということだな」
「その通りです。今でも凄まじい一族ですが、更に驚異的な発展を遂げます。石神高虎によってもたらされることが、私にははっきりと見えました」
「だが、高々剣技だぞ。「花岡」であろうと「業」様のお力には届かないのだ」
「石神家の剣技は、「花岡」すら相手になりません。あの一族は、ありとあらゆる闘技を研究し、それを無効化し上回る剣技を構築して来ました。それも予言により分かっております」
それほどのことまでしていたとは知らなかった。
日本には「花岡」以外にも、幾つもの隠された凄まじい流派があることは知っている。
千石家や神宮寺家他、幾つものそういう流派を「業」様と一緒に潰して日本を出た。
その折に、その流派の技を吸収しても来た。
しかし石神家は我々以上に、既にそういうあらゆる流派にも精通していたのか。
一体どのような方法で……
「しかし、どのように妖魔を斃す剣技であろうと、「業」様の擁する妖魔の数は……」
「それを上回る剣技が今後出て来るということです。あの一族、そして石神高虎は「理」を超えて来るのです」
「まさか、そのような……」
「宇羅様、石神はあの「業」様の宿敵なのですよ?」
「!」
タイニータイドでも、具体的なことは分からないようだ。
しかし、その言葉通りとすれば、一振りで数億の妖魔を滅するような技としか考えられない。
それはあり得ないことだ。
「「業」様は石神家の剣技を欲しておられる。石神家には石神家をぶつけるおつもりだ」
「なるほど、良いお考えと思います」
「私がその役割を仰せつかった。だが、どのようにすれば良いのか」
私はタイニータイドに、石神家の剣士の脳を手に入れればという話をした。
その者の記憶を吸い出す方法があることを。
「しかし、石神家の拠点は相当硬い。アラスカほどではないが、あそこを襲うのは困難だ」
「ならば、どこかの戦場になりましょう」
「おお、なるほど。石神高虎が、あいつらを出して来るか」
「はい、必ず。その時に何とか。私がその予言を授かりましょう」
「宜しく頼む。「業」様は何としてもと仰っている」
「はい。宇羅様、ところで朗報です」
「なんだ?」
「恐らく今のお話に関わることです。新たに加わったロシア人の少年、キリールと申す者です」
私も知っていた。
下半身が麻痺している少年だったようだが。
「ああ、あの父親が宇宙飛行士だったという奴か。あれもお前の予言で連れて来たのだったな」
「はい。あの者は良いです。石神高虎に対する激しい憎悪が好ましい」
「なるほど。それでその少年がどうしたのだ?」
「先日、新たな予言が。キリールが石神高虎を苦しめると」
「なんだと?」
「大きな力を得て、石神高虎の大切な者たちを殺すと予言で観ました」
「なんと!」
「最初の予言では、強大な力を得る者としか。しかし先日の予言ではより具体的に。数多の剣を持ち、それを振るう凄まじい者と観ました」
「それでは、石神家の!」
「恐らく間違いございません。宇羅様は「業」様の御命令を成し遂げるのです」
「それは何と言う!」
私は思わず歓喜の叫びを挙げた。
タイニータイドも微笑んで見ていた。
「タイニータイド、やろう」
「はい、必ず。いずれその時が訪れます故」
「待っているぞ!」
後に、そのチャンスが訪れた。
あの時の言葉通り、タイニータイドが予言を授かってくれたのだ。
私は北アフリカでの戦闘で、石神家の一団が来たことを知った。
米軍の中に潜んでいるスパイからの情報だった。
同時にタイニータイドから連絡があり、その戦場で求める物が手に入ると言われた。
「業」様にお願いし、《地獄の悪魔》を召喚させていただいた。
そのことで多くの人間を犠牲にせねばならず。北アフリカでの拠点を喪うことになったが、それに見合うものが手に入った。
少年キリールの一部を苗床とし、《 лезвие(リェーズヴィエ:刃)》が生まれた。
想像以上に、そして「業」様のお考えの通りに、凄まじい威力を持つ妖魔となった。
《リェーズヴィエ》は西安の《Улья(ウーリッヒ(=ハイヴ)》で、「虎」の軍を撃退したばかりか、石神の盟友セイントを半死半生にした。
「業」様は大層喜ばれ、《リェーズヴィエ》を幾体か複製された。
残念なことに、偉大なる「業」様といえども、3体までしか《リェーズヴィエ》は生み出せなかった。
