富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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パムッカレ 緊急防衛戦 Ⅲ

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 「ミラー団長、本当にここで戦争が起きるのですか?」

 その日の定例会で、医師の一人であるホーランドが団長に尋ねた。
 私たちは各地の戦場を回っており、そこで怪我人や病人を治療している。
 本部とは独立して活動をしているが、これまでその理念に反したことは無い。
 むしろミラー団長は、他の医師団以上に熱心に活動している。
 だからこそ、これまでみんながミラー団長に付いて来た。
 時には人間的にどうかと思うこともあるのだが、戦場という特殊な環境では無理も無いことと思っていた。
 しかし、ここ最近のミラー団長の行動は少々おかしい。
 アゼルバイジャンでは「虎」の軍の軍事基地建設に伴い戦闘があると言っていたが、実際にはほとんど戦闘は無く、一般市民の被害も皆無だった。
 だから、私たちは何もすることがなく、時間を持て余していた。
 もっとも、私個人は竹流君と仲良くなれたことが有難かったのだが。
 今回のパムッカレへの移動は更におかしかった。
 ミラー団長は独自の協力者からの情報を得ているようなのだが、他の人間だってそういう協力者はいる。
 もちろん「国境なき医師団」の本部は紛争地域の情報収集は詳しい。
 前回のアゼルバイジャンも、ここパムッカレも、戦乱の情報は皆無なのだ。
 むしろ、中南米やアフリカ大陸での熾烈な内紛がみんな気になっていた。

 「確実な情報だ。今は平和に見えるが、じきに戦乱が起きる」
 「その情報源を明かして頂きたい」
 「それは言えない。我々の活動を支援している組織からとしか」
 
 度々、そういうことがあった。
 ミラー団長の持っている情報源からは、これまで有用だったことは確かだ。
 特に「業」の軍勢による突然の強襲での被害は、他の情報源には全く知られていなかった。
 しかも、その組織は私たちに多大な支援までしてくれている。
 本部とは独立した活動も、ミラー団長のその伝手で成り立っているのだ。
 これまで、その情報源のお陰で、何度も危険を回避してきたこともある。

 「せめてどのような規模かとか、どことどこの戦争なのかを」
 「規模は分からない。だが、今建造されている「虎」の軍の基地が攻撃される」
 「え、それでは相手は「業」の軍なのですか!」
 「多分。恐らく圧倒的な戦力で「虎」の軍の基地が潰されると聞いている。だから被害も広範囲に及び、怪我人も多く出るだろう」
 
 また「業」の軍隊の情報のようだった。
 他のメンバーが言った。

 「確か、このパムッカレでは、何度か「虎」の軍と「業」の軍が激突しているな。「虎」の軍の勝利で終わっているようだが」
 「じゃあ、今回は反抗作戦か。それも大規模な」
 
 ミラー団長が言った。

 「今回は出来るだけ怪我人を治療し、収容し、戦闘に巻き込まれる前にここを離れるつもりだ」
 「危険なのですね?」
 「そういう可能性もあるということだ。ミス・ニシノ」
 「はい!」
 「君にもまた護衛を頼むかもしれん」
 「分かりました!」
 「最近は傭兵もなかなか雇えない。君の戦力が頼りになるかもしれない」
 「お任せ下さい!」

 私は看護師としてこの団にいるが、戦闘要員も兼ねている。
 特に私が「Ωコンバットスーツ」を手に入れたことで、ミラー団長からも期待されている。
 「花岡」を習得したことは、まだ話していない。
 団の中心の人間であったが、私はミラー団長を心底から信頼はしていなかった。
 独断的な短所以上に、何か暗い面があり信頼できないものを感じていた。
 ただ、一応は医師としてちゃんと活動している。
 そういう意味では信頼出来る点もあるのだが。

 竹流君から「Ωコンバットスーツ」を貰った時、ミラー団長にそれを渡すように言われた。
 自分が特別に友人から預かったものだと断ったが、それでも私から取り上げようとした。
 その時、スーツを手にしたミラー団長が絶叫してスーツを手放した。

 「なんだ、これは!」
 「私に下さった人が言っていました。そのスーツは私専用で、私以外の人間は触ることさえ出来ないのだと」
 「そんなバカな!」
 「ではもう一度お持ち下さい」
 「!」

