富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
2,652 / 3,202

パムッカレ 緊急防衛戦 XⅢ

しおりを挟む
 俺は蓮花研究所を襲ってくる妖魔を斬り倒して行った。
 「虎王」の前に、普通の妖魔は全くの無力だ。
 ただ、20億もの数が半端ではない。
 もちろん、「虎王」を握った俺が苦戦するはずもないのだが。

 ブランたちも総出で敵を屠っているし、デュールゲリエたちも1万出ている。
 俺は上級妖魔を主に受け持ち、まだ遠方にいる《地獄の悪魔》、そして《刃》に備えていた。
 俺が考えていたのは、ブランやデュールゲリエたちの戦闘訓練だ。
 俺が一人いれば、この程度の敵は何のことも無かった。
 《刃》に関しても、実際を言えば簡単に降せる。
 虎白さんたちもそのことが分かっているので、俺一人で任せたのだ。

 栞と士王は蓮花と一緒にいて、桜花たちが護衛している。
 ミユキや前鬼、後鬼も戦場に出ている。
 その三人の活躍は目覚ましく、他のブランたちよりも抜きん出ている。
 だからアナイアレイターたちには、防衛戦を命じた。
 回り込んで来る敵に対する防衛だ。
 20億の妖魔は以前は脅威だったが、今の俺たちにはさほどのことも無くなっていた。
 注意すべきは《地獄の悪魔》と、そして《刃》だ。

 蓮花から通信が来た。
 戦闘中なので、通信が入るのは余程のことだ。
 俺は妖魔を斬り裂きながら受けた。

 「石神様! 綾から緊急入電です!」
 「どうした!」

 その時に、俺は諸見と綾をパムッカレへやっていることを思い出した。
 今となってはどうしようもない。
 あいつらならば、防衛戦に志願して加わっているだろう。
 諸見の実力は格段に上がっているので、余程のことが無ければ大丈夫なはずだ。
 あいつはついに固有技まで会得したのだから。
 それだけの思考を瞬時に終わらせた。
 しかし、蓮花は俺の全くの想像外の情報をもたらした。

 「パムッカレで、保奈美さんを見つけたそうです!」
 「なんだって!」

 俺の剣技が一瞬途絶えた。
 戦闘中に、俺が俺でなくなった。
 こんなことは滅多に無い。
 即座に攻撃を続ける。

 「今、綾が諸見さんと共に護衛しています! パムッカレ基地でもすぐに保奈美さんの確保に動きました!」
 「そうか、頼むぞ!」
 
 保奈美が!
 俺が歓喜に震えたその時、続報が入った。

 「石神様! パムッカレにも《刃》が出現いたしました!」
 「!」

 なんだと!
 今は俺が向かえない。
 目まぐるしく思考した。

 「聖を! あいつに保奈美たちの救出へ向かわせてくれ!」
 「分かりました!」

 蓮花の通信が切れた。
 自分が無茶な指示を出したことは分かっている。
 聖はまだ万全には程遠い。
 でも、あいつにしか頼めなかった。
 聖がどんな無理をしてでも、保奈美を救おうとしてくれることは分かっている。
 相手はあの《刃》だ。
 俺たちは翻弄されるだけで、まだあいつの本当の力は見ていないのだ。
 それでもあいつに頼むしかなかった。
 石神家の剣聖たちならば万全だが、西安の《刃》との対戦はどんな予想外のことが起きるか分からない。
 だから、そっちも石神家の全力を傾注しなければならなかった。
 聖、頼む!