恐ろしく複雑で難解な妖魔だったためだ。
「虎」の軍の最大戦力すら上回る《リェーズヴィエ》が、今後作戦の要となって行くだろう。
《地獄の悪魔》や「神」ですら撃退する石神たちであったが、《リェーズヴィエ》がいれば今後の勝利は堅い。
その証拠に、「虎」の軍はその後手をこまねき、西安を攻略できないでいる。
一度強力な熱線で攻撃されたが、《リェーズヴィエ》がそれを凌いだ。
石神家の剣技は確かに素晴らしい。
我々は途轍もない力を得た。
我々は今も、西安にて「虎」の軍を引き寄せる体制で臨んでいる。
どのような襲撃が来ても、徒に戦力を消耗させるだけなのだ。
笑いが止まらない。
この私が、この状況を成し遂げたのだ。
またミハイルに一歩先んじることが出来たのだ。
そしてキリールは別に、「業」様の中心となる戦略も担うようになっている。
《ニルヴァーナ》の本格的な開発が、キリールを中心に進められている。
ミハイルはキリールに研究を明け渡すように「業」様に命じられ、今は旧戦力となったバイオビースト(ジェヴォーダン)の開発を細々としている。
しかも、先日飛行タイプのバイオビーストが「謎のX 」によって全滅させられ、ミハイルが困り果てていた。
僅かに《ニルヴァーナ》をばら撒くバイオノイドの用意がミハイルの中心となったか。
石神が敗退することは確実だった。
やはり「業」様がこの世界を覆うのだ。
一切が混沌とし、何も意味を為さない世界が。
世界は眠るのだ。
何もかもが消え失せ、一切が死んだ世界。
私はその世界のために全てを捧げる。
偉大なる「業」様の御為に。
そして、以前に仕込んだ仕掛けが、思わぬタイミングで石神によって誘発されたことを知った。
我々に運が向いて来たのだ。
笑いが止まらない。
さて、石神はどう動くことか。
苦しめ、石神よ。
また大切な者を喪って、泣き喚くがいい。
偉大なる「業」様に逆らうお前だ。
せいぜい苦しみ抜いて絶望の淵に沈むがいい。
ミハイルとは違い、私が頼むとすぐにやって来てくれる。
私はタイニータイドに、「業」様から言われた石神家の首を手に入れる方法を相談した。
「石神が関わることで、今後石神家が飛躍すると「業」様が仰っておられた。お前の予言だということだな」
「その通りです。今でも凄まじい一族ですが、更に驚異的な発展を遂げます。石神高虎によってもたらされることが、私にははっきりと見えました」
「だが、高々剣技だぞ。「花岡」であろうと「業」様のお力には届かないのだ」
「石神家の剣技は、「花岡」すら相手になりません。あの一族は、ありとあらゆる闘技を研究し、それを無効化し上回る剣技を構築して来ました。それも予言により分かっております」
それほどのことまでしていたとは知らなかった。
日本には「花岡」以外にも、幾つもの隠された凄まじい流派があることは知っている。
千石家や神宮寺家他、幾つものそういう流派を「業」様と一緒に潰して日本を出た。
その折に、その流派の技を吸収しても来た。
しかし石神家は我々以上に、既にそういうあらゆる流派にも精通していたのか。
一体どのような方法で……
「しかし、どのように妖魔を斃す剣技であろうと、「業」様の擁する妖魔の数は……」
「それを上回る剣技が今後出て来るということです。あの一族、そして石神高虎は「理」を超えて来るのです」
「まさか、そのような……」
「宇羅様、石神はあの「業」様の宿敵なのですよ?」
「!」
タイニータイドでも、具体的なことは分からないようだ。
しかし、その言葉通りとすれば、一振りで数億の妖魔を滅するような技としか考えられない。
それはあり得ないことだ。
「「業」様は石神家の剣技を欲しておられる。石神家には石神家をぶつけるおつもりだ」
「なるほど、良いお考えと思います」
「私がその役割を仰せつかった。だが、どのようにすれば良いのか」
私はタイニータイドに、石神家の剣士の脳を手に入れればという話をした。
その者の記憶を吸い出す方法があることを。
「しかし、石神家の拠点は相当硬い。アラスカほどではないが、あそこを襲うのは困難だ」
「ならば、どこかの戦場になりましょう」
「おお、なるほど。石神高虎が、あいつらを出して来るか」