 そこまでとなったが、私から最新の「Ωコンバットスーツ」を取り上げようとしたことは確かだ。
 私は直接はそれほど見ていないが、以前は救助に来た傭兵団を騙して死傷者を出したこともあるらしい。
 ミラー団長に逆らって団を去った人間も多い。
 私は、あちこちの戦場を巡れる点だけで、ミラー団長に付いて来た。
 お互いに信頼関係ではないことは分かっている。
 ミラー団長は人員の確保と、特に私の戦闘力を当てにし、私はミラー団長の行動力を当てにしている。
 トラに会うためには、その方がいいだろうと思って来ただけだ。
 私などは、状況によっては切り捨てられることは分かっている。
 でも、そうであればそれも私の運命と思っている。
 トラを追い求めて来た自分の人生に悔いは無い。

 しばらくは平穏なようだ。
 ここに来て新たに加わったベスとは、最初から気が合った。
 またベスと街に出て楽しむか。
 短い間だろうが、そういう楽しみがあってもいい。
 特に、今回も諸見さんと綾さんという方々と出会えた。
 またあのお二人とも会いたい。
 「虎」の軍というのは、本当に気持ちの良い人たちが多いように思う。
 あの純粋な竹流君が心酔している組織だ。
 きっと素晴らしい人が束ねているのだろう。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「よう、調子はどうだ?」
 「ああ、問題ねぇ」

 聖と電話で話した。
 今、俺は石神家本家にいる。

 「トラも元気か?」
 「あーダメ。今また石神家本家にいんだ。毎週末は来いって言われてんの」
 「そりゃダメだな!」

 聖が大笑いしていた。
 このやろう。

 「毎日大変だぜ。あの血迷った集団が、今は一層目の色変えてるんだからよ! 今日なんて首が飛びそうだったぜ!」
 「ワハハハハハハハハ!」

 聖はまだ完全には癒えていないが、訓練を始めたようだ。

 「トラ、次は最大出力でやるぜ」
 「おう。それが一つの解決策だな」
 
 俺は先日西安で攻撃衛星フェートンを使った話をした。

 「周囲500キロが数億度の高温に覆われた。でも、あいつは異次元に避難して無事だった。恐らく《ハイヴ》もそれで守った」
 「じゃあ、時空をぶっ飛ばす必要があるってこったな」
 「そういうことだ。何が飛び出るのか分からんがな」

 聖は戦闘に関する話は理解が早い。
 時空の裂け目を生じる「魔法陣」の威力を最初から考えていた。
 前回はそれを控えたために《刃》の攻撃を喰らった。

 「こっちでも話してるんだが、俺たちのアドバンテージは「魔法陣」だ。あれは虎葉さんが死んだ後で俺が石神家に伝えているからな。敵は何も知らないはずだ」
 「俺が《聖光》で使ったのは?」
 「多分バレてない。崋山の銃のとんでもない威力とは思っただろうけどな」
 「なるほどな」
 「それに、まさか「魔法陣」なんて想像も出来ねぇよ。双子のいたずらなんだからなぁ」
 「ワハハハハハハハハ!」
 「解析のしようもねぇ。もちろん今後は隠蔽もするしよ」
 「流石トラだな」
 「おうよ!」

 聖は本来一生寝たきりの身体になるはずだったが、「エグリゴリΩ」の粉末と「オロチ」、それに「ニジンスキー」たちの粉末を使った。
 俺たちがあらゆる手段を講じて、奇跡の復活を遂げた。
 院長や双子の「手かざし」、道間家の祈祷、柏木さんの祈祷の力もある。
 俺は観てはいないが、早乙女の子久留守に頼んでもみた。
 久留守は二つ返事で最大のことをやると言ってくれた。
 何をやったのかは知らない。
 でも、久留守に頼んだ翌日から、聖の容態が劇的に変化した。
 誰もが諦めていた聖が復活することが分かった。
 
 聖は確実に次に《刃》を斃す算段を考えている。
 俺も考えている。
 虎白さんたちも必死に考えている。

 それは必ず実を結ぶ。
 そう信じている。
 電話を切った。





 「おい、もっと本気で頼む」
 「えー、さっきからやってるよー!」
 「タカさん、ボロボロ過ぎだよー!」
 「だから頼んでるんだろう!」
 「「分かったよー!」」

 双子を呼んで、毎日「手かざし」をしてもらってた。
 そうじゃなきゃ、とてももたん。
 聖、俺もボロボロだぜぇ。
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