 俺は前に飛び出た。
 ブランたちが慌てて俺を追おうとする。
 俺はそれを無視して前面の敵を屠った。
 「虎王」の一振りで、10億の妖魔が消し飛ぶ。
 「虎王」の威力を隠している場合ではない。
 ブランたちに連絡し、後退させる。
 残存戦力を殲滅しろと伝えた。

 「俺は《地獄の悪魔》と《刃》をやる!」

 更に前に飛び出て、3体の《地獄の悪魔》を瞬時に両断した。
 本来は、俺の全力は見せたくなかった。
 しかし、事態が逼迫している。
 聖はすぐにパムッカレに向かってくれるだろう。
 それでも、その僅かな時間が一体どれほどのことになるのか。
 病み上がりの聖では、荷が重いかもしれない。
 だがあいつに頼むしかない。
 聖のことと保奈美のことを何度も繰り返し考えた。

 「聖! 俺もすぐに向かうぞ!」

 《刃》と会敵した。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 アラスカから連絡が来た。
 なんと、パムッカレに、あの保奈美さんがいるらしい。
 パムッカレでは、即座に保奈美さんを救出するために特別な体制が取られた。
 デュールゲリエが50体護衛に入り、諸見さんと綾さんまでが保奈美さんを護っているらしい。
 私と亜紀ちゃんはあと30秒で到達する。
 亜紀ちゃんが嬉しそうに笑っている。
 私を見て、更にニッコリと笑った。
 私も笑っているのだろう。
 保奈美さんが見つかった!
 石神さんが喜ぶに違いない!

 その時、またアラスカから緊急入電が入った。
 パムッカレにまで《刃》が出現した!
 同時に通信を受けた亜紀ちゃんも驚愕している。

 「《刃》は西安と蓮花さんの研究所に出たはずじゃ!」
 「タカさんの言った通りです! やっぱり複数体いるんですよ!」
 「そんな!」

 私と亜紀ちゃんでは、《刃》には対応出来ない。
 聖さんが向かっているそうだけど、聖さんはまだ体調が万全でないのと、どうしても時間が掛かる。
 自分での「飛行」は負担が大きいので、「タイガーファング」を回すためだ。
 アラスカからは、私と亜紀ちゃんは《刃》には手を出すなと言っている。
 それともう一つ、石神さんからの厳命ということで「魔法陣」は使用してはならないと言われた。
 亜紀ちゃんが必死の顔をしている。
 私もだ。

 「チックショー!」

 パムッカレに到着した。
 膨大な妖魔がパムッカレの街に向かっている。
 上空から、まだ避難民が残っていることが見て取れた。
 《刃》も見えた。
 体長4メートルの身体に、無数の刀が飛び出ている。
 腕は6本。
 もう街に到達しそうで、そこに銀色に輝くデュールゲリエたちが50体ほどで避難民の集団を防衛しようとしているのが見えた。
 じゃあ、あそこに保奈美さんたちが!
 あのまま《刃》が来れば、ひとたまりもない。

 「柳さん! 私、行きます!」
 「ダメだよ、亜紀ちゃん!」

 私が必死に止めようとしたけど、亜紀ちゃんは止まらなかった。

 「亜紀ちゃん! 命令は守って!」
 「だって! 保奈美さんが! あそこに保奈美さんがいるんですよ!」

 分かっている。
 石神さんがずっと探していた保奈美さんがあそこにいる。
 諸見さんと綾さんもいる。
 このままでは、聖さんが来る前にみんな殺されてしまう!

 亜紀ちゃんは上空から「最後の涙」を最大出力で撃った。
 巨大な光の柱が《刃》に向かっていく。
 しかし、2本の腕を交差させると、《刃》は亜紀ちゃんの攻撃を跳ね返した。

 「コノヤロウ!」

 《刃》が私たちを無視して前方の集団に向かう。
 護衛のデュールゲリエたちが咄嗟に突っ込んで行って、バラバラに吹き飛ぶのが見えた。
 やはり《刃》の戦闘力は凄まじい。
 殲滅戦装備のデュールゲリエが、まるでオモチャのように吹き飛んで行く。
 まずい!

 その時、《刃》の前に誰かが飛び出して来た。
 あれは諸見さんだ!
 遠くからでも、諸見さんの全身に凄まじい闘気が吹き上がっているのが分かる。

 いけない、諸見さん!
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

政略結婚の先に

詩織
恋愛
政略結婚をして10年。 子供も出来た。けどそれはあくまでも自分達の両親に言われたから。 これからは自分の人生を歩みたい

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

処理中です...