「はい、必ず。その時に何とか。私がその予言を授かりましょう」
「宜しく頼む。「業」様は何としてもと仰っている」
「はい。宇羅様、ところで朗報です」
「なんだ?」
「恐らく今のお話に関わることです。新たに加わったロシア人の少年、キリールと申す者です」
私も知っていた。
下半身が麻痺している少年だったようだが。
「ああ、あの父親が宇宙飛行士だったという奴か。あれもお前の予言で連れて来たのだったな」
「はい。あの者は良いです。石神高虎に対する激しい憎悪が好ましい」
「なるほど。それでその少年がどうしたのだ?」
「先日、新たな予言が。キリールが石神高虎を苦しめると」
「なんだと?」
「大きな力を得て、石神高虎の大切な者たちを殺すと予言で観ました」
「なんと!」
「最初の予言では、強大な力を得る者としか。しかし先日の予言ではより具体的に。数多の剣を持ち、それを振るう凄まじい者と観ました」
「それでは、石神家の!」
「恐らく間違いございません。宇羅様は「業」様の御命令を成し遂げるのです」
「それは何と言う!」
私は思わず歓喜の叫びを挙げた。
タイニータイドも微笑んで見ていた。
「タイニータイド、やろう」
「はい、必ず。いずれその時が訪れます故」
「待っているぞ!」
後に、そのチャンスが訪れた。
あの時の言葉通り、タイニータイドが予言を授かってくれたのだ。
私は北アフリカでの戦闘で、石神家の一団が来たことを知った。
米軍の中に潜んでいるスパイからの情報だった。
同時にタイニータイドから連絡があり、その戦場で求める物が手に入ると言われた。
「業」様にお願いし、《地獄の悪魔》を召喚させていただいた。
そのことで多くの人間を犠牲にせねばならず。北アフリカでの拠点を喪うことになったが、それに見合うものが手に入った。
少年キリールの一部を苗床とし、《 лезвие(リェーズヴィエ:刃)》が生まれた。
想像以上に、そして「業」様のお考えの通りに、凄まじい威力を持つ妖魔となった。
《リェーズヴィエ》は西安の《Улья(ウーリッヒ(=ハイヴ)》で、「虎」の軍を撃退したばかりか、石神の盟友セイントを半死半生にした。
「業」様は大層喜ばれ、《リェーズヴィエ》を幾体か複製された。
残念なことに、偉大なる「業」様といえども、3体までしか《リェーズヴィエ》は生み出せなかった。
恐ろしく複雑で難解な妖魔だったためだ。
「虎」の軍の最大戦力すら上回る《リェーズヴィエ》が、今後作戦の要となって行くだろう。
《地獄の悪魔》や「神」ですら撃退する石神たちであったが、《リェーズヴィエ》がいれば今後の勝利は堅い。
その証拠に、「虎」の軍はその後手をこまねき、西安を攻略できないでいる。
一度強力な熱線で攻撃されたが、《リェーズヴィエ》がそれを凌いだ。
石神家の剣技は確かに素晴らしい。
我々は途轍もない力を得た。
我々は今も、西安にて「虎」の軍を引き寄せる体制で臨んでいる。
どのような襲撃が来ても、徒に戦力を消耗させるだけなのだ。
笑いが止まらない。
この私が、この状況を成し遂げたのだ。
またミハイルに一歩先んじることが出来たのだ。
そしてキリールは別に、「業」様の中心となる戦略も担うようになっている。
《ニルヴァーナ》の本格的な開発が、キリールを中心に進められている。
ミハイルはキリールに研究を明け渡すように「業」様に命じられ、今は旧戦力となったバイオビースト(ジェヴォーダン)の開発を細々としている。
しかも、先日飛行タイプのバイオビーストが「謎のX 」によって全滅させられ、ミハイルが困り果てていた。
僅かに《ニルヴァーナ》をばら撒くバイオノイドの用意がミハイルの中心となったか。
石神が敗退することは確実だった。
やはり「業」様がこの世界を覆うのだ。
一切が混沌とし、何も意味を為さない世界が。
世界は眠るのだ。
何もかもが消え失せ、一切が死んだ世界。
私はその世界のために全てを捧げる。
偉大なる「業」様の御為に。
そして、以前に仕込んだ仕掛けが、思わぬタイミングで石神によって誘発されたことを知った。
我々に運が向いて来たのだ。
笑いが止まらない。
さて、石神はどう動くことか。
苦しめ、石神よ。